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VOL.26 飲み屋ミナミとキタ
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お隣さんは右も左も大衆酒場。
方角からして右手側が北、左手が南になるので、北側にある飲み屋の名前は「キタ」と呼ばれ、そして南側にある飲み屋は「ミナミ」と呼ばれている。
ちなみに飲み屋とクーヘンの店の前の狭い道。路地の数を数えて26番目にある路地だが、誰が呼んだかミード筋と言えば周辺の人や利用客には通じる。
「こんにちは~仕込み中ですか?」
「はーい!。あら、お隣の奥さんじゃないの。どしたの?夫婦で仲いいわね」
――夫婦じゃないんですけどね――
飲み屋ミナミの女将さんは獣柄のエプロンで手を拭きながら出て来た。
「実はですね、パン屋をそろそろ再開できそうなんですけども、提案が御座いまして」
「パン屋やるの?なんだぁ言ってくれれば花でも贈るわよぅ」
「御心だけ頂戴しますね。ありがとうございます。それでですね、提案と言うのは――」
「ちょっと待って。営業再開の祝い事に水を差すようで悪いんだけど…実はウチ、年内いっぱいで店を畳むのよ」
「えっ?!」
「私も旦那もいい年だし、息子夫婦に店をやらないかって声は掛けたんだけどけどね、店を直すのに手を入れても息子夫婦の思う客層が来るような場所じゃないし。何よりここ数年客の入りも悪くてね。下手に手を入れると厨房も取れないから」
「そうなんですね…では家屋は取り壊すんですか?」
「そうだねぇ…そこがネックなのよ。更地にするとねぇ…」
「軽減措置がない、ですよね?」
「あら、奥さん。知ってるのかい?そうなんだよ。そこが困りものなんだよ」
飲み屋ミナミも借りている家屋ではなく、クーヘンのように土地も建物も自社物件というタイプ。
不動産を所有していると年に一度、固定不動産税を支払うのだが、家屋があるとないとで大違いなのだ。
どんな襤褸家でも家屋があると軽減措置が受けられて、税金が安く済む。
更地にしてしまうと軽減措置は受けられないので高い税金になってしまうのだ。
クーヘンが築半世紀以上の物件を安く買えたのも、元々の所有者が家屋を壊すと税金が高くなるので家屋付きだった。
そしてさらに問題があった。
飲み屋ミナミの女将もクーヘンもだが、改装は出来ても改築が出来ないのだ。
家屋の骨組みと言える「柱」そして柱から柱へ横に架かっている「梁」が主要構造体と言われているが、2つ以上の主要構造体をどうにかしてしまう場合は届け出が必要になり、法の規制を受けてしまう。
オリビアも本当は売り場を狭くしてオープンテラスのようにしたかったが、その為には道に面した部分の柱と梁を取り壊す必要があった。
壊すのは簡単だが柱と梁。2つになってしまうので法規制に引っかかり、今の建物が床面積オーバーの違法建築物となる。
法に適合するようにすると居住スペースがギリギリ残るか残らないかまで壊さないといけなかったので諦めたのだ。
建物が建った時はそんな法律はなかったので、狭い路地しか道には面していないが家は所有する土地目いっぱいに建てることが出来た。
法規制を受けてしまうと唯一面している道が道幅2mもないので敷地いっぱいに建てた家屋は違法になる。
今も現存しているのは、内装を変えたり、壁を張り替えたり、屋根を葺き替えたり。その程度であれば法規制を受けない。法が制定する前に建った家屋については仕方ないと黙認されているからである。
クーヘンの店。元の所有者もそれが解っていたので土地はあっても自身が新築して住むのを諦め、お荷物だが建物を残し激安で買い手を探していたのだ。
飲み屋ミナミの女将も激安にはなるが、年末で店を畳んだ後は家屋はそのままに売りに出すことを考えていると言った。
「息子のために建て替えても今の5分の1くらいしか建てられないんじゃ店は無理だからね」
「そうだったのですね…」
「でも提案ってなんだったんだい?」
「実はこの区画をお洒落なバルとかブラッスリーのような感じの店が並ぶようにしてみたらと思ったんです」
「バル?あ~息子が言ってた。今の若い人はお洒落な店の方を選ぶからねぇ」
次に回った飲み屋「キタ」の主も年内で店を畳むとまでは言わなかったが、それらしいことは匂わせていた。
「そっかぁ。お洒落にすると客は来るかも知れないけどね。うちも役所関係の客が引退時期でさ。もって後3年、いや2年かなぁと思ってるんだよ。王子の嫁さんになる人が王妃さんになったら、塩とか物価も安定しただろうけど、バカ王子がやらかしただろ?ソルムティ王国から塩も制限されたし…どこも厳しいね」
政務などから一切離れてまだ2、3か月なのにそんな事になっていたとは。
掃除で気が回らなかったのもあるが、オリビアは「期待に添えなくてごめんなさい」とキタの主に心で詫びた。
方角からして右手側が北、左手が南になるので、北側にある飲み屋の名前は「キタ」と呼ばれ、そして南側にある飲み屋は「ミナミ」と呼ばれている。
ちなみに飲み屋とクーヘンの店の前の狭い道。路地の数を数えて26番目にある路地だが、誰が呼んだかミード筋と言えば周辺の人や利用客には通じる。
「こんにちは~仕込み中ですか?」
「はーい!。あら、お隣の奥さんじゃないの。どしたの?夫婦で仲いいわね」
――夫婦じゃないんですけどね――
飲み屋ミナミの女将さんは獣柄のエプロンで手を拭きながら出て来た。
「実はですね、パン屋をそろそろ再開できそうなんですけども、提案が御座いまして」
「パン屋やるの?なんだぁ言ってくれれば花でも贈るわよぅ」
「御心だけ頂戴しますね。ありがとうございます。それでですね、提案と言うのは――」
「ちょっと待って。営業再開の祝い事に水を差すようで悪いんだけど…実はウチ、年内いっぱいで店を畳むのよ」
「えっ?!」
「私も旦那もいい年だし、息子夫婦に店をやらないかって声は掛けたんだけどけどね、店を直すのに手を入れても息子夫婦の思う客層が来るような場所じゃないし。何よりここ数年客の入りも悪くてね。下手に手を入れると厨房も取れないから」
「そうなんですね…では家屋は取り壊すんですか?」
「そうだねぇ…そこがネックなのよ。更地にするとねぇ…」
「軽減措置がない、ですよね?」
「あら、奥さん。知ってるのかい?そうなんだよ。そこが困りものなんだよ」
飲み屋ミナミも借りている家屋ではなく、クーヘンのように土地も建物も自社物件というタイプ。
不動産を所有していると年に一度、固定不動産税を支払うのだが、家屋があるとないとで大違いなのだ。
どんな襤褸家でも家屋があると軽減措置が受けられて、税金が安く済む。
更地にしてしまうと軽減措置は受けられないので高い税金になってしまうのだ。
クーヘンが築半世紀以上の物件を安く買えたのも、元々の所有者が家屋を壊すと税金が高くなるので家屋付きだった。
そしてさらに問題があった。
飲み屋ミナミの女将もクーヘンもだが、改装は出来ても改築が出来ないのだ。
家屋の骨組みと言える「柱」そして柱から柱へ横に架かっている「梁」が主要構造体と言われているが、2つ以上の主要構造体をどうにかしてしまう場合は届け出が必要になり、法の規制を受けてしまう。
オリビアも本当は売り場を狭くしてオープンテラスのようにしたかったが、その為には道に面した部分の柱と梁を取り壊す必要があった。
壊すのは簡単だが柱と梁。2つになってしまうので法規制に引っかかり、今の建物が床面積オーバーの違法建築物となる。
法に適合するようにすると居住スペースがギリギリ残るか残らないかまで壊さないといけなかったので諦めたのだ。
建物が建った時はそんな法律はなかったので、狭い路地しか道には面していないが家は所有する土地目いっぱいに建てることが出来た。
法規制を受けてしまうと唯一面している道が道幅2mもないので敷地いっぱいに建てた家屋は違法になる。
今も現存しているのは、内装を変えたり、壁を張り替えたり、屋根を葺き替えたり。その程度であれば法規制を受けない。法が制定する前に建った家屋については仕方ないと黙認されているからである。
クーヘンの店。元の所有者もそれが解っていたので土地はあっても自身が新築して住むのを諦め、お荷物だが建物を残し激安で買い手を探していたのだ。
飲み屋ミナミの女将も激安にはなるが、年末で店を畳んだ後は家屋はそのままに売りに出すことを考えていると言った。
「息子のために建て替えても今の5分の1くらいしか建てられないんじゃ店は無理だからね」
「そうだったのですね…」
「でも提案ってなんだったんだい?」
「実はこの区画をお洒落なバルとかブラッスリーのような感じの店が並ぶようにしてみたらと思ったんです」
「バル?あ~息子が言ってた。今の若い人はお洒落な店の方を選ぶからねぇ」
次に回った飲み屋「キタ」の主も年内で店を畳むとまでは言わなかったが、それらしいことは匂わせていた。
「そっかぁ。お洒落にすると客は来るかも知れないけどね。うちも役所関係の客が引退時期でさ。もって後3年、いや2年かなぁと思ってるんだよ。王子の嫁さんになる人が王妃さんになったら、塩とか物価も安定しただろうけど、バカ王子がやらかしただろ?ソルムティ王国から塩も制限されたし…どこも厳しいね」
政務などから一切離れてまだ2、3か月なのにそんな事になっていたとは。
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