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第35話 ちゃんと読んでから
ダリオンとデリスの1か月間から少し時間が巻き戻ります
☆~☆
エルフィンの屋敷に戻ってきて、早速温室に行ってみると確かにブドウ棚はあった。
しかし、食べられるような実になるにはまだ日数が必要でそれならばとオレンジやリンゴを使ってまずは試作品を作り、手順を確立させたところで遂にブドウに着手した。
使えるブドウは2房だけ。
もう1週間ないし10日までは3房ほど使えそうだが、全てをアリアが使ってしまうのは憚られた。
使うのは皮、種、ヘタなどで実そのものは例年通りデザートに使われる。
アリアも「ワインを搾った後」が重要なので実は度外視である。
「どうかしら。美味しい?」
「いいね。ほんのりとブドウの香と味がするよ、1個目には…負けるかな。うーんどうだろう」
「じゃぁこっちは?」
「味や触感はいいんだが、土っぽい香りがする。好き嫌いが分かれると思うな」
「土っぽさ…やっぱり粗くするとだめなのかしら」
「ダメと言う訳じゃない。これがいいと思うものもいる。これはお世辞とかではなくて好みだな」
試作品で作ってみたパンは全部で3種類。
一番最初に食べたパンは皮に残った果汁をさらに搾り出し生地に練りこんだ。
味と香りは合格点だったけれど食感で改良の余地あり。
どうしても果汁なのでその分ミルクを減らさねばならず、パサついてしまった。ミルクの量を果汁を入れない時と同じにするとべとべとになって焼く時も生地がドロドロで広がってしまい、焼きあがると真っ黒に焦げてしまっていた。
2つ目、こちらは細かく粉末状にしたものを生地に練りこんだ。合格点だったけれど、果汁のみの1個目よりもブドウ感が薄い。
香り付け程度の量にすれば小麦粉を減らさなくていい事も判った。
3つ目は粉末ではなく粗い顆粒にしたのだが、1個目、2個目には感じなかった「土」が味の中に出てしまった。
「うーん。私としては1個目のようなパンチのある味で2個目の食感がいいんだけどなぁ」
「粉末にすると味が薄くなるからな。かといって粗くすれば土味。微妙だね」
「そうなのよねぇ。やっぱりパンに練りこむとかよりコニャだっけ?ジャムのほうがいいのかしら」
「だったら砂糖を使わないから家庭用には売りに出せないね」
砂糖には防腐効果もある。砂糖を使わないジャムは涼しいところに保管して1,2日で食べきらないと傷んでしまうので捨てなければならなくなる。
夏場は翌日もお勧めは出来ないだろう。
使い切りサイズの小さな瓶で販売することも提案はされたけれど、売れ残れば廃棄となるので作った意味がない。
「カフェでも経営してみるか?」
「ダメ。私、売り子は経験あるけど飲食業って簡単じゃないのよ。それにあの量をどうにかすることを考えたらお客様が来てくれるのを待ったところで、その日に捌けるのは注文分だけ。余っちゃうし時期的な営業になっちゃう」
ワインセラーのように氷室を使って保存をすれば多少日持ちする時間は伸びるけれど、そうなればポマース用に貯蔵庫も建設せねばならない。しかも時期的にしか使わないのに、だ。
「来年の収穫までまだ時間はある。最終的にはブドウでもそれまで出回っている果実でいろいろと作ってみるといい」
「そうね。それしかないかぁ」
アリアはうーん!!手を伸ばすのに合わせて体をぐぐっと伸ばした。
「ところで…本宅に行かないか?」
「本宅?!そういうのはしなくていいんじゃなかったでしたっけ?」
「しなくていいのは社交。書面上とは言え妻なんだし親に会って欲しいんだ」
「え?会ったりすると離縁し難くなるんじゃないですか?」
「(ドキッ!)…そんなことはないと思う」
「ホントにぃ?何か隠し事してません?」
「隠し事ではないんだが、隠し事になる…のかな」
エルフィンはそーっとアリアに書面を差し出した。
「結婚契約書?あぁ、離縁の事を書いている奴ですね」
「そうなんだけど、一読して問題がなければ署名してほしいんだ」
「前に作りませんでしたっけ?口約束だけだったかな」
「ま、まぁ一応、ね?」
「ふむ。判りました。署名すればいいんですよね」
「いやいやいや。中を読もう。な?納得したらでいいんだ」
通常なら穴が開くほど書面は確認するが、エルフィンの事を信用しているアリアはいきなり最後のページをめくってサインしようとする。有難い事だがエルフィンは全力で止めた。
(読んでくれないと困るんだ。もう用意もしてあるし)
エルフィンはそっと胸ポケットに忍ばせた小箱に手を当てた。
☆~☆
エルフィンの屋敷に戻ってきて、早速温室に行ってみると確かにブドウ棚はあった。
しかし、食べられるような実になるにはまだ日数が必要でそれならばとオレンジやリンゴを使ってまずは試作品を作り、手順を確立させたところで遂にブドウに着手した。
使えるブドウは2房だけ。
もう1週間ないし10日までは3房ほど使えそうだが、全てをアリアが使ってしまうのは憚られた。
使うのは皮、種、ヘタなどで実そのものは例年通りデザートに使われる。
アリアも「ワインを搾った後」が重要なので実は度外視である。
「どうかしら。美味しい?」
「いいね。ほんのりとブドウの香と味がするよ、1個目には…負けるかな。うーんどうだろう」
「じゃぁこっちは?」
「味や触感はいいんだが、土っぽい香りがする。好き嫌いが分かれると思うな」
「土っぽさ…やっぱり粗くするとだめなのかしら」
「ダメと言う訳じゃない。これがいいと思うものもいる。これはお世辞とかではなくて好みだな」
試作品で作ってみたパンは全部で3種類。
一番最初に食べたパンは皮に残った果汁をさらに搾り出し生地に練りこんだ。
味と香りは合格点だったけれど食感で改良の余地あり。
どうしても果汁なのでその分ミルクを減らさねばならず、パサついてしまった。ミルクの量を果汁を入れない時と同じにするとべとべとになって焼く時も生地がドロドロで広がってしまい、焼きあがると真っ黒に焦げてしまっていた。
2つ目、こちらは細かく粉末状にしたものを生地に練りこんだ。合格点だったけれど、果汁のみの1個目よりもブドウ感が薄い。
香り付け程度の量にすれば小麦粉を減らさなくていい事も判った。
3つ目は粉末ではなく粗い顆粒にしたのだが、1個目、2個目には感じなかった「土」が味の中に出てしまった。
「うーん。私としては1個目のようなパンチのある味で2個目の食感がいいんだけどなぁ」
「粉末にすると味が薄くなるからな。かといって粗くすれば土味。微妙だね」
「そうなのよねぇ。やっぱりパンに練りこむとかよりコニャだっけ?ジャムのほうがいいのかしら」
「だったら砂糖を使わないから家庭用には売りに出せないね」
砂糖には防腐効果もある。砂糖を使わないジャムは涼しいところに保管して1,2日で食べきらないと傷んでしまうので捨てなければならなくなる。
夏場は翌日もお勧めは出来ないだろう。
使い切りサイズの小さな瓶で販売することも提案はされたけれど、売れ残れば廃棄となるので作った意味がない。
「カフェでも経営してみるか?」
「ダメ。私、売り子は経験あるけど飲食業って簡単じゃないのよ。それにあの量をどうにかすることを考えたらお客様が来てくれるのを待ったところで、その日に捌けるのは注文分だけ。余っちゃうし時期的な営業になっちゃう」
ワインセラーのように氷室を使って保存をすれば多少日持ちする時間は伸びるけれど、そうなればポマース用に貯蔵庫も建設せねばならない。しかも時期的にしか使わないのに、だ。
「来年の収穫までまだ時間はある。最終的にはブドウでもそれまで出回っている果実でいろいろと作ってみるといい」
「そうね。それしかないかぁ」
アリアはうーん!!手を伸ばすのに合わせて体をぐぐっと伸ばした。
「ところで…本宅に行かないか?」
「本宅?!そういうのはしなくていいんじゃなかったでしたっけ?」
「しなくていいのは社交。書面上とは言え妻なんだし親に会って欲しいんだ」
「え?会ったりすると離縁し難くなるんじゃないですか?」
「(ドキッ!)…そんなことはないと思う」
「ホントにぃ?何か隠し事してません?」
「隠し事ではないんだが、隠し事になる…のかな」
エルフィンはそーっとアリアに書面を差し出した。
「結婚契約書?あぁ、離縁の事を書いている奴ですね」
「そうなんだけど、一読して問題がなければ署名してほしいんだ」
「前に作りませんでしたっけ?口約束だけだったかな」
「ま、まぁ一応、ね?」
「ふむ。判りました。署名すればいいんですよね」
「いやいやいや。中を読もう。な?納得したらでいいんだ」
通常なら穴が開くほど書面は確認するが、エルフィンの事を信用しているアリアはいきなり最後のページをめくってサインしようとする。有難い事だがエルフィンは全力で止めた。
(読んでくれないと困るんだ。もう用意もしてあるし)
エルフィンはそっと胸ポケットに忍ばせた小箱に手を当てた。
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