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第31話 メアリーの警報音
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登城の日がやって来た。
ロペ公爵家では朝から緊張感に包まれている。
侍女のアリーとメアリーも介添えで登城すると先に伝えれば「不要」と回答がきた。
それが何を物語っているのは考えるまでもない。
議会は最初からグラシアナをロペ公爵家に戻すつもりがないということ。
と、言うのも理由があった。
側妃として数人の令嬢を召し上げるのは成婚の儀の後となるが、選定をして事前に通知をする。そうしなければ召し上げた時に懐妊している可能性もあるため、托卵状態になる。
王家が面倒見る訳でなく、王家は面倒をみられている訳だから受け入れる事も出来ない。
エリアスの調べでは側妃になってもいいと返事をしたのは男爵家の令嬢が1人、騎士爵家の令嬢が5人。そして現在子爵家に嫁いだ伯母の元に養子の手続きをしている平民の令嬢が1人。
どの令嬢も3女や4女で家を継げるくらいの学問は習得していない。
選ばれた理由は身綺麗であること。そして令嬢側は金。
本来なら正妃に充てられる予算をイメルダ、そして側妃候補(ほぼ決定)の7人、考えたくもないがグラシアナ。この9人で分割するため1人が手にする金額はとても少ない。
それでも、どの令嬢も側妃となる事で毎月家に支払われる支給金が給仕や子守の仕事をする2か月分にあたる。まともに市井で働くよりも衣食住が提供される上に年収が倍になるわけだから両親も安心して老後を迎えられる。
『ここにも娘を金で売る親がいるのか』エリアスは吐き捨てた事だった。
ただ、令嬢達は喜んでいる。年収の2倍の金と言ったところで同じ年齢の男性の働く3分の1程度の給金が倍になるだけだが、お洒落を楽しみたいと思ってもなけなしの給料は全て親に奪い取られ屋台の果実水1杯を買う小遣いもない。仕事が終われば家の事をしろと家事全般をやらされる上に祖父母が同居していればその介護も丸投げされる。
父親は娘の稼ぎで酒を飲むのに食べるものは家族の残り物がある日だけ。
地獄のような生活から好き勝手に好みの物は買えなくても衣食住が保証されて側妃としての衣料品や宝飾品は国庫から買って貰えるのだからまさに天国。
子爵家に養子に出され貴族令嬢の肩書を手に入れる令嬢だけは「勉強ができる」と楽しみにしているようだが、あとの令嬢は勉強よりも今の生活から脱却する事が目的。
親も金が入るし、議会は頭数は揃えられる。全てがWINWINだった。
公爵家を出た馬車に乗り込んでいるのはグラシアナとエリアス。
パンディトンは騎乗して並走している。
と、いうのも‥‥パンディトンも馬車に乗る予定だった。
ステップにパンディトンが足を掛けるとメアリーが口を尖らせて声を出す。
「ビィーッ!!」
「な、なんだ??」
キョロキョロしてもう一度乗り込もうとしたらまたメアリーが口を尖らせて声を出す。
「ビィーッ!ビビビィーッ!」
「何なんだよ!」
「重量オーバーです」
「そんな訳ないだろうが!」
と言って無理矢理乗り込んだけれど、本当に馬が馬車を引けなかった。
御者が「ハイッ!ほら、どうした!」馬に鞭を入れ、馬も懸命に引くのだけれど馬車はピクリも動かなかった。
パンディトンが降りて御者が鞭を入れると馬車は軽快に動き出した。
「そこまで重くないと思っていたんだが…」
「自重3桁ですよね。この馬車、積載荷重220キロまたは定員4人です」
「だから俺が4人目!!」
「ノンノン。”または” 聞えませんでしたか?”または” ですっ。重いんですよ」
「朝飯食ったからかな」
「自重3桁を超えると1日の増減が10キロらしいですけども食べてなくても積載荷重超えてますからね」
ハッと思い出してみればパンディトンの朝食は昔から家族にも言われていたが「暴食」に近い。朝からステーキは2kg食べるし牛乳もピッチャーで駆け付け3杯。その後、パンや肉を食べながら2杯はいける。
実家の伯爵家の持つ領地が収穫の時に手伝いに行けば「バッタ以上に野菜を食い尽くす」と言われた事もある。弟妹からは「朝からフードファイター」と呼ばれていた。
――ちぇっ。朝はしっかり食べろと言う癖に――
そこに人知を超えた量が問題と思い至らない残念さがあるのがパンディトン。
失意のパンディトンは騎乗し並走となったのだった。
そして馬車の中。
「馬車の揺れに揺られるグラシアナも可愛いなぁ。今度絵師を呼んでこの姿を描かせないと」
――馬車の中で?!抽象画になると思いますが――
「だが、馬車は頂けない。どうして向かい合わせに座らねばならないんだ」
――狭いですからね。換気しても抱っこされると暑いんです――
馬車の中は初夏の陽気も伴ってムシムシとしている。
久しぶりの面倒なドレスも着ているとあって体感気温は体温を超えている。そこに湿度。抱っこなんかされた日には到着まで脱水を起こして数日前の夕食で食べた「干物」になっているだろう。
何より!パンディトンは身の丈が2mを超えているが、エリアスだって190cm超え。
そんな大男2人と乗車なんかしたら間違いなく酸欠を起こす。
湯船ではなく馬車の中にジャグジーをつけて空気を送り込んでもらわねばならないではないか。
盾にも横にも両手を広げて「あと少しで届くのに!」程度の広さに大人4人の定員。
――そもそもでスペースがないのよ!――
「天気の良い日に外でランチも楽しそうだな。草原にある大きな木の下でグラシアナが「お兄様~」って手を振ってるんだ。あぁでも行きの馬車の中でバスケットの中身を全部食べてしまいそうだよ」
――お兄様~ごきげんようって手を振って置き去りにしていいなら参加するわ――
確かに楽しそうだなと思ったが、グラシアナが婚約者時代に視察で回った草原と呼べるような場所に大きな木はない。広く日陰を作る木を植えているはずがない。
――ま、お兄様が大木代わりでもいいけど涼む前に暑苦しさを感じそう――
2人を乗せて、1人が騎乗する一行は王城の正門をくぐったのだった。
ロペ公爵家では朝から緊張感に包まれている。
侍女のアリーとメアリーも介添えで登城すると先に伝えれば「不要」と回答がきた。
それが何を物語っているのは考えるまでもない。
議会は最初からグラシアナをロペ公爵家に戻すつもりがないということ。
と、言うのも理由があった。
側妃として数人の令嬢を召し上げるのは成婚の儀の後となるが、選定をして事前に通知をする。そうしなければ召し上げた時に懐妊している可能性もあるため、托卵状態になる。
王家が面倒見る訳でなく、王家は面倒をみられている訳だから受け入れる事も出来ない。
エリアスの調べでは側妃になってもいいと返事をしたのは男爵家の令嬢が1人、騎士爵家の令嬢が5人。そして現在子爵家に嫁いだ伯母の元に養子の手続きをしている平民の令嬢が1人。
どの令嬢も3女や4女で家を継げるくらいの学問は習得していない。
選ばれた理由は身綺麗であること。そして令嬢側は金。
本来なら正妃に充てられる予算をイメルダ、そして側妃候補(ほぼ決定)の7人、考えたくもないがグラシアナ。この9人で分割するため1人が手にする金額はとても少ない。
それでも、どの令嬢も側妃となる事で毎月家に支払われる支給金が給仕や子守の仕事をする2か月分にあたる。まともに市井で働くよりも衣食住が提供される上に年収が倍になるわけだから両親も安心して老後を迎えられる。
『ここにも娘を金で売る親がいるのか』エリアスは吐き捨てた事だった。
ただ、令嬢達は喜んでいる。年収の2倍の金と言ったところで同じ年齢の男性の働く3分の1程度の給金が倍になるだけだが、お洒落を楽しみたいと思ってもなけなしの給料は全て親に奪い取られ屋台の果実水1杯を買う小遣いもない。仕事が終われば家の事をしろと家事全般をやらされる上に祖父母が同居していればその介護も丸投げされる。
父親は娘の稼ぎで酒を飲むのに食べるものは家族の残り物がある日だけ。
地獄のような生活から好き勝手に好みの物は買えなくても衣食住が保証されて側妃としての衣料品や宝飾品は国庫から買って貰えるのだからまさに天国。
子爵家に養子に出され貴族令嬢の肩書を手に入れる令嬢だけは「勉強ができる」と楽しみにしているようだが、あとの令嬢は勉強よりも今の生活から脱却する事が目的。
親も金が入るし、議会は頭数は揃えられる。全てがWINWINだった。
公爵家を出た馬車に乗り込んでいるのはグラシアナとエリアス。
パンディトンは騎乗して並走している。
と、いうのも‥‥パンディトンも馬車に乗る予定だった。
ステップにパンディトンが足を掛けるとメアリーが口を尖らせて声を出す。
「ビィーッ!!」
「な、なんだ??」
キョロキョロしてもう一度乗り込もうとしたらまたメアリーが口を尖らせて声を出す。
「ビィーッ!ビビビィーッ!」
「何なんだよ!」
「重量オーバーです」
「そんな訳ないだろうが!」
と言って無理矢理乗り込んだけれど、本当に馬が馬車を引けなかった。
御者が「ハイッ!ほら、どうした!」馬に鞭を入れ、馬も懸命に引くのだけれど馬車はピクリも動かなかった。
パンディトンが降りて御者が鞭を入れると馬車は軽快に動き出した。
「そこまで重くないと思っていたんだが…」
「自重3桁ですよね。この馬車、積載荷重220キロまたは定員4人です」
「だから俺が4人目!!」
「ノンノン。”または” 聞えませんでしたか?”または” ですっ。重いんですよ」
「朝飯食ったからかな」
「自重3桁を超えると1日の増減が10キロらしいですけども食べてなくても積載荷重超えてますからね」
ハッと思い出してみればパンディトンの朝食は昔から家族にも言われていたが「暴食」に近い。朝からステーキは2kg食べるし牛乳もピッチャーで駆け付け3杯。その後、パンや肉を食べながら2杯はいける。
実家の伯爵家の持つ領地が収穫の時に手伝いに行けば「バッタ以上に野菜を食い尽くす」と言われた事もある。弟妹からは「朝からフードファイター」と呼ばれていた。
――ちぇっ。朝はしっかり食べろと言う癖に――
そこに人知を超えた量が問題と思い至らない残念さがあるのがパンディトン。
失意のパンディトンは騎乗し並走となったのだった。
そして馬車の中。
「馬車の揺れに揺られるグラシアナも可愛いなぁ。今度絵師を呼んでこの姿を描かせないと」
――馬車の中で?!抽象画になると思いますが――
「だが、馬車は頂けない。どうして向かい合わせに座らねばならないんだ」
――狭いですからね。換気しても抱っこされると暑いんです――
馬車の中は初夏の陽気も伴ってムシムシとしている。
久しぶりの面倒なドレスも着ているとあって体感気温は体温を超えている。そこに湿度。抱っこなんかされた日には到着まで脱水を起こして数日前の夕食で食べた「干物」になっているだろう。
何より!パンディトンは身の丈が2mを超えているが、エリアスだって190cm超え。
そんな大男2人と乗車なんかしたら間違いなく酸欠を起こす。
湯船ではなく馬車の中にジャグジーをつけて空気を送り込んでもらわねばならないではないか。
盾にも横にも両手を広げて「あと少しで届くのに!」程度の広さに大人4人の定員。
――そもそもでスペースがないのよ!――
「天気の良い日に外でランチも楽しそうだな。草原にある大きな木の下でグラシアナが「お兄様~」って手を振ってるんだ。あぁでも行きの馬車の中でバスケットの中身を全部食べてしまいそうだよ」
――お兄様~ごきげんようって手を振って置き去りにしていいなら参加するわ――
確かに楽しそうだなと思ったが、グラシアナが婚約者時代に視察で回った草原と呼べるような場所に大きな木はない。広く日陰を作る木を植えているはずがない。
――ま、お兄様が大木代わりでもいいけど涼む前に暑苦しさを感じそう――
2人を乗せて、1人が騎乗する一行は王城の正門をくぐったのだった。
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