謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第二章

掌握する者

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──…


 その頃、王宮の北に構える神殿で議会が開かれていた。

 本来ここは太陽神を祭る場所であり、水のヤシロと並ぶ聖域である。

 しかし侍従長の権限で、六年前に王宮からここへ議会の場所は移された。

 コリント式の二重列柱廊ニジュウレッチュウロウ側廊ソクロウと交差する場所で、半円状に並べられた椅子に王はおらず、侍従達だけが座っていた。

 彼等は何度めかわからない問答を今という今も繰り返している。先日の議会でも、またその前も、議題は変わらない。


「何故帝国の要求を退ける?今すぐ国境の兵を引き上げ、壊れたカナートの修復を許可すればよかろう!」

 左に座る初老の男が唱える。

 すると、ちょうど彼と対角線上に座る男が嘲笑とともに首をふった。

「まだそんな事を仰っているのですか?何度もお伝えしたとおり、これは帝国の策略です。もし我が国に奴らの侵入を許そうものなら、一気に攻め込まれ、カナートを横どられてしまいます」

 それはふた月ほど前にさかのぼる。

 キサラジャから隣の帝国へ水を運ぶカナート(地下用水路)が何者かの手で破壊されたのだ。

 頑丈な用水路をどのように破壊したのか、その方法はわかっていない。ただ瓦礫が積み上がった現場には、何か嗅いだことのない異様な臭いが立ち籠めていたらしい。

 当然、帝国は修復を求めた。

 だがそれを拒み、国境に兵を置いて帝国の視察を妨害するよう指示したのが、キサラジャの為政者であるラティーク・タラン・ウル ヴェジール(侍従長)だ。

「これが帝国の策略だと?タラン殿はまだ、カナートを破壊したのが帝国だと仰るのか?何の根拠もありますまいに!」

「落ち着かれて下さい。先のクーデターで新しい皇帝が即位して以来、帝国の態度はますます高圧的になっています。ですから、奴らの繁栄は我らキサラジャの水の恩恵にすぎないのだと…思い知らせてやる良い機会なのですよ」

「……!」

 タラン侍従長は、貴族の中でも数少ない公爵家のひとつ──ラティーク家の当主として、もう十年もの間この議会を掌握している。にも関わらず歳は三十五と、長年侍従長を務めているにしては異例の若さであった。

 いまや彼に反論できるのは、同じく公爵の爵位を持つサルジェ家くらいだ。


「その仰りよう──…っ、まさか、この騒ぎはタラン殿の仕業シワザではありますまいな…!?」

「…ふふ」

「…っ…答えたまえ!」

「残念ながら私は無関係で御座います。サルジェ家当主ともあろう御方が、そのような無礼な詮索センサクはおやめください」

「く…っ」

「では審議に入る──。大人しく帝国にカナートを渡してやるべきと言う者は、挙手を」

 黄褐色の肌に、赤みがかった茶色の艶髪。

 端正なオモテに半月の顎髭アゴヒゲを垂らし、品よく笑みを見せたタランは、他の侍従達をぐるりと見回した。

 タランと目が合った者は、ニヤリと口角を上げるか、静かに目を伏せるか…

 どちらにせよ、手を挙げる者はいない。

「‥‥‥‥ッッ」

「では異論は無いですね?反対多数によりこの議題はここまでと…──」

「このままでは国は崩壊するぞ!」

「……ハァ」

 この場にいるのは、ひとりを除く全員、タランの息のかかった侍従なのだ。

 たったひとりの主張など、犬の遠吠えと変わりない。

「この騒ぎで、隊商キャラバンも旅人も我が国を避けて通るようになった。街道沿いで商うアキナウ平民達は稼ぎを失っている!帝国からの物資も無いなかっ…民への支給をいつまで止めておけるとお考えか?」

「くだらない質問ですね。先に折れたほうが負けなのですから、我ら祖国のため、多少の犠牲はやむなし…。だいたいこの程度の危機、民が自らの力で乗り切らずしてどうしましょう」

「なんたる言い草っ、国に遣える侍従長としての誇りはあるのか?」

「国を思えばこそ、ですな」

 タランは涼しい顔で、遠吠えを退けた。 


「では次。国境に配置した騎兵師団からの報告によると──…」


 彼にとってこのように議会を開く意味など、合って無いようなものであった──。









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