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第16話 興奮冷めやらぬ
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屋敷に戻ったコルネリアは早速友人に手紙を書いた。
気心の知れた友人はカスパルとの婚約中、いつも気遣ってくれた。
婚約が破棄になった時、我が事のように喜んでくれたのだ。
『どんな病気を持っているかも判らないし。これで良かったのよ!』
『あんな男はその最愛?にでもくれてやりゃいいのよ』
『そうそう、今どきはね、ゴミを捨てるのも有料よ?引き取り先があって万々歳よ』
勿論中にはそうではない令嬢達もいる。
爵位の高いものに媚び諂う令嬢達は自分たちが取り巻いている令嬢がカスパルの見た目に惚れていたりしたことからコルネリアを夜会などで壁の花になっているのを見かける度に「壁にシミがあるのかと思ったわ」と揶揄いに来た事もある。
その時は腹も立ったものだがヴェッセルを知った今は「どうでもいい」と思えた。
令嬢達は所作やマナーを学ぶために教室に通う事があるが、自分以外、自分の所属するグループ以外が褒められるとそれだけで気分を害して嫌がらせをしてくる者もいる。
未成年のためワインなどアルコールの代わりに水で練習をする時に、水差しにボウフラの浮く池の水を入れてみたり、本物で練習する際にはコルネリアたちのグループにグラスが行き渡らないよう割ってみたり。
尤も割ったグラスが王家から借りた本物のバカラグラス。水差しまでセットで割ってしまったものだから弁償する際に故意が指摘され真っ青になった令嬢もいた。
「本当に。くだらない嫌がらせだわ。そんな暇があるなら他の事にその力を回せばいいのよ」
爵位の高い令嬢の取り巻きをしたところで、その令嬢が自分たちと同じ爵位の子息に嫁げば何の意味もない。コルネリアのように婿養子を迎えるにしても家に恩恵が無ければ取り巻きの令嬢を忖度する必要もないのだ。
「その点、私は友人には恵まれているわ」
幅広い年齢層にウケている詩人になった友人もいるし、夫は平民だが海運業を営む家に嫁いでバリバリの女将になった友人もいる。一番仲の良かった令嬢は7歳年上の子爵令嬢だが王宮女官となり、王太子妃付きとなって結婚した今は王太子夫妻の間に生まれた御子の乳母となった者までいる。
一番長く手紙を認めたのは造成商会が実家で婿養子を迎えた友人。
コルネリアの見た貧民窟は整備が全く行き届いておらず、騎乗していたから良かったものの馬車なら今頃全身が打ち身で動けなかっただろう。
「全部を無償で…なんてのは無理ね。だけど…」
その先はヴェッセルを始めとして実際に住んでいる者達に確認は取らねばならないが、道筋だけは付けておきたい。幸いにもコルネリアはジェッタ伯爵家を継ぐ。ゆくゆくは女伯爵となるのだし、父が有能なのか領地経営も順調。
対価ではないが、領地の整備なども発注する事が出来る。
人を雇い入れるのはジェッタ伯爵家が行い、貧民窟の区画整備をするのに知恵を貸して貰おうと思ったのだ。貧民窟の改良が終わる頃には手に技術という職が身に付く。
そうすれば貧民窟を出て商会を起こすなり、技術者として雇い入れて貰う道も開ける。
ヴェッセルは人々に仕事を与えているが、その仕事を自分たちで獲得してくる営業が出来る者も養わねばならない。
王家が主体となって炊き出しが定期的に行われているが、あまり成果をみないのは何故だろうと考えたことがあった。
その答えをヴェッセルに教えてもらった気がするのだ。
貧しいものに炊き出しをするのは結構なことだが、炊き出しをする事で満足してはいけないし、してもらう側も炊き出しがあるからと甘えてもいけない。
あくまでも自立をする手助けとならねばならないのだ。
手紙を書いているとそれまで漠然と描いていた構想がより色を帯びてくる。
欲をかく訳ではないが、ハーベ伯爵家で先代夫人の面倒をみていた時にも考えたことがあった。
介護や育児も仕事に出来るんじゃないか。そう思ったのだ。
貴族は専属で使用人を配置したりするが、ピッタリと四六時中付き添わねばいけない訳でもない。
褥瘡が出来ないように2、3時間おきに寝返りをさせたりは大事なのだが、そうではなく時間を決めて食事や排せつ、散歩などの運動をさせることで呆け始めた頃、先代夫人の容態は安定していた時期があった。
完治は出来なくても進行を遅らせることは出来るんじゃないかと考えた事もあったのだ。ただ医学的に知識がある訳でなく、段々と記憶が消えていくものはそういう経路を辿るのかもしれない。
だとしても、1人の人間が全てを背負ってしまえば負担も大きい。
貧民窟の人たちは色々な仕事に従事をしているが、誰しもあるように合う合わないの適合性もあるはず。何よりマンパワーがあるのだから使わない手はない。
介護も育児も巡回式にしてみたらどうだろう。その時に医師も同伴していれば。
屋敷の中だって段差をなくしてもらえるようにしてもらったら、寝台の高さや食事をさせる時のカトラリーの形。
考えていると取り留めもなくアイデアが広がって行く。
「あ~。どうしよう。1人じゃダメだわ。ヴェッセルにやっぱり相談しなきゃ。その前にお父様にも相談しなきゃ!」
1人でパタパタとしてしまい、ハッと気が付く。
「あ、私、全部を抱え込んじゃってる…構想だからいいけどこんなんじゃダメだわ」
ジェッタ伯爵は現在外出中。帰宅は深夜になると聞き、帰宅までコルネリアはあれこれと考えるとやめるとやはり昼間の衝撃、そして興奮は大きかったのかいつの間にかソファで寝てしまっていた。
気心の知れた友人はカスパルとの婚約中、いつも気遣ってくれた。
婚約が破棄になった時、我が事のように喜んでくれたのだ。
『どんな病気を持っているかも判らないし。これで良かったのよ!』
『あんな男はその最愛?にでもくれてやりゃいいのよ』
『そうそう、今どきはね、ゴミを捨てるのも有料よ?引き取り先があって万々歳よ』
勿論中にはそうではない令嬢達もいる。
爵位の高いものに媚び諂う令嬢達は自分たちが取り巻いている令嬢がカスパルの見た目に惚れていたりしたことからコルネリアを夜会などで壁の花になっているのを見かける度に「壁にシミがあるのかと思ったわ」と揶揄いに来た事もある。
その時は腹も立ったものだがヴェッセルを知った今は「どうでもいい」と思えた。
令嬢達は所作やマナーを学ぶために教室に通う事があるが、自分以外、自分の所属するグループ以外が褒められるとそれだけで気分を害して嫌がらせをしてくる者もいる。
未成年のためワインなどアルコールの代わりに水で練習をする時に、水差しにボウフラの浮く池の水を入れてみたり、本物で練習する際にはコルネリアたちのグループにグラスが行き渡らないよう割ってみたり。
尤も割ったグラスが王家から借りた本物のバカラグラス。水差しまでセットで割ってしまったものだから弁償する際に故意が指摘され真っ青になった令嬢もいた。
「本当に。くだらない嫌がらせだわ。そんな暇があるなら他の事にその力を回せばいいのよ」
爵位の高い令嬢の取り巻きをしたところで、その令嬢が自分たちと同じ爵位の子息に嫁げば何の意味もない。コルネリアのように婿養子を迎えるにしても家に恩恵が無ければ取り巻きの令嬢を忖度する必要もないのだ。
「その点、私は友人には恵まれているわ」
幅広い年齢層にウケている詩人になった友人もいるし、夫は平民だが海運業を営む家に嫁いでバリバリの女将になった友人もいる。一番仲の良かった令嬢は7歳年上の子爵令嬢だが王宮女官となり、王太子妃付きとなって結婚した今は王太子夫妻の間に生まれた御子の乳母となった者までいる。
一番長く手紙を認めたのは造成商会が実家で婿養子を迎えた友人。
コルネリアの見た貧民窟は整備が全く行き届いておらず、騎乗していたから良かったものの馬車なら今頃全身が打ち身で動けなかっただろう。
「全部を無償で…なんてのは無理ね。だけど…」
その先はヴェッセルを始めとして実際に住んでいる者達に確認は取らねばならないが、道筋だけは付けておきたい。幸いにもコルネリアはジェッタ伯爵家を継ぐ。ゆくゆくは女伯爵となるのだし、父が有能なのか領地経営も順調。
対価ではないが、領地の整備なども発注する事が出来る。
人を雇い入れるのはジェッタ伯爵家が行い、貧民窟の区画整備をするのに知恵を貸して貰おうと思ったのだ。貧民窟の改良が終わる頃には手に技術という職が身に付く。
そうすれば貧民窟を出て商会を起こすなり、技術者として雇い入れて貰う道も開ける。
ヴェッセルは人々に仕事を与えているが、その仕事を自分たちで獲得してくる営業が出来る者も養わねばならない。
王家が主体となって炊き出しが定期的に行われているが、あまり成果をみないのは何故だろうと考えたことがあった。
その答えをヴェッセルに教えてもらった気がするのだ。
貧しいものに炊き出しをするのは結構なことだが、炊き出しをする事で満足してはいけないし、してもらう側も炊き出しがあるからと甘えてもいけない。
あくまでも自立をする手助けとならねばならないのだ。
手紙を書いているとそれまで漠然と描いていた構想がより色を帯びてくる。
欲をかく訳ではないが、ハーベ伯爵家で先代夫人の面倒をみていた時にも考えたことがあった。
介護や育児も仕事に出来るんじゃないか。そう思ったのだ。
貴族は専属で使用人を配置したりするが、ピッタリと四六時中付き添わねばいけない訳でもない。
褥瘡が出来ないように2、3時間おきに寝返りをさせたりは大事なのだが、そうではなく時間を決めて食事や排せつ、散歩などの運動をさせることで呆け始めた頃、先代夫人の容態は安定していた時期があった。
完治は出来なくても進行を遅らせることは出来るんじゃないかと考えた事もあったのだ。ただ医学的に知識がある訳でなく、段々と記憶が消えていくものはそういう経路を辿るのかもしれない。
だとしても、1人の人間が全てを背負ってしまえば負担も大きい。
貧民窟の人たちは色々な仕事に従事をしているが、誰しもあるように合う合わないの適合性もあるはず。何よりマンパワーがあるのだから使わない手はない。
介護も育児も巡回式にしてみたらどうだろう。その時に医師も同伴していれば。
屋敷の中だって段差をなくしてもらえるようにしてもらったら、寝台の高さや食事をさせる時のカトラリーの形。
考えていると取り留めもなくアイデアが広がって行く。
「あ~。どうしよう。1人じゃダメだわ。ヴェッセルにやっぱり相談しなきゃ。その前にお父様にも相談しなきゃ!」
1人でパタパタとしてしまい、ハッと気が付く。
「あ、私、全部を抱え込んじゃってる…構想だからいいけどこんなんじゃダメだわ」
ジェッタ伯爵は現在外出中。帰宅は深夜になると聞き、帰宅までコルネリアはあれこれと考えるとやめるとやはり昼間の衝撃、そして興奮は大きかったのかいつの間にかソファで寝てしまっていた。
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