あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

45 撮られていた?*

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 金曜日あの男、智さんの家に行くことになった理由……。
 俺はいったいどうすればよかったんだろう?
 どれだけ考えても正解なんか導けなかった……。



 サッカー部のあの男、智さんにはちみつ漬けレモンを渡すのがきっかけになった翌日。
 訳のわからない行為をされた。

 翌日には噂になっていてその日の部活終わりに智さんにはちみつ漬けレモンを渡す時に話を聞こうと思っていた。

 前日と同様にサッカー部の応援、というより智さんの応援をしている女子たちの輪に入っていって、昨日と違う女子の顎を手にとってその彼女の耳元に何かを囁いている。もしかしたら、それが智さんの日常なのかもしれない、と思った。

 俺のところに来た智さんに鞄を開けてはちみつ漬けレモンが入ったタッパーを取り出して笑顔で渡す。
 偽物の笑顔に見えないように。
 だから誤魔化すように話しかけた。

「智さん、昨日も取り巻きの女子の一人に何かしてたでしょ?あれって何ですか?」
「気になる?」
「別に。ただ目に入ったので」
「なるほどね。今日一緒に帰る子を決めてたんだ」
「いつも……違うのですか?」 昨日の女子じゃないんだから。
「そうだよ。だって、みんなと平等にしなきゃ!応援してくれてるんだもんね!」
 
 あ、そういうことですか。
 なんかちょっと安心しちゃった。
 だって顎を手にとって耳元に何かを囁いてる感じが、なんかイケないものを見た気がしてたから。

「聞きたいことがあるんですけど……いいですか?」
「僕もキミと話がしたかったんだ。ちょうどよかったよ」

 俺は智さんのあとをついていった。そこは校舎の裏で日陰のせいか少しばかりジメッとしていた。もちろん誰もいない。

「先に話して」 促されたので一息、息を吐き出してから智さんに問い始めた。
「智さんと俺、付き合ってないですよね?」
「今はね」 頭を横に倒して俺に無駄な笑みを浮かべている。
「今はではなく、永遠に智さんと付き合うだなんて……ありえませんから」

 はっきり言い切る。俺はあなたが好きではないと。

「でも、キミは僕から逃げられないよ」 

 不穏な空気が流れ始めた。
 よく見ると智さんの笑顔は消えていつのまにか獰猛な目に変わっていた。

「僕がキミに飽きるまで、一緒にいてもらうから。拒否権は……ないよ」

 細められた目が俺を硬直させる。おもむろにスラックスのポケットの中からスマホを取り出した。画面を俺の方に見せてくる。

「俺を撮って小遣い稼ぎをしている友達がいてね……それって副部長なんだけど。画像で俺のベストショットを撮っては俺のファンに画像を売ってるんだよね。ま、公認だけど」
 智さん画像を何枚か見せてくれた。
「昨日のを動画で撮られてたんだ。流石にまいったよ」

 画面を動画再生モードに切り替え、すぐある画面を指で軽く叩く。
 智さんが画面の再生ボタンを押した。
 
『「……から抱きついてくるなんて……イケない子だね。翔琉」
「ち、ちが……」
「やっぱり薄くなってきたから、もう一度ちゃんとつけないとね!」』

 昨日の俺との会話だった。
 艶かしい獰猛な目が俺の首筋を捕らえるのが見える。
 は、早い!
 
 突然聞こえてくる異様な声。
 音声は大きめなのでよく聞こえるし、それは俺のすべてを奈落に落としていく。

 動画は続く……。

『……んあぁ……んあぁ……あぁっ、あぁっ……んん……あっ、あっ……ああ……あっ、んんっ……』

 その行為に、俺は……俺は……!

 俺は完全に固まってしまった。
 そこに映っている画像はまさしく俺だった。

 それは智さんにがっちり抱き締められて俺の首筋に口付けられていて、俺の顔が紅潮しながら半分口が開いている状態だった。
 そこから発せられている声……。

 あの男が目を瞑って吸い付いてる時の動く喉元が上下していき、ゆっくり味わっているのが明らかだった。

 見た目では吸い付いているのかどうかはわからない。でも、俺の感触は知っている。
 こんなの、知らない……知りたくない!
 首筋にある口付けの角度は何度も変わり、時々ちろっと赤い舌先が見える。
 声に合わせて顔の表情が歪んでそれがまた艶かしい。

 な、何?この画像……。
 あれが……俺?

 喘ぎ声だと知らない変な声も画像もまだまだ続き、暫くしてひときわ甲高い音が聞こえた。

『ああああぁぁぁっ!!』

 仰け反る頭。うっすら浮かぶ目尻の涙。
 叫んだ後閉じた唇は噛み締めていて、屈辱に耐えているようだったそれさえエロかった。

「エッチな動画みたいに見えるし聞こえるでしょ?キミって、本当にスゴいよね!」

 嬉しそうに言う目の前の男に、俺は動けずにいた。
 何がどうなって……こうなった?
 思考が進まない。
 体も動かない。
 全身の寒気が止まらない。
 指先が震える。
 身体まで小刻みに震えているのさえわからないほどの動揺だった。

「いつもなら画像を撮る奴なのに何かを感じたらしくって、動画モードで俺のしたこと全部録画したんだよね。友達なのに誰にも売らない約束で二万も取られたよ」

 スマホの画像を止めてポケットに仕舞われた。

 どういう……こと?
 ガラケーもスマホも持っていない俺には何が何だか理解不能だった。

「安心して。彼の所にはもう動画は残っていないから。金を払ってその場で即消させたし」

 に、二万って……確か言ってたよね?

「キミの友達にさっきの画像を見られたくなかったら、毎週金曜日僕と一緒に帰ってくれる?そのまま僕の部屋に来て……いいね?」

 あんな画像……友達どころか、誰にも見られたくない。
 あまりにも恥ずかしい動画だった。
 数秒か、十数秒かと思っていたのに……軽く一分は越えていた。



 拒否権はない……その意味がこれだったのだ!
 俺は、従うしかなかった。




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