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なにもない私
しおりを挟む「ようやく帰って来られたのね」
婚約を解消されたジョアンナは翌日には学園の寮を出て、辺境にある男爵領へと戻って来た。
呆れてしまうほど何もない領地は昔から何も変わらない。でも、ようやく心から気を抜くことが出来た。それなりに図太い方だと思っていたけれど、やっぱり緊張していたようだ。
「お嬢様、そろそろ屋敷に着きますよ」
迎えに来てくれた男爵家の数少ない使用人であり、執事であるハンスはのんびりと話しかけてくれる。
良く懐いている老いた馬が引くすっかりくたびれた馬車で田舎道を走れば、領民たちが手を振ってくれた。
「ジョアンナ様だ。お帰りなさい」
「お嬢様、よくお戻りで!」
ニコニコ笑顔で出迎えてくれる領民に、ジョアンナは馬車の窓を開けて手を振る。
「ただいま、皆! 又、宜しくねー!」
大きく手を振るジョアンナに、ハンスは、淑女がはしたないですよ、と窘めながらも、苦笑を浮かべた。
★ ★ ★ ★ ★
ディンプル男爵領はとても辺境の隅にあった。
既に採れるものが無くなっている大きな鉱山を二つほど所有しているので領地自体はそれなりに大きいが、人が暮らせる場所は少ない。
その少ない場所も半分は魚も住まない湖。残っている土地は本当僅かで、人々は傾斜のついている痩せ細った土地を開墾して暮らしていた。
税収がその開墾した土地だけであるディンプル男爵家は、とても貧しい。
借金だけは作らないようにと、困った事がある度に男爵家の家財を少しずつ売り払ってきたので、今や屋敷には殆ど何も残されていなかった。
無いのは家財だけではない。
幼い頃、両親が亡くなっただけでなく、可愛がってくれた祖父母も半年前に亡くなってしまっている。
父の兄弟たちは平民となってそれぞれ別の土地で暮らしているらしく、ジョアンナは会った事がないし、母は異国の貴族令嬢だったらしく、そちらの祖父母や親戚にも会った事はない。
家族も親戚もおらず、使用人ですら執事のハンス以外は、下働きで来てくれているハンスの妻、ウラリーだけだ。
「本当に何もないわね」
苦笑を漏らしながら屋敷を眺めれば、ハンスが申し訳なさそうに言った。
「大旦那様から領地を預かっておきながらこの始末。申し開きも出来ません」
「いいえ、ハンスはいつも頑張ってくれたもの。感謝しこそすれ、謝る事なんて何もないわよ」
この国の貴族は学園を卒業すると同時に成人として認められる。そして、成人とならなければ爵位の継承は認められない。
ジョアンナが学園を卒業するまでの間は、ハンスが管理人として領地を治めてくれていた。
ハンスは十分によくやってくれたとジョアンナは本当に思っている。
下手をすれば借金を抱え、男爵位を手放す事もあり得たのだから、継承できる爵位を借金も作らずに維持してくれただけで十分だ。
「何もないなんて言ってごめんなさい。私にはハンスとウラリーがいるわ。それに領民の皆も――――ハンスが守ってくれた男爵領と男爵位もあったわね」
何もない私。
でも、何もないから、何でも出来る。
「ハンス、私、頑張るわ。立派な領主になって、皆を幸せにしたい。手伝ってくれるかしら?」
「勿論です、お嬢様。いえ、我がディンプル男爵家の主様」
―――その日の夜。
数少ない領民の皆の前で、ジョアンナはディンプル男爵家の当主となった。
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