謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第九章

無意識の想い

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 その後、ひとしきり汗を流したオメルは洗い場に行った。

 洗い場で働く専属人の前で寝そべり、垢スリで汚れを落として貰っている。初めはくすぐったいのか落ち着きがなかった彼だが、今は気に入ったようで大人しくしていた。

 その様子をもとの場所から見守るシアンのもとに、水を浴びてきたバヤジットが戻ってきた。

「お前は本当に我慢強いな」

 頬を上気させて視界をまたたかせるシアンの顔に、水をくんだ器を突きつける。

「倒れる前に水は飲め」

「…そうか、忘れていました」

 受け取ったシアンは、くいと器を傾ける。

 口の端から零れた水が、汗の粒を浮かべる白い首筋をつたい流れた。

「お前はよく来るのか、ここには」

 普段から自邸の風呂場で身体を拭くだけのバヤジットは、久しぶりの浴場ハンマームだ。

 クオーレ地区内にも浴場はある。だがそれこそ、そこには近衛隊の部下がおり、バヤジットを見ると萎縮するものだから居心地が悪いのだ。

「これほどの規模ではもちろんありませんが、どこの歓楽街にも小さな浴場は必ずあります」

「…お前が住んでいた街にもか」

「ええ、絶好の狩場でしたよ」

「……」

 水を飲んだシアンが器を傍らに置く。

 バヤジットは彼の話に耳を傾けつつ石の座椅子に腰をおろす。

 水を浴びてきたバヤジットの褐色の肌には、早くも次の汗がいくつも浮かんでいた。

「狩場、か」

「と言えど、何も客全員を巻き込んでの大乱交なんてしませんよ?さすがに身がもちませんから」

 シアンが隣りに顔を向ける。

 バヤジットは筋肉の浮き出た腹部をさらして仰向けになり、石造りの高い天井を見つめていた。

 やはりその目は、何かを睨み付けているように見える──。

 シアンはふと、その視線を奪いたくなり

 男の腹に手を伸ばした。

「──…ひとりの標的を見定めたら、それを上手く誘い出します」

「…っ」

「…こんなふうに」

 腰巻きの上にのぞいた腰骨に触れ、へその真下へと爪の裏を滑らせる。

 ビクリと動いた腹筋の割れ目をなぞるように…

 四本の指を逞しい胸板までたどらせた。


ツ──────


「……ッッ」

 咄嗟にバヤジットは、悪戯な細腕を掴んで引き剥がした。


 腕を掴まれたシアンは目を細めて微笑む。


「……そういう話、貴方はお嫌いでしたね」

「……!」


 どこか切ない声に感じた。

 バヤジットに掴まれた腕を振りほどこうとせず、視線が絡んだその流れでシアンは相手に問いかける。

「先ほどバシュが仰った、『怒っていない』と言うのは本当ですか?」

「俺がオメルに言った言葉か」

「そうです。あれはオメルを安心させる為の嘘ですか?僕にはやはりあの時のバシュは強く怒っているように見えました」

「……。どうだろうな」

 シアンに問われて、バヤジットはあの時の自分を思い返す。

 …確かに彼は苛立っていたのだ。

 シアンが衣服を脱ぐだけで集まる好奇の目。

 馬鹿にするように鳴らされる口笛にも…厭らしい思惑丸出しでシアンに話しかけた男にも

 悔しがる素振りもなく、慣れた様子のシアンにも。

 そうだ、俺は我慢ならなかった──

「俺は近衛隊の将官となった日から己を強く律してきた。だが自身がそうあるほど…周りのダラしなさが目に付くようになる…。道理を忘れ色欲に溺れる者共を嫌悪するようになるんだ」

「…己の欲を律するのは、貴方の信念の為ですか?」

「そうか…前にも話したな。陛下をお守りするのが俺の信念であり、街の治安を守るのも俺の使命だ」

 そこまで言って、バヤジットはシアンを見る目付きを変えた。

 片目を細め、目尻をぐっと持ち上げる。

「だから俺はお前を邪魔に思った──。お前はそこにいるだけで周囲の人間をたぶらかす。街や兵団の風紀を乱す…」

「……」

「お前は俺を苛立たせる」

「…それで貴方は僕に対して怒っていたのですね」

「それだけではない」

「──?」


 バヤジットは、掴んでいるシアンの腕を自らのほうへ引っ張った。

 片腕のシアンはとっさに身体を支えられず、相手の胸に寄りかかることになった。


「それだけではない……!」

「…っ?」

「 " お前が " 好色な目で見られるコトに我慢ならないのだ、俺は」


 シアンは目を丸くした。

 シアンの腕を引くのとは逆の手で、バヤジットが彼の背中を抱き寄せたからだ。

 いつかと同じようにその手に厭らしさは無いのだが、彼を離すまいとする強引さがある。

 無意識、なのか

 この男は──。

「お前を見下して良い奴などいやしない」

「──…っ」

「そう思うから、腹が立つのだろう」

「……何故」

 何故そう思う?シアンにはバヤジットの想いが理解できない。

 これまで……

 欲情する者、利用する者、軽蔑する者、憐れむ者、たくさんの人間がいた。

 バヤジットはどれにも当てはまらない。

 こんなふうに自らをかき抱く腕を、シアンは知らないのだ。


 知らない


 故に、対処の方法がわからないというもの──

「く…っ」

 シアンは身をよじってみたが、身体を捕らえる腕はビクともしなかった。

 頬に押し付けられた男の胸板から、強い脈動を受け取る。

 ぴたりと付いた褐色の肌の上で…匂いの消えた互いの汗が混ざり合った。


──ポタッ


「バシュ……腕を」

「──…」

「離して ください……」


 シアンは顔を歪ませる。

 バヤジットの腕に包まれると、慣れない感覚に込み上げるモノがある──こんな感情は不要だった。

 必要ない

 なら、いらない

 目的の為にあらゆる地獄を選び、ここまで来た。そんなシアンに最も不要な感情なのだ。

「手を離してください…ッ、他の者に見られては誤解を受けます!」

「…っ…、は…!?」

 厳しい声色で諭されて、バヤジットはようやく我に返った。

 彼は慌ててシアンの身体を解放した。






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