旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

文字の大きさ
24 / 56

シリウスの手紙①

しおりを挟む
翌日、何事もなかったかのように人々が動き出す。

手紙を預かった元同僚は、午後の仕事があるので
朝早くに辻馬車に乗っていた。
行き先はドレーユ侯爵家である。

大きな門の前に来ると、いつも明るい元同僚も息を飲む。

「ヒャァ・・でっかい門」

見慣れない女性が門の前に立つと、門番が門の向こうから
女性に声をかける。

「そこで何をしているんだ」

声をかけられた元同僚は、門に近づき、バッグの中から
手紙と懐中時計を取り出す。

「あの…私はシャロンさんの元同僚でマニラって言うんですが
これをシャロンさんに渡して欲しいと預かりまして」

手紙と懐中時計を門番に見えやすい様に差し出す。
門番は少し考えた後

「それは預かることは出来ないが・・ちょっと待てるか?」

と、屋敷に連絡を取ってくれる。
門の中に入る事は許されていないため、閉じられた門の前で
マニラは行き交う人を観察するように眺める。
20分ほどすると門番がマニラを呼ぶ。

「旦那様は出かけられるとの事なので、ここで馬車を止めてくださる。
その時に渡してもらえるだろうか」
『はい。判りました。でも馬車って…背が届きますかね?』

侯爵様が乗るような馬車を間近に見たことがないマニラは
背の低い自分の手が届くかを心配する。

「ハハハ。大丈夫だ。扉は開けてくださる」

門番がそういうと、奥の方から馬車の音がどんどん大きくなる。
閉められた門の前で馬が目に入るとマニラは腰を抜かしそうなほど
驚いている。
門が開き、馬車がゆっくり数メートル進むと
マニラの前に乗り口が来るように止まり、初老の男性が降りてくる。
扉の中を覗くと、品の良い男性が顔は見えないが座っていた。

「お預かり物があるとか?」

老紳士に言われてマニラは手紙と懐中時計を差し出した。
手紙の宛名を確認する老紳士。

「これは…伯爵家のお嬢様宛のお手紙でございますね」
「えっ?シャロンさんって・・ご令嬢だったの・・
確かにすごく品はよくて話し方も丁寧だったけど・・」

驚くマニラに老紳士は確認するように問う。

「どなたからでしょうか」
「それが…シリウス・ワーグナーさんっていう騎士さんなんですけど
とても急いでいたみたいで…届けて欲しいって頼まれて。
それ以上は判らないんです」
「困りましたね。旦那様宛の手紙なら受け取るのですが‥」

老紳士は馬車内の男性に聞こえるように言葉を発する。
馬車内の男性は動かないが返事をした。

「構わないよ。責任をもってシャロン嬢に届けよう。
ヒンギス。お礼を渡してあげなさい」

そういうと老紳士はポケットから紙で包まれた何かを
マニラに差し出した。

「こちらは届けて頂いたお礼です。お受け取り下さい」

紙を広げると金貨が2枚。
自分の月給が金貨1枚に銀貨3枚ほどだと思うとマニラは躊躇する。

「こっ、こんなに受け取れません。私はただ届けただけですし」

しかし老紳士は

「旦那様のお言葉ですので」

そう言って紙を閉じ、マニラの手に乗せると
手紙と懐中時計を受け取った。
マニラはあまりの出来事に硬直してしまっている中
老紳士は馬車に乗りこみ、マニラの前から馬車は去って行った。

馬車の中でドレーユ侯爵は手紙と懐中時計を受け取る。

「旦那様、どうなさるおつもりで」
「どうするも、こうするもシャロン嬢に渡すだけだよ」
「よろしいのですか?」
「ふむ‥‥まぁ、よろしいんじゃないか?」

馬車は伯爵家に向かった。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

処理中です...