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第十章
冷たい鉄枷
しおりを挟む「止まれシアン!これは命令だ!」
「……っ」
居住区の複雑な隘路を抜け、クオーレ地区への城門に着いた所で、ついにシビレを切らしたバヤジットがシアンに命じた。
それまで早足に進んでいたシアンだが、仕方なく足だけを止める。
「命令であれば、止まりますが」
「…何か俺に話す事は無いのか?」
「ありません」
頑なに態度を変えない。此方を見ようとしないシアンに、バヤジットが歩み寄る。
「俺はお前に聞くべき事がいくつかあるぞ…」
「そうでしょうね」
「自覚しているならお前から話せ。…何故話そうとしない?」
「……。話すコトができないからですよ」
「……!」
グッと切歯するバヤジット。
バヤジットは近衛隊の将官という立場である。そんな彼にとって先ほど意図せず遭遇してしまった密会は──とても、危険なのだ。
シアンが隠そうとするならば
それを聞き出す義務がある。
「俺に何を隠している?」
「……」
「素直に話す気が無いのであればっ……仕方無い」
ガッ‥!!
「付いて来い」
彼はシアンの腕を持って城門をくぐる。
シアンはされるがまま。抵抗を諦めてバヤジットに連られて歩いた。
行き先はバヤジットの自邸ではないようで、クオーレ地区に入った後も中心部に向けてまたひとつ城壁をくぐる。
そして二人は近衛隊の練兵所の隣り、司令部に辿り着いた。
司令部の戸を荒々しく開けたバヤジット。
近衛隊の権威を象徴するこの建物は王宮にも並ぶ巨大な建築物だ。けれど実際はいっている機能としては、各師団の将官と副官に与えられた執務室や会合室など、あまり多くはない。
その中でバヤジットがシアンを引きずって来たのは、この建物の下層にひっそりと増設された──
冷たい石壁の牢獄だった。
ここは犯罪者を収監する場所ではなく、規律を破った兵士を閉じ込めるための懲罰部屋である。
最も手前の格子戸を開け…牢の中にシアンを押し込んだ。
「手荒になるがやむを得ない」
自らも中に入ったバヤジットが、シアンの身体を壁際に追い詰める。
後ずさったシアンの背が石壁にピタリと当たると同時──至近距離から見下ろすバヤジットが、彼の顎を持って上を向かせた。
「今から俺が問う事に答えろ。これも命令だ」
「もし命令に背けば…どうなりますか?」
「ここがどういう場所か考えろ。お前の態度次第では俺も何をするかわからんぞ…!!」
バヤジットが、シアンの顔を隠すターバンを乱暴に剥ぎ取った。
「先ずは、お前が何故あの場にいたのかを答えろ」
「……」
「かつて神殿があった地だ。祭壇の下に隠し階段があったな?あれは何だ」
「あれは──…地下通路への入り口です」
「地下通路だと?」
少し悩んだ後でシアンは答えた。どうせ明日、再び出向けばバレることだ。
「クオーレ地区には建国当時に作られた地下通路が今も残っているそうです」
「そんな物が王都の地下にあるのか…!? どこで知った?」
「……昔、貴族の客から仕入れた情報です」
「それは真実だろうな」
「ええ」
淡々と話すシアンの言動に、不自然さは無い。
しかしバヤジットは彼に対する疑心を拭えなかった。
「お前があの場にいた理由にはなっていない…っ…それにタラン侍従長まで一緒にいたのだ。お前たち二人は、その地下通路でいったい何をしようと…!?」
「……」
バヤジットの問い掛けに対して、一瞬の躊躇が。
その僅かな無言をバヤジットは許さず、掴んでいたシアンの顎を荒々しく振り払った。
項垂れたシアンは鉄の格子戸を横目に、言葉を選んで話す。
「僕はウッダ村で得た情報を確かめようとあの場へ赴きました…!! クオーレ地区へ秘密裏に集められた平民がいるのなら…抜け穴として考えられるのは地下通路しか有り得ないと」
「それで?ひとりで調査しようとしたのか?」
「抜け穴を見付けた後はバシュに報告するつもりでした。──…しかし、タラン侍従長に後をつけられていたらしく、あと一歩のところで邪魔を受けてしまいましたが」
「……侍従長と共にいたのは、故意ではないと言うのか」
「勿論です」
疑いをかけるバヤジットへ弁明する。
タラン侍従長があの場に来たのは確かに見込み違いである。ここに嘘は無い。
嘘があるとすれば──…あの地下通路の存在を、バヤジットに教える気はさらさら無かった。この男を巻き込むつもりは無かったのである。
後をつけられてしまったのは彼のミスだった。
「嘘、だな」
「…!?」
「シアン──お前、俺を欺こうとしているな?」
バヤジットの手が、シアンの左腕を掴む。
丸い肘当ての下…黒い布が巻き付けられたツクリ物の腕だ。
その腕を頭上に持ち上げられる。
壁に打ち付けられた鉄杭が其処にあり、それから垂れた手枷に繋ぎ止められた。
「バヤジッ…ッ…!?」
義手であるから感じる筈がないのに
何故か、繋がれた手枷から金属の冷たさを錯覚する。
「…何のつもりでしょうか…!?…これ は」
「…俺を侮るな」
「…っ」
違う
この場の空気、全てが冷たい
「俺があの場に行った時っ…シアン、お前はタラン侍従長に言っただろう…
『 また後日、お会いしましょう 』
『 その時は願いを聞きいれて頂く 』
──…俺の耳は逃さなかったぞ」
「──…!」
「お前は侍従長とどういう関係だ?あの場でいったいお前達は何をしていた!!」
反対の腕も同じように捕らえられ、頭上の鉄枷に繋がれる。
シアンは両手を上げた体勢で、石の壁に拘束された。
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