旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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シリウスの手紙①

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翌日、何事もなかったかのように人々が動き出す。

手紙を預かった元同僚は、午後の仕事があるので
朝早くに辻馬車に乗っていた。
行き先はドレーユ侯爵家である。

大きな門の前に来ると、いつも明るい元同僚も息を飲む。

「ヒャァ・・でっかい門」

見慣れない女性が門の前に立つと、門番が門の向こうから
女性に声をかける。

「そこで何をしているんだ」

声をかけられた元同僚は、門に近づき、バッグの中から
手紙と懐中時計を取り出す。

「あの…私はシャロンさんの元同僚でマニラって言うんですが
これをシャロンさんに渡して欲しいと預かりまして」

手紙と懐中時計を門番に見えやすい様に差し出す。
門番は少し考えた後

「それは預かることは出来ないが・・ちょっと待てるか?」

と、屋敷に連絡を取ってくれる。
門の中に入る事は許されていないため、閉じられた門の前で
マニラは行き交う人を観察するように眺める。
20分ほどすると門番がマニラを呼ぶ。

「旦那様は出かけられるとの事なので、ここで馬車を止めてくださる。
その時に渡してもらえるだろうか」
『はい。判りました。でも馬車って…背が届きますかね?』

侯爵様が乗るような馬車を間近に見たことがないマニラは
背の低い自分の手が届くかを心配する。

「ハハハ。大丈夫だ。扉は開けてくださる」

門番がそういうと、奥の方から馬車の音がどんどん大きくなる。
閉められた門の前で馬が目に入るとマニラは腰を抜かしそうなほど
驚いている。
門が開き、馬車がゆっくり数メートル進むと
マニラの前に乗り口が来るように止まり、初老の男性が降りてくる。
扉の中を覗くと、品の良い男性が顔は見えないが座っていた。

「お預かり物があるとか?」

老紳士に言われてマニラは手紙と懐中時計を差し出した。
手紙の宛名を確認する老紳士。

「これは…伯爵家のお嬢様宛のお手紙でございますね」
「えっ?シャロンさんって・・ご令嬢だったの・・
確かにすごく品はよくて話し方も丁寧だったけど・・」

驚くマニラに老紳士は確認するように問う。

「どなたからでしょうか」
「それが…シリウス・ワーグナーさんっていう騎士さんなんですけど
とても急いでいたみたいで…届けて欲しいって頼まれて。
それ以上は判らないんです」
「困りましたね。旦那様宛の手紙なら受け取るのですが‥」

老紳士は馬車内の男性に聞こえるように言葉を発する。
馬車内の男性は動かないが返事をした。

「構わないよ。責任をもってシャロン嬢に届けよう。
ヒンギス。お礼を渡してあげなさい」

そういうと老紳士はポケットから紙で包まれた何かを
マニラに差し出した。

「こちらは届けて頂いたお礼です。お受け取り下さい」

紙を広げると金貨が2枚。
自分の月給が金貨1枚に銀貨3枚ほどだと思うとマニラは躊躇する。

「こっ、こんなに受け取れません。私はただ届けただけですし」

しかし老紳士は

「旦那様のお言葉ですので」

そう言って紙を閉じ、マニラの手に乗せると
手紙と懐中時計を受け取った。
マニラはあまりの出来事に硬直してしまっている中
老紳士は馬車に乗りこみ、マニラの前から馬車は去って行った。

馬車の中でドレーユ侯爵は手紙と懐中時計を受け取る。

「旦那様、どうなさるおつもりで」
「どうするも、こうするもシャロン嬢に渡すだけだよ」
「よろしいのですか?」
「ふむ‥‥まぁ、よろしいんじゃないか?」

馬車は伯爵家に向かった。
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