公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru

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バックレたマリッサとエレイナ

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式典の2日目。

マリッサとエレイナの姿はなかった。
来賓は次々と今日もやってくるのにホストを命じた3人のうち、立っているのはベネディクトだけだった。

「どういう事か説明をしてもらおうか」
「兄さん、マリーは熱をだしてしまって、エリーは腹が痛いと」

「関係あるまい。ブロスカキ公爵令嬢は熱があろうと足を挫いていようとするべき事はしていた。そのブロスカキ公爵令嬢はベネディクトを唆したお前の娘2人の甘言に乗り婚約破棄をしたのだ。この式典があるのが判っていての事だろう?責任も取れずに何を持ってベネディクトに進言するつもりだったのだ?」

「他者の言葉を鵜呑みにするような教育しかしていない癖に、こっちに非があるような言い方はどうかと思うよ?兄さんこそ式典があるのが判っているなら対策を取るべきだっただろう」

「取っているさ。デモステネス、オデッセアスがともに婚約者とホストの代わりをしているだろう。試しにとお前の娘とベネディクトにも声はかけたが最初からあてにするほど私は耄碌していないからな」

「なら良いじゃないか。なんの問題も――」

「問題ないと思うか?問題だらけだろう。お前の娘2人とベネディクト。この式典を乗り切れる筈はないと判ってはいたが気概を見せるかと機会を与えただけだ。ただ初日からガラッシ侯爵家が参加してない。これに気が付いたのはその3人以外だ。あのデモステネスが頭を下げてなんとか最終日だけは参加してくれることになったが…意味が判るか?」

「頭を下げたくらいで来てくれるなら安い物だろう。それだけ港湾事業と海路の開拓は旨味があるという事だ」

「バカか。王兄となるデモステネスが家臣に頭を下げる。王弟のお前には逆立ちしても出来ない芸当だろうが。そもそもで、ガラッシ侯爵家そして肝心のブロスカキ公爵家が初日にいない。その時点でこの事業そのものが帝国に掻っ攫われるのだと何故判らない」

「兄さんは考え過ぎなんだよ。どうやって帝国が介入するというんだ?戦でも起こして領地を奪うとでも?」

ヘラヘラと笑う王弟に国王は渋い顔をして「判ってるじゃないか」と返すと王弟は言葉を失った。すっかり忘れていたがブロスカキ公爵夫人は帝国の第6王女で現皇帝の実妹。
手を出していい相手ではない上に、その娘の婚約破棄にマリッサとエレイナが関わっている事をやっと理解した王弟はブルブルと震え出した。

「兄さん…マリーとエリーを連れてくる」

「本当にお前は何も判っていない。もう庇い立ては出来ないという事だけは覚えておいてくれ。あぁダメだな。お前は都合の悪い事は忘れるかなかった事にする質だったな。娘2人もよく似て羨ましい事だ。隠居後はのんびり釣り糸でも垂らしてと思っていたが、事業はもう失敗がほぼ確定だ。ともに城壁に吊るされるしかなさそうだ。餌ではなく己が吊るされるとはな…残念だ」

「そんな!デモステネスやオデッセアスは良くやってるんだろう?なら大丈夫じゃないか。大袈裟に脅かそうって悪い冗談だろ?」

「冗談でお前の後ろに衛兵を用意したと思っているならとんだ間抜けだな」

王弟は国王の言葉に後ろを振り返ると、部屋に来た時にはいなかった衛兵の姿が目に入った。国王があっちに行けと手振りで示すと王弟のわきに衛兵の手が回され、無理やり立たされた。

「連れて行け」
「待ってくれ!兄さん。2人には良く言い聞かせる!兄さんっ!!」
「言い聞かせるのなら懺悔の言葉にしておけ」

叫ぶ王弟の声が小さくなると国王は俯き、頭を抱えた。
直ぐに頭を起こすと、立ち上がり王妃と共に式典の2日目。午後の会に向かった。




☆~☆

「ねぇ。パパちゃんと言ってくれるわよね?」

「大丈夫でしょ。陛下はいつも仕方ないって結局パパを叱るだけだし」

「そうよね。でもわたくし達がいなくたって人数いるんだし、陛下もわざわざ声かける事ないと思わない?昨日なんて全然何言ってるか判らない爺さんの相手しなきゃいけないし…こっちの国にきたらこっちの言葉を喋るのが当たり前だと思わない?」

「エレイナもなの?わたくしもよ。妙なばあさんが訳わからない事言うからオデッセアスに振ったけど。でもあのばあさんの宝石は綺麗だったなぁ。側妃になったらディックに強請らないと!」

「あ、そう言えば側妃って生活費とか宮の維持費とか実家がほとんど負担するらしいんだけど、パパの場合はどうなるのかしら?やっぱり2人分?でもパパ王弟なんだから国庫から出るわよね?」

「え?そうなの?だからオデッセアスのママは古臭いドレスばっかりなのね。リメイクなんかしてみっともないって思ってたのよ。ドレスの裾なんか刺繍を解いた穴だらけよ?よくあんなドレスで茶会に出られるものだと感心しちゃったくらい穴だらけ。びっくりだったわ」


マリッサとエレイナが愚痴を溢し合っているところに従者が客の来訪を告げた。
父親にではなく、自分たちだと聞いて顔を見合わせ誰なのだろうと首を傾げた。

「ガスパロかしら?」
「え?ここには来るなって言ってないの?わたくしはルーチョには屋敷には来ないようにって言ってあるわよ?」
「伝えてるわよ。流石に不味いでしょう?」
「じゃ、誰かしら?」

通されてきた客は男性2人。1人はソファに腰を掛けたがもう1人はその後ろに立って手を後ろに組んだままである。マリッサにもエレイナにも目の前の男2人は面識がなかった。

「ベスプチーノさんと仰ったかしら?」
「えぇ。ベスプチーノです」
「ごめんなさいね?わたくし達、お友達は凄く多いのだけれど1回、2回しか会ってないのかしらね?ちょっと思い出せなくて」

「思い出す事はないと思いますよ。お会いするのは初めてですから」
「えっ?初めて?では、何の御用ですの?」
「お支払いが滞っておりますので、端的に言えば代金をお支払い頂くために参りました」
「代金?待って。お待ちになって。買い物は請求で済ませているでしょう?」

ベスプチーノとの名乗る男はニヤっと笑った。

「いえいえ。いつもウチのガスパロとルーチョをご指名してくださっているでしょう?お店で遊んで頂いた分は請求書で清算して頂いておりますが、困るんですよ。店の外で連れ回されたりするのはね?あの2人は売れっ子なので他のお客様にも迷惑になりますし。何より関係持ってますよね?2人にはペナルティを課しましたが、うちは真っ当な商売をしているのでそういうのは困るんです。傷物になってしまった分の損害も請求させて頂きますよ」

「ちょ、ちょっと待って。ルーチョは恋人なのよ?恋人同士ならそういう関係は普通でしょう?プライベートまでお店が管理してるっておかしいわ」

「そうよ。ガスパロはわたくしの恋人なの。どうしてそこまであなた方は口出しをするの?権利の侵害ではなくって?」

「いいえ。2人はあくまでも店のホスト、男性給仕です。時々いらっしゃるんですよ。お店では恋人のような距離になるので自分は特別なんだと誤解をされる方が。2人とあなた方の関係はあくまでも客と給仕。それ以下でもそれ以上でもないんですよ」

マリッサは顔を真っ赤にして立ち上がると扇をビシィ!っとベスプチーノに突きつけた。

「失礼ね!ガスパロとは指輪もお揃いで買ってあげたのよ?一緒に過ごす家だって買ってあげたのよ?客と給仕ならそんな事までしないでしょう?」

「そうよ!ルーチョには毎月100万ちかいお小遣いだってあげてるのよ?この前だって旅行に行ったし純金の懐中時計をいつも無くしちゃう度に買ってあげてたのよ?そんな事、こっちが客だって言うならしないわよ!」


ベスプチーノは後ろに立つ男から書面を受け取ると2人の前に差し出した。
それは雇用契約書と、2人がマリッサとエレイナに時間外に束縛をされて困っているという報告書だった。

「先程も申しましたが、勘違いされるお客様は多いんです。競い合うかのようにプレゼントがどんどん高額になっていくのも後々揉める元ですしね。ただお2人の言う小遣いに指輪、懐中時計に家、そういう物は2人にも確認をしましたが持っておりませんでした。流石にね家はシャレになりませんので登記も調べましたよ」

「あったでしょう?!ガスパロと一緒に選んだんだもの」
「いいえ?ガスパロ名義の家は公的にも確認をしましたがありません」
「嘘よ!一括で支払ったのよ?そのためにママの指輪まで売ったんだから!」
「嘘だと思うのなら王宮の不動産管理課でお調べになってはどうです?まぁ半年ほど前にガスパロの親がガスパロの稼いだ金で家を買ったのは知っていますが、親名義なので遺産相続までガスパロの名義ではありませんがね」

「そんな!じゃ、わたくし達は騙されたって言うの?遊ばれただけだというの?」

「お客さん、うちはね?お客さんを楽しく遊ばせる店なんですよ?」

「なんですってぇぇ!!パパに言いつけてやる!」

「では、時間外と慰謝料についてはお支払いいただけないと?こちらとしては穏便に済ませるために泣く泣く金で決着付けようと思ったんですけどね」

「払う訳ないでしょう?!だいたいパパは王弟なのよ?穏便も何も知った事じゃないわ」

ドン!!ガターン!!

ベスプチーノは中央にあったソファーテーブルを蹴り飛ばした。
大きな音を立ててひっくり返りそうになったテープルが位置を変えて止まる。

「払うものを払わないなら、払いたくなるようになってもらうだけだ。1つ教えてやるよ。相手が下手に出ているうちに手は打つもんだ」

「きゃぁぁ」

エレイナはソファの後ろにいた男に羽交い絞めにされて叫び声をあげた。

「どうするつもりなの?!パっパパは王弟なのよっ!こんな事をしてタダで済むと思ってるの?!」

「タダで男性給仕と遊んで踏み倒そうとしてる阿婆擦れに説教垂れられる謂れはねぇんだよ。王弟だろうが国王だろうが払うものは払ってもらう。踏み倒されてちゃ俺らの世界では死んだも同然なんだ」

「わたくし達をどうするつもりっ?!」

「御大層な肩書があるんだ。そういうので鬱憤を晴らしたい、その為なら幾ら出してもいいってニッチな客はいるんだよ。安心しろ。ある日突然失踪してそのままって貴族も扱いなれてる。あんた達の噂もちゃーんとインプットしてるぜ?バックレ姉妹ってな。おい、連れて行け」

「いやぁぁ!!離しなさい!離せといってるの!」
「やめて!わたくしに触らないで!」

バタバタと暴れる2人だったが、この手合いは慣れたものなのだろう。
ベスプチーノはもう1人の男の両肩に気絶したマリッサとエレイナを連れて堂々と屋敷を後にした。


「どうします?娼館といっても片方は30近いですけど」
「ちょうど海路も開けるって話だ。長い間船の中に男ばかり。放り込めば櫓をこぐ馬力も出るから欲しいって親っさんがいたな。この2人なら無料のホスト遊びと思って張り切るだろ」
「櫓漕ぎの男衆より、この2人の方が櫓漕ぎは上手そうな気もしますがね」

マリッサとエレイナの散財で使用人達の給料も滞りがちだった王弟の屋敷では使用人達が荷造りを始めた。売れそうな物を抱えて1人、2人と出て行けば他所にいた使用人も我先にと手を付け始める。
王弟ももう帰る事のない屋敷は夕方には何もなくなり、人もいなくなった。
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