謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

文字の大きさ
47 / 143
第八章

面影

しおりを挟む

 シアンを掴んでいた手も離してやる。

「…ハァ、シアン、お前の推測通りだ。俺はこの件に裏があると睨んでいる」

「何か手がかりは見つかったのですか?」

「いや…」

 シアンの出自しゅつじは気になるが、今は何よりタランの方が重要だ。

“ と言っても相手は公爵家、証拠も無く身辺調査は難しい。何か手がかりのひとつでもあれば…… ”

 タランが怪しいのは間違いないのだが、首都に戻ったばかりのバヤジットにはとにかく情報が少なかった。


『 タラン侍従長は彼等を民兵として徴用しているのですが、その人数が尋常ではない。駐屯地のあるウッダ村は人があふれ酷い有り様です──… 』


“ そうか、タランが民兵を徴用していると報告があったな ”

 昨日、部下に知らされたこの情報。これが唯一、タランに繋がる手がかりかもしれない。

“ ウッダ村ならラクダの足で一刻もかからん ”

 ターバンをひと巻き解いたバヤジットは、残り布で目元から下を覆い留め具に固定する。そうやって身支度をおこないつつ、バヤジットは練兵場の先にある馬舎へ歩いた。


「ラクダを一頭だ。用意してくれ」

 馬舎では馬やラクダの世話をする平民がすでに働いており、バヤジットは彼らに命じてラクダと飲み水の用意をさせた。

「道中の乗り換えはどうしやすか?そろそろ嵐の時期ですから、街道の駅舎は空っぽですよ」

「問題ない。乗り換えは不要だ」

「それで──…後ろの方も同じでよろしいので?」

「…ッ?」

 厩役の男に問われて後ろを振り返った先に、ちゃっかり後をつけていたシアンの姿があった。

「そこで何をしている!」

「ちょうど暇を頂いているので…」

 シアンはバヤジットに目を向けず、くらを付けられたラクダの横腹を撫でている。

「僕のことは気にしないでください」

「そうはいくか。お前はっ…昨日の俺の話を何だと思っているんだ。俺はな、無駄に出歩くなと言ったんだ」

「それは無理です」

「ハァ、無理ではないだろう…。…第一に」

 額に手を当てて溜め息をつくバヤジット。彼は項垂れたまま目を開けて、シアンの左腕に視線を流す──。


「お前の片腕──義手であったな」

「……」

「肘から下か?そんな腕でどうやって手網を操るつもりだ。とくにラクダは馬よりも気性が荒い。舐めてかかると振るい落とされてあの世行きだぞ」

「ああ、これ」


 布に巻かれたその左腕は確かに人の物ではない。

「平気です」

 けれどシアンは涼しい顔でひと言告げて、足ふみに片足をかけた。

 ぎょっと慌てたバヤジットが駆け寄るも、それより早く鞍を掴んでラクダに体重を預ける。

 シアンが飛び乗ると、ラクダが前足をあげて大きくいなないた。


「馬鹿か落とされるぞ!早く手を───ッッ」

「…っ」

「──…ッ、お……?」


 一瞬暴れた獣の背上で、口を開けて笑った青年


「ほらね」

「──…ッ」


 顎をあげて得意気に見せた " したり顔 " は、バヤジットが知るどの彼よりも──少しだけ幼い。

 空のキャンバスと同化しそうな白い艶肌へ朝日がいたずらに映り込み、そのせいか……彼を見上げるバヤジットが目を細めた。

“ こい つ…… ”

 シアンは義手の腕に手網を二重に巻き付けると、強く張った弦のように背筋を真っ直ぐと伸ばした。そして右手でラクダの首を叩いてあやす。

「どうどう、暴れないで」

「……」

「このとおり僕は平気ですよ、バシュ。お供を許して下さいませんか?」

「…っ…スピードは変えんぞっ」

「ふふ、命がけでついて行きます」

 ふいと背を向けたバヤジットは、大事にならなかったことへの安堵と、おかしな胸のざわつきを沈める為に息を吐く。

「はぁ……」

 自らもラクダに飛び乗り、シアンを背後に従え街を出た。





──…




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...