歪んだ三重奏 ~ドS兄弟に翻弄されル~ 【R18】

弓月

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奴隷宣告

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 結局、ミレイへのスパイ容疑は晴れた。

 代わりに彼女達は、図書館での " ふさわしくない行為 " を咎められ、一定期間、中央図書館への入室制限を科せられたのだ。


「ハァ……これで良かったのかしら?」


 二人が図書館から出された時間、外はすっかり暗くなっていた。

 赤レンガの街並みが照明で幻想的に浮かび上がっている。図書館前の広場は足元が点々とライトアップされ、暗がりの中に道を示していた。

 だが……前を行くこの男は、道を無視して構わず歩いていた。

「……」

 彼は前方にある花壇に気付いているのだろうか。ミレイはその後ろ姿を見守っていた。

 すると、案の定──

ガツッ 

「──…っ」

 やっぱり…!!

 花壇の段差につまずいて、男は芝生の上に俯せに倒れてしまった。


「……?」


 あれ、……起き上がらない!?


「…だっ…大丈夫ですか!? 」

 つまずいてこけたまま動かない男の元へ駆け寄る。

 打ち所が悪くて大事だったらどうしよう……。

「頭を打ったのかしら……!?」 

「……触るな」

「─あっ、意識はある……っ、起きられますか?」

「起きる気はない」

「え……ならどうやって帰るの……!? 」

 揺り動かすと、俯せのまま返事がきた。

 転げた状態で起き上がろうとしない彼に、ミレイは戸惑ってしまう。

「──…久しぶりに口を動かしたせいで疲れた……。家まで戻るのもダルい、……寝る」

「そんな……」

 寝る、なんて言われても

 これでは野宿になってしまう。

「せめて…ッ…あそこのベンチに……」

「‥‥‥」

「…もうっ」

 彼を立たせようとしたがスルーされ、仕方がないのでミレイは彼の腕を掴んで肩に回し、その身体を持ち上げた。

 こんな時に、そこらの女子より勝る腕力が発揮されるのだ。

 ミレイは肩を貸した状態のまま、背の高い彼をベンチまで引きずって行った。

 ……そして座らせる。

「……寮に戻らなくていいんですか?」

「……」

「こんな所で寝たら風邪をひきますよ」

「俺は風邪をひかない」

 どこからくる自信なのか。

 このまま放置は心配だが、彼は自分が何を言っても聞いてくれないのだろう。そういう人だということは十分にわかった。

“ ここで別れよう ”

 ミレイは自分だけ帰ると決めた。


 けれど……その前に


「あの…っ、ありがとうございました」

「……」

「結局、助けてもらう形になって……。そもそもこんなに処分が軽くなったのも、あなたが一緒にいたからだと思うし……」

 スパイ疑惑の件は置いておいたとしても

 彼女は立入禁止区域に入ったのだ。もっと重い罰則があっても本来ならおかしくなかっただろう。

「お礼に何かしたいけど……わたし、あなたの事を何も知らないし。せめてお名前だけでも教えてほしいです」

「……名前、を?」

「はい」

「断る」

「……っ」

「名乗る必要性を……感じない」

“ やっぱりそうくるよね ”

 彼の返答は予想通りといえばそうなので、ミレイはとくに驚かない。

 そうならばと

 彼女は軽く頭を下げて、向きを返るとその場から立ち去ろうとした。

「──…待てよ」

「…?はい…」

「名前を教える気はないけどさ……、助けた礼はもらわないと、気がすまない」

「…ッ 礼を…。なら、何をすればいいですか」

 男がミレイを呼び止める。

 助けたぶんの礼をしろと彼は言うのだけれど、赤の他人である彼女にはどうやったら彼が喜ぶのか見当がつかない。

 だが、確かにきちんと礼をするのがスジだろう。

“ 言葉だけじゃあ……たぶん駄目よね ”

 なら、何を?

《 そこに這いつくばって、俺に頼んでみたら? 》

「──…っ」

 あの時彼はそう言っていたけれど…

 なら、ここで手をついてお礼を言えば、満足してくれるのかしら?

 ミレイは軽々しく土下座をするのが好きではないが、でも…誠意を表すためには、確かにわかりやすい方法なのだ。

「……」

 ベンチに背を預けて脚を組んでいる男の前で、彼女はゆっくり膝を付いて座った。

「土下座でもするのか」

「……っ」

「そんな事されても、……面白くもなんともないんだけど」

「でも他に方法が……!」

「なら……そうだな。
 あんた、俺の奴隷になりなよ」

「‥奴隷ッ?」

 地面に膝を付いた低い位置から、彼女は男を見上げる。

 男は笑っていた──。

 だけどその瞳だけは……感情というものをいっさい削ぎ落としたような、冷ややかな色のままだった。

「これからは俺の言う事に全て従え……。面倒な事はあんたに任せればいいし……ああ、なかなか便利かもなぁ奴隷ってのは……」

「……それ……いつまで……?」

「俺が、飽きるまで」

「──…!!」

 彼女に拒否権など無いことをその口調が語っている。

 ミレイは何も言えず固まってしまった。

「ク…ククっ…なんだその顔は……。露骨に嫌そうだな」

 だって、奴隷なんて言われたら不安しか感じない。


「……ま、……あんたが俺の奴隷なら……?主人の名を知る権利くらいはあるんだろう」

「──…」

「東城、カルロだ」

「東城……?」


 男がミレイに告げた名は
 彼女にとって特別で

 彼女の日常を掻き乱す名前だった。


「あなたはスミヤさん達の……兄弟?」

 その事実を知っても彼女が妙に落ち着いていられるのは、頭のどこかでうすうす勘づいていたからだろう。

「スミヤ?──ああ……、あいつを知ってるのか」

「わたしは今……東城家の部屋に住んでいます」

「……へぇ」

 物珍しそうな目が、座る彼女をじろりと眺める。

「それなら遠からず、あんたはまた俺に会うことになりそうだな……」

「……」

「……だが……今日はここで寝る。あんたはひとりで帰りなよ」

「……はい、おやすみなさい」

 ペコッと頭を下げて、立ち上がったミレイは広場を走って出て行った。

 LGAに入学してからというもの、何かがおかしい。

 東城家に関わり、何故かその兄弟達と僅か数日で接点を持ってしまった。



 これは偶然なのか?

 まるで…──

 まるで運命が、彼女と彼等を引き合わせたようじゃないか。




 ミレイはまだ知らない。


 自分は彼等のひとりに恋をして


 その歪んだ愛を理解するために、ひどく苦しむことになる。


 そんな未来が、そう遠くないという事を───。
















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