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第九章
ハンマームにて
しおりを挟む「よし、そこへ座れ」
背後からバヤジットが二人に " 指示 " を出す。
「はい!」
「…はい」
オメルは情景反射なのか一度その場で直立した後、…そうではなかったと冷静になって座椅子にペタンと腰を下ろした。姿勢がいい。
シアンも隣に座ると
二人を奥側に配置したこの上官は、他の客から隠すように自らも横に並んだ。
「オレはこのへんが丁度いいや真ん中は暑くて焼ける」
「んー、初めは低い温度から慣らしたほうがいいよね」
「……」
「これってどのくらい座っとくもん?」
「人によりけりだよ。我慢できなくなったらあそこに休憩用の場所があるし、水も飲める」
「……」
「オレすでに我慢できなくなってるけど…。でもこれ、頑張ったほうがいいんだよな?」
「無理しても意味ないけれど、身体の芯を温めることは疲労回復に繋がる。肌も綺麗になるよ」
「……」
「キレイになるのか?シアンみたいに?」
「ん、まぁ、なれるかもね」
「…………………」
「あの、バヤジット・バシュ?」
しばらくオメルとの二人きりの会話をかわした後で、いよいよ放っておけなくなったシアンがバヤジットに声をかけた。
「どうかしたか」
腕を組んで背筋を伸ばしたバヤジットは、シアンを見もせず聞き返す。
先ほどからずっと周囲を警戒して、近付く者がいようものならその眼光で追い払っているのだ。
「…バシュ。確かに貴方を浴場にお誘いしたのは僕ですし、誘い方もあまり…良くなかったかもしれません。ですがこの構図、まるでバシュが僕達の護衛のようです」
シアンは溜め息まじりに話しかけた。
「…実際に警護している」
「あのですね、一国の将官に警護されるというのは身に余る光栄なのですが、同時にとても緊張します」
「知らん。お前達はくつろいでおけばいいだろう」
「それが難しいのです。──…見てください、オメルなんてずっとこうです」
「……?」
シアンに言われて横目で見ると
バヤジットと同じように腕を組んで、背もたれなんて忘れた姿勢で固まっているオメルがいる。
彼はバヤジットの視線を感じてますます緊張したようで、口をグッと引き結んだ。
「──…ッ」
「‥‥?‥‥!?(オレまたなんかしたかな…!?)」
オメルにとってバヤジットが数少ない味方である事は確かだ。しかしまだ怖いという気持ちはあるのだろう。
半分以上はバヤジットの人相が原因だ。
「お前……」
「はい!」
「…っ…あのなぁ」
“ 怯えられるのなんて慣れてるが……ッ ”
人相はそう簡単に変えられない。
「ハァーー。わかった、わかった」
バヤジットは根負けした様子で大きく息を吐いた。
「俺を怖がる必要はないぞ。オメル」
「ぁ、は、はい!」
「俺の目付きは生まれつき悪いが、べつに怒っている訳ではない。今も全く怒っていない」
「はい、……ん?怒ってない?」
「ああそうだ。ついでに言えば、お前が俺に対して間違った敬語を使ったとしても、そんな事で怒らない」
「そうなのか……ですか」
「だから安心しろ」
そう言ったバヤジットは自分の黒髪をわしわしと掻きなぐり、ひっくり返るようにして背もたれに寄りかかる。
「ついでに教えるが、蒸し風呂では肩の力を抜け。固まっていては疲れが取れない」
「…ふーん」
「真似をしろ」
「わかった!」
こうしてシアンの両隣りは、二人仲良く仰向けに。
少し極端に感じたが…
「シアン。お前は寝ないのか」
「──…僕も、ですか?」
「何か起こればすぐに俺が助ける」
「……。なら…お言葉に甘えます」
まぁ、良いのかもしれない。
彼等にはさまれて、シアンも同じように寝そべった。
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