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第07話  教会へのお届け物

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2カ月経った。
シェイナはいつもより多くの煎じた薬草を持って教会を訪れていた。

「困っている時はお互い様だよ」祖父は敬虔な信徒で教会への礼拝と寄付を欠かさなかった。家業だけでなくその行為も受け継いだ父の代わりに教会へ薬草を届ける。

社交界だけでなく近所でも噂を耳にした者はわざと聞こえるようにひそひそ話をする。茶会などでもシェイナを見る目が変わってしまい、行くのが怖くなってしまったシェイナが唯一外出をするのがこのお使いだった。


「いつもありがとうございます」
「いえ・・・」

にこにことシェイナから薬草を煎じた薬を受け取った神父。
シェイナは神父も自分たちと同じようにあらぬ噂で困らされている事を知っていた。その要因がエスラト男爵家だという事も。

「神父様、申し訳ないです」
「何の事です?あぁそう言えば貴女に教えてもらったタンポポ茶が上手に出来たのです。飲んで行かれますか?」

気にするなと言葉にせず惚ける神父の優しささえ棘のように感じてしまう。
「飲んで行かれますか?」と問いかけながら返事を待たず茶を淹れる神父の手を止める事は出来ない。

教会は裕福な者達だけが訪れる訳ではない。貧しく食う事に困った者達も最後の拠り所として訪れる。病気や怪我で医者に診てもらう事も出来ず、じっと丸まって神に祈って治癒を待つ。

彼らには無料で配られる煎じた薬草はとてもありがたがられたけれど「エスラト家の薬は毒」と噂も流れていて神父から手渡されると「私に死ねと仰るのですか」と泣きだすものまで出てきてしまっている。

「神様はちゃんと見ています。はい…体も心も温まるといいのですが」

手渡しでカップを受け取ると教会の庭で時期になれば咲き誇るタンポポを使った茶がシェイナの手の平を、そして口に含むと体を温めた。

噂話が次第に悪意を帯びていくのにも理由があった。
ビヴァリーは全ての根源はシェイナだ!とチャールズに口裏を合わせていたのだが「だとしても」「百歩譲っても」とハッセル伯爵家から婚約の解消をされそうになっていた。

ハッセル家の考えは変わらないのだが、スレム子爵家そしてビヴァリーはハッセル家と縁を切る事はしたくない。王女が嫁いでしまえば専属騎士の任を解かれる訳ではなくケインは忠誠心と腕前を高く評価されていて王女が嫁いだ後はまだ5歳の第3王子の護衛となる。

娘の嫁ぎ先がそんな評価の高い家となればスレム子爵家としても鼻が高いし、孫でも出来ればより強固な縁が出来る。ビヴァリーも美丈夫で誰もが一目置く夫の妻となれば社交界でも注目される存在。ただでさえ生まれ持った美貌もあり、ケインを逃したくはなかった。

エスラト男爵家と裁判院で争ってはいるが、スレム子爵家は同時にハッセル伯爵家とも婚約解消の調停を余儀なくされていたからである。

そのトバッチリがエスラト男爵家に向けられていた。迷惑な話である。

「生きていれば色々と神は試練を与えるものですよ」

神父の言葉に何と返して良いか迷ったシェイナはタンポポ茶をもう一口飲んだ。カップの中のタンポポ茶が2口目は唇に遮られてカップで揺れていると廊下から声がした。


「では、慰問の際は出入りを封鎖してしまっていると?」
「えぇ。殿下の安全のためには最善策かと。しかしその事で殿下は気を病まれているのです」

声の主。片方はシェイナも良く知る人物だったが、もう1人はカタコトに近く言葉のアクセントが別の国の人を連想させる。

「あぁ、3つ向こうの国の方を王太子殿下が引き抜き…と言った方がいいでしょうかね」
「引き抜き?他国の方を?」
「えぇ。母国の方では男爵位もあり警備隊長を任されたようですが、担当する区画の治安が格段に良くなったそうですよ。それだけでなく彼は福祉にも力を注いでいるそうで王女殿下がその国の王子殿下に嫁がれる縁を使って…と言ったら王太子殿下に叱られますかね」


神父がシェイナに微笑んだところで、2人の男性が部屋の前を通りかかった。
神父をみた片方の男性が「ここにおられましたか」と声をかけ、シェイナの姿を見るなり静かに目礼した。

それはビヴァリーの婚約者でもあり、その婚約を巡って現在係争中の当事者。ハッセル伯爵家のケインだった。
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