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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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 翌日の日曜日はメリッサの面談の日だった。
 クリスタルホテルの会議室で、具体的な仕事内容の説明や希望の勤務時間の聞き取り、また制服のサイズ採寸があったらしい。

 わたしも付き添った方がいいのか分からなかったけれど、メリッサがひとりで行きます、と言ったので、寮で宿題をして待っていた。


「面談には、人事の方と社長さんと、お知り合いらしいヒューゴさんがいらして、色々と質問されたけれど、皆様とても感じが良かった」

 それを聞いて驚いた。
 伯父と祖父が同席したとは。
 普通なら非正規雇用の学生への仕事内容説明に社長が立ち会うなんて有り得ないのに、メリッサは不思議に思っていない様だった。


 ドアガールについて、祖父達は真剣に取り組むつもりだ。
 特に祖父は会長だと明かさずに、知り合いのヒューゴ?
 思っていたより大事になってきたぞ……
 わたしは怖いような、それでいてわくわくするような気持ちになった。



 祖父には昨夜、シドニーがクレイトン産のフルーツの配達で、シーズンズに出入りしていることは伝えた。
 配達担当者の名前までは、さすがの祖父も把握していなかったので、とても驚いていた。

 ムーアの代わりに契約者になっている商会に雇われているのだろう、と祖父はこれから詳しく調べてみる、と言ってくれた。
 エドワーズ侯爵家の事情が分かるまでは、その商会にシドニーのことを話して解雇して貰うつもりはない、とも言う。


 その口振りから、祖父の中でマイナスしかなかったシドニー・ハイパーの株が少しだけ上がったような気がした。
 祖父は勤労する青年が好きなのだ。

 だけど前回の彼は、結婚してから話が違うとモニカを冷遇したと聞いた。
 使用人達からも離してひとりぼっちにさせた最低最悪な男だ。
 今回もどんな企みを持っているのか分からないシドニーに、わたしは気を許すことは出来ない。


 ◇◇◇


 2度目の9月第3週が始まった。

 土曜日にシドニーが労働している姿を見てしまっていたから、週明け早々に口止めに来るか、と思っていたが。
 彼は来なかった。
 いつもの如く、周囲に臣下を侍らせているその姿は、勤労青年には見えない。
 高位貴族の、誇り高い令息そのもの。



 受領書にはキャンベルとサインしたから、彼の方はわたしだと認識しているはずなのに、口止めをしてこないのは。
 あれを無かったことにするつもりなんだろう。

 あれは良く似た男性で、決してシドニー・ハイパー・エドワーズではない、と。
 下手に動いて、わたしに弱味を握られたくない、と思われる。
 まあ、わたしも。
 口止めされなくても、べらべら話す気はありませんけれど?


 彼がこのまま配達するのなら、受け取ればサインするだけだ。
 解雇した方が良いのなら、祖父がする。

 わたしは動かない、関わらない。
 愛情だけが悪縁に繋がるのではない。
 憎しみも悪縁となる。


 シドニーとの悪縁を断つ。
 それがオルとわたしの目的だったから。


 その後、シーズンズで2週働き、10月がやって来た。
 配達の受け取りは、その時に手の空いているひとがすると決まっていて、あれからわたしは受け取っていないので、シドニーが続けているかどうかは関知していなかった。




 明日、帰省したら。
 モンドに頼んで、そのまま孤児院に連れていって貰おう。
 モニカは慰問に来ているだろうけれど、一目見るだけでいい。
 オルくんがわたしのオルなのか、確認が出来る!
 もうそれだけでいい!
 話が出来たら、もっといい!

 軽い興奮状態をメリッサに見抜かれて。


「実家に帰るの、本当に嬉しそうね」

 と、良いことのようにしみじみと言われて、恥ずかしくなった。
 明後日の日曜はメリッサのホテル初出勤なのに、見送ることも出来なくて申し訳なかった。


「先ずは丁寧な言葉遣いとすっきりした姿勢に、上品なメイクの仕方とか研修があるの。
 それと王都に関する情報を叩き込まれるらしいの。
 特にホテル周辺地理に、人気料理店の営業時間におすすめメニュー、それらをお客様に尋ねられても、すぐにお答え出来るように、って」


 彼女以外にも、ドアガールに採用された女性は5人居て、唯一学生のメリッサは週末勤務だが、6人でシフトを回すそうだ。
 その全員がテストに合格するまで、ドアガールはデビュー出来ないらしい。


 11月の末から新年に掛けて、王都はホリデーシーズンになり、訪れる観光客が増えて、ホテルは稼ぎ時だ。 
 2ヶ月の研修後、それに合わせてドアガールをデビューさせるつもりだと思った。 


 12月の第1土曜か日曜にメリッサはドアガールデビューを果たすのだろう。
 それを見られないのは、残念だけれど。
 ベイカーさんには第1土曜日は来ません、と伝えているので、こちらの都合で、違う週に振り替えて貰うのは、甘え過ぎに思えた。

 ……という建前と。
 早くオルくんを確認したい! という本音とがあって。



 友情よりもそちらを優先するわたしはやはり。

 例の『両想いの恋人がいなかった女は……』の呪いに掛けられている。
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