公爵令嬢ディアセーラの旦那様

cyaru

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ペルセス救出

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「こちらです。足元が苔で滑りますので気を付けて」

庭園の木々の向こうは夜になっても煌々と多くのランプに灯が入り夜空に向かって王城が光を放っている中、ブロスカキ公爵家の使用人数人は知らせに来た従者と、ベネディクトに同行したが公爵家に知らせを走らせた従者と共に王宮の北側の庭園を身を伏せながら小走りで進んでいく。

「侵入者があった時の為に虎挟みがあちこちにあります。私の後ろをついて来てください」
「わかりました」

ジグザグに進んでいく従者だったが、確かに前だけを向いて真っ直ぐ進めば虎挟みに足を挟まれそうである。

「うわっ!!」
「大丈夫ですか?石の上にも苔が生えてますので慌てずに」

苔で滑って転びそうになった公爵家の使用人を後ろを歩く使用人が咄嗟に支えた。
大広間から聞こえる楽団の音色は緩やかで、ワルツの時間なのかも知れない。
上弦の月が緩く照らす王宮の庭園を進み、北側に回り込むと音楽も聞こえなくなる。

「ここです」
「こんな所に部屋があるのか」
「かなり昔はこの部屋で拷問が行われ、自白した王族を向こうにある塔の地下に幽閉したと聞いています」

ギギっと建付けの悪い扉を開くと、暗い部屋に緩い月明かりが差し込む。
扉の形に出来た明るい部分に1つ、2つと人の影が落ちると、使用人が奥の方に塊を見つけた。

「この部屋に何か罠のようなものは?」
「ありません。拷問具も20年ほど前に撤去してからは伽藍洞の部屋です」

この中で唯一あの時のペルセスを知る従者が言葉をかけた。

「あ、あの…彼はかなり酷く鞭で打たれているのでっ!」

鞭で打たれた事は知らせで聞いてはいたが数回のものだと思っていた使用人達はもう自力では動けないペルセスと従者を交互に見た。

「そんなにっ?!なんてことを…お嬢様が知ったらどうなるか‥おい、担架の用意は出来るか?」
「はい、伸縮する棒と厚めのシーツは持ってきました」
「担架を作ってくれ。腱を打たれていたら歩かせる事は危険だ」

数人の使用人は奥の塊に向かって歩いていく。
見つかる危険性があるのでランプがない。1人がペルセスに声を掛けた。

「ペルセスさん?ペルセスさん…聞こえますか?」
「‥‥ぅぅ…はぃ…」
「良かった。生きてた‥‥本当にすみま…ん。生きててくれて‥うぅぅっ」
「泣いてないで手を貸してください。ペルセスさん。足を伸ばせますか?」
「なんて酷い…血だらけじゃないか!許せない」
「ペルセスさん、担架で運びますね?もう少しだけ辛抱してください」
「はぃ‥‥りがとう」

入り口近くまで数人でペルセスを担ぎ上げ、月明かりを頼りに見える範囲でケガの酷い部分に布を巻いていく。出血をしたままだと血だまりで見つかってしまう恐れもあるからである。

ペルセスを担架に乗せると中腰のため途中で交代をしながら従者と使用人達は庭園の中、来た道を戻っていった。



☆~☆

ブロスカキ公爵家の馬車では目立ちすぎるため、出入りの商会から荷馬車を借り入城する際もワインの納品だとして敷板に使用人が数人寝転がり、その上にコ型になった枠を逆向きにして使用人の姿を隠し、その上にワインの入った木箱を乗せてきたのだ。

帰りはペルセスを寝かせ、同じように使用人達も横になる。またコ型の枠を被せ、今度は空になったワイン瓶が入った木箱を乗せていく。

出入り口になる門には当然門番がいる。従者は万が一のためにと開封したものの飲み残したワインも何本か持ってきた。怪しまれた場合はそのワインを賄賂として門番に渡すためだ。

「封を切っていなければ明日もあるのにと怪しまれます」

通常の門番なら中まで検められただろうが、今日は式典が行われているためそちらに駆り出されていて今日の門番は通常王都周辺を警備している騎士団の一番下になる警護団である。
ほぼ全員が平民で爵位があっても男爵か騎士爵の次男以下。

薄めていないワインなど年に1回飲めるかどうか。
こんな王宮の式典で出されるようなワインは生涯で1回飲めるかどうかの生活をしている者達である。飲み残しであろうと上流社会の者は瓶から直接飲む事はなく、開封済みでも中身があれば何の問題もない。

案の定、門番の兵士はワインはないかと聞いて来た。
飲み残しのワインを渡すと更に数人が集まってくる。兵士たちに「これだけしかないのですが」と渡せばそれぞれが懐から水筒を出してきて分け始める。
兵士達も開封していないワインがあるとは思っていないため、全員の分があるとは考えていない。

「通ってよし!」

ご機嫌になった兵士が声を出せば馬車は動き出し、隠れている使用人はやっと息が出来た。




バギッ!!

公爵家に荷馬車が滑り込むように入ってきた。
出迎えた使用人達は空のワイン瓶が入った木箱を下ろし、コ型になった枠を外すと横になって隠れていた使用人が起き上がった。その中で一人だけ横になり担架にしたシーツに包まったペルセスだけは起き上がれなかった。

白かったシーツは赤く染まり、はだけた部分から見えるペルセスの顔と片腕を見てパトリシア公爵夫人はブルブルと震えながら鉄扇を真っ二つに折ってしまった。

「奥様、ただいま戻りました。怪我が酷いので直ぐに処置を」
「どのくらいなの。まさか見えている状態が全身ではないでしょうね」
「残念ながら‥」
「どこまでゲスな男なのかしら。兎に角中へ」
「あの、お嬢様はまだ見ない方がよろしいかと思います」

しかし、荷馬車が到着したという知らせにディアセーラは制止する父、ブロスカキ公爵の手を振り切って玄関ホールに走ってきてしまっていた。

荷馬車から降ろされたペルセスを見てディアセーラは叫んだ。

「ペルセスさんっ!!ペルセスっ!こんなっ!こんなの酷すぎるっ」
「お嬢様、離れてください」
「離れるのよ。早く運んで手当をしないと。ね?ディー判るでしょう?」

パトリシア公爵夫人に運ばれていくペルセスから離されたディアセーラはその後をついていく。部屋に入り手当を受け、小さくうめき声をあげるペルセスをただ見て、祈る事しか出来ないもどかしさ。

処置の為に着ていた服がナイフで切り取られ、床に溜っていく。
あの日、井戸に水を汲みに行きそのまま連行されてしまった時の服の色ではなかった。
地下牢で触れた頬は痩せてしまったことが判るくらい骨ばっていた。

背も胸も腕も脚も鞭で打たれ、裂傷が酷く時折大きくなる声にもディアセーラは耳も塞がず、目も反らせずただペルセスを見た。

処置が終わったペルセスは包帯だらけで指先すら肌が見えていない。
ディアセーラは寝台の横に椅子を置き、今夜から数日は熱を出すだろうという医師の言葉にメイドが持って来てくれた井戸で冷やした水筒をわきの下に挟んで1時間おきに交換した。

「痛い?ごめんなさい。少し腕を動かすわね?」
「ディ‥‥」
「ん?なぁに?ここにいるわ。ディーはここよ?」
「ぅん…」

包帯の間から数本だけ出た髪の毛を指先で寄せ、寝息が聞こえだせば椅子に腰かける。ディアセーラは空がしらみ始めてもペルセスの側を離れず、時間が来れば水筒を交換した。

交代をしようかと侍女やメイドは部屋にやってくるが言い出せない。
ブロスカキ公爵はそんな侍女やメイドに静かに頷いて、2人にしてあげてくれと静かに部屋の扉を閉めた。


☆彡☆彡

次回 8時10分公開です (*´▽`*)
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