では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

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第一章☆喚く女(5話)

誤認を狙われたのか?

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。


◇~◇~◇

インシュアは本題を切り出した。

「では、ハワードさん。契約の確認を致しましょう」
「お、おぅそうだった。忘れるところだった」

先ほどテーブルの端に寄せたファイルをテーブルの中央まで寄せてくる。
若干ハワード寄りにファイルを置くと、インシュアは逆側から文字を読み上げた。

「まずハワードさん。ご契約は筆頭契約者がハワードさんになっていますが家族型の保険です」
「あ、あぁそうだ」


個人個人で契約をするのではなく、1つの保険を家族型とする事で登録された家族全員を保障するタイプだ。
筆頭契約者となるハワードの保障額と妻、子供たちの保障額は異なるが1つの保険で全員が賄えるためシャボーン国では割と広くこのタイプで契約をしている者は多い。
※リアルの保険の各種呼び名と混同しないでください※


「まずはハワードさんですが、死亡時、これは病気死亡、不慮の事故による死亡を問わずですがハワードさんが万が一お亡くなりになった時に支払われる保険金は500万ベル。お間違いないですか?」

「あぁ間違いねぇ。で、女房や子供が――」

「はい、奥様、3人のお子様であるアンナちゃん、コリンちゃん、ジョゼフ君。あり得ないとは思いますが万が一の時はハワードさんと同じく病気死亡、不慮の事故による死亡時には死亡保険金が100万ベル支払われます」

「知ってる。それは確認した。そんでもって誰か――」

「念のための確認です。この保険は家族型ですのでこの死亡保険金が支払われる場合、お支払いをした時点で契約は消滅致します。例えば…先に奥様が亡くなった場合は100万ベルの死亡保険金が支払われて、契約はなくなるという事です。よろしいでしょうか」

「お、おぅ。それを言おうと思っていたんだ。でもまぁ子供が先に死ぬことはないだろうし女房だって俺より5つ若いんだ。俺が先にあの世に逝くに決まってる」

「上から順番に神に召さるのが一番望ましいと思いますが、保険は万が一の時の備え。死亡保険金についてはご理解を確認を致しました。ありがとうございます。では次に保障期間です」


インシュアは次のページをめくる。
横になったグラフが書かれているページである。

「ハワードさんは先々月ご契約の見直しをされております。これを当社では転換と申しますがそれにより終身保険から定期保険にされておられます。お支払いを頂くのが45歳まで。以降継続される時は更新をされましたら2倍弱ほどの掛け金となりますが、更新後も同じ保障となります。勿論この時に見直しをして頂き掛け金を安くする事も出来ますが、保障の方も小さくなります。以前の終身保険でしたら払い込みが60歳まで。以降は保障が続くタイプでしたのにきっかけはやはり掛け金でしょうか?」


「へっ?定期?終身?なんだそりゃ。保障は生涯続くんだろ?そう言ってたぞ」


「ご説明いたしますね。以前の終身保険でしたら掛け金を支払って頂くのは60歳まで。以降はどなたかが亡くなられるまで死亡保障については続きます。61歳でも92歳であってもその時点で掛け金の支払いはないけれど死亡保険金は受け取れるのです。お判り頂けましたか?」

「えっっと…払わなくても金が貰える?」

「はい、払い込み期間と保障期間は異なりますので60歳まで払い込みを頂く事が前提ですけども保障は続きました」

「え?今どうなって…えっ?えっ??」

「現在は定期保険ですので45歳まではこの金額の掛け金で45歳まで保障を致します。ですがその後については更新頂けるのであれば、内容を同じとする場合掛け金は約2倍弱。現在と同じくらいの掛け金とする時は保障が…そうですね。100万ベルは難しいかも知れません。更新をされなければ契約は当然無くなります」

「嘘だろ‥‥あの姉ちゃんそんな事言ってなかったぞ。見直しをしたら続くって」

「その見直しが更新という事ですね」

「じゃ、じゃぁその時は他の保険商会にっ!」

「それはお客様の自由ですので当社がどうこう口出しする事では御座いません。45歳の掛け金の払い込みが終わった翌月で契約は終わりますので、お付き合いもそこまでとなりますから。ですが45歳となれば今から10年後となります。ジョゼフ君がまだ13歳手前。もしもの保障はまだ必要な時期となりますね。景気の影響もありますが、現時点でも・・・こちらをご覧くださいませ」


インシュアは年齢と掛け金の書かれた表で45歳男性という項目が判りやすいように物差しを置いて指で示した。

「現時点でハワードさんは35歳なのですが、もし同じ保険を45歳だったとして契約をすれば掛け金はこの金額になりますので3.5倍ほどでしょうか。新規契約となるので少々お高くなります。他の商会さんも似たり寄ったりだと思います。念のため‥‥こちらはマッツノキ保険商会さんとクスノッキ保険商会さんのパンフレットですがほら…45歳の部分は20から50ベルくらいの差しか掛け金に差はないのです」

「こんな金払えるわけがない。給料を超えてるじゃねぇか」

「10年後となればお給金も多少は上がっていると思いますが、お間違いなきよう。この金額は現時点のものですから10年後にこの金額とは限りません。現在まで掛け金が下がった事はありません。10年となれば物価などの見直しが間違いなく入りますのでもう少し高くなると思います」

「じゃ、じゃぁ元のやつに戻してくれ。ちょっと安くなるし続くっていうから」

「それは今までお付き合い頂いた期間に払い込みをされて転換をする時に、下取りに出されているからです。45歳時に少しお安いのもその間10年の掛け金が少しづつ溜っていた物を利用しますので安いのです。既にハワードさんは前の保険を転換されて現時点では下取り出来る金額はゼロです」


「だから女房がキレたのか‥‥どうしよう。お宅から手紙が来て女房が怒ってるんだ。勝手なことをするなって。でも月に1回分くらい家族で外食が出来るくらいの掛け金になるっていうしだから俺‥‥」



ガックリと肩を落とすハワード。
サマンサは契約者に多くある掛け金を支払う払い込み期間と、保障が何時までなのかという保障期間の誤認を狙ったのかも知れないが、インシュアはふと考えた。

――サマンサにそこまで考える頭はない――


と、なれば転換させる事で新規契約並の出来高を狙ったのだろう。
インシュアは【少しお待ちくださいませ】とハワードに声をかけて自分のデスクに戻り引き出しから幾つかのファイルと書類、そして小さな包みを3つ手に取り、ブースに戻ってきた。


「ハワードさん。わたくしの話を少し聞いて頂けますか?」

インシュアは微笑んだ。
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