あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

11 担任との攻防戦

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 職員室に入って担任の先生の名をいい、その机に向かったが担任は不在。
 その隣の机で書類らしきものを書いている先生が俺の気配を感じて目線を合わせてくれた。
 担任が何処にいるのか聞いてみると、ここにいないのならたぶん理科室だろうと教えてくれた。

 そういえば……担任は科学の教師だったな。
 この高校に赴任してまだ三年しか経過していない担任は、教師歴も三年だ。
 どんな先生なのかはまだ把握していないのは一度も話をしたことがないのだから仕方がない。

 理科室の場所を聞き、心を落ち着かせて理科室へ向かう。
 本館には教室や職員室、渡り廊下を歩いていけば別館に繋がる。
 別館に家庭科室や理科室など水を要する部屋が集まっていた。
 廊下に出て歩いているとふと大きな声援らしきものが聞こえる。グランドからだ。
 渡り廊下から目を向けると陸上部・テニス部・サッカー部などの部員らしき塊が四ヶ所ある。
 残りの一ヶ所はどの部かすぐにはわからなかった。
 野球部は別グランドを所有している。

 声援は、どうやらサッカー部の方からだ。
 軽くそこに目をやるとすぐ視線に気づいた。

 この距離感……。

 俺が求めていたモノがそこにあった。
 締め付けられる部分と解放させれる部分が心の中で溢れてくる。

 絶対、手に入れる!
 胸の熱さを鷲掴みにして。
 想いを秘める。邪でもいい……。

 その視線をわざと外して足早に理科室へ向かった。

 昨日あれほどそこに沈んだ気持ちが洗われていく気がした。
 ……それが気のせいだということは過ぐに証明されることになるというのに。
 顔が緩むのを隠しつつ、理科室の扉を二度叩いて扉をスライドさせた。

 見渡しても誰もいない。
 微かに聞こえる音楽。
 近づいていくと上の方に理科準備室という札があった。

 もう一度扉を叩いて繰り返した。

「誰?」

「一年A組の鳴海翔琉です」

「あ、俺の生徒か。どした?」

 若い男の担任は、思いっきり椅子に仰け反って俺を見上げる。

 俺は編み物男子部を作りたいことを単刀直入にいい、どのように部を作ればいいのか相談した。
 担任の片眉が軽く動く。うっとおしそうに。

「家庭科部があるだろ?そこへ行けばいい」面倒臭そうに言葉が平らだ。

「料理や裁縫には興味がありません」

「編み物部を作るとしてだ。男子限定にしなくてもいいだろう?お前の顔なら声を掛ければ女生徒がわんさと釣れる。軽く十人超えて部は成立するだろう」

「男子だけがいいので」俺の顔で釣れる?何を言っているんだ?この教師……。

「アドバイスしてやってるのに?」イラつきが声で響く。

「真面目に相談しています」軽く睨んでしまった。

「こっちも真面目に言っている。普通に考えてみろよ。高校に入って編み物をしたがる男子生徒が一体何人いると思う?鳴海のような物好きだけだ。そうは思わないのか?」軽く鼻で笑われた気がした。

 一瞬言葉に詰まる。現実を突きつけられてるだけだ。理解してた筈。
 俺の覚悟はそんなことでは崩れない。最後の一瞬まで諦めないという決心は揺らがない。

「それでも……男子だけの部が作りたいんです」悔しさで唇を両歯で痛みつける。

「何故そこまで拘る?理由を言え」睨み返される。

「普通に編み物部を作ったら、先生の仰る通り女生徒ばかりの編み物部になるでしょう。そんなの目に見えています。その中で男が俺一人だなんて、耐えられません」
声で睨み返す。

「まぁ、そうなるだろうな。女生徒なら十人どころか二、三十人は集まるだろうよ」
もう一度鼻で笑われる。

「あり得ない……」何が言いたい?腹の中が暴れまわりそうなそれを耐えるのに両の手を爪が食い込むほど握り締める。

「鳴海、お前自覚ないのかい?」

「自覚?なんの自覚ですか?」わからない。全然思い当たらない。不思議なことをいう担任だ。

「お前の容姿は女生徒たちを引き付ける。気づかないのか?」胡散臭そうに言い切る。

「全然。一度もそんなことはなかったですから」片唇だけで笑顔を無理に作る。

 中学三年の時に告白されたことは一度だけある。
 あまりにもしつこかったので、嫌ながらも一度だけデートをした。
 それできれいさっぱり俺には近づかないという確約を条件に。
 それ以外は、何もなかった。
 だから、それはあり得ないのだ。

 だが、中学時代に身に付けた無自覚の冷めた表情が哀愁を漂わせ、美しい容姿に凍るような色気を纏っていることを本人は知らない。
 切れ長の目線が細められたら、何人の女性を虜にするのだろう?
 誰も寄せ付けなかった中学時代。
 『親衛隊』が存在していたことは知る由もなく、まだ数日しか経過していない高校生活では必ず隣に神崎川城一がいたから女生徒の入る隙は一切存在しない。
 鳴海翔琉の肩を抱いて隣にいるのだから。

 鳴海は自分が女生徒に行為を寄せられる存在であることに一切気がついていない。
 自分の容姿に全く興味がなかった鳴海は、信じるものは自分で見たものと聞いた言葉のみだった。

「そういえば……いつも神崎川が鳴海の側にいたっけ。なるほどな。神崎川もモテそうだな。お前たちのどちらがモテるか見てみたいものだ」何度目だ?鼻で笑われるのは……。

 無性にイラつく担任だ。




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