それはとても、甘い罠

ゆなな

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それは、とてもあまい罠

12話

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 無造作に肩に担がれていたが、降ろすときは宝物でも扱うかのようにそっとソファの上に置かれた。そこで漸く悠は正面からリョウの顔を見ると、先程一瞬だけ会間見えた獣のような獰猛な表情は消えていた。
 ソファに悠を座らせるとリョウは自分もその隣に座った。そっとその手首を取って、痛ましそうに眉を顰める。
「くっきり赤い跡が残ったな」
と、跡を長い指先で辿られる。薄い肌をすっ……と辿られ背筋がビクリと震えた悠を愛おしそうに眺めると
「顔色、悪いな。少し休んだ方がいい」
くしゃりと柔らかな栗色の髪の毛をかき混ぜた。
「あ……でも………」
 言いかけた悠の言葉を遮るように、その柔かな口元にリョウは指を当てて。
「ごめんなさい、は要らないよ。悠が俺に仕事抜けさせたの悪いって思ってるならおいで……」
「え………?」
 呼ばれたのは、リョウの膝の上。
「ココで、俺に聞いてもらいたかった話、してよ。」
 おいで、とリョウは隣に座る悠に腕を開く。
 決して強制するような声ではない。しかし悠はリョウの声に、蒼い瞳に逆らえない。Deep blueのカウンターの奥からおいで、と呼ばれるときのようにフラフラと彼に美しさに引き寄せられその腕の中に堕ちた。
 優しく膝に乗せられ、背中からぎゅっと抱き締められただけで心も躯も蕩けそうなほど安らいで癒されたことに悠は気付く。
(俺は、こうして欲しかったんだ───リョウ、さん──)
 リョウのマリンの匂いに躯の力が抜けたところを逞しい腕に抱き締められる。他人の熱は薄い皮膚が過敏に不快感を伝えるのに、リョウの熱は躯が蕩けそうなほど心地よい。疲れていた心が躯が満たされてゆく──
「で、何があった?」
 悠の肩に顎を乗せながら囁かれると、あまいバリトンが耳のすぐそばで流れる。艶かしいリョウの吐息が首筋にかかり、びくり、と悠の躯は震えた。
 感じやすいその姿にリョウは肉食獣のように獰猛な笑みを浮かべるが、悠からは見えない────
「た…いしたことじゃ、ないんです───」
と、悠が静かに首を振ると
「話して」
 逆らえない声色。後ろから抱き締められている腕にぐっと力を込められる。
 どくん、どくん、とうるさいくらい脈打つ鼓動はどちらのものなのか。
 命じられるままに、今日のことをぽつりぽつりと話し出す悠。話の合間に打たれる相槌の度に首筋を擽るリョウの吐息にビクリと震えるのを最初のうちは懸命に堪えていたが、彼の香りに包まれて悠の頭の芯が痺れる。悠の頭がぼんやり霞がかってきて、ビクリと震える躯を押さえられなくなってきたのを、リョウは笑う。
 後ろからきつく抱き締められていることから、頬にくちびるがあたる。
 全てを聞いたリョウの眉が不快そうに歪められたが悠の目には映らなかった。
──俺のものなのに、な──
 苦々しく吐き出されたちいさな呟きに対して
「え?」と悠が聞き返すと、仮面を付け替えるように優しい笑顔に表情を変えて悠を覗き込んだ。
「辛かったな……前に虐められたこと、思い出したんだろう?」
「うん……でも……あのときはリョウさんに教えてもらったとおりにしたらうまくいったし……あいつらもう学校からいなくなったし……」
 躯に回されていたリョウの手がするっと悠の心臓の辺りに触れる。
「…悠の心臓、すごくドキドキしてる……嫌がらせされて怖かった?」
 ちいさな動物のようにドキドキと脈打つ心臓の音は薄い肌を破ってしまうのではないかと思うほど。
「あ………大丈夫……だいじょうぶ、です」
 リョウの香り、吐息、薄い制服のシャツ越しに感じる彼の熱、それらに反応して加速する悠の鼓動。悠の五感がリョウの蕩けそうな毒を敏感に感じとって、正常な判断力を悠から奪う。
「あっ…………………」
 心臓の辺りで鼓動を確認しているような動きをしていたリョウの手。その長くて美しいが男らしく骨ばった指先が、つ……と制服のシャツ越しに悠の、胸の先に触れた……明確な意思をもって違わずにちいさな胸の先に触れたというのに、それはまるで偶然だとでもいうような動きで。
 悠の頬だけでなく頭の中までぽやぽやと火照り出し、正常な判断力が奪われてゆく────
 それくらい、リョウの腕の中は心地よくて。
「ほら……すごい、ね。悠の心臓壊れちゃいそう。」
「っ……んん……」
 言いながら、またリョウの指が胸の先に触れて……
今度は、制服の白いカッターシャツの上からぷつりと膨れてしまったそこを指先で何度も優しく引っ掻くように擦られる。
 ただでさえ、薄い皮膚の悠の胸の先はとても敏感で感じたことのないあまったるい痺れが躯に走る……
みっともなくて恥ずかしい声を我慢しなくちゃと思うのに、リョウの香りに蕩けている躯は云うことをきかない。
「あ…………っ……リョウさんっ……リョ……ウ…さんっ……ひ………っ」
 きゅっ、と先を摘ままれて悲鳴が上がると、悠の躯を少しずらしてその細い顎先をぐっと持ち上げられ、あ………と思ったときにはくちびるを奪われていた。
 くちびるを優しく押し付けられながらシャツの上から胸の先に触れられる。くちびるも胸の先も熱くて熱くて、頭の中までぼうっと痺れて…だめ………だめ…………ちゃんと、考えられなくなっちゃう………そう思いながらも悠の指先は抵抗するどころか、リョウの見た目よりずっと逞しい二の腕のあたりに弱々しく縋りついている。
 ちゅ……ちゅ………と啄まれてからくちびるを少しだけ離される。
 それを、少しだけ寂しいと思いながら自分に触れていたとは信じられないくらい綺麗な形のリョウのくちびるをぽやんと見つめてしまう。
 くくくっとリョウは笑うと
「そんな目で見たら、だめ、だっていつも言ってるだろ?」
 ああ、あんまり美味しそうで我慢、出来なくなるよ───
 え……と口を開く間もなく再びくちびるを塞がれた。今度は二、三度押し付けられた後、くちびるを濡れた熱いもので辿られて、合わせたくちびるの合間からあますぎる悲鳴が漏れた。ぴちゃりと濡れた音を立てられ全身の肌が粟立った。
「悠……舌、出してごらん……」
「できな…っ………」
「だめ。……出しなさい」
 気持ちいい、という感覚は悠のこころと躯に溜まった不快な感覚を流して、あまやかな感覚で満たしてくれる。香りに感触に溺れながら、とうとう淡く色づいたくちびるの、狭間からおずおずと紅く濡れた舌が覗かせた。
 思わずぎゅっと瞳を瞑ると感じて潤みすぎていた瞳から雫が零れた。だから、見えなかったのだ。
濡れた舌を啜る寸前のリョウの獰猛な獣のような表情が。
 最上級の贄に喰らい付くように、紅い舌に吸い付いた。やわらかくてあまい極上の果実を味わうように舌を絡めると驚いたように胸を押されるが、力など殆ど籠っていない。皮膚の上でさえこれ程までの感度であるのに、粘膜を愛撫されるのは悠にとって如何ほどであろうか──
「ふっ……んんっ……………」
舌を吸われて、頭の芯が蕩けかけたそのとき。
「あっ………………」
 制服のカッターシャツの下に、さらりと乾いているけれど、火傷しそうに熱っぽい手のひらが潜りこんだ。服の上からの刺激でぷつりと恥ずかしいくらいにたちあがった胸の前を軽く摘ままれて、キスの合間からあまい声が漏れてしまう。舌を吸われて、舐められて、蕩けかけると胸の先を弄られて…
 ちゅくちゅくとキスの濡れた音さえも敏感な耳を愛撫する。
 だめ。もう、もう────
 訴えようにも熱い舌に掻き回されて、言葉にはならないあまい喘ぎが漏れるだけで。
「…………っんんん」
 声にならない悲鳴を上げて悠は達してしまった。
漸く、くちびるが解放された悠がぼんやりと蕩けた瞳で、はぁはぁ…と苦しい吐息が整えながらリョウを見ると……彼の蒼い瞳はいつもの優しい色ではなく、深い海の底の蒼のように昏く情欲に濡れていて…
背筋がぞくぞくするほど怖いのに。腰が震えるほど壮絶に色っぽくて…
(どうしよ……俺…)
 悠の薄い耳にかかる髪の毛をリョウはその長くて美しい指先でそっと触れて……
 それから、誘惑が流し込まれた───
「…ベッドにいこうか…悠。子供の世界のことなんて、些末などうでもいいことに思える世界に連れていってあげるよ」
 危険なほど艶かしく深く輝るブルーサファイアの瞳の美しさに身も心も蕩けさせられた悠には、もう拒めるはずなんてなかった。早く、大人になってしまいたかった。
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