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ペルセスの厄災
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暗闇の中にまた小さな灯りが目に入る。
身を起こしたペルセスは身構えた。騎士にはなれなかったが男性と女性の足運びからくる音の違いくらいは判るし、何よりディアセーラが来た時は、明るい所から暗闇に入り小さなランプの灯りだけが頼り。
その上、初めての場所で壁添いに摺り足になってしまうはずだ。
だが、今、聞こえている足音は一歩が踏みしめられているし一人ではない。
声を発する者はいないようだが、3人、いや4人。ペルセスは独房の奥に身を寄せた。
明かりが近づいてくると、暗闇にいたペルセスからそれが誰なのか。
相手は自分の名すら知らないだろうが、ペルセスは知っている男だった。
王太子ベネディクト。その人だった。
「この房で間違いないのか?いないように見えるが」
「明かりがこれだけですので奥にいれば見えませんし、死んでいれば‥」
「そうか。では入って引きずり出せ」
「こ、この中に入るのですか?」
「入らなければ生きているか死んでいるかも判らないだろうが。それとも私に見てこいとお前が私に命令をするのか?」
「いえ、そのような事は…」
一緒に入ってきた者の息遣いがいやに大きく聞こえる。
ペルセスはギュッと目を閉じ、息を吸い込み覚悟を決めた。
ギュギィィっと鉄格子の扉が軋みながら開かれる音がすると黒い塊が2つ房の中に入ってきた。決して広くはない。奥行きは寝転がり、足を鉄格子に付けて手を上に伸ばしきる前に壁に当たる奥行しかない。
ゆっくり近づいてくる灯りは奇妙な色の球が揺れているようだった。
その灯りに2人の男の顔が浮かび、目が合った。
「いました。生きています」
「では、引きずり出せ」
ペルセスの両腕は2人の男に掴まれ上に引っ張られた。
「立てますし、歩けます。手を離してください」
ペルセスの声に、ベネディクトはガン!と大きな音をさせて鉄格子を蹴り飛ばした。死んでいればそのままにしようと考えていたが、生きているとなればより苛立つ気持ちが高まる。
「逃げるつもりかも知れない。その男の腕を離すな。暴れるなら腕と足を切り落せ」
ベネディクトの言葉にペルセスの腕を掴んでいた男は小さく「逃げられるわけがないだろうに。バカが」と呟く。ペルセスの耳元に顔を寄せ小声で囁いた。
「掴んだ振りをします。立てますか?」
男2人はわきを支えるように手を貸すだけで無理やり引きずり出す事はしなかった。ただベネディクトからはそう見えるように芝居をしただけだった。
開かれた鉄格子の扉を中腰になってくぐると、後ろになっていた男性がペルセスの背に手を置いた。ペルセスは前のめりになってその場に転がったのだが、腹に衝撃が加わった。
「うぐっ!!」
「殿下、何をされるのですっ」
「虫けらを蹴り飛ばしただけだ。行くぞ。連れてこい」
先頭をベネディクト、その隣にベネディクトの足元を照らす灯りを持った従者が1人。
そしてペルセルを両脇で支える男性2人、ペルセスたちの足元を照らす灯りを持った男が1人。
長く薄暗い足元に階段が見えた。
体力を奪われていたペルセスは数段おきに肩で息をしながら登っていく。
どのくらいの高さなのか。ここに連れて来られる時はいきなり麻袋を頭から被せられて足元になる口を閉じられ、肩に担がれている感触だった。袋から出ればそこは暗闇にランプの灯りだけ。
階段を上りながらここが地下牢である事と、こんな危険な階段をディアセーラは小さな灯りだけを頼りにやって来たのかと思うと申し訳なさと自分の不甲斐なさが悔しくて涙が溢れそうになった。
水平な部分が数歩続くと灯りに照らされた大きな扉。そして扉の隙間から差し込む光が見えた。大きな扉が開かれると星もない夜だがペルセスには眩しく感じた。
王宮の文官を3年していたが、ここは何処なのだろうと辺りを見回しながら歩くペルセス。この風景を見た事はなかった。ヒラの文官程度が立入り出来るような場所でない事は確かだ。
躓くふりをして後ろを振り返れば、独立した塔が見えた。
――もしかして、これが幽閉用の北の塔?――
そう思ったが、牢から階段までは平らな部分を長く歩いた。距離的に考えれば牢は横に見える大きな建物。おそらくはこれが王宮の北面になるのだろう。王宮の地下にあり、塔が出入り口になっている。そう考えれば合点がいった。
暫く歩き、鉄柵を外した扉を開くと文官の休憩室よりも少し狭い石で囲まれた部屋があった。
先に入ったベネディクトは振り向くと、立っているのもやっとなペルセスの胸ぐらを掴み、半回転させるように部屋の中に放り投げた。
部屋の中央より少し奥まで転がったペルセスだが、不気味な音が耳に入った。
ビシッ!ビシッ!っと床を叩く音は鞭。
感触を確かめるようにベネディクトは何度も鞭を床に打ち付けた。
「貧乏な田舎の子爵家。リーフ子爵家だったな?」
「・・・・」
「公爵家に入り込み、何を企んでいたのだ」
ペルセスは少し混乱した。そもそもで問いかけるベネディクトの言葉が起因になっているのではないかと思ったのだが、答えないペルセスのふくらはぎに痛みが走る。鞭で打たれたのだ。
「セーラを懐柔しようとしたか?だが無駄骨だったな」
「ディ…ディアセーラ様を懐柔?そのような事は――」
「黙れ!セーラの名を口にするな!」
「ぐあっ!!」
ベネディクトは鞭を何度も振り下ろし、ペルセスの体に打ち付けた。
しなる鞭が当たる度にペルセスの体は海老のように跳ねたり、仰け反る。
「お前が一言!自分には分不相応だとあの場で言えば!!」
「あぐっ!!」
「お前さえあの場にいなければ!!」
「うがぁっ!!」
ベネディクトは肩で息をしながら鞭を振り続けていたが、従者がその腕を掴んだ。
「殿下!これ以上は死んでしまいます!」
「離せ!死んで当然の虫けらだ。私のセーラを!セーラを!!」
振り被った腕を従者が2人がかりで押さえるが、ベネディクトはその従者を振り払い転ばせた。
「では鞭で打つのはお前の申し出通り止めてやる。その代わりその男の腕を切り落せ」
「そんなっ!殿下!そんな事出来ませんっ」
「罪人だ。どうせ処刑するのだ。首か腕かの違いだけだろう」
「この男は軽微な犯罪でせいぜいが奉仕活動!鞭で打つ必要も――うわっ!」
「黙れ!」
鞭を放り投げ、ベネディクトは窘める従者の鼻先に剣を突きつけた。
鼻の頭が切れ、血が滲み出てきた従者はそれでも「出来ません」と言った。
「ならお前がやれ。剣は貸してやる」
逆の隣にいた従者にベネディクトは剣を差し出した。
従者は数歩下がり、胸の前に手のひらをベネディクトに向けて横に振りながら「出来ません」とさらに数歩さがり尻もちをついた。
「殿下は話をするだけと仰ったではありませんか。だから同行したのです。これでは話が違います!」
「どいつもこいつも…役立たずばかりが私の周りにいるという悲劇。その元凶がこの男だと何故判らない!」
「畏れながら!この男は巻き込まれただけで――グアァァ!」
ベネディクトは従者の肩を剣で刺した。
扉の入り口にいた従者が駆け寄り、兎に角ベネディクトを止めようと剣を取り上げた。
「殿下!お鎮まりくださいませ!このような事が公になればタダでは済みません。式典はまだ2日あるのです!どうか!どうか堪えてくださいませ!」
「その式典の初日!セーラがいなかっただけでグダグダではないか!私に恥をかかせたのがこの男だと言っているのだ!」
「マリッサ様とエレイナ様も明日はしっかりしてくださるはずです!」
「出来るわけがないだろう!着飾るしか能のない女にホストなど無理な話なのだ!この男さえ消えればブロスカキ公爵はセーラを連れて来る。そうだろう?!違うか?!」
「この男にブロスカキ公爵令嬢の参加の有無をどうこうする事は出来ません!現に拘束し6日。ブロスカキ公爵は動いていないではありませんか!一介の子爵子息に公爵家を動かす力はありません!お判りくださいませ」
従者の言葉を聞いて、ベネディクトは驚いた顔をした。
少し間をおいて、突然大声で笑い始めた。
「くくっ…クックック‥そうか。見事に切り捨てられたという事か」
「殿下?」
「そうだよな。6日も動きがない。そうか、つまりはブロスカキ公爵はこの男を捨てたか?!アッハッハ」
転がり、身動きが出来ないペルセスの元にゆっくりと歩み寄り、ベネディクトはうつ伏せに転がるペルセスを蹴り飛ばした。ギチギチと音がするようにペルセスは横向きになり手足をゆっくりと丸めた。
「だが、お前はセーラに触れた。私の断りもなく未来の王妃に触れる。それは万死に値する」
「あうっ」
「まだ声が出るか。この羽虫めが。耳障りな羽音は喉を潰せばいいのか?」
ベネディクトの片足が反る。従者は駆け寄ったが遅かった。
鈍い音を立てて顎を蹴られたペルセスの体は海老反りになり、動かなくなった。
「ここで虫に食われながら息絶えろ。それがお前に対しての罰だ」
ベネディクトは吐き捨てるように言い残すと踵を返し扉の向こうに消えていった。肩を刺された従者に応急で布を巻きつけた従者がペルセスの首に指を2本あてた。
「鍵は開けておく。急ぎ公爵家にも伝えるからもう少しだけ頑張ってくれ。助けられず…すまない」
ペルセスは瞬きで従者に返事を返した。
彼らにはこれが精一杯なのだ。公爵家に知らせるにも彼らは命懸けになる。
ペルセスは何度も振り返りながら出て行く従者を動かない体でただ眺めた。
もう指先すら動かす事が出来ないし、息が出来ているかも判らない。
ただ、シャツの中に入れたディアセーラから貰った布の温かさだけがまだ生きている事をペルセスに教えてくれた。
身を起こしたペルセスは身構えた。騎士にはなれなかったが男性と女性の足運びからくる音の違いくらいは判るし、何よりディアセーラが来た時は、明るい所から暗闇に入り小さなランプの灯りだけが頼り。
その上、初めての場所で壁添いに摺り足になってしまうはずだ。
だが、今、聞こえている足音は一歩が踏みしめられているし一人ではない。
声を発する者はいないようだが、3人、いや4人。ペルセスは独房の奥に身を寄せた。
明かりが近づいてくると、暗闇にいたペルセスからそれが誰なのか。
相手は自分の名すら知らないだろうが、ペルセスは知っている男だった。
王太子ベネディクト。その人だった。
「この房で間違いないのか?いないように見えるが」
「明かりがこれだけですので奥にいれば見えませんし、死んでいれば‥」
「そうか。では入って引きずり出せ」
「こ、この中に入るのですか?」
「入らなければ生きているか死んでいるかも判らないだろうが。それとも私に見てこいとお前が私に命令をするのか?」
「いえ、そのような事は…」
一緒に入ってきた者の息遣いがいやに大きく聞こえる。
ペルセスはギュッと目を閉じ、息を吸い込み覚悟を決めた。
ギュギィィっと鉄格子の扉が軋みながら開かれる音がすると黒い塊が2つ房の中に入ってきた。決して広くはない。奥行きは寝転がり、足を鉄格子に付けて手を上に伸ばしきる前に壁に当たる奥行しかない。
ゆっくり近づいてくる灯りは奇妙な色の球が揺れているようだった。
その灯りに2人の男の顔が浮かび、目が合った。
「いました。生きています」
「では、引きずり出せ」
ペルセスの両腕は2人の男に掴まれ上に引っ張られた。
「立てますし、歩けます。手を離してください」
ペルセスの声に、ベネディクトはガン!と大きな音をさせて鉄格子を蹴り飛ばした。死んでいればそのままにしようと考えていたが、生きているとなればより苛立つ気持ちが高まる。
「逃げるつもりかも知れない。その男の腕を離すな。暴れるなら腕と足を切り落せ」
ベネディクトの言葉にペルセスの腕を掴んでいた男は小さく「逃げられるわけがないだろうに。バカが」と呟く。ペルセスの耳元に顔を寄せ小声で囁いた。
「掴んだ振りをします。立てますか?」
男2人はわきを支えるように手を貸すだけで無理やり引きずり出す事はしなかった。ただベネディクトからはそう見えるように芝居をしただけだった。
開かれた鉄格子の扉を中腰になってくぐると、後ろになっていた男性がペルセスの背に手を置いた。ペルセスは前のめりになってその場に転がったのだが、腹に衝撃が加わった。
「うぐっ!!」
「殿下、何をされるのですっ」
「虫けらを蹴り飛ばしただけだ。行くぞ。連れてこい」
先頭をベネディクト、その隣にベネディクトの足元を照らす灯りを持った従者が1人。
そしてペルセルを両脇で支える男性2人、ペルセスたちの足元を照らす灯りを持った男が1人。
長く薄暗い足元に階段が見えた。
体力を奪われていたペルセスは数段おきに肩で息をしながら登っていく。
どのくらいの高さなのか。ここに連れて来られる時はいきなり麻袋を頭から被せられて足元になる口を閉じられ、肩に担がれている感触だった。袋から出ればそこは暗闇にランプの灯りだけ。
階段を上りながらここが地下牢である事と、こんな危険な階段をディアセーラは小さな灯りだけを頼りにやって来たのかと思うと申し訳なさと自分の不甲斐なさが悔しくて涙が溢れそうになった。
水平な部分が数歩続くと灯りに照らされた大きな扉。そして扉の隙間から差し込む光が見えた。大きな扉が開かれると星もない夜だがペルセスには眩しく感じた。
王宮の文官を3年していたが、ここは何処なのだろうと辺りを見回しながら歩くペルセス。この風景を見た事はなかった。ヒラの文官程度が立入り出来るような場所でない事は確かだ。
躓くふりをして後ろを振り返れば、独立した塔が見えた。
――もしかして、これが幽閉用の北の塔?――
そう思ったが、牢から階段までは平らな部分を長く歩いた。距離的に考えれば牢は横に見える大きな建物。おそらくはこれが王宮の北面になるのだろう。王宮の地下にあり、塔が出入り口になっている。そう考えれば合点がいった。
暫く歩き、鉄柵を外した扉を開くと文官の休憩室よりも少し狭い石で囲まれた部屋があった。
先に入ったベネディクトは振り向くと、立っているのもやっとなペルセスの胸ぐらを掴み、半回転させるように部屋の中に放り投げた。
部屋の中央より少し奥まで転がったペルセスだが、不気味な音が耳に入った。
ビシッ!ビシッ!っと床を叩く音は鞭。
感触を確かめるようにベネディクトは何度も鞭を床に打ち付けた。
「貧乏な田舎の子爵家。リーフ子爵家だったな?」
「・・・・」
「公爵家に入り込み、何を企んでいたのだ」
ペルセスは少し混乱した。そもそもで問いかけるベネディクトの言葉が起因になっているのではないかと思ったのだが、答えないペルセスのふくらはぎに痛みが走る。鞭で打たれたのだ。
「セーラを懐柔しようとしたか?だが無駄骨だったな」
「ディ…ディアセーラ様を懐柔?そのような事は――」
「黙れ!セーラの名を口にするな!」
「ぐあっ!!」
ベネディクトは鞭を何度も振り下ろし、ペルセスの体に打ち付けた。
しなる鞭が当たる度にペルセスの体は海老のように跳ねたり、仰け反る。
「お前が一言!自分には分不相応だとあの場で言えば!!」
「あぐっ!!」
「お前さえあの場にいなければ!!」
「うがぁっ!!」
ベネディクトは肩で息をしながら鞭を振り続けていたが、従者がその腕を掴んだ。
「殿下!これ以上は死んでしまいます!」
「離せ!死んで当然の虫けらだ。私のセーラを!セーラを!!」
振り被った腕を従者が2人がかりで押さえるが、ベネディクトはその従者を振り払い転ばせた。
「では鞭で打つのはお前の申し出通り止めてやる。その代わりその男の腕を切り落せ」
「そんなっ!殿下!そんな事出来ませんっ」
「罪人だ。どうせ処刑するのだ。首か腕かの違いだけだろう」
「この男は軽微な犯罪でせいぜいが奉仕活動!鞭で打つ必要も――うわっ!」
「黙れ!」
鞭を放り投げ、ベネディクトは窘める従者の鼻先に剣を突きつけた。
鼻の頭が切れ、血が滲み出てきた従者はそれでも「出来ません」と言った。
「ならお前がやれ。剣は貸してやる」
逆の隣にいた従者にベネディクトは剣を差し出した。
従者は数歩下がり、胸の前に手のひらをベネディクトに向けて横に振りながら「出来ません」とさらに数歩さがり尻もちをついた。
「殿下は話をするだけと仰ったではありませんか。だから同行したのです。これでは話が違います!」
「どいつもこいつも…役立たずばかりが私の周りにいるという悲劇。その元凶がこの男だと何故判らない!」
「畏れながら!この男は巻き込まれただけで――グアァァ!」
ベネディクトは従者の肩を剣で刺した。
扉の入り口にいた従者が駆け寄り、兎に角ベネディクトを止めようと剣を取り上げた。
「殿下!お鎮まりくださいませ!このような事が公になればタダでは済みません。式典はまだ2日あるのです!どうか!どうか堪えてくださいませ!」
「その式典の初日!セーラがいなかっただけでグダグダではないか!私に恥をかかせたのがこの男だと言っているのだ!」
「マリッサ様とエレイナ様も明日はしっかりしてくださるはずです!」
「出来るわけがないだろう!着飾るしか能のない女にホストなど無理な話なのだ!この男さえ消えればブロスカキ公爵はセーラを連れて来る。そうだろう?!違うか?!」
「この男にブロスカキ公爵令嬢の参加の有無をどうこうする事は出来ません!現に拘束し6日。ブロスカキ公爵は動いていないではありませんか!一介の子爵子息に公爵家を動かす力はありません!お判りくださいませ」
従者の言葉を聞いて、ベネディクトは驚いた顔をした。
少し間をおいて、突然大声で笑い始めた。
「くくっ…クックック‥そうか。見事に切り捨てられたという事か」
「殿下?」
「そうだよな。6日も動きがない。そうか、つまりはブロスカキ公爵はこの男を捨てたか?!アッハッハ」
転がり、身動きが出来ないペルセスの元にゆっくりと歩み寄り、ベネディクトはうつ伏せに転がるペルセスを蹴り飛ばした。ギチギチと音がするようにペルセスは横向きになり手足をゆっくりと丸めた。
「だが、お前はセーラに触れた。私の断りもなく未来の王妃に触れる。それは万死に値する」
「あうっ」
「まだ声が出るか。この羽虫めが。耳障りな羽音は喉を潰せばいいのか?」
ベネディクトの片足が反る。従者は駆け寄ったが遅かった。
鈍い音を立てて顎を蹴られたペルセスの体は海老反りになり、動かなくなった。
「ここで虫に食われながら息絶えろ。それがお前に対しての罰だ」
ベネディクトは吐き捨てるように言い残すと踵を返し扉の向こうに消えていった。肩を刺された従者に応急で布を巻きつけた従者がペルセスの首に指を2本あてた。
「鍵は開けておく。急ぎ公爵家にも伝えるからもう少しだけ頑張ってくれ。助けられず…すまない」
ペルセスは瞬きで従者に返事を返した。
彼らにはこれが精一杯なのだ。公爵家に知らせるにも彼らは命懸けになる。
ペルセスは何度も振り返りながら出て行く従者を動かない体でただ眺めた。
もう指先すら動かす事が出来ないし、息が出来ているかも判らない。
ただ、シャツの中に入れたディアセーラから貰った布の温かさだけがまだ生きている事をペルセスに教えてくれた。
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