婚約も二度目なら

cyaru

文字の大きさ
16 / 36

第16話  興奮冷めやらぬ

しおりを挟む
屋敷に戻ったコルネリアは早速友人に手紙を書いた。

気心の知れた友人はカスパルとの婚約中、いつも気遣ってくれた。
婚約が破棄になった時、我が事のように喜んでくれたのだ。

『どんな病気を持っているかも判らないし。これで良かったのよ!』
『あんな男はその最愛?にでもくれてやりゃいいのよ』
『そうそう、今どきはね、ゴミを捨てるのも有料よ?引き取り先があって万々歳よ』

勿論中にはそうではない令嬢達もいる。
爵位の高いものに媚び諂う令嬢達は自分たちが取り巻いている令嬢がカスパルの見た目に惚れていたりしたことからコルネリアを夜会などで壁の花になっているのを見かける度に「壁にシミがあるのかと思ったわ」と揶揄いに来た事もある。

その時は腹も立ったものだがヴェッセルを知った今は「どうでもいい」と思えた。


令嬢達は所作やマナーを学ぶために教室に通う事があるが、自分以外、自分の所属するグループ以外が褒められるとそれだけで気分を害して嫌がらせをしてくる者もいる。

未成年のためワインなどアルコールの代わりに水で練習をする時に、水差しにボウフラの浮く池の水を入れてみたり、本物で練習する際にはコルネリアたちのグループにグラスが行き渡らないよう割ってみたり。

尤も割ったグラスが王家から借りた本物のバカラグラス。水差しまでセットで割ってしまったものだから弁償する際に故意が指摘され真っ青になった令嬢もいた。

「本当に。くだらない嫌がらせだわ。そんな暇があるなら他の事にその力を回せばいいのよ」

爵位の高い令嬢の取り巻きをしたところで、その令嬢が自分たちと同じ爵位の子息に嫁げば何の意味もない。コルネリアのように婿養子を迎えるにしても家に恩恵が無ければ取り巻きの令嬢を忖度する必要もないのだ。

「その点、私は友人には恵まれているわ」

幅広い年齢層にウケている詩人になった友人もいるし、夫は平民だが海運業を営む家に嫁いでバリバリの女将になった友人もいる。一番仲の良かった令嬢は7歳年上の子爵令嬢だが王宮女官となり、王太子妃付きとなって結婚した今は王太子夫妻の間に生まれた御子の乳母となった者までいる。


一番長く手紙をしたためたのは造成商会が実家で婿養子を迎えた友人。

コルネリアの見た貧民窟は整備が全く行き届いておらず、騎乗していたから良かったものの馬車なら今頃全身が打ち身で動けなかっただろう。

「全部を無償で…なんてのは無理ね。だけど…」

その先はヴェッセルを始めとして実際に住んでいる者達に確認は取らねばならないが、道筋だけは付けておきたい。幸いにもコルネリアはジェッタ伯爵家を継ぐ。ゆくゆくは女伯爵となるのだし、父が有能なのか領地経営も順調。

対価ではないが、領地の整備なども発注する事が出来る。

人を雇い入れるのはジェッタ伯爵家が行い、貧民窟の区画整備をするのに知恵を貸して貰おうと思ったのだ。貧民窟の改良が終わる頃には手に技術という職が身に付く。

そうすれば貧民窟を出て商会を起こすなり、技術者として雇い入れて貰う道も開ける。


ヴェッセルは人々に仕事を与えているが、その仕事を自分たちで獲得してくる営業が出来る者も養わねばならない。

王家が主体となって炊き出しが定期的に行われているが、あまり成果をみないのは何故だろうと考えたことがあった。

その答えをヴェッセルに教えてもらった気がするのだ。
貧しいものに炊き出しをするのは結構なことだが、炊き出しをする事で満足してはいけないし、してもらう側も炊き出しがあるからと甘えてもいけない。

あくまでも自立をする手助けとならねばならないのだ。

手紙を書いているとそれまで漠然と描いていた構想がより色を帯びてくる。

欲をかく訳ではないが、ハーベ伯爵家で先代夫人の面倒をみていた時にも考えたことがあった。

介護や育児も仕事に出来るんじゃないか。そう思ったのだ。
貴族は専属で使用人を配置したりするが、ピッタリと四六時中付き添わねばいけない訳でもない。

褥瘡が出来ないように2、3時間おきに寝返りをさせたりは大事なのだが、そうではなく時間を決めて食事や排せつ、散歩などの運動をさせることで呆け始めた頃、先代夫人の容態は安定していた時期があった。

完治は出来なくても進行を遅らせることは出来るんじゃないかと考えた事もあったのだ。ただ医学的に知識がある訳でなく、段々と記憶が消えていくものはそういう経路を辿るのかもしれない。

だとしても、1人の人間が全てを背負ってしまえば負担も大きい。

貧民窟の人たちは色々な仕事に従事をしているが、誰しもあるように合う合わないの適合性もあるはず。何よりマンパワーがあるのだから使わない手はない。

介護も育児も巡回式にしてみたらどうだろう。その時に医師も同伴していれば。
屋敷の中だって段差をなくしてもらえるようにしてもらったら、寝台の高さや食事をさせる時のカトラリーの形。

考えていると取り留めもなくアイデアが広がって行く。


「あ~。どうしよう。1人じゃダメだわ。ヴェッセルにやっぱり相談しなきゃ。その前にお父様にも相談しなきゃ!」

1人でパタパタとしてしまい、ハッと気が付く。

「あ、私、全部を抱え込んじゃってる…構想だからいいけどこんなんじゃダメだわ」

ジェッタ伯爵は現在外出中。帰宅は深夜になると聞き、帰宅までコルネリアはあれこれと考えるとやめるとやはり昼間の衝撃、そして興奮は大きかったのかいつの間にかソファで寝てしまっていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...