謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第十一章

引き止める者

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「シアン…どこ行くんだ?」

「──…?」

 不安そうな声がシアンを背後から呼び止める。

 振り返るとそこにオメルが立っていた。

 声の正体を知ったシアンは表情を柔らかくつくろい、穏やかに微笑む。

「…おはようオメル。そんな顔してどうしたの」

「……」

「やっと嵐が弱まったようだから、外の様子を見てくるだけさ」

「バヤジットさまが、シアンは外出禁止だって」

「──…」

「寝室にかぎかけて閉じこめてるって言ってた。
 なあ……シアン。……どこに行くんだ?」

 バヤジット不在の刻、邸宅の廊下を出歩くシアンを呼び止め、恐る恐る…オメルは尋ねた。



「そうか、将官から聞いたんだね」

「部屋に閉じこめたシアンがっ…ぜんぜんメシを食べないから困ってたよバヤジットさま。出したメシにひとつも手をつけないから、このまま餓死するつもりかって心配してた…!」

「──そうだよ。それで衰弱したフリをして倒れた僕に、今しがた見張り人が気付いてくれてね。慌てて部屋の鍵を開けてくれたさ」

「え…?」

「脱出の為にひと芝居うっただけ。親切な彼は今ごろ部屋で横になっているよ」

 いやこの場合 軽率と言うべきか。シアンにまんまと騙された見張りは気を失って倒れている。

 それを聞かされたオメルは、何と返せばいいのかわからなかった。

「じゃあ僕は外に出るよ。他の人に見つかると面倒だから」

「まっ…待ってよ!」

 わからないけれど咄嗟に呼び止める。

 このままシアンを行かせてしまったら、取り返しのつかない事になる気がした。

 それくらい今のシアンは様子がおかしかった。

 オメルを怯えさせないように温和に答えているが、言葉選びが投げやりで、目が冷めている。

 何かに怒っている?

 このまま行かせてしまったら……たぶんキミは、二度と戻ってきてくれない。


「あいつの…──スレマンさまのとこに、行くのか?」


「──…!気付いていたの?」


「うん……知ってた」


「そうか…」


 意外そうなシアンが、少し感心した様子で微笑んだ。


「いつも夜になるといなくなるシアンが、スレマンさまのとこに酒持って行ってるの知ってたよ」

「誰かに後を付けられてる気はしていたけれど、君だったんだね」

「今日も、行くのか?」

「そうだよ。そしてここにはもう戻らない」

 淡々と答えるシアンは、やはり投げやりだ。

 オメルの言葉が途切れると、あっさりと見切りを付けて立ち去ろうとする。

「待ってよ!やだよオレっ…シアンがあんな奴に好きかってにされるの、嫌だ!」

「……」

「バヤジットさまに守ってもらえばいいじゃん!喧嘩したなら謝ろうよ!あいつのとこ行くな…!!」

 背中を見せたシアンをオメルが引き止めた。

 スレマンの執務室で、毎夜何がおこなわれているのか

 それすらもオメルは知っているのだ。

 奴に身体を蹂躙され…汗を流してヨガり悶えるシアンの姿を、鍵穴の隙間から見てしまったから。

 オメルは、シアンがそんなふうに扱われるのが嫌だった。

 でも言い出せなかった。だってシアンはこれまで…ずっとそうして生きてきたんだ。

 否定したくない。

 オメルはシアンが好きだから、彼の生き方を否定したくなかった。

「行かないでくれよぉ…!!」

「──…」

 でも、シアンが そちら側に 行ってしまうのはとても悲しい。

 引き止めたい。とどまって欲しい。

 シアンは、家族以外で初めて優しく接してくれた人なんだ。だから…シアンも大切にされてほしい。優しくされてほしい。

 けどあいつは…スレマンは、シアンを大切に扱ってはくれない。


 そんなの、あんまりじゃないか。


「なんで行くんだよ…ッッ…なんで、あんな奴に…!!」

「……僕は」

「戻ってよ、行くなよ、行くなよ…!!」

「──…」

 取り乱すオメル。

 シアンは彼に、とどめのひと言を口にする事もできたけれど、彼の純真な想いを前にそんな非道は はばかられた。


「君は本当に優しいね」

「……ッ」

「ありがとう」


 それと、ごめんね


「これからはバヤジット将官が君を守る。あの方は君を貶めたりしないから安心していい。そしていつかここを出て──…君の夢を叶えてくれ」


 白い花

 それが君の宝物

 いつか、一面に広がる白い花を…

 この干からびた国に、君の夢を咲かせてくれ



 シアンは託すような言葉をかけて、優しい言葉だけを残して、オメルをおいていく。

 部屋から盗んだ大きめな夜着を身にまとう彼は、他の使用人に見つからないよう注意をはらいながら、邸宅の出口に向かった。

「オレは、まだ…!」

 オメルの泣き声が背中を追った。

「まだ敬語の使いかた教えてもらってない!約束したのに!手紙だってっ…まだひとりじゃ書けねぇ…!!」

「……」

「知らない、まだ、教えてくれてないこといっぱいあるのに!まだ、まだ、まだ、まだ…ッッ」

 だが外へ続く扉を開ける頃には、その声も聞こえなくなる。


「まだオレ──…シアンのこと……
 …ッ…何も知らないままじゃんか……」


 一度も振り返らず、オメルが何を言おうと取り合わない。

 こうやって彼を突き放す事が、シアンにも許された、思いやり故の決別だから。


「……知る必要は無い」


 だからどうか、僕のことは忘れてくれ











──…






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