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本編 2
カルティス領へ行こう 4
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軽く挨拶をしてから通されたのは応接室。そこで改めて自己紹介をしたあと、お互いの近況報告などをしてから本題。私が提案したことだからと、私が話を聞くことになってしまった。言い出しっぺだからしょうがないよね。
なので、前置きもなしにズバリ聞いてみることに。
「どうでしたか?」
「とてもいい反応でしたわ!」
「ええ! 他のお話はないのかとも聞かれましたの」
「それはよかったです!」
レイラさんに続いて教えてくれたのは、レイラさんのお母さんでイヴェットさん。彼女もちょっとぽっちゃりさんだ。
そんな二人にどこでどんなふうに活動したのか聞いてみた。
「まずはお借りしたものをさらに書き写したあと、我が家に仕えてくれている使用人たちの中で、子どもがいる家族に配りました。その際にどんな反応だったのか教えてと言い添えました」
「わたくしの子にも読み聞かせましたけれど、まだ早かったようで不思議そうな顔をしておりました。けれど、内容はわからなくとも絵は気に入ったようで、絵本を開いては指差したり、叩いたりしていましたわ」
「なるほど。他には?」
「あとは孤児院に行って読み聞かせたり、数年前、国から発令された託児所なる場所にも配り、そこでの反応も教えてもらいました」
孤児院という言葉は身につまされて胸が痛むけど、ダンジョンがある以上、親が亡くなったり、一人で育てられなくて孤児院や教会の前に捨てていく、なんてことは日常茶飯事の世界だ。なのでそこは顔に出すこともなく、話を聞く。
とはいえ、孤児院も託児所も、政策として国から指導と指示が入ったため、昔ほど勝手に子どもを捨てる、なんてことが減っているらしい。……そういえば、宰相様にそんな話をしたような……
おっと、話が逸れた。
で、いろいろと話を聞く限り、概ね好評だったようだ。あとは、他にもないのかという問い合わせと、学校からはこの地域に棲息する魔物や植物が描かれている図鑑などはないのかという問い合わせもあったそうだ。
ダンジョンができてからは特にこの地域に特化したものや、ダンジョン内に棲息する図鑑が欲しいとの要望が多く、冒険者ギルドの職員や引退した冒険者に話を聞き、魔物の種類から集め始めているという。
「それはいいですね。まだ小さな子には文字なしで絵だけとか、動物や植物だけでもいいと思いますし」
「ええ。それでご相談なのですけれど、どのようにしたらいいのかわからないことがありまして」
「わからないこと、ですか?」
「ええ」
「本にするにあたり、どのようにすればボロボロになったりしないかとか、どこまで文字を大きく、あるいは小さくすればいいかなどですわ」
「「「「ああ~……」」」」
イヴェットさんの質問に、私だけではなくエアハルトさんとアレクさんとナディさんまで声が出てしまう。
わかるよ、その気持ち。私たちも同じように悩んで、私の両親や『アーミーズ』の面々に相談したりしたもん。
それも踏まえ、きちんと教えると言うとホッとした顔をした。
他にないか聞くと問題点というか、本を巡って諍いのようなことがあったことも教えてくれた。それは、好きな本がかぶってしまい、取り合いになってしまったこと。
これはまだお話自体が少ないからしょうがないことなので、新たに作ったものを提供することである程度解決できる。あとは、読むことが苦手な子に読み聞かせをしたが、絵が小さくてうしろにいた子が見えない、読み手も読みづらい、などの意見も出たそうだ。
絵を見せながら絵本を読むのって難しいよね。絶対に言われると思い、ライゾウさんに作ってもらったものが、ここで役に立つ。
「実は、読み聞かせ用に、こんなものを作ってみました」
そう言って鞄から取り出したのは、縦三十センチ、横五十センチほどの木枠と、高さ一メートルほどの木造の台というか、扉がある棚やシェルフのようなものだ。台の裏側には扉がついていて中は板で区切られ、ものを置けるようになっている。
木枠のほうには横に二センチほど隙間があって中に入れられるようになっており、横の左右はわざと丸くカットされている。前は木材の色を活かしつや消しが塗られ、扉がついていて開くと立てかけられる仕組みだ。
それを台の上に設置する。
「ジャーン!」
「……その木枠はなんだ? 真ん中が開いているじゃないか」
「ふふふ、これでいいんです。この木枠に、この紙を中に入れて……と」
「「「「「あ!」」」」」
エアハルトさんの質問に答えることなく、木枠の中に絵が描かれているものを入れる。そうすると、他のみなさんが驚いたように声を上げた。
木枠にセットした表紙に書かれているタイトルは「おおきなかぶ」。
つまり、昔懐かしい、アレ。
「これは紙芝居といいます。子どもたちが見るほうには絵を、裏は読み手が読めるよう文字が書かれているんです」
そう、ライゾウさんに作ってもらったのは紙芝居の木枠と、木枠をのせる台だ。ある程度の大きさと高さがあれば、うしろにいる子たちも見えるはず。
「こうして、絵本と同じように絵を描くんですけど、絵本と違うのは文字が書かれていないことなんです。大勢に読み聞かせるのはこの方法がいいと思って、持ってきました」
「「……」」
「木枠と、ある程度の大きさと丈夫な紙、絵心があれば簡単に作れるものですし、魔物や植物の絵だけを描き、子どもたちに「これなーんだ?」と質問して答えてもらう、なんてこともできますよね? 使い方次第でいろいろできると思います」
「お義姉様……」
「どうですか? まずは、孤児院か託児所でやってみませんか?」
そう言った私に、子爵家の面々は若干目を潤ませながらも目を輝かせた。
なので、前置きもなしにズバリ聞いてみることに。
「どうでしたか?」
「とてもいい反応でしたわ!」
「ええ! 他のお話はないのかとも聞かれましたの」
「それはよかったです!」
レイラさんに続いて教えてくれたのは、レイラさんのお母さんでイヴェットさん。彼女もちょっとぽっちゃりさんだ。
そんな二人にどこでどんなふうに活動したのか聞いてみた。
「まずはお借りしたものをさらに書き写したあと、我が家に仕えてくれている使用人たちの中で、子どもがいる家族に配りました。その際にどんな反応だったのか教えてと言い添えました」
「わたくしの子にも読み聞かせましたけれど、まだ早かったようで不思議そうな顔をしておりました。けれど、内容はわからなくとも絵は気に入ったようで、絵本を開いては指差したり、叩いたりしていましたわ」
「なるほど。他には?」
「あとは孤児院に行って読み聞かせたり、数年前、国から発令された託児所なる場所にも配り、そこでの反応も教えてもらいました」
孤児院という言葉は身につまされて胸が痛むけど、ダンジョンがある以上、親が亡くなったり、一人で育てられなくて孤児院や教会の前に捨てていく、なんてことは日常茶飯事の世界だ。なのでそこは顔に出すこともなく、話を聞く。
とはいえ、孤児院も託児所も、政策として国から指導と指示が入ったため、昔ほど勝手に子どもを捨てる、なんてことが減っているらしい。……そういえば、宰相様にそんな話をしたような……
おっと、話が逸れた。
で、いろいろと話を聞く限り、概ね好評だったようだ。あとは、他にもないのかという問い合わせと、学校からはこの地域に棲息する魔物や植物が描かれている図鑑などはないのかという問い合わせもあったそうだ。
ダンジョンができてからは特にこの地域に特化したものや、ダンジョン内に棲息する図鑑が欲しいとの要望が多く、冒険者ギルドの職員や引退した冒険者に話を聞き、魔物の種類から集め始めているという。
「それはいいですね。まだ小さな子には文字なしで絵だけとか、動物や植物だけでもいいと思いますし」
「ええ。それでご相談なのですけれど、どのようにしたらいいのかわからないことがありまして」
「わからないこと、ですか?」
「ええ」
「本にするにあたり、どのようにすればボロボロになったりしないかとか、どこまで文字を大きく、あるいは小さくすればいいかなどですわ」
「「「「ああ~……」」」」
イヴェットさんの質問に、私だけではなくエアハルトさんとアレクさんとナディさんまで声が出てしまう。
わかるよ、その気持ち。私たちも同じように悩んで、私の両親や『アーミーズ』の面々に相談したりしたもん。
それも踏まえ、きちんと教えると言うとホッとした顔をした。
他にないか聞くと問題点というか、本を巡って諍いのようなことがあったことも教えてくれた。それは、好きな本がかぶってしまい、取り合いになってしまったこと。
これはまだお話自体が少ないからしょうがないことなので、新たに作ったものを提供することである程度解決できる。あとは、読むことが苦手な子に読み聞かせをしたが、絵が小さくてうしろにいた子が見えない、読み手も読みづらい、などの意見も出たそうだ。
絵を見せながら絵本を読むのって難しいよね。絶対に言われると思い、ライゾウさんに作ってもらったものが、ここで役に立つ。
「実は、読み聞かせ用に、こんなものを作ってみました」
そう言って鞄から取り出したのは、縦三十センチ、横五十センチほどの木枠と、高さ一メートルほどの木造の台というか、扉がある棚やシェルフのようなものだ。台の裏側には扉がついていて中は板で区切られ、ものを置けるようになっている。
木枠のほうには横に二センチほど隙間があって中に入れられるようになっており、横の左右はわざと丸くカットされている。前は木材の色を活かしつや消しが塗られ、扉がついていて開くと立てかけられる仕組みだ。
それを台の上に設置する。
「ジャーン!」
「……その木枠はなんだ? 真ん中が開いているじゃないか」
「ふふふ、これでいいんです。この木枠に、この紙を中に入れて……と」
「「「「「あ!」」」」」
エアハルトさんの質問に答えることなく、木枠の中に絵が描かれているものを入れる。そうすると、他のみなさんが驚いたように声を上げた。
木枠にセットした表紙に書かれているタイトルは「おおきなかぶ」。
つまり、昔懐かしい、アレ。
「これは紙芝居といいます。子どもたちが見るほうには絵を、裏は読み手が読めるよう文字が書かれているんです」
そう、ライゾウさんに作ってもらったのは紙芝居の木枠と、木枠をのせる台だ。ある程度の大きさと高さがあれば、うしろにいる子たちも見えるはず。
「こうして、絵本と同じように絵を描くんですけど、絵本と違うのは文字が書かれていないことなんです。大勢に読み聞かせるのはこの方法がいいと思って、持ってきました」
「「……」」
「木枠と、ある程度の大きさと丈夫な紙、絵心があれば簡単に作れるものですし、魔物や植物の絵だけを描き、子どもたちに「これなーんだ?」と質問して答えてもらう、なんてこともできますよね? 使い方次第でいろいろできると思います」
「お義姉様……」
「どうですか? まずは、孤児院か託児所でやってみませんか?」
そう言った私に、子爵家の面々は若干目を潤ませながらも目を輝かせた。
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