謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く 【R18】

弓月

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第十二章

古典剣術

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 それからバヤジットは宿舎の食堂に来ていた。

 ここでの目撃情報しか、今のところシアンに繋がる手がかりが無いからだ。

バタンッ!

「…ッ──」

 気難しい上官であるバヤジットがいつも以上に目を鋭くして入ってきたものだから、怯んだ近衛兵等はバヤジットと顔を合わせないように俯く。

「おいお前!」

「えっ!な、なんでしょうかバヤジット様」

「人を探している。俺の部下──ッ 今はまだ槍兵師団の、シアンだ」

「シアン?って言うとあのクルバンですか。いや…最近は全く」

「そうか…っ」

 手近なひとりに問い詰めても手がかりは無い。

 そんな時──

 見覚えのある顔を見つけ目を止めると、床に座ったその男がバヤジットの視線に気付いた。

「貴様…見覚えがある。確か槍兵師団の副官だな」

「 " 元 " 副官ですよ、バヤジット様」

 部屋の隅に座るのは、かつて槍兵師団の副官だった男である。

 しかし今はただの一等兵に降格している。

 ここ食堂で部下にシアンとオメルを襲わせたことを、バヤジットによって議会に報告されたのだ。クルバンである二人をどうしたところで罪に問われたりはしないが…表向きは二人は近衛兵。騒ぎが大きくなり過ぎれば、議会も何かしらの処分を下すしかない。

「シアンをお探しとは…まだあのような汚れたネズミにご執心とはね」

「ネズミだと?」

 かつては辛うじてあった上官の威厳すらも失くした男は、酒を手に部屋の隅にうずくまり、すっかり酔っているふうだった。

「ネズミを飼うのは楽しいですか?ああ…いやいや、飼い慣らすのに失敗して逃げ出されたところでしたなぁ、ハハハ!」

「…っ…貴様」

「あの生意気さではシツケもひと苦労でしょう」

「黙っていれば勝手なことを…!」

 シアンを害獣のように言う男に、バヤジットは激怒する。相手の胸元を掴み、無理やり立たせていた。

「貴様のような者がシアンを侮辱するな!」

「…ッ」

 その激しい剣幕に、男は酒で赤くなった顔を怯ませた。

「シアンはっ……あいつはな……!!」

「な、何をそれほどお怒りに?あの者はバヤジット様のなんだと言うのです」

「…ッ…シアンは俺の部下だ!
 俺は上官としてあいつの事を──…、……」

「……!?」

 そこまで言って、バヤジットは言葉に詰まる。


“ 俺はあいつの上官なのに…… ”


 目の前の男を睨みながら、奥歯をぎりりと食い縛る。


“ 部下であるシアンを信じてやる事ができなかった…!! ”


 敵対するタラン侍従長との接点を見てしまい、短気な俺は、冷静に振る舞うことを忘れた。

 シアンの言いぶんに耳を貸すこともせず

 もっと時間をかけて、シアンの目的を知ろうともせず

 俺はただシアンを追い出そうとした……


 陛下の安全の為などと、言い訳だ。

 自分の為だ。

 シアンの事で頭を悩ますのを放棄した──上官としてあるまじき選択。

 俺はあいつを裏切った。

 だから、シアンは俺から逃げた……!!



「……っ」

「バヤジット様…!?」

「俺は上官失格だ。貴様を責められた立場ではない」

 急に鎮まり独り言を始めたバヤジット。胸ぐらを掴まれている男はよけいに戸惑っている。

「不審な行動をとったあいつを……隊から追い出そうとしているからな」

「……!」

 衣を掴んでいた手をパッと離され

 男はその場に尻もちをついて倒れた。

 元副官に対して関心を失ったバヤジットは、相手に背を向けて立ち去ろうとした。



「──…不審な行動とは…あの者は何をしたのでしょうか」


「ん…?」


「盗みや売春ですか」


「貴様っ…まだシアンを侮辱しようというのか」


 食堂を出ようとするバヤジットを呼び止めるかたちで、今度は元副官のほうから問いかけた。

「そうではありません…っ。ただ、私にもひとつ、あの者に感じた違和感があり…。もしや、と」

「違和感…だと?シアンについて何か知っているのか?」

「いえ…気に止めるまでもない馬鹿馬鹿しいコトですよ、ただ」

 酔いが少し冷めたのか、男は妙に深刻な顔をしてみせた。

 その変化を見抜いたバヤジットも、ガラリと表情を変えて冷静に向き直る。

「本当に…ふざけた違和感と思いまするが」

「──構わない。話せ」

 元副官はバヤジットに話すために、過去を思い起こしていた。

 それは初めてシアンに会った日だ。

 朝の訓練に参加していたあのクルバンを、自分に歯向かった罰として痛めつけようとした日である。

「あのネズミ──ッ…や、シアンが入隊してすぐの頃です。練兵所にて槍兵師団うちの部下と手合わせをさせたのですが」

「手合わせだと?」

「し、試験のようなものですな!奴の実力を知るために…入隊試験ということで……そ、その際にですね」

 男は慎重に言葉を選んだ。

 食堂にいる他の兵士には聞こえないよう、声をひそめ

 近付いたバヤジットにだけ恐る恐る話を続けた。


「あの者が…… " 型 " を使ったのです 」

「──…?」


 元副官は口の端を引き攣らせていた。自分の話しているコトの馬鹿馬鹿しさに笑いが抑えられないのだろう。


「終始、独特な戦い方をする奴でしてね。片腕ですし…それを庇うための戦法とも言える。しかし最後の…部下を負かした時のあの動き、あの構えに、奇妙なことに見覚えがありました」

「──…」

「あの動きは素人ではない。
 …いや、素人の偶然か……?」


 話しながら、よけいに混乱しているようにも見える。


「何を……見た?」


....



 バヤジットは爪の先にいたるまで身体の全体を緊張させて耳を傾けた。

 シアンのことになるときまって彼を襲う胸騒ぎが──

 今も、うるさく心臓を叩く。



「あれ──奴の " あれ " は剣術だ…!
 しかも実戦で使えるようなまともな剣術ではなく」


「──…!!」


「あの型は──…そう、…まさに
 ……代々の王族に伝えられる古典剣術のひとつ」



 元副官はそこまで話すと、急いで酒器をとって中を飲み干した。

 そして不気味に笑い始める。

 単なる私の思い過ごしだと

 もはや冷静でいられないバヤジットに対して、深く考えてくれるなと助言を残した。

 しかしどんな助言をしようとも後の祭り──

 腹の底にのしかかる緊張と混乱で、バヤジットの心は弾力を失っている。

 彼は無言で、宿舎を出た。








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