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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 お店からの帰りに、ベイカーさんから手提げの紙袋を渡された。
 中身はシーズンズ名物の季節のフルーツと生クリームをサンドしたパンだ。
 夕食を共に出来なかった、と祖父が気にしてくれていたらしい。
 寮に帰っても夕食は無かったし、この時間はどこのカフェも開いてなくて、遠慮なく頂戴した。
 他にアップルパイも入っていたので、メリッサへのお土産にさせて貰う。
 これは前回、メリッサの大好物だった。


 寮に戻って、祖父からの一筆を添えた週末の外泊願いを提出した。
 それからシャワーを浴びる前に、お土産に大喜びしてくれたメリッサに土曜日から1泊で実家に帰ることやシーズンズとの関係、それから土曜日だけ仕事をすることを話した。

 メリッサは案の定、物凄く驚いたけれど、不意に真面目な顔になって。


「わたし達知り合って、まだ1週間も経ってなくて。
 こんなに図々しいお願いをするのは失礼なことだと分かっています」

 急に改まった言葉遣いに、驚いた。
 前回はシーズンズのことを打ち明けても、こんな感じではなかった。
 シドニーといい、メリッサといい……前回のままではない?


「直ぐに、ではないのですが。
 でも、出来るなら早めに……わたしもお仕事をご紹介していただきたいのです」

「ね、その口調は止めてね?
 シーズンズで働きたい?」

「……あのお店でなくてもいいの。
 貴女のご親戚がされているお店なら確かだし。
 ほら、わたし田舎者でしょう。
 王都のことが何も分かっていないから、探すのを躊躇っていて」


 メリッサは初対面から自分を田舎者だと言った。
 だが伯爵家のご令嬢なのに?
 どうして学業の他に仕事を?


「驚かせてごめんなさい。
 あのね……」


 メリッサがわたしに語ったのは、領地での暮らしぶりだった。
 王城内に仕事が有り、王都にタウンハウスを構え、栄えている領地を与えられた高位貴族はともかく。
 普段は先祖代々地方のカントリーハウスに住み、社交シーズンだけ王都で賃貸メゾネットを借り、決して豊かではない領地経営に四苦八苦している地方貴族。

 クレイトンもそうだけれど、メリッサのご実家も同様だった。
 彼女は進学させて貰えたのだから、せめて仕送り額を減らせないか、と考えていたのだ。

 前回のわたしは何も知らなかった。
 メリッサの中退理由も軽く尋ねて、実家の都合だと言われたから、深掘りしなかった。


「シーズンズ以外なら、百貨店とホテルがあるの。
 叶えられないかも知れないけれど、希望を教えて」


 
 1回目ではメリッサが中退するまで同室だった。
 夜更かしして話したこともあった。
 シドニーとのことも何度も励まして貰った。
 だけど、わたしは彼女について何も知らず、何も知ろうとしていなかった。

 今回は話してくれてありがとう。
 わたしに何か手伝えるのなら、それがとても嬉しいの。

 土曜にノックスヒルから電話して、祖父かアーネストさんに、メリッサのことをお願いしようと思った。


 ◇◇◇


 1週間程で戻ってきたわたしを、駅まで荷馬車で迎えに来てくれた御者のモンドが苦笑していた。
 前回わたしが王都に出た日、母は確かに泣いていた。
『何かあれば、直ぐに帰ってきてもいいから』と言ってくれた。
 しかし、その別離の涙も乾かない内に戻ってきた娘に腹が立つのだろう、いつもの二頭立て馬車ではなく、荷馬車を迎えに寄越したことで、自分の怒りをわたしに見せている。
 ……おとなげない。


「えー、ノックスヒルの皆は元気?」

「まだ1週間ですからねぇ、お嬢様もお元気そうで」


 モンドには幼い頃から荷馬車によく乗せて貰っていたから、気安い。
 ノックスヒルまでのんびりお喋りしながら帰るのもいい。


「……モニカは、今日は?」 

「モニカお嬢様は、孤児院へ慰問に行かれましたよ。
 いつもの第1土曜の恒例ですよ?」


 そうだった、モニカは毎月第1と第3土曜は孤児院と領内の小さな病院を慰問していた。
 その行為が聖女だと褒め称えられていたのだ。

 一方、聖女になれなかったわたしは、毎週土曜日はリアンと一緒に祖父が手配した外国人の家庭教師から、みっちり外国語を仕込まれていた。
 とても厳しい女性で、もちろん愛の鞭は振るわれなかったが、授業では一切この国の言葉の使用は禁止されていた。


「王都では車が増えていたわ。
 モンドは免許を取る気はない?
 貴方が取ってくれるなら、車の購入をお母様にお勧めしようと思ってる」


 実際に前回の母はわたしがお勧めしなくても、車を購入した。
 モンドは免許を持っていなくて、父に持たせるのが不安だった母は専属運転手を雇った。


 既に領地に居なかったわたしには馴染みがなかったけれど、その人はモニカお嬢様を大切にした。
 彼も匂わせで、何かを吹き込まれていたのだろう。
 モニカを守ってあげたかったのだ。


 教会の入口で、とり囲まれた領主家族を見殺しにする程に。
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