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第4章 集まれ仲間達
行動開始 -11-
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「リリエンヌ。ちょうごうざいりょうをけいりょうするとき、これ、つかって?」
「……おっきい、はかり?……うわざら……てんびん? ……アルファードゥルークせい?」
正面の台座に書いてあることをリリエンヌが、読みながら疑問符を散らす。
「そ。いちおう、さいしんしきのてんびんなんだよ? ほんらいは、こまかいちょうせいがひつようなけいそくにはむいてないらしいんだけど、そこんとこは、ほら」
言いながら俺は、皿の1つをひっくり返して裏面に刻んだ魔法陣をリリエンヌに見せた。
「おれが、じゅうりょくまほうのじん、さらのうらにきざんどいたから。これでμgたんいから、kgたんいまでならなんとかなる。ルナルリアおうじょがなかまになったら、もっとすごいのつくってくれるように、おれからたのむけど、それまでは、これでなんとか、がんばってくれないかな?」
「じゅうぶんです! わたくしには、もったいないくらい……こんな、りっぱなてんびん……わたくし、エルドレッドさまに、してもらうばっかりで……」
ああ……憂い顔のリリエンヌも超可愛い。
でも、俺が見ていたいのは、そんな沈んだ表情のキミじゃないんだ。
俺に遠慮する必要なんぞ、キミにだけは、ないんだから。
「キミがしあわせでいてくれること、キミがえがおでいてくれること。それがおれにとっての、なによりのしあわせ。キミがこころからのぞんでいることを、かなえるためのてつだいができること。それが、おれにとっての、なによりのよろこび。だから、キミのためにおれができることをぜんぶやらせて? それが、おれの、ゆいいつの、のぞみだから」
「……エルドレッドさまっ」
その時、完全に2人の世界に入っていた俺は気づかなかったけど、俺達が見詰め合っている様を「くっ」と喉を鳴らして拳を握りながら見ていた城仕えの女達が「これで3歳……っ!」と呻くように呟いていたのだと、後になってエンディミオン殿下から聞いた。
その時の俺達を2人だけの世界から現実に戻したのは、周囲の人間ではなく、精霊だったからだ。
『オオーイ、エルドレッドォー。コクオウッテヤツカラ、ナキガハイッテンゾー? ヤクソクハマモルカラ、モウヤメテクレッテサー? ドウスルー?』
国王陛下の見張りにつけていた小精霊が、やって来て、やっと折れる気になったらしい野郎の台詞と共に、その判断を問いかけてきた。
「あー、おれがイオータラシェンドこうこくにいたとき、ほうこくうけたアレか。とりあえず、えんきのしょるいにサインしたらやめてやれ。それまではぞっこうで」
『オウヒッテヤツト、サイショウッテヤツ、ソレニ、トチュウカラミニキタ、ジジョチョウッテヤツガ、ソロソロ、コキュウコンナンデ、シニソウダケド、イイノカ?』
「……ねんのためにきくけど、なにしてんの? おまえら?」
『チビノヤツラガ、スキホウダイデキルカラッテンデ、ハリキッチマッテヨー』
そう言って聞かせてくれた、チビ精霊達が国王陛下にしている地味地味嫌がらせ攻撃の内容は、有り体に言って酷かった。
玉座から降りようと靴底が踏んだ場所だけをツルツルにして滑らされた国王陛下は、謁見の間の玉座前に数段ある階段をローリングしながら転げ落ちた。
それが始まりだったらしい。
エンディミオン殿下が巻き込まれることを恐れたアリューシャが “城の前にアンタが壊れるかもね!” と捨て台詞を残し、早々にその場を辞した後。
無言のまま全てをなかったことにして、立ち上がりかけた国王陛下は、また靴底と床がツルツルになった所為で滑って転び、俯せで石造りの床に沈んだ。
そんな所に洗濯場から持ってきた金盥に使用済みで灰色になって泡々している水が満杯になっているソレを天井付近から傾けて、中身を全部ぶっかけ、序でに金盥そのものも落として尻にぶつけた。
この辺りで宰相閣下が堪え切れずに床へ突っ伏して大爆笑を始めたらしい。
怒りにプルプル震えて宰相閣下を怒鳴りつけようと国王陛下が起き上がり、口を開いた所で、厨房から失敬してきたバゲットを丸ごと口に突っ込み、これまた厨房から持ってきた蓋付きの空鍋を天井付近から頭に落とした。
ここで、王妃様が半ばリタイア。
座っておられた王妃様専用の玉座の背に張りついて、上半身ごと国王陛下を見ないようにして肩を震わせ、ギリギリ堪えていたものの、床に転がった鍋とその蓋が、グワングワングワンと回りながら音を鳴らし、陛下がバゲットを口に咥えさせられたまま「もきゅぅ……」と力なく呻き声を漏らした所で、盛大に吹き出して大笑いしだしたらしい。
侍女長は、よせばいいのにそんな時、謁見の間に通じる使用人用の裏口から入って来て、カオス極まりないその光景に目を丸くしていたとか。
そんな折、精霊達が運んできた野の花をまるで勝利祝賀の時みたいにパッパカパッパカ国王陛下の上に撒きまくりながら、皆でピカピカ光ってクルクルと上空で回り、光属性のチビ精霊が、燃え尽きて死んでしまった人に注目を促すようなスポットライトじみたものを浴びせている光景を追加で見せられた。
この不意打ちに近かった一撃で限界値に達したらしい侍女長は、使用人用の裏口の扉を根性だけで閉め、取手に縋り付く様な格好で忍び笑いをしていたらしい。
『モウ、ソッカラハヨー、チビドモガ、コクオウッテヤツニ、ナンカスルタビニ、チラミシチャア、マタ、ワラウワケヨ、ソノサンニン。チビドモモ、チビドモデ、ワラッテモラエルノガ、ウレシクッテ、ショウガネェラシクテヨー。イチオウ、ヘヤジタイハ、フウサシテ、ヤッテハイルンダケド、ワライゴエハ、ソトニキコエチマウダロー? アノヘヤノマワリ、ナニガオコッテンノカ、ミタクテショウガネェレンチュウガ、ワンサカアツマッテンゾ?』
あかん。
外も含めて正にカオス。
想定以上に完全なカオス。
オカシイなー? 俺、そのチビ達は現臨させてねぇ筈なんだけど、どうやって金盥とかパゲットとか蓋付きの鍋とか持ってきたの、そのチビども?
え? チビの土属性精霊にも金属や鉱石を司ってるヤツはいる?
食い物はどの精霊でも関係なく持ち運び出来る? そうなんだー……へー……うぁっちゃー……。
ヤバイ、これ、どう考えても俺のミスだわ。
俺は、後ろ頭を右手の指先でボリボリ音を立てながら掻きながらそれを認め、仕方なさげにごちる。
「あー、うん。まー、たしかにそろそろ、しおどきっぽいかんじだな?」
「うん。ちちうえ、そんなあつかい、だれにもされたことないだろうから、かなりせいしんにきてそうだし?」
俺の言葉にエンディミオン殿下が同意して、そりゃそうだ、としか言えようなコメントを口にした。
「せいれいにもんくいって、くにからさられたりでもしたら、じぶんのだいでめつぼうかくていだもんね。もしそうなったら、やくそくやぶっただいしょうとしては、シャレになんないわ。いまくらいでちょうどいいんじゃない?」
「たいかは、こくおうへいかのちょっとしたじつがいとプライドのほうかいのみ、ですものね」
「……ふつうは、もうちょっとそこを、そんちょうしてあげないといけないのが、こくおうへいかにたいする、きぞくのぎむだとおもうのですけれど……?」
「わるいのは、ちちうえだし」
フランソワーヌとアリューシャの見解に、とっても良識的なリリエンヌのツッコミが入ったが、あろうことか、それを全面的に考慮の必要なし、と断じたのはエンディミオン殿下だった。
「ぼくも、あのへりくつきいたときには、せいれいたちに、とことんやっちゃえっておもったくらいなんだから、いいんじゃないかな?」
爽やかに言い放ったエンディミオン殿下の言葉で、一斉に頷いた侍女さん、メイドさん、女性騎士さん。
どうでもいいけど、人望ねぇな、あの国王。
「……おっきい、はかり?……うわざら……てんびん? ……アルファードゥルークせい?」
正面の台座に書いてあることをリリエンヌが、読みながら疑問符を散らす。
「そ。いちおう、さいしんしきのてんびんなんだよ? ほんらいは、こまかいちょうせいがひつようなけいそくにはむいてないらしいんだけど、そこんとこは、ほら」
言いながら俺は、皿の1つをひっくり返して裏面に刻んだ魔法陣をリリエンヌに見せた。
「おれが、じゅうりょくまほうのじん、さらのうらにきざんどいたから。これでμgたんいから、kgたんいまでならなんとかなる。ルナルリアおうじょがなかまになったら、もっとすごいのつくってくれるように、おれからたのむけど、それまでは、これでなんとか、がんばってくれないかな?」
「じゅうぶんです! わたくしには、もったいないくらい……こんな、りっぱなてんびん……わたくし、エルドレッドさまに、してもらうばっかりで……」
ああ……憂い顔のリリエンヌも超可愛い。
でも、俺が見ていたいのは、そんな沈んだ表情のキミじゃないんだ。
俺に遠慮する必要なんぞ、キミにだけは、ないんだから。
「キミがしあわせでいてくれること、キミがえがおでいてくれること。それがおれにとっての、なによりのしあわせ。キミがこころからのぞんでいることを、かなえるためのてつだいができること。それが、おれにとっての、なによりのよろこび。だから、キミのためにおれができることをぜんぶやらせて? それが、おれの、ゆいいつの、のぞみだから」
「……エルドレッドさまっ」
その時、完全に2人の世界に入っていた俺は気づかなかったけど、俺達が見詰め合っている様を「くっ」と喉を鳴らして拳を握りながら見ていた城仕えの女達が「これで3歳……っ!」と呻くように呟いていたのだと、後になってエンディミオン殿下から聞いた。
その時の俺達を2人だけの世界から現実に戻したのは、周囲の人間ではなく、精霊だったからだ。
『オオーイ、エルドレッドォー。コクオウッテヤツカラ、ナキガハイッテンゾー? ヤクソクハマモルカラ、モウヤメテクレッテサー? ドウスルー?』
国王陛下の見張りにつけていた小精霊が、やって来て、やっと折れる気になったらしい野郎の台詞と共に、その判断を問いかけてきた。
「あー、おれがイオータラシェンドこうこくにいたとき、ほうこくうけたアレか。とりあえず、えんきのしょるいにサインしたらやめてやれ。それまではぞっこうで」
『オウヒッテヤツト、サイショウッテヤツ、ソレニ、トチュウカラミニキタ、ジジョチョウッテヤツガ、ソロソロ、コキュウコンナンデ、シニソウダケド、イイノカ?』
「……ねんのためにきくけど、なにしてんの? おまえら?」
『チビノヤツラガ、スキホウダイデキルカラッテンデ、ハリキッチマッテヨー』
そう言って聞かせてくれた、チビ精霊達が国王陛下にしている地味地味嫌がらせ攻撃の内容は、有り体に言って酷かった。
玉座から降りようと靴底が踏んだ場所だけをツルツルにして滑らされた国王陛下は、謁見の間の玉座前に数段ある階段をローリングしながら転げ落ちた。
それが始まりだったらしい。
エンディミオン殿下が巻き込まれることを恐れたアリューシャが “城の前にアンタが壊れるかもね!” と捨て台詞を残し、早々にその場を辞した後。
無言のまま全てをなかったことにして、立ち上がりかけた国王陛下は、また靴底と床がツルツルになった所為で滑って転び、俯せで石造りの床に沈んだ。
そんな所に洗濯場から持ってきた金盥に使用済みで灰色になって泡々している水が満杯になっているソレを天井付近から傾けて、中身を全部ぶっかけ、序でに金盥そのものも落として尻にぶつけた。
この辺りで宰相閣下が堪え切れずに床へ突っ伏して大爆笑を始めたらしい。
怒りにプルプル震えて宰相閣下を怒鳴りつけようと国王陛下が起き上がり、口を開いた所で、厨房から失敬してきたバゲットを丸ごと口に突っ込み、これまた厨房から持ってきた蓋付きの空鍋を天井付近から頭に落とした。
ここで、王妃様が半ばリタイア。
座っておられた王妃様専用の玉座の背に張りついて、上半身ごと国王陛下を見ないようにして肩を震わせ、ギリギリ堪えていたものの、床に転がった鍋とその蓋が、グワングワングワンと回りながら音を鳴らし、陛下がバゲットを口に咥えさせられたまま「もきゅぅ……」と力なく呻き声を漏らした所で、盛大に吹き出して大笑いしだしたらしい。
侍女長は、よせばいいのにそんな時、謁見の間に通じる使用人用の裏口から入って来て、カオス極まりないその光景に目を丸くしていたとか。
そんな折、精霊達が運んできた野の花をまるで勝利祝賀の時みたいにパッパカパッパカ国王陛下の上に撒きまくりながら、皆でピカピカ光ってクルクルと上空で回り、光属性のチビ精霊が、燃え尽きて死んでしまった人に注目を促すようなスポットライトじみたものを浴びせている光景を追加で見せられた。
この不意打ちに近かった一撃で限界値に達したらしい侍女長は、使用人用の裏口の扉を根性だけで閉め、取手に縋り付く様な格好で忍び笑いをしていたらしい。
『モウ、ソッカラハヨー、チビドモガ、コクオウッテヤツニ、ナンカスルタビニ、チラミシチャア、マタ、ワラウワケヨ、ソノサンニン。チビドモモ、チビドモデ、ワラッテモラエルノガ、ウレシクッテ、ショウガネェラシクテヨー。イチオウ、ヘヤジタイハ、フウサシテ、ヤッテハイルンダケド、ワライゴエハ、ソトニキコエチマウダロー? アノヘヤノマワリ、ナニガオコッテンノカ、ミタクテショウガネェレンチュウガ、ワンサカアツマッテンゾ?』
あかん。
外も含めて正にカオス。
想定以上に完全なカオス。
オカシイなー? 俺、そのチビ達は現臨させてねぇ筈なんだけど、どうやって金盥とかパゲットとか蓋付きの鍋とか持ってきたの、そのチビども?
え? チビの土属性精霊にも金属や鉱石を司ってるヤツはいる?
食い物はどの精霊でも関係なく持ち運び出来る? そうなんだー……へー……うぁっちゃー……。
ヤバイ、これ、どう考えても俺のミスだわ。
俺は、後ろ頭を右手の指先でボリボリ音を立てながら掻きながらそれを認め、仕方なさげにごちる。
「あー、うん。まー、たしかにそろそろ、しおどきっぽいかんじだな?」
「うん。ちちうえ、そんなあつかい、だれにもされたことないだろうから、かなりせいしんにきてそうだし?」
俺の言葉にエンディミオン殿下が同意して、そりゃそうだ、としか言えようなコメントを口にした。
「せいれいにもんくいって、くにからさられたりでもしたら、じぶんのだいでめつぼうかくていだもんね。もしそうなったら、やくそくやぶっただいしょうとしては、シャレになんないわ。いまくらいでちょうどいいんじゃない?」
「たいかは、こくおうへいかのちょっとしたじつがいとプライドのほうかいのみ、ですものね」
「……ふつうは、もうちょっとそこを、そんちょうしてあげないといけないのが、こくおうへいかにたいする、きぞくのぎむだとおもうのですけれど……?」
「わるいのは、ちちうえだし」
フランソワーヌとアリューシャの見解に、とっても良識的なリリエンヌのツッコミが入ったが、あろうことか、それを全面的に考慮の必要なし、と断じたのはエンディミオン殿下だった。
「ぼくも、あのへりくつきいたときには、せいれいたちに、とことんやっちゃえっておもったくらいなんだから、いいんじゃないかな?」
爽やかに言い放ったエンディミオン殿下の言葉で、一斉に頷いた侍女さん、メイドさん、女性騎士さん。
どうでもいいけど、人望ねぇな、あの国王。
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