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VOL;15 外堀を埋め立て地に

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「ラカント殿下、ちょっとよろしいですかね?」

使用人はもう使用人部屋で自分の時間を過ごしている時間帯。
キジネ公爵は自慢のワインセラーからりすぐりの1本を手にしてラカントの部屋を訪れた。滞在も2カ月目となると部屋の中にはこの先取引を検討する貴族の資料が至る所に山積みになっている。

「どうしました?寝酒にしては量が多くなりそうなワインですが」
「いえ、個人的・・・まぁ国も関係するんですけどもお話が御座いまして」
「アハハ。いいですよ。なんでしょうか」

カスタード王国は急成長し過ぎて色々が追いついていない現状がある。キジネ公爵家に滞在をしているのも販路の拡大だけが目的ではなく、建国からは長い年月が経っていても経済大国としてのカスタード王国はまだヨチヨチ歩きの赤子も同然。国家としてさまざまな事業を推進していく上での基礎を教えてもらう意味もあった。

「話の前に。リシェルさん、いいですね。まだ遠慮もあるようですけども女性の視点や考え方などとても面白い。今日も再構築に当たっての期待値の話は男にはない感性だと思いました」

キジネ公爵が「そうだろう、そうだろう」と相槌を打つ。

「そこでです!実家のマルセ男爵家には話を付けて置きます。ここでの生活を見る限りではリシェルはその好奇心や探求心を見るに侍女としては役不足と感じるんです。リシェルをカスタード王国に連れて行ってやってくれませんか」

「リシェルさんは何と?私は構いませんが、国を超えるとなればリシェルさんがどう思うか。右も左も判らないことだらけになりますしリシェルさんに無理はさせたくありません」

「うん。私もリシェルに無理をさせようとは思っていません。ですが思った以上にリシェルに可能性を感じる。この国にいるよりもカスタード王国の方があの子には違う世界を見て楽しいと思える事があるんじゃないかと思えるんです」

「へぇ。我が国が?まぁ煤けていますから視界は悪いですけども、珍しいものもあるし楽しいかも知れませんね。ふと思うんですよ。兄上の元にもリシェルさんのように自分の着眼点で意見を言える女性、ここ大事です。女性が必要かなっと」


注がれたワインを飲みながらラカントが意外と乗り気だと踏んだキジネ公爵はリシェルの判断次第でカスタード王国に招く事を承知させ、対価としてキジネ公爵は国の経済運営が軌道に乗るまではシュトーレン王国を挙げて尽力する事を約束した。






いつものようにリシェルがラカントの書類の手伝いをしているのを見てキジネ公爵は「いいね~いいよ~」と足取りも軽やかに来客のいる応接室に向かった。

「あれ?今日は来てない?」
「仕事の話でしょう?私の愛妻は王妃殿下とお茶会ですから~!残念っ!」

可愛くない義弟だなと思いつつも、ミケネ侯爵の隣で愛想笑いをするアルミ伯爵に「ようこそ~ここへ~」っと軽快なリズムに乗せて歓迎の意を示す。

2人を迎えるにあたって急いで作った書類を従者ヤマサンから受け取るとニヤリ。


「さて、知っていると思うがカスタード王国はこの先も経済成長は今後も右肩上がりだと考えられる」

ミケネ侯爵とアルミ伯爵は「そうだ」と頷いた。

書類を手渡し、キジネ公爵は書類を読み進めながら考えを共有するように語った。


何より今のカスタード王国に太いパイプを繋いでおくことはシュトーレン王国としても有益であるのは間違いがない。滞在先としてラカントを引き受けただけでは恩を売るにも心許こころもとない。

キジネ公爵の試算では今期の決算だけでもカスタード王国は世界でも5本、いや3本の指に入る輸出量を叩きだすのは確実。何と言っても純度が高く高品質なセラミックはどの国も喉から手が出るほど欲しい素材。

何百年もその資源を抱え込んでいるカスタード王国は火山が噴火する度に素材が供給される、言ってみれば「元手がゼロで莫大な利益」を上げている。


これからの時代はもうセラミックなしでは成り立たない時代に移り変わっている。
カスタード王国が海の向こうの大陸との貿易が突出しているのは、全てにおいてこの大陸が後進国だから。

海の向こうの大陸では、セラミックは引っ張りだこ。
世界で最も硬い鉱物であるダイヤモンドに匹敵する硬さを持ち、タングステンなど超硬金属よりも高い硬度さえも持つセラミックは採取はされるがカスタード王国の物より純度が遥かに劣る。

緻密で硬い、酸化して錆びることがない、なのに耐熱性、耐蝕性、絶縁性、耐摩耗性などを持っていて、尚且つ塑性変形をし難く、耐摩耗性を示し熱膨張も少ない。

つまり形成した後にその形状を保っている度合いも高く、形成された後での変形はほとんど見られず、鉄などは錆びたりするがセラミックは酸化や腐食をし難い。

売れないはずが無いのだ。
ぶっちゃけ、シュトーレン王国に留まらず代理店として屋号を持つだけでもその利益は計り知れない。



「そこでだ!」

書類の最後を捲ってくれと2人に促すと、目を丸くしたアルミ伯爵と考え込むミケネ侯爵にビシィ!っと告げた。

「ミケネ侯爵家から出張所としてカスタード王国内に店舗を置き、統括として、窓口としてリシェルを赴任させる。幸いにラカント殿とリシェルは打ち解けているから出張所を置く話もリシェルが代表となるならスムーズだ。その際リシェルも肩書があった方が向こうの社交界でも動きやすいだろうからアルミ伯爵家の養女とし伯爵令嬢の肩書を持たせる。どうだ?」

「我が家は構いませんが、当のリシェルさんはどうなのです?確かお兄さんが男爵家当主ですし…結婚…子供はまだだったとの覚えがありますが夫がいたのでは?」


アルミ伯爵の疑問は勿論である。
養子縁組となれば各方面に手を回し話をつけておかねば、ただでさえ話を持ち掛ければどの貴族も商会も、なんなら王家ですら二つ返事で引き受けるような事案である。要らぬ火の粉を被りかねない。

「叩けば埃しか出ない男に用はない。実家のマルセ男爵家には私が話を付ける」

意気揚々と宣言したキジネ公爵にミケネ侯爵は「話は私がする」と割り込んだ。


「リシェルはたった10歳足らずでミケネ侯爵家に奉公に出された娘だ。男爵家が困窮しているのは判っていたが、たまの休みも娘の帰省は許さないくせに見習いの僅かな給金を取り上げる、正規に雇い入れる際に男爵家からは何時でも籍を抜くように手切れ金を渡し釘を刺したくらいだ。まぁままごと婚だったがその時も男爵家としては何もしなかった。個人的には何かしただろうがあんまりな仕打ちだ。今回の事でリシェルは実家にも帰れないと修道院に行く覚悟だったんだ。男爵家には私がきっちりと話をしに行くよ」


フンフンとウィスカーパッドを膨らませて憤るミケネ侯爵。
アルミ伯爵は「受け入れる準備は整えておく」と約束をしてくれた。

「よし、外堀は埋まった!本丸を説得しないとな」

意気込むキジネ公爵をジト目で見やるミケネ侯爵。

「リシェルが嫌だと言ったらダメだから!」

釘を刺す事を忘れなかった。
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