では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

第三章☆手続きは計画的に（５話）

保険はなんのために？

「ニャァァ！！」

床にパンフレットをバチーンと打ち付けるルルージェさんは顔が真っ赤になっている。

――おかしいわね？美白には余念がない方ですのに。海水浴帰り？――

顔が赤いのは海水浴に行ったからでではない。この季節海で泳ぐのは皆の食卓に色どりを添えてくれる貝などをとっている海女さんか海上保安庁に拿捕されそうになって海に飛び込んだ異国人くらいだ。
前者には頭を垂れる思いだが、後者には「それ以上の迷惑かけるならライフジャケットはつけとけ」と呟いて踵を返してしまいそうになる。


「ルルージェさん。どうなさいました？」

「どうもこうもないわ…もうちょっと確認させて」

「どのような確認でしょう」

「こ、この入院が（４）だとしてよ？重病で２００日入院になった時はどうなるの？」

「このマッツノキ保険商会さんの場合でしょうか？それとも当社ユズリッハ保険商会での同等商品での場合でしょうか？」

「り、両方！そうね‥‥今のこの医療保険と３つを比べて見たらどうなるの。あ、ごめんなさい。お茶どうぞ」

「ありがとうございます。頂きます。（こくこく。ふぅ～）。ではご説明いたしましょう」


「先ず一時金払いとなるこの商品と、現在ご契約頂いている日額保障の違いが御座います。マッツノキ保険商会さんも当社もこの一時金の支払い回数には限度が御座います」

「継続して４回って事よね？」

「いいえ。違います。契約始期日から失効または消滅までの期間です」

「全体を通してってことね…」

「そうです。この一時金払いの商品の一時金受け取り回数は２社、ついでなのでクスノッキ保険商会さんも１００回となっております。大げさに言いますと、継続して年間９５日入院をしますと、４回分の受け取り可能ですので２５年の生活、病院に毎年３か月と５日の期間退院をされずにいますと受け取れます」

「え？じゃぁ生涯で…フルにもらえて…」

「２０万カケル１００回ですので２千万ベルですが、１２１日継続で入院をしても連続で受け取れるのは初日、３１日目、６１日目、９１日目で４回、その給付が発生した時点で（４）に該当しますので１２１日目は受け取れません」

「日額なら受け取れるの？」

「はい。日額ですと【年間２００日】ですので閏年は１日加算して頂き３６６日ですが基本３６５日のうち２００日まで受け取れます。単純に考えて、月に３１日の日も御座いますがひと月３０日で考えた時、２０万の一時金ですと継続入院で９１日入院して８０万ベルがその入院についての給付金となります。日額ですと９１日ですので９１万ベルですが入院御見舞金が１０万ベルありますので１０１万ベルとなります。

１２１日継続して入院した場合、一時金の方は変わらず８０万ベルですが、日額のほうは入院日額で１２１万ベルに入院御見舞金が１０万ベルなので１３１万ベルが給付金となります」


「って事は３０万ベルにしとかないと肩を並べられない上に３か月以上は入院しても無駄って事ね」


「一時金３０万ベル（４）ですと、おおむねですが毎月５千ベルの掛け金となります。しかしこの入院保障は契約方式にも縛りがありますので手術給付金は一律になります。一時金３０万ベルですと皮膚皮下腫瘍摘出術でも心臓移植でも生体肝移植でも３万ベルです。

日額の方は手術に応じて別途の切り離し可能な特約ですので現在は日帰りするくらいの手術ですと５万、虫垂炎などなら１０万、心臓カテーテルなどなら２０万ベルと医療点数ごとに給付される金額が異なりますが、対応する手術の種類としては同じと考えて頂いて構いません」


「ウッカリ骨折も出来ない期間があるなんて…男の子は押えが利かないのに！」

「骨折ですが、現在のご契約でしたら部位により給付金は異なりますが、入院を伴う場合退院後のリハビリについても通院御見舞金が入院日額の半分ついております。部位を固定する器具を装着した場合もリハビリ通院と同じ扱いになります。但しその日数は入院限度日数の年間２００日に加算されます。

一時金の方は特定損傷特約と申しまして、入院の有無、部位、損傷の程度にかかわらずその損傷についての処置で一律５万ベルです」


「えっ？じゃぁ入院するような骨折ならどうなるの」


「一時金のほうでしたら、縛りのない期間なら一時金と手術給付金が受け取りいただけますが、退院後のリハビリなどは【退院】をしておりますので対象外。そして縛りの期間に突入するという事です。

勿論５０日ほど前に何かの事由で日帰り入院をされていた場合、特定損傷特約の５万ベルのみのお受け取りとなります。

部位に寄りますがその損傷が前回の日帰り入院から５０日目に起こり１４日の入院の場合、マッツノキ保険商会さんの保険では特定損傷特約５万ベルだけのお受け取りで、当社若しくはクスノッキ保険商会さんの場合は入院１１日目で縛りが解けますので一時金のお受け取りと手術給付金の受け取りとなります。但し日額保障のほうと違っていずれも一時金の場合はリハビリ通院などは対象外になっております」


「なんだか、すごくいい保険だって思ったけど…ゴミじゃん！」


「商品としては良く出来た保険だとは思います。日帰り入院が多い昨今ですから白内障手術なども日帰りで一時金が受け取れます。ただ、ご家族の構成や従事されている仕事の内容、入院中の生活を考えますと、誰にでもお勧めできる保険でないという事は確かです。

うっかり保険の給付金の事だけを考えているお客様は多いのですが、長期の入院となりますと医療費は当然高額なお支払いになります。高額医療費を後日返還してもらえるのでおおむね月間で１０万ベルほどがご家庭からの持ち出しになります。ルルージェさんに提案し現在ご契約頂いている保険は短期ですと入院御見舞金が持ち出し分とペイし、長期となれば日額保障を都度ご請求頂ければ医療費のお支払いが可能です。

その９１日となりますと２０万ベルの一時金の方は８０万ベルの給付金となりますが、病院への医療費の支払い分で毎月１０万はあてねばならないと考えないといけませんからトータルで５０万ベル。現実を考えますとその間入院をされていますので、日給月給の旦那様の場合給料の支払いがないという事ですから５０万ベルで３カ月を生活する事になります。

日額保障の方は９１万ベルに入院御見舞金の１０１万ベルですので同じ状態になっても病院への支払いを３０万ベル差し引いても、７０万ベルで３カ月を生活するという差が出ます。

保険の給付金は決してお小遣いではなく、万が一の備えです。本人は入院していても他の家族は日常の生活をせねばなりませんから目先の金額だけで考えず、全般を見ないと備えの意味がなくなってしまいます。

ちなみに、心筋梗塞で救急搬送されて糖尿病などの持病などがあったりした場合、エクモなど最新医療機器を使用する事で発生する医療費は月額８００万ベルから１千万ベルです。その金額を毎月清算せねばなりませんが１級障がい者認定を受ける所定の手続きを早めに済ませる事で年齢によりますが支払う医療費はグッと押さえられます。若い方なら１０万ベルもないでしょうし後期高齢者でしたら５千ベルほどです。あくまでも所定の手続きをしたら！の話ですので、右往左往してバタバタして手続きが遅れれば一旦病院に正規額を支払う必要がありますのでご注意ください」


ガンッ！！！

何事？！と思えばルルージェさんがテーブルに額を打ち付けて呪文を呟いてる。

――あぁ…やっちゃってたんですね――

インシュアは心で呟いた。