公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru

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ブロスカキ公爵は心配性

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ようよう落ち着いたペルセスに今度は真面目な顔をしたブロスカキ公爵の言葉が降り注ぐ。

「君には‥将来を誓い合った女性はいるかね?」
「いえ、生まれてこの方、女性とは縁がなく――恥ずかしい話ですが」
「そうか、よければなのだが、ディー、いやディアセーラを暫く婚約者いや、それではダメだな。出来れば結婚して欲しいのだ」
「えぇっ?!いや、でもそれはっ!」

「子爵家と公爵家だから。そんな事はどうにでもなる。問題は王家なのだ」

ブロスカキ公爵は、ベネディクトがディアセーラに思いを寄せている事は伏せたが、この先5年を見据えてもディアセーラに変わる令嬢が新たにベネディクトの婚約者になる事はないと言った。

それは既に王太子妃教育まで終わっている令嬢は現状ディアセーラしかいない事もあるが、第二王子デモステネスは側妃が侯爵令嬢である事から金銭面での問題はないものの、性格に難がある事。

第三王子オデッセアスはデモステネスとは逆で側妃は男爵家の出。金銭面で王太子になるには難があると言った。

2人の王子とも婚約者はいるものの、婚約者の家だけが金銭的負担をするものではない。王家からの支度金として用意される金の殆どは母親の実家が負担をするのだ。


「手っ取り早いのは婚約破棄と吐いた言葉を無かったものとして、娘を正妃に据え今以上にこき使う、そしてこれまで側に侍らせた令嬢若しくは王弟殿下の息女を側妃とし、そちらで子を成す。娘はただ働くだけの働き蜂として飼い殺しにされてしまう。私はそれを何としても阻止したい」

「では、婚約破棄と告げた今しか…好機はないと?」

「その通りだ。ブロスカキ公爵家は今まで何度も婚約解消を申し上げてきた。だが聞き入れられる事はなかった。しかし今回は今までと様相が異なる。王太子殿下から申し渡された事。つまり王家の意向を汲んだとしたいのだ。こう言っては語弊があるやも知れないが、あの場での発言を聞いたものは多い。君を保護する目的もある」

「わ、私をですか?!」

「そうだ。王家としてなかった事にするのに手っ取り早い方法は何だと思う」

ペルセスは先ほど体内に入れた茶が全身の毛穴から冷や汗となって噴き出したかと思うほどに手のひらも背中も、どこもかしこも体温を失いひんやりとした寒さを感じた。

「対象を‥‥消す事…でしょうか」

静かに頷くブロスカキ公爵の言動に多少の誇張はあっても、おおむね間違ってはいない。なかった事にするには最初から「いなかった者」として扱うのが手っ取り早い。
哀しいかな貴族はそうなる事を見越して手を結んでも、ある日を境にそれまでの付き合いもなかった事だとお互いに納得し合う事も多々ある。

――迷っている時間はないって事だよな――

ペルセスは直ぐに返事は出来ないけれど、身に危険が迫っている事も否が応でも理解せざるを得なかった。だが返事が出来ず困っているペルセスの耳に扉をノックする音が聞こえた。


「あら?お客様ですの?」

ディアセーラによく似た声だがもう少し落ち着きのある声。
振り返れば、ディアセーラに顔立ちはよく似ているが金髪の女性が目に入った。


「紹介しよう。私の妻、パトリシアだ」
「えっ?と、いう事は公爵夫人様ですかっ?」
「そうなりますわね?初めまして。パトリシア・ブロスカキですわ」
「はっ初めましてっ!私はリ、リーフ子爵家のペルセスと申しますっ」
「リリーフ子爵家?困った時に助けて頂けそうね」
「あ‥‥いえ…リーフです」

ペルセスの隣にはディアセーラが腰掛けたままとなっていた事からパトリシア夫人はブロスカキ公爵の隣に腰を下ろすと向かいのディアセーラとペルセスを交互に見た。

「彼がディーを助けてくれたんだよ」
「助けただなどと!とんでもないです」
「やだ、可愛い。ん?助けたとはどういう事ですの?」

直ぐに王宮の執務室に来るようにとの手紙には、ディアセーラの婚約破棄についてとしか書かれておらずパトリシア夫人は詳細を知らなかった。
ブロスカキ公爵から説明を受けたパトリシア夫人は手にしていた扇を弧に歪めた。
ペルセスはその扇から目が離せない。

折れそうで折れない扇。材質はいったい何なのだろう?と思っているとパトリシア夫人は涼しい顔で告げた。

「そう…わたくしのディーを突き飛ばした…へぇ。この国の阿呆殿下は身の程知らず…この認識に間違いはないかしら?」

「ないな」
「ありませんわ」

キッと睨むパトリシア夫人とペルセスは目が合った。
ペルセスは「龍という生き物がいればこんな感じかな」と現実逃避をしたくなった。

バシッ!!(ガゴン!)

不気味な音をたてたのは、パトリシア夫人が怒りに任せて大理石で出来たテーブルの天板に扇を振り下ろした音。こんな所に傘を立てかけて置ける欠けなんてあっただろうかとさらに現実逃避をする。

「やだ、使い物にならない王太子…じゃなかったわ。扇になっちゃった」
「だから鉄扇は振り下ろしてはいけないと言っただろう。足に当たらなかったか?」

――そっち?心配するのそっち?テーブルじゃないんだ?――

捻じ曲がった鉄扇…鉄扇?!とペルセスは反らした視線をもう一度夫人の手元に向けた。

「鍛冶屋に買取してもらって頂戴。溶かせば使えるわ」

――再利用?何に生まれ変われるんですか?――

従者に鉄扇を手渡し、新たな扇を手にした夫人の手元から目が離せない。

――もしや、それも鉄扇?――

いやいや、違うとペルセスは小さく首を横に振った。小さな疑問を解決するのに天板がこれ以上欠けても使い道が無くなってしまう。
華奢な手首にしか見えないが、明らかに大理石の天板をさっき壊したよな?と欠けた部分を見たい気もするが、怖くて視線を下に向けられない。

「で?あの阿呆殿下は間違いなく婚約破棄と?」
「報告ではそうだ」
「身の程知らずの痴れ者がッ!頬を張り倒してやろうかしら」
「鉄扇ではやめておくんだ。手首を痛める」

――そっち?!心配するの奥さんの手首なんだ?!――

「リーフ子爵子息様、気にしたら負けよ。この夫婦は今でも蜜月ですもの」
「あ、そう…なんですね…アハハ…良い事です…よね?」
「暑苦しいけど、言い争うよりは遥かにいいわね」

確かに夫人の手首を心配そうに撫でるブロスカキ公爵の視線は砂糖の甘さを感じる。

「ペルセス殿、話は屋敷に戻ってからでもいいだろうか」
「はっはい??」
「私達は陛下に渡すものがあるのでね」
「渡すもの…ですか?文官の私がお届けしますが…」
「やだ、可愛い。でも無理なの。ごめんなさいね?」
「渡してくるのは引導だ。頼めるかね?」

ブンブンとペルセスは首を大きく横に振った。
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