では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

文字の大きさ
48 / 52
最終章☆それぞれの立ち位置(22話)

ご近所さん井戸端会議は怖い

しおりを挟む
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。

この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。

中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。

架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。




◇~◇~◇

世の中にはゴタゴタが好きな人がいる。
馬車事故、火事、何かの事件に巻き込まれた…そんな時リアルタイムで残像に残そうと群がる野次馬。その後開催されるG7ご近所さん井戸端会議。

G7。Group of Sevenグループ・オブ・セブン 数字は参加する国の数を示すが、G7ご近所さん井戸端会議では主に中心メンバーとなる7人が集まり、金融に関する相談他人様の懐事情隣国の国内紛争隣の夫婦喧嘩教育に関する相談他人の子の進学先雇用に関する相談他人の子の就職先など多岐に渡って妄想と個人的予想を報告し合う会議なのである。

特徴は、「お聞きになりました?」から始まって、終わる頃にはキュウリがメダカになったくらい飛躍した結論で終わる。だが侮ってはいけない。G7は時折G8にもG12にもなるし、保護者会などの帰宅時にはG20と参加国が増える事もあるのだ。

そうなると手に負えない。誰もが妄想と個人的予想を話しているのに、極稀に【ガチネタ】が食い込む事がある。妄想と個人的予想と違い、現実に起こった事は当然ながら食い違いや錯誤がなく本物故に信憑性しかないのだ。
議題が上がった時は【ガチネタ】だが、それを持ちかえると何故か別物になってしまうご近所さん井戸端会議。世界7不思議の一つである。

そんなご近所さん井戸端会議で妙な夫婦の話題が議案として持ち上がった。
金はないようだが、元伯爵で昔はかなりの富豪。運が良かったのか悪かったのか…この2人から掛け金一括払いで契約を取った元販売員がG20に含まれていた。

「そう言えば昔、保険に入って貰ったわ。掛け金一括で。今も持ってるかしら」

ガセネタに交じるガチネタ。そろそろ夫が帰る時間だわ!G20ご近所さん井戸端会議は閉幕した。






◇~◇~◇

「ねぇ、あなた、保険に入らない?」

市場でクズ野菜を拾っている元ライアル伯爵夫人に1人の女性が声をかけた。
テント生活も板についてきた元夫人であるが、聞き覚えのある言葉にピクリと反応した。

「無理無理。そんなお金ないわ。いまだってこうやってクズ野菜拾わないと食べられないのよ。1ベルだって払えないから掛け金は払えないわ」


夫の元ライアル伯爵と違って、元夫人は一括で払った掛け金の事を覚えていた。
一括となればそれなりの金額になる。当時は湯水のようにその一括の掛け金以上の価格の付いた宝石をジャンジャン購入していたが、意外と覚えているものである。

欲しいと思う宝石が150万ベルは気にならないけど、国民年金の月額掛け金16,590ベルは何だが損をしたように感じてしまうのと同じである。
今、目の前にある品物と見えない未来に対しての投資の違いだが、愚かな元夫人は目先の女なのだ。

「いい保険があるんだけどなぁ。ねぇ?今保険は入ってないの?」

「こんなクズ野菜拾ってる生活で入ってるわけがないわ」

「そうじゃなくて!年齢的に支払いは終わってる保険があるのかって事!」

「支払いが終わってる?」

「そう、掛け金の払い込みはないけど保障だけはあるってやつよ。ない??」


うーんっと元夫人は考える。ぱっと思いついたのは勾留されている時にインシュアが受取人をヨハンにしろと言って来た保険である。
掛け金を払っていないのは間違いない。払える金などないのだ。
だが…死亡保険金の受け取りがヨハンという事は保障がある??ピクリと眉が動いた。

「死亡保険金だけがあるみたいなんだけど、よく判らないわ」

今度は話しかけた女性の眉がピクリと動く。

「あるじゃない!ねぇ。お昼奢るわ。時間イイ??」

悪魔の囁きである。この手の販売員に碌なのはいない。
なんせクズ野菜を拾って食べないといけない生活をしている者に売ろうと言うのだから。

お昼をご馳走になりすっかりその気になった元夫人は慣れた足取りでカニ歩き。
細い道をすり抜けると転がる勢いで焚火に枯れ枝をくべる夫の元に滑り込んだ。

「あなたっ!やっとテントじゃない生活が出来るわ!」

「どういう事だ?」

「あなたの死亡保険金の6千万、わたしの死亡保険金の5千万!なにもしてくれないヨハンに横取りされる前に使える方法が分かったのよ!1億1千万ベルもあればこんな生活しなくたっていいのよ!小さい家なら買えるし、毎日野菜くずを拾わなくても配達してくれる生活が出来るわ」

「本当か!」

「えぇ!明日の朝一番に約束してきたわ。午前中には病院で診察を受けられるように手配もしてくれるって!やっとこんな生活と別れられるわ!ヨハンも受け取れると思った金が無くて悔しがるでしょう!私達を助けなかったヨハンがいけないのよ!ざまぁみろだわ!」


しかし、世の中上手い話はそうそう転がっていない。
チュウチュウ講と同じである。大抵、美味しそうな話が舞い込んだ時は末期。
保険もリスクを話さず、良い面だけをツラツラ話してくる販売員は危険である。




翌日、ボタックリ保険商会を訪れた2人。お気づきの方もいるだろう。営業所、支部、支店などに出向いて契約した保険商品のクーリングオフは効かないのだ。
満面の笑みで手まで揉みほぐしながら迎える販売員とその上司。
出てくるお茶も良い茶葉を使っているようだ。

「ではこちらの保険はですね。1つは【生きてるって最高のご褒美保険】1つは【お給料支えます保険】でございます」

「ねっ。昨日言った通りでしょ?生きてるだけでお金がもらえるのよ?素敵でしょ。あなた」

「本当だな…でも働いてないんだが‥」

「年齢がお二人とも60歳を超えておりますので年金支給開始を待つ間は銀色お仕事商会、つまり銀色さんと呼ばれる簡単なお仕事を任意で時々お小遣い程度に行う方と同じ取扱いになりますので加入できますよ」

「先ず掛け金の方ですが現在ユズリッハ保険商会さんで既に掛け金を払い終えて保障のみになった死亡保障をこちらの委任状にサイン頂ければ当社とユズリッハ保険商会で仕舞を付けますのでご安心下さい。こちらの掛け金を差し引いた残りはきちんと返金させて頂きますので」

「そんな事までしてくれるのか。ありがたいな!」

「それはもう、お客様が第一ですから。お任せください!」

「では生きてるって最高保険の方ですが、どうしても死亡保障は必要なんです。ご褒美金の方を多くしたいですよね。だって亡くなってからの死亡保険金なんて自分では使えませんし」

「そうだ!その通りだ。よく判ってるじゃないか」

「ですので、死亡については最低の10万ベル。ですがケガや病気で入院された時は一時金として10万ベルがなんと連続で13回受け取れるんです。それで10年の定期保険なんて凄いでしょう?」

「えっ?10万ベルが13回も!働かなくていいじゃないか」

「ですが、このお祝い金。ケガや病気で入院しちゃいけないんです。なので1回あたり最高額となる10年後、50万ベルが受け取れるようにしました。3年ごともあるんですが3年ごとだと‥‥だと5万ベルなんです。それだったら、こっちの提案書の50万ベルの方がいいですよね?」

「そりゃそうだ。10年だとしても5万ベルなら3回で15万ベルしか受け取れないじゃないか」

「そうなんですよぅ。なのでこっちの10年で50万ベルにしておきましょう」

「当たり前だ。忘れないうちにサインをしておこう」

「いいんですか?お給料支えますと一緒でいいですよ」

「いや、こういうのこそ 善は急げ と言うんだ」


サラサラとサインをする元ライアル伯爵。そしてお給料保険の説明をサインをしている間に始めてしまう販売員。ニコニコして聞いてるだけの元夫人。

「このお給料保険は3週間の間ケガや病気で働けない時にお金がもらえるんです。その額なんと1回あたり20万ベル。年金でもこんなにもらえませんよね。ケガや病気は先ほど契約頂いた生きてるって最高保険の入院と同じなので、合わせると凄い事になると思いません?」

「本当だ…なんて素晴らしい。保険とは凄いなぁ」

「それはもう、保険はみんなの支えですから!では、どうします?こちらも?」

「あぁ、契約する。金はユズリッハ保険商会と話をしてくれるんだろう?」

「はい、先程も言いましたが返金になる分もありますから、ちゃんとそれは返金します。我が社は必要な掛け金以外は一切頂きませんので」


サラサラと契約書にサインをしていく元ライアル伯爵。やはり元夫人は満面の笑み。

「では、病院に行きましょうか。奥様はどうされます?こちらで待たれます?」

「いえ、一緒に行きますわ」

「なら、帰りは近くまでお送り致しますね」


2人はまだ気が付いていない。解約するのは2人の保険である。だが保険に加入するのは元ライアル伯爵のみ。元夫人の保障など一切なくなるのだ。

そして【生きてるって最高のご褒美保険】
入院一時金は10万ベルの13回継続パターン。10年で満期を迎えればお祝い金が50万もらえる。
但し、定期保険なので更新をする時期にお祝い金が出るのだ。日帰りでも一時金を受け取ればもらえない。

もう1つは【お給料支えます保険】
保険販売員は「3週間の間ケガや病気で働けない」時だと言ったが「生きてるって最高保険の入院と同じ」と錯誤を狙ってはいるが入院しなければならないと伝えている。
どう受け取ったのかは元ライアル伯爵のみぞ知る。


そして2人の最大の間違いは1週間後、更に勘違いをした形で発覚する。


返金をするため訪れたボタックリ保険商会の販売員。
元ライアル伯爵は焚火にくべるための枯れ枝を折っていて指を負傷してしまった。
小さな切り傷で「舐めとけば治る」と言われるレベルのものだ。


「こんにちは。ボタックリ保険商会です。あっ!ケガをされたんですか?病院には?」

「こんな傷、舐めておけば治る」

「だめですよ!こんな時にも使える保険はあるんですから!あ、先にこちらお渡ししておきますね」

元ライアル伯爵に10万ベルを手渡した。

「えっ?こんなに早く?また病院にも行ってないのに」

「お客様のお金です。あ、受け取りは…すみません。この名刺の裏に受け取りましたって書いて頂けます?」

「あぁ判った。今日の日付は‥‥っと…これで良いかね」

「はい。では病院は今日じゃなくても良いと思いますがご判断くださいね」


保険販売員は返金をしただけである。約束通りあまった金は返したのだ。
契約した保険での一時金など一言も言っていない「こんな時にも使える保険はある」と言っただけだ。ケガの保険は別商品であるのだから嘘ではない。

しかし、元ライアル伯爵はそれを一時金だと勘違いしてしまった。

返金額が10万ベル。決して少なくはない。彼らの補償は死亡時に6千万と5千万であっただけで解約金は別物だ。支払った掛け金とそれまでの利率なのだが、彼らが保険に加入した時はあの流行病で経済が滞っていた時期。金利などゼロ金利のようなものである。

そして物価も安ければ加入年齢も若い。元伯爵は280万、夫人は220万が掛け金だ。
新しく60歳を超えて加入した2つの保険の掛け金が490万。
ボタックリ保険商会はちゃんと一括払いにしてくれているのだ。なんて親切なのだろう。


ライアル伯爵は早速10万ベルを握って病院で小さいケガの診察をしてもらった。
あとは3週間ゴロゴロするだけで【お給料支えます保険】から給付金が出ると思っている。


世の中そんなウマい話はないのだ。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...