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チェザリーノの仕事
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王城の表門を通過したブロスカキ公爵家の馬車。
途中教会に立ち寄り祈りを捧げて予定より数分遅れとなった。
ブロスカキ公爵夫妻と娘のディアセーラがその中にいる。
嫡男のチェザリーノとその妻ビアンカは領地にいるため不参加だが何もしていない訳ではない。
父のブロスカキ公爵からディアセーラの婚約破棄の一件を手紙で知ったチェザリーノは直ぐに帝国に向かった。王都から離れている公爵領。位置的には帝国のほうが近い。
チェザリーノが帝国に向かった目的は勿論伯父にあたる皇帝に会うためだ。
王族であり、王太子、次期国王となれば妹のディアセーラを正妃に迎え問題なく世継ぎとなる子が産まれても慣習としていずれ側妃を召し上げるのは仕方がないと考えていた。
だが、結婚をする前の婚約中から令嬢をとっかえひっかえし、侍らせるのは違うだろうとチェザリーノは思っていたし、その令嬢達とベネディクトが市井で買い物をしたり、観劇をする際に駆り出されるのは王太子直属の近衛兵と第一騎士団の隊員である。
何が嬉しくて義弟となる男の浮気現場を警護せねばならないのか。
なにより許せなかったのはそうやってベネディクトが私人として遊び惚けている間、妹のディアセーラは寝る間もなくベネディクトが本来せねばならない執務や政務をさせられていた事だ。
帰りが遅い自分よりもさらに帰宅の遅い妹ディアセーラ。
顔色も悪く、寝不足から女性が子を成すために必要な月のものすら止まってしまい、妻のビアンカもディアセーラの体調を心配して実家などにも何とかならないものかと相談をしていた。
――こんな事を続けていればいずれ破談になり、国は破綻する――
チェザリーノはその日の為に騎士団を退団した。
周りは領地に逃げたのだと言ったが、実際は違う。距離的に帝国に近い領地の方が「その日」の為には都合が良かったのだ。
ベネディクトが間違った道から軌道修正出来ればそれに越した事はない。
しかし、ベネディクトはそのまま誤った道を進み続け、更に大きな過ちを犯した。
港湾と海路の事業は帝国にとっても都合の良い事業である。
ただ主導するのがジェラティッド王国であれば都合が良いだけで旨味は少ない。
ディアセーラという人質を取られていては帝国も手は出せない。皇帝に取ってディアセーラは姪。実妹の娘であるため婚約者である以上ジェラティッド王国に強くも言えないし、手は出せなかった。
婚約破棄となり、事業をそっくりそのまま帝国とガラッシ侯爵家で行なう。
ガラッシ侯爵家が頷いてくれたのはビアンカのおかげであるが、ビアンカとディアセーラが実の姉妹以上に仲が良かった事がガラッシ侯爵家を頷かせたのだ。
ガラッシ侯爵家は相手が帝国であろうと問題がない。いや、むしろ帝国の方が良いだろう。先を見据えれば港湾を整備する事で帝国でも商売をしやすくなるのだ。
ジェラティッド王国に恩を売るよりずっと旨味がある。
もう1つの家であるジナステラ伯爵家はどちらでもいい風見鶏のような家である。
ジナステラ伯爵家はブロスカキ公爵が王都で言い含める事も出来る。
チェザリーノの動きで帝国は急ぎ当初不参加だった式典への参加のために大使を送った。
あとは父のブロスカキ公爵の仕事だとチェザリーノは領地で吉報を待った。
ブロスカキ公爵は婚約破棄となり王家に引導を渡した後は、王宮に出仕をしながら水面下で力のある貴族を纏めた。王家には大なり小なり不満を持つ者は多い。
特に低位貴族となればさほど裕福ではないジェラティッド王国は税率も高い。
儲けてもほとんどは税金で持って行かれるのに、災害となれば自力で何とかしろと放られる。なのに街道を整備し始めると反乱を恐れて横やりを入れてくる。
リーフ子爵領のように街道さえ整備をしてくれれば売り上げがあがる領地をもつ貴族は少なくないのだ。
10日足らずで低位貴族の半数以上を纏め、ガラッシ侯爵と共にブロスカキ公爵は高位貴族にも働きかけた。ただ高位貴族となると王家から降家をした者も迎えた家や、臣籍降下で興した家もある。
それでも幾つかの家と手を結ぶところまでブロスカキ公爵は取り付けた。
「今日の式典最終日。王家がひっくり返るかも知れん」
「よろしいのではなくて?無能が上に立ては困るのは民ですもの」
「そうね。日々の公務でもそう思ってたわ。でも変革を嫌うのよね。公爵家の鉱山だって何時まで採掘できるか判らないのにその時になって考えればいいって先送り。陛下の代では枯渇する事はないからお気楽だなと思っておりましたもの」
「その事は言ってみたのかい?」
「勿論。新規事業について廃棄する農産物をどうするかと言うのがあったの。加工品として売り出したいと言った貴族が事業費の融資を申請したんだけど、加工品は前例がない。それでオシマイってあんまりだわ。加工品とすれば日持ちはするし輸出枠を大きく出来るのに…結果が判らないものはダメだなんて。だからジェラティッド王国は何につけても後進国だと言われるの。でも判らないのよね。隠居後の事しか頭にないもの」
「国を潰すか、2つに割るか。どっちにしても陛下には責任を取ってもらわねばならんな」
馬車の車輪の回転がゆっくりとなり、停車する。
馬車から降りれば、王宮は不夜城のように怪しげな光に包まれていた。
懐かしさも感じる長い廊下を歩き、ホールへの入場用となった扉の前に並ぶ。
家名がホール内に告げられると人々のざわめきが消えて楽団の奏でる音楽だけになった。
全員が入り口に視線を向ける。その中には王太子ベネディクトの熱い視線もあった。
☆彡☆彡☆彡
次回 9時40分公開です (*^-^*)
途中教会に立ち寄り祈りを捧げて予定より数分遅れとなった。
ブロスカキ公爵夫妻と娘のディアセーラがその中にいる。
嫡男のチェザリーノとその妻ビアンカは領地にいるため不参加だが何もしていない訳ではない。
父のブロスカキ公爵からディアセーラの婚約破棄の一件を手紙で知ったチェザリーノは直ぐに帝国に向かった。王都から離れている公爵領。位置的には帝国のほうが近い。
チェザリーノが帝国に向かった目的は勿論伯父にあたる皇帝に会うためだ。
王族であり、王太子、次期国王となれば妹のディアセーラを正妃に迎え問題なく世継ぎとなる子が産まれても慣習としていずれ側妃を召し上げるのは仕方がないと考えていた。
だが、結婚をする前の婚約中から令嬢をとっかえひっかえし、侍らせるのは違うだろうとチェザリーノは思っていたし、その令嬢達とベネディクトが市井で買い物をしたり、観劇をする際に駆り出されるのは王太子直属の近衛兵と第一騎士団の隊員である。
何が嬉しくて義弟となる男の浮気現場を警護せねばならないのか。
なにより許せなかったのはそうやってベネディクトが私人として遊び惚けている間、妹のディアセーラは寝る間もなくベネディクトが本来せねばならない執務や政務をさせられていた事だ。
帰りが遅い自分よりもさらに帰宅の遅い妹ディアセーラ。
顔色も悪く、寝不足から女性が子を成すために必要な月のものすら止まってしまい、妻のビアンカもディアセーラの体調を心配して実家などにも何とかならないものかと相談をしていた。
――こんな事を続けていればいずれ破談になり、国は破綻する――
チェザリーノはその日の為に騎士団を退団した。
周りは領地に逃げたのだと言ったが、実際は違う。距離的に帝国に近い領地の方が「その日」の為には都合が良かったのだ。
ベネディクトが間違った道から軌道修正出来ればそれに越した事はない。
しかし、ベネディクトはそのまま誤った道を進み続け、更に大きな過ちを犯した。
港湾と海路の事業は帝国にとっても都合の良い事業である。
ただ主導するのがジェラティッド王国であれば都合が良いだけで旨味は少ない。
ディアセーラという人質を取られていては帝国も手は出せない。皇帝に取ってディアセーラは姪。実妹の娘であるため婚約者である以上ジェラティッド王国に強くも言えないし、手は出せなかった。
婚約破棄となり、事業をそっくりそのまま帝国とガラッシ侯爵家で行なう。
ガラッシ侯爵家が頷いてくれたのはビアンカのおかげであるが、ビアンカとディアセーラが実の姉妹以上に仲が良かった事がガラッシ侯爵家を頷かせたのだ。
ガラッシ侯爵家は相手が帝国であろうと問題がない。いや、むしろ帝国の方が良いだろう。先を見据えれば港湾を整備する事で帝国でも商売をしやすくなるのだ。
ジェラティッド王国に恩を売るよりずっと旨味がある。
もう1つの家であるジナステラ伯爵家はどちらでもいい風見鶏のような家である。
ジナステラ伯爵家はブロスカキ公爵が王都で言い含める事も出来る。
チェザリーノの動きで帝国は急ぎ当初不参加だった式典への参加のために大使を送った。
あとは父のブロスカキ公爵の仕事だとチェザリーノは領地で吉報を待った。
ブロスカキ公爵は婚約破棄となり王家に引導を渡した後は、王宮に出仕をしながら水面下で力のある貴族を纏めた。王家には大なり小なり不満を持つ者は多い。
特に低位貴族となればさほど裕福ではないジェラティッド王国は税率も高い。
儲けてもほとんどは税金で持って行かれるのに、災害となれば自力で何とかしろと放られる。なのに街道を整備し始めると反乱を恐れて横やりを入れてくる。
リーフ子爵領のように街道さえ整備をしてくれれば売り上げがあがる領地をもつ貴族は少なくないのだ。
10日足らずで低位貴族の半数以上を纏め、ガラッシ侯爵と共にブロスカキ公爵は高位貴族にも働きかけた。ただ高位貴族となると王家から降家をした者も迎えた家や、臣籍降下で興した家もある。
それでも幾つかの家と手を結ぶところまでブロスカキ公爵は取り付けた。
「今日の式典最終日。王家がひっくり返るかも知れん」
「よろしいのではなくて?無能が上に立ては困るのは民ですもの」
「そうね。日々の公務でもそう思ってたわ。でも変革を嫌うのよね。公爵家の鉱山だって何時まで採掘できるか判らないのにその時になって考えればいいって先送り。陛下の代では枯渇する事はないからお気楽だなと思っておりましたもの」
「その事は言ってみたのかい?」
「勿論。新規事業について廃棄する農産物をどうするかと言うのがあったの。加工品として売り出したいと言った貴族が事業費の融資を申請したんだけど、加工品は前例がない。それでオシマイってあんまりだわ。加工品とすれば日持ちはするし輸出枠を大きく出来るのに…結果が判らないものはダメだなんて。だからジェラティッド王国は何につけても後進国だと言われるの。でも判らないのよね。隠居後の事しか頭にないもの」
「国を潰すか、2つに割るか。どっちにしても陛下には責任を取ってもらわねばならんな」
馬車の車輪の回転がゆっくりとなり、停車する。
馬車から降りれば、王宮は不夜城のように怪しげな光に包まれていた。
懐かしさも感じる長い廊下を歩き、ホールへの入場用となった扉の前に並ぶ。
家名がホール内に告げられると人々のざわめきが消えて楽団の奏でる音楽だけになった。
全員が入り口に視線を向ける。その中には王太子ベネディクトの熱い視線もあった。
☆彡☆彡☆彡
次回 9時40分公開です (*^-^*)
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