オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
12 / 155
圭視点

Cloud Buster

しおりを挟む
 時折鳴る電話に対応しながら、頼まれた仕事をこなしていく。時には質問をし、時には質問をされながら、確実に文書を作成していた。


 周たちが第二会議室に行ったすぐあと、葛西専務と企画室を統括している営業部の長崎部長、在沢室長が三島を連れて企画室に来た。
 三島本人曰く「文書は完璧にできている」とのことだったのだけれど、さっそく添削しようと担当者がUSBの中身を見ると全てが中途半端で、『できている』というレベルではなかったという。

「……三島? これは何だ?」

 担当者の一人である横沢の声が静かに響く。声は静かではあるけれど苛立っているのか、指先がコツコツと机を叩いていた。

「横沢さんや田中さん、中山さんに頼まれた文書ですが」
「ほう……? これのどこが完璧なんだ? どうして三人分の文書がごちゃ混ぜなんだよ?」
「え?」

 自分は完璧だと本気で思い込んでいるのか、横沢の指摘に不思議そうな顔をする三島に、三人の顔が怒りに歪む。

「俺は英文、念のために日本語文も作っておけって言ったよな?」
「自分は英文とフランス語と日本語」
「……俺はロシア語」

 横沢、田中、中山の三人に詰め寄られ、三島は狼狽えていた。

「聞いて……」
「聞いてないとは言わせないぞ! お前なんつった? 『三日で提出できます』って言ったよな? ここにいる企画室メンバーも、その場にいた長崎営業部長も葛西専務も聞いてるんだぞ!」
「じゃあ、在沢さんが勝手にUSBの中身を弄ったんじゃ……」
「弄れるわけないだろう! 在沢さんが来るまで……昨日までお前が持ってたんだろうが! しかもこの部屋を出る時、お前は俺に預けてったのも忘れたのか!? 自分の責任を他人に転嫁するんじゃない!」

 しかも約束の日より三日も過ぎてるし、と誰かがぼやいた。

「俺は在沢さんに頼んだ……」
「どっちのだ?」

 怒気を含んだ、在沢室長の声が響く。

「俺は頼まれてないから知らんが……まさか圭、とは言わんだろうな?」
「も、もちろん……」
「それはおかしい。在沢さんはずっと一昨日まで営業部内で仕事をしていたはずだし、昨日は朝から新人教育をしていたはずだが?」
「私のサポートをしてくれていましたよ」

 長崎部長と葛西専務がそれぞれに言う。

「……っ! 俺は優秀なんだ! コネ入社の女なんかに俺が負けるわけないだろう!」
「優秀なやつは、言い訳も責任転嫁もしなければ、ましてや女だからって理由で蔑んだりしない!」

 逆ギレした三島に、横沢が怒りをあらわにして三島を怒鳴る。

「三島……お前、本当にこの会社の秘書か? これは誰もが知ってることだ。コネ入社? たとえ社長の息子だろうと、あり得ない」
「……え?」

 長崎部長が呆れ顔で、そして冷たい視線で三島を見る。

「もうこの会社にはいませんが、以前、とても優秀な人物がいるからとのことで、試験もせずに入社させたことがあるんです。ところがその人物は優秀などころか、何をやらせても駄目だった。唯一得意だったお喋りを生かすために営業につかせたんですが、今の貴方のように言い訳をして、クライアントを怒らせましてね」

 ふうと息をはいた葛西専務は柔らかな言葉とは裏腹に、目は全く笑っていない。

「当時は大変でしたよ、いろいろと。結局その人物は辞めましたが、居たたまれなかったのか紹介した人物も辞めてしまいました」
「……っ」
「それ以来、コネは受け付けていない」

 最初は本当に優秀だったのにな、との長崎部長のぼやきに、三島はギュッと拳を握る。

「俺……私、は……」
「あの……お話中のところ申し訳ありません。葛西専務、お電話が入っているそうなんですが、折り返しますか?」

 電話が鳴ったので出ると、専務あての電話だった。申し訳ないとは思ったものの相手を待たせるのも失礼なので、三島の声を遮るように専務に告げる。

「いえ、出ます。ありがとう」
「それと三島さん、これはどういう意味ですか? 専門用語ですか?」
「あ、在沢さん……っ! 俺……」

 作成文書でわからない部分があったので、三島に聞くことにしたのだけれど、私が話しかけると彼は後悔したような顔をして私を見た。

「……私は馬鹿なのでわかりません。教えてください。在沢室長たちも話すなら会議室に行ってください。邪魔です」
「圭に邪険にされた……」
「お前……本当にあの鬼の在沢か?」
「あ?」
「どう見ても親馬鹿だ」
「親馬鹿で結構!」

 在沢室長と長崎部長の言い合いに、張り詰めていた空気が少し緩む。すると三島は表情を引き締める。

「横沢さん、田中さん、中山さん、申し訳ありませんでした。今すぐ直します。……在沢さん、手伝ってくれ」

 担当三人に謝罪後、三島に手伝ってほしいとお願いされた。だから私は「もちろんです。指示をくださいね」と言い、三島の「ごめん」との言葉に笑顔で返すと、その場にいた人間がなぜか息を呑んだ。

「在沢の笑顔……!」
「マジか?! ラッキー!」
「勝利の女神が微笑んだぞ! 行ける!」

 その場にいた人たちが、なぜか沸き立つ。

(……何が?)

 さっぱりわからなくて首を傾げる私を他所に、企画室のメンバーから「うおおおっ!」という叫び声がした。その声は隣の部屋まで木霊したという。


 そんな経緯があり、今に至るのだが。

「ロシア語じゃなく、リトアニア語、だと……?」
「申し訳ありません! 僕の確認ミスです!」

 それを見つけたのは、最後の確認作業をしている時だった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

ワンナイトLOVE男を退治せよ

鳴宮鶉子
恋愛
ワンナイトLOVE男を退治せよ

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...