あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

177 楽しい日曜日 9

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 野菜を順調に切っている時、突然聞こえたんだ。
 俺は直ぐその聞こえてきた方角へ顔を向けた。
 それは聞いたことがない朔田君の大きな笑い声。
 どんな楽しいことがあったのだろう?
 気になって気になって、俺は早くそこに行きたくてうずうずしていた。
 包丁を持つ手が止まる。
 気になって仕方がないんだからそうなってもおかしくないよね?
 それを一刀両断する言葉がやって来た。

「鳴海、包丁危ないから集中しろよな」

 振り向いた側には眉間に皺を寄せてる神崎川の顔があった。

「だって……気にならない?あんな風に声を出して笑ってるんだよ?あの朔田君がだよ?」

「気になるのなら、さっさと全部切れよな。そこに行ってまた戻ってなんざ、効率悪すぎだろ?」

 思ってることを言ってみたけど返された言葉は好奇心より目の前の現実。的を得すぎて、い……言い訳出来ない。
 手元は人参を切っている最中。それが終わってもまだ玉ねぎと豚肉が残っている。
 そう言えば……焼きそばの具材を切り終わっても俺はこの場から離れられなかったんだよね。
 まだ筍を茹でているし、茹で終わったら流しに置いてそのまま冷まして、空いたコンロで唐揚げを作るんだった。
 そう、俺にはまだまだすることがこんなにもあるのだから。

 あーあ、残念だな。あの大きな笑い声なんか凄く貴重な気がするんだ。
 だって……あの朔田君だもん!
 ちっちゃくてモジモジしてて、それなのに強くってはにかむ笑顔が可愛くて……。大きな声で笑ったことなんか、見たことがないんだから。
 シュンとする俺の頭を撫でながらわかったように労りの声。

「彼奴等は今、やっと腹を割って仲良くなれそうなんだ。俺たちは邪魔しちゃいけねーんだよ。だから悪いが……鳴海、我慢してくれよな。彼奴等のために……」

 撫でていた手が俺の肩にそっと降りてきて俺を軽く抱きしめてくれた。
 確かに三人は険悪ではないものの、余り仲良くないのは事実だ。
 あの件があって俺のために仲良く接してくれてたただの仮初めだったのかもしれないのだ。
 
 俺にはわからないことをすべて知っているかのように接する神崎川。
 それなら……俺の事だってもしかして知ってるの?
 聞きたくてもきっと聞けないんだろうな……。

 その日が来るまで……

 そんなことを思いながら俺は素直に頷いて、神崎川の温もりに暫し身を寄せてその心地よさに浸ることになった。




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