58 / 97
BIRTHDAY
すかすか飢餓
しおりを挟む
「…い、め…?」
「も…じだ…ど、お…ないと。」
「明人?」
私は肩を揺すられてるのに気づき、目を覚ますと成くんが少し焦った表情で私を起こしていた。
成「もう21時だけど帰らないとまずくない?」
明人「…え。」
私は枕元に置いていた携帯の時計を見て温かいベッドから飛び出る。
成「あ、待って。忘れ物。」
と、成くんは私の手を取り信之の指輪をはめてくれた。
明人「ありがとう。忘れてた。」
成「うん。まだ酒飲んでないから家まで送るね。」
明人「え?莉音は?」
成「満腹でまた寝てるよ。」
明人「そっか。」
私は急いでキッチンに向かい、グラタンとトマト煮を大きい風呂敷にまとめようとするとそれが入っているはずの2つ小鍋とグラタン皿が綺麗に洗われて自然乾燥させられていた。
明人「…え?なんで?トマト煮は?」
成「お腹空いて2人で食べちゃった。お肉とろけてて美味しかったよ。」
明人「グラタンは?」
成「俺たちが寝てる間に莉音が食べたって。高校生じゃないんだから。」
明人「…信之の分ないっ。」
人生最悪最低な日確定の私はまた涙が溢れ出てくる。
成「え!?信之さんのってこっちのカルパッチョじゃないの?」
明人「違う。生モノなんか家で作れる…。」
成「えっ…と、これは?ミートパイ。」
明人「信之のはトマト煮とグラタン。なんで?1つの鍋うちのじゃん。分かるじゃん…。」
成「小鍋だったから大きな1人分って思っちゃって…。信之さん、お肉の塊食べなさそうだったから…。」
…21時。
絶対、間に合わない。
成くんの車で送ってもらって15分。
買い物して早くて10分。
けど、豚肉の大きな塊が締め作業中のスーパーで売り出されているとは思えない。
しかも、煮込むのに2時間かけるから成くんの家で作れても、真っ暗な家に信之が帰ることになる。
明人「きらい。」
成「…待って!」
私は全部を置いて1人帰ろうとすると成くんが私の腕を掴み、引き止めた。
明人「きらい。さわんないで。」
成「本当にごめん。今から俺が買い出し行って作るの手伝うから。」
明人「まにあわない…っ。信之のは私がいる、あかるい部屋にかえりたいから私がさきにかえるの。」
成「明人の家で作ろう。俺が全部買ってくるから。」
明人「にこむの2時間だよ。もうまにあわない…。もう…、離してよ!ここにいたくない!」
私は成くんの腕を振り払おうとするけれど、成くんは負けじと私の腕を掴み離さない。
成「俺、信之さんに謝りたいから明人を家に送らせて。それで2人分のお肉と材料をせめて冷蔵庫に入れさせて。今日の夜ごはんは俺がご馳走するから。」
明人「…やだ。成くんもずっと会いたくないから来ないで。」
成「それは無理。約束だから。」
明人「なんの。」
成「言えない。」
…嫌い。
腕は痛いし、マスカラが落ちて目に刺さるし、ブラは寝てる時にズレたのか変に肉挟むし、もう全部やだ。
莉音「何泣いてんの?」
と、リビングのソファーで寝ていた莉音が私たちの声で起きてしまった。
成「俺たちが信之さんの分食べちゃったんだ。…本当にごめん。謝って済まないけど莉音もちゃんと謝って誠意伝えて。」
莉音「いいじゃん。1日飯なくても。彼氏は明日も食えるんだろ?」
成「おい、ちゃん…」
明人「今日はトマト煮って約束したの!明日いないかもしれないから作ったのに…、なんで全部食うんだよ!プラモデルのまま餓死しろ!」
私は成くんの手を自分の手でこじ開けて離し、携帯と指輪だけちゃんと持ったのを確認して家を出ようとすると、成くんが私の荷物を全部集めて玄関に来て私をまた引き止めた。
成「泣き顔で電車乗りたくないでしょ?」
明人「…歩いて帰る。」
成「前が見えないまま帰るのは危ないから送ってくよ。」
そう言って成くんはキースタンドから家と車の鍵を取り、私を駐車場に連れていった。
成「後ろ?前?」
明人「…前。」
成「はい。どうぞ。」
成くんは車の助手席の扉を開けて私を座らせ、自分も素早く運転席に乗り込んだ。
成「信之さんが帰るまでにはちゃんと家着くからね。」
そう言って成くんは車を出して、信之の家に猛スピードに向かう。
私は何も無くなった鍋とグラタン皿2枚がたまに揺れる車のせいで空っぽの音を出し、またそれで涙が出てしまう。
そんなことをしているとあっという間に成くんは信之の家に到着して、私が抱えてた荷物を取り部屋までついてきた。
成「着いたよ。鍵は…、あった。開けるよ?」
私はずっと空っぽのままで言葉も出せずにただ頷いた。
成「…まだ、信之さん帰ってきてないね。よかった。」
そう言って成くんはずっと泣きっぱなしの私をベッドに寝かせて、食器と鍋を置いていくと何か言って足早に部屋を出ていった。
私はやっと1人になれたけど、一気に寂しさが背中から襲ってきて真っ白で明るい照明が眩しく感じ、布団の中に潜って目を瞑る。
こんなことしてたって信之のごはんが出来る訳じゃないのに、どうしても体が動かない。
動けなくなった私は信之が帰ってきてくれるのをただ待っていると、炊飯器がタイマーでセットした時間に合わせて米を炊き始めた。
…あーあ。
今日は洋食だったからサフランライスにしたのに、おかずなんにもないよ。
私は今家に何があるかを確認するためにベッドから出て冷蔵庫の中身を確認する。
試作の肉じゃが、食パン3枚、イチゴ1パック、卵4つ。
…コロッケいけるかな。
私はイチゴ以外の3つを取り、信之のコロッケ1つ分を作るために肉じゃがを潰してパンをフライパンで熱していると軋む扉開く音が聞こえて絶望する。
明人「…ごめん。ごはんまだ作れてない。」
私は炊飯器のタイマーを聞きそびれ、鍵を開ける音も聞きそびれて信之が家に帰って来た時の準備が何も出来てないことにまた涙を貯めてしまっていると、いつもは聞こえないビニール袋の音が聞こえた。
「ごめん。お肉同じのなかった。けど、俺たちが食べたやつより良いお肉だよ。」
と、成くんが私の隣に来て買った物を広げ始めた。
明人「まにあわないっていった。」
成「うん。けど、今日はまだあるから。ちょっとだけ信之さんに待ってもらおう?」
そう言いながら手を洗い終えた成くんは待ってもらってる間に食べるおつまみのお惣菜を盛り始めた。
私はその成くんの言葉で肉じゃがを潰すのを止めて、トマト煮を作るために小鍋にブロック肉を焼き、野菜を細かく切ってトマトピューレで煮込んでいく。
成「信之さん何時に帰ってくる?」
明人「…23時くらい。」
成「あとちょっとで帰ってきちゃう。とりあえずコタツ温めよ。」
成くんがバタバタと私と信之が快適に過ごせるように準備をしてると、今日はちょっと遅れて聞こえてほしかった扉の音がいつもより早めに聞こえてしまった。
信之「ただいま。…あれ?」
成「おかえりなさい!お邪魔してます!やる事やったらすぐ帰ります!すみません!」
信之「いえ…。明人、なんで泣いてるの?」
信之はいつも通り靴を脱ぎ散らかして、私の元にやってくるとお玉で灰汁をとっていた私を抱きしめてくれた。
成「俺と莉音が信之さんの分のトマト煮とグラタンを食べちゃったんです。それで明人のこと泣かせちゃいました…。本当にごめんなさい。」
信之「莉音さんに会ったの…?」
私は信之の腕の中で静かに頷き、余計なことを口走らないように我慢する。
成「本当は会わない時間に設定してたんですけど、莉音の気まぐれで来ちゃって…。ごめんなさい。」
信之「成紀さんのせいじゃないですよ。そんなに謝らないでください。」
成「…でも、明人を泣かせちゃったのは変えられないから。ごはんの時間がいつもより遅くなっちゃうんですけど、大丈夫ですか?」
信之「大丈夫ですよ。食べられるなら満足です。」
成「ありがとうございます!俺が出来ること全部やるんで信之さんも明人もゆっくり過ごしてください。」
そう言って成くんはずっと涙が溢れて無言だった私のおたまを取り、灰汁とり係になって私と信之の時間を増やしてくれた。
…………
さよなら。
…………
環流 虹向/エンディングノート
「も…じだ…ど、お…ないと。」
「明人?」
私は肩を揺すられてるのに気づき、目を覚ますと成くんが少し焦った表情で私を起こしていた。
成「もう21時だけど帰らないとまずくない?」
明人「…え。」
私は枕元に置いていた携帯の時計を見て温かいベッドから飛び出る。
成「あ、待って。忘れ物。」
と、成くんは私の手を取り信之の指輪をはめてくれた。
明人「ありがとう。忘れてた。」
成「うん。まだ酒飲んでないから家まで送るね。」
明人「え?莉音は?」
成「満腹でまた寝てるよ。」
明人「そっか。」
私は急いでキッチンに向かい、グラタンとトマト煮を大きい風呂敷にまとめようとするとそれが入っているはずの2つ小鍋とグラタン皿が綺麗に洗われて自然乾燥させられていた。
明人「…え?なんで?トマト煮は?」
成「お腹空いて2人で食べちゃった。お肉とろけてて美味しかったよ。」
明人「グラタンは?」
成「俺たちが寝てる間に莉音が食べたって。高校生じゃないんだから。」
明人「…信之の分ないっ。」
人生最悪最低な日確定の私はまた涙が溢れ出てくる。
成「え!?信之さんのってこっちのカルパッチョじゃないの?」
明人「違う。生モノなんか家で作れる…。」
成「えっ…と、これは?ミートパイ。」
明人「信之のはトマト煮とグラタン。なんで?1つの鍋うちのじゃん。分かるじゃん…。」
成「小鍋だったから大きな1人分って思っちゃって…。信之さん、お肉の塊食べなさそうだったから…。」
…21時。
絶対、間に合わない。
成くんの車で送ってもらって15分。
買い物して早くて10分。
けど、豚肉の大きな塊が締め作業中のスーパーで売り出されているとは思えない。
しかも、煮込むのに2時間かけるから成くんの家で作れても、真っ暗な家に信之が帰ることになる。
明人「きらい。」
成「…待って!」
私は全部を置いて1人帰ろうとすると成くんが私の腕を掴み、引き止めた。
明人「きらい。さわんないで。」
成「本当にごめん。今から俺が買い出し行って作るの手伝うから。」
明人「まにあわない…っ。信之のは私がいる、あかるい部屋にかえりたいから私がさきにかえるの。」
成「明人の家で作ろう。俺が全部買ってくるから。」
明人「にこむの2時間だよ。もうまにあわない…。もう…、離してよ!ここにいたくない!」
私は成くんの腕を振り払おうとするけれど、成くんは負けじと私の腕を掴み離さない。
成「俺、信之さんに謝りたいから明人を家に送らせて。それで2人分のお肉と材料をせめて冷蔵庫に入れさせて。今日の夜ごはんは俺がご馳走するから。」
明人「…やだ。成くんもずっと会いたくないから来ないで。」
成「それは無理。約束だから。」
明人「なんの。」
成「言えない。」
…嫌い。
腕は痛いし、マスカラが落ちて目に刺さるし、ブラは寝てる時にズレたのか変に肉挟むし、もう全部やだ。
莉音「何泣いてんの?」
と、リビングのソファーで寝ていた莉音が私たちの声で起きてしまった。
成「俺たちが信之さんの分食べちゃったんだ。…本当にごめん。謝って済まないけど莉音もちゃんと謝って誠意伝えて。」
莉音「いいじゃん。1日飯なくても。彼氏は明日も食えるんだろ?」
成「おい、ちゃん…」
明人「今日はトマト煮って約束したの!明日いないかもしれないから作ったのに…、なんで全部食うんだよ!プラモデルのまま餓死しろ!」
私は成くんの手を自分の手でこじ開けて離し、携帯と指輪だけちゃんと持ったのを確認して家を出ようとすると、成くんが私の荷物を全部集めて玄関に来て私をまた引き止めた。
成「泣き顔で電車乗りたくないでしょ?」
明人「…歩いて帰る。」
成「前が見えないまま帰るのは危ないから送ってくよ。」
そう言って成くんはキースタンドから家と車の鍵を取り、私を駐車場に連れていった。
成「後ろ?前?」
明人「…前。」
成「はい。どうぞ。」
成くんは車の助手席の扉を開けて私を座らせ、自分も素早く運転席に乗り込んだ。
成「信之さんが帰るまでにはちゃんと家着くからね。」
そう言って成くんは車を出して、信之の家に猛スピードに向かう。
私は何も無くなった鍋とグラタン皿2枚がたまに揺れる車のせいで空っぽの音を出し、またそれで涙が出てしまう。
そんなことをしているとあっという間に成くんは信之の家に到着して、私が抱えてた荷物を取り部屋までついてきた。
成「着いたよ。鍵は…、あった。開けるよ?」
私はずっと空っぽのままで言葉も出せずにただ頷いた。
成「…まだ、信之さん帰ってきてないね。よかった。」
そう言って成くんはずっと泣きっぱなしの私をベッドに寝かせて、食器と鍋を置いていくと何か言って足早に部屋を出ていった。
私はやっと1人になれたけど、一気に寂しさが背中から襲ってきて真っ白で明るい照明が眩しく感じ、布団の中に潜って目を瞑る。
こんなことしてたって信之のごはんが出来る訳じゃないのに、どうしても体が動かない。
動けなくなった私は信之が帰ってきてくれるのをただ待っていると、炊飯器がタイマーでセットした時間に合わせて米を炊き始めた。
…あーあ。
今日は洋食だったからサフランライスにしたのに、おかずなんにもないよ。
私は今家に何があるかを確認するためにベッドから出て冷蔵庫の中身を確認する。
試作の肉じゃが、食パン3枚、イチゴ1パック、卵4つ。
…コロッケいけるかな。
私はイチゴ以外の3つを取り、信之のコロッケ1つ分を作るために肉じゃがを潰してパンをフライパンで熱していると軋む扉開く音が聞こえて絶望する。
明人「…ごめん。ごはんまだ作れてない。」
私は炊飯器のタイマーを聞きそびれ、鍵を開ける音も聞きそびれて信之が家に帰って来た時の準備が何も出来てないことにまた涙を貯めてしまっていると、いつもは聞こえないビニール袋の音が聞こえた。
「ごめん。お肉同じのなかった。けど、俺たちが食べたやつより良いお肉だよ。」
と、成くんが私の隣に来て買った物を広げ始めた。
明人「まにあわないっていった。」
成「うん。けど、今日はまだあるから。ちょっとだけ信之さんに待ってもらおう?」
そう言いながら手を洗い終えた成くんは待ってもらってる間に食べるおつまみのお惣菜を盛り始めた。
私はその成くんの言葉で肉じゃがを潰すのを止めて、トマト煮を作るために小鍋にブロック肉を焼き、野菜を細かく切ってトマトピューレで煮込んでいく。
成「信之さん何時に帰ってくる?」
明人「…23時くらい。」
成「あとちょっとで帰ってきちゃう。とりあえずコタツ温めよ。」
成くんがバタバタと私と信之が快適に過ごせるように準備をしてると、今日はちょっと遅れて聞こえてほしかった扉の音がいつもより早めに聞こえてしまった。
信之「ただいま。…あれ?」
成「おかえりなさい!お邪魔してます!やる事やったらすぐ帰ります!すみません!」
信之「いえ…。明人、なんで泣いてるの?」
信之はいつも通り靴を脱ぎ散らかして、私の元にやってくるとお玉で灰汁をとっていた私を抱きしめてくれた。
成「俺と莉音が信之さんの分のトマト煮とグラタンを食べちゃったんです。それで明人のこと泣かせちゃいました…。本当にごめんなさい。」
信之「莉音さんに会ったの…?」
私は信之の腕の中で静かに頷き、余計なことを口走らないように我慢する。
成「本当は会わない時間に設定してたんですけど、莉音の気まぐれで来ちゃって…。ごめんなさい。」
信之「成紀さんのせいじゃないですよ。そんなに謝らないでください。」
成「…でも、明人を泣かせちゃったのは変えられないから。ごはんの時間がいつもより遅くなっちゃうんですけど、大丈夫ですか?」
信之「大丈夫ですよ。食べられるなら満足です。」
成「ありがとうございます!俺が出来ること全部やるんで信之さんも明人もゆっくり過ごしてください。」
そう言って成くんはずっと涙が溢れて無言だった私のおたまを取り、灰汁とり係になって私と信之の時間を増やしてくれた。
…………
さよなら。
…………
環流 虹向/エンディングノート
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる