私の彼は、空飛ぶカエルに乗っている

饕餮

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夏休み

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 なんだかんだとあっという間に八月になった。

 五月の連休は家族と旅行に行った。和樹さんとも約束をしてたんだけど、和樹さんのお祖母さんが亡くなったとかでそっちに行ってしまい、全く会えなかったのだ。「紫音を紹介したかった」と、連休明けに残念そうに呟いていたっけ。
 本当にお祖母さんが好きだったというのが伝わってきて、胸が痛かった。
 それ以外は二週間に一回デートした。温泉に行ったり、また川越に連れて行ってもらったり。他にも水族館や遊園地にも行った。
 ゲーセンに行ったり、映画を見たりもしたし、どこにも行かずに和樹さんの家でまったりとした日もあった。そんなわけでお付き合いはとりあえず順調です。

 で、五月はどこにも行けなかったから、夏は泊りがけでどこかに行こうっていう話をしていたのだ。

「お祖母さんのお墓参りはいいんですか?」
「もちろん行くよ。……紫音も行くか?」
「行ってみたいです!」
「じゃあ、ばあちゃんに紹介するよ」

 私が行ってみたいって言ったことが嬉しかったみたいで、それはもう満面の笑みだった。
 そして夏休みが来た。前半は家族と父の実家に行った。祖父母が健在だったのは驚いたけど、それでも私にやっと会えたからなのか、とても喜んでくれた。そして「今までのぶんのお年玉だよ」ってくれたのはいいんだけど……もうそんな歳じゃないんだけどなあ。
 野菜などのお土産をいっぱいもらい、家に帰ってきた翌日。

「おはよう、紫音」
「おはようございます」

 今日も勝てなかったと内心がっかりしつつ、荷物を持って一旦和樹さんが住んでいるマンションに行く。お祖母さんのお墓は都内にあるらしく、ついでに実家に寄ると言って慌てる。

「和樹さん、何の用意もしてないよ! そういうのは早く言ってくださいよ~!」
「そんなことしなくていいから」
「そんなわけには行きませんって!」

 車を走らせた和樹さんに、途中で見つけた和菓子屋さんに寄ってもらい、三笠山というどら焼きを買った。そして車を走らせること二時間、和樹さんのおうちに着いた。
 うちと違って、一軒家でした。

 そこで初めましてのご挨拶をしてお土産を渡す。休憩がてらお茶お昼をご馳走になり、お墓参りへ。お墓は和樹さんちから歩いて五分にある、お寺にあった。
 お花とお水を用意して、お掃除も手伝う。新盆だし最近お掃除したからなのか、お墓もお花も綺麗なままだった。お線香をあげて、和樹さんと一緒に手を合わせる。
 和樹さんの話によると、お祖母さんはとても手先が器用で、和樹さんの洋服や浴衣などを手縫いで縫ってくれたそうだ。ご両親が仕事で忙しかったこともあり、お祖母さんと一緒にいることが多かったらしい。

「素敵なお祖母様だったんですね」
「ああ。ただ、怒るとおっかなかったけどな」
「怒られるようなことをしたんですか?」
「まあ、それなりにな」

 木に登って落ちそうになったりとか、木から落ちて怪我したとか。……ずいぶんやんちゃだったんだなあって思ったエピソードを聞かされて、思わず遠い目になった。
 だけど、そういうのとかお祖父さんが自衛官だったのもあって、和樹さんは自然とそっち方面に行くことを考え、自衛官になったって言った。うちも似たようなものだって言ったら、「やっぱり?」って一緒になって笑った。

「そういえば、箱根に行くんですよね?」
「ああ。箱根でいろいろ見ようかと思ってさ。御殿場のアウトレットに寄ってもいいし」
「わ~、楽しみ!」

 高速に乗って、まずは御殿場インターで下りる。アウトレットは駐車場が込んでて一時間待ちとかで、諦めた。
 そのまま箱根方面に車を走らせ、途中にあった工房に寄った。

「へ~。寄木細工……」
「個人でも見学できるんだって」

 中に入り、見学させてもらう。資料館みたいなところがあって、そこを先に見た。
 江戸時代に使われていたものや、寄木細工で作られたオルゴール、他にも扇子やうちわ、パズルもあった。パズルは兄たちや姉の子どもたちに、扇子を自分と父のお土産に買った。それなりにお値段がしてお財布には痛かったけど、とてもいいものだとわかるから満足している。
 他にもガラス吹き体験の工房もあったけど、こっちは事前予約が必要とかで体験できなかった。その代わり、そこの工房で売られていたトンボ玉のストラップを、和樹さんとお揃いで買った。
 とても綺麗で、つい車の中でうっとりと眺めていたら、「俺を見てくれよ」って和樹さんにキスされてしまった。
 トロッコ電車にも乗ってみたかったけど、今日は車だからと諦め、時間もちょうどいいからと予約してあるホテルに行った。ここは外風呂も内風呂も温泉になっているらしくて、どっちも楽しめるらしい。

 実は温泉って行ったことなかったから、楽しみだったんだよね。

 夏休みにどこに行こうかって話になった時に温泉に行ったことないって和樹さんに話したら、近場のところに行こうという話になって、箱根に決めたらしい。伊豆のほうでもよかったそうなんだけど、それは別の機会にしようということになって、箱根にした。
 近場には他にも山梨とかにもあって、そっちは日帰りでもいいかも、って言ってたから、そのうち行くかも知れない。

「おー、いい眺め! 紫音、来てみな」
「わ~! すごい!」

 目の前にはホテルの庭があって、夏の花が咲いていた。木陰もあることから、散歩をしている人もいるようだった。
 山が近いからなのか、夕方になって風が出てきている。夜はホタルが飛ぶってパンフレットに書いてあったから、それを見てからお風呂に入ろうと話した。
 ラウンジで晩御飯を食べて、まったりする。ホタルが出始める時間になったので、和樹さんと一緒に庭に出ると、散策を始めた。
 月明かりしかなくてちょっと薄暗いけど、和樹さんには見えているようで、「こっちみたいだ」って手を引いてくれる。

「お、ここかな? ……すごいな」
「うわ~……」

 水の音がしているほうに歩いていくと、小川が流れているところに出た。そこには電灯はなかったけど、ピカピカと点滅する光が、あちこちにある。
 それは一ヶ所や二ヶ所じゃなくて、本当にずら~っと光っているのだ。
 
 葉っぱに止まっているのか、そこから動かずに点滅している光。
 ふわりふわりと飛びながら、点滅している光。

 ダンスを踊るようにふわふわと浮かび、楽しそうに瞬いている。

 撮影する場合はフラッシュをたかないようにと書かれた看板があったので、その通りに撮影する。仄暗い中での撮影だったからあまり綺麗に撮れなかったけど、それでもその幻想的な光を写し撮ることができた。

「……綺麗だね、和樹さん」
「そうだな」

 自然と和樹さんと寄り添うように並んでホタルを眺める。

「紫音……」
「あ……」

 抱き寄せられたと思ったら和樹さんに顎を捉えられて、優しく上を向かされた。下りてくる和樹さんの唇に目を閉じ、唇を開けたところで塞がれた。
 優しい、啄ばむようなキス。

 何回も何回もキスをされ、それが徐々に深くなっていく。

「ん……っ、ぅ……」
「紫音……」
「か、ずき、さん……」

 ホタルの光の中でキスをする私たちをからかうように、あるいは祝福するように、ホタルが瞬いていた。

「……今日も生で抱いていいか?」
「……うん」

 スキンなしで抱く時は必ず聞いてくれる和樹さん。駄目な時は駄目って言うと、必ずスキンをしてくれる。
 とても優しい和樹さんがこんなにも好きで……切なくなる。愛しくなる。

「は……っ、紫音……愛してる……っ」
「あっ、あっ、わ、たしも、愛してる……っ、あああっ!」

 その日の和樹さんはいつもと違って、ゆっくりと愛を確かめるような、そんな抱き方だった。だから私もいつも以上に感じてしまって、声をあげることしかできなかった。

「ゆっくりと、一緒にイこう……紫音……」
「あっ、あっ、はぁっ、んんん……、ああっ」

 ゆっくりと腰を動かしていたかと思えば、キスをしてくる和樹さん。かと思えば、キスをしたまま激しく突き上げられる。
 そんなことを繰り返し、夜は更けて行った。

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