それはとても、甘い罠

ゆなな

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番外編

Happy birthday dear Ryo2

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 ライトが絞られたフロアの中を前橋にエスコートされるように歩いてソファのある席に辿り着くと、苺の入ったシャンパングラスを渡された。苺に目がない悠は苺に誘われるようにグラスに口を付けた。
 苺の甘酸っぱい香りがシャンパンの芳醇な香りと混ざって沈んでいた気持ちを少しだけ浮上させてくれた。
「ストロベリーシャンパン気に入ってくれたみたいだね」
 前橋は嬉しそうに言って悠の肩に手を置いた。その瞬間、薄い皮膚は躯に走った不快な感覚。思わずその手を避けると
「大丈夫。リョウさんからはここは見えないよ」
悠が何に警戒したのかを勘違いした男の囁きが耳に流し込まれて全身に鳥肌がたった。リョウ触られて立ててしまう鳥肌とは違って、不快な吐き気を伴ってぞわぞわと走るそれに思わずソファの端に躰を寄せ周囲を見回すが、沢山の人がいるのに、フロアの一番隅にあるソファ席に意識を遣るものはいなかった。
「可愛い……敏感なんだね」
 シャンパンのアルコールは強くて、既にクラクラし始めていたがなんとか男を押しやって抵抗する。
 騒ぎにしたくなくて、大声を出さないようにしていたが、これはもう仕方がないと悠が腹を決めたその時。
「前橋さん、この子未成年なんですけど、もしかしてアルコール飲ませました?」
 氷のように冷たい声が降ってきて、顔を上げると其処にはリョウがいた。
「や……君だって前にこの子に飲ませていたじゃないか」
 前橋が言うと
「あれはノンアルコールです」
リョウはしれっと嘘を返し、悠の手にあったシャンパングラスを手に取ると、それを一口飲んだ。
「あなたのような立場の方が未成年に飲酒させたなんてバレたら大変ですね?」
 そう言って前橋を睨み付けると悠の腕を掴んで立たせるとそのまま無言で悠のことを連れ出した。

******
 スタッフルームに置いた悠のバッグを取ってそのままリョウに引きずられるように店の外に出た。
 急に動いたので益々アルコールが回ってふらふらする躯を強引に引かれて、道路に出た。
 てっきり地下駐車場に向かってリョウが運転する車で帰るものだと思っていたが、リョウはタクシーを捕まえるとそのままするりと乗り込んで自宅マンションの住所を告げた。
「今日は色んな人が来ているから俺の傍にいろって言ってたよね?」
 珍しく苛々とした口調のリョウ。確かに言いつけを守らなかったのは悠だけど、謝りたくなくて、ふい、と窓の外に視線を遣った。
 車内は重苦しい雰囲気に包まれたまま、リョウのマンションに辿り着いた。リョウの自宅には寄らずそのまま帰ってしまいたかったが、誕生日に喧嘩したまま帰るわけには行かず、部屋に行った。
 大きな窓から綺麗な夜景が見えるリョウの自宅のリビング。
 いつもソファに座るリョウの脚の間が悠の定位置だけれど、今日は誕生日だというのに、そこには座らず並んで座った。
「何であんなところに付いて行ったの? あんな男と遊びたかった? そんなわけないよな?」
 ソファに座ると両手をぎゅっと掴まれて諭すように言われた。
「…………」
 言いたくなくて俯くと、小さな溜め息がリョウから漏れた。
 折角の誕生日。こんな雰囲気にしたかったわけじゃない。自分なりの精一杯のプレゼントをリョウが馬鹿にしたりするはずはないと分かっていても、大人のプレゼントを目の当たりにして、どこまでも子供な自分が恥ずかしくなってしまったのだ。
 目の奥が熱くなってしまって、ぽたり、と涙が落ちた。
 そうなると止まらなくてぽたぽたと次々と涙が溢れてきた。
 暫く悠の涙に気付かなかったリョウだったが、俯いた悠からキラキラと光ものがぽたぽたと悠の膝に落ちていくのが見えると
「ごめん。泣かせたかったわけじゃない」
 大きな掌が、優しく悠の頭を撫でた。
 それからそっと涙を親指で拭って
「俺がパーティーに誘ったのに、一人にさせたからだよな……俺が悪かったのに怒ってごめん。泣かないで……」
 そう言って泣きべそ顔を覗き込まれた。
 ああ、結局謝らせてしまった……彼の誕生日なのに。
 また更に涙が出てしまって、自分が子供なのが嫌になってしまう。
 涙に濡れた目で見上げると、大人な彼が悠の涙に動揺しているのがわかった。
「……今日のパーティー……お客さんが沢山来るって聞いてたし……パーティーの間はリョウさん俺の相手は出来ないってことはちゃんと分かってて……」
 涙混じりに言葉を紡ぐと、真剣な瞳で悠の話をリョウが聞こうとしてくれているのが分かった。
「だから……傍で待ってるのは全然……いいんですけど……」
 悠が言葉を詰まらせると、先を急かすことなく、静かにリョウは待ってくれた。
「……綺麗な大人の人が多かったし……プレゼントも……俺は子供っぽいもの用意してきちゃったな……って思ったら……ここがすごく痛くなってきちゃって」
 そう言って悠が心臓の上の辺りのブルーのセーターをぎゅっと掴むと、リョウが息をのんだのがわかった。
 子供っぽいとやはり呆れられてしまっただろうか。
 そう思った次の瞬間。
「……やばい。可愛すぎる………」
 うんと低い声で唸るように言ったリョウにきつく抱き締められた。
「リョウさん……っ?」
「悠より綺麗で可愛い人なんて会ったことないよ。妬いてくれる悠可愛くておかしくなりそう……」
 そう言って、リョウの唇が悠の唇をそっと塞いだ。何度も柔らかく啄んで、最後にちゅる、と音を立てて優しく舌を吸われたら、それだけで頭がぼんやりとして、顔が熱くなってくる。
「プレゼント……用意してくれたの、見たい」
 唇が触れ合うようなところで、色っぽく掠れた声で囁かれる。
「……笑わない……?」
「笑わない。悠が選んでくれたもの見たい」
 砂糖を煮詰めたように甘い声でねだられたら、悠は嫌だなんて言えなくて、ソファの傍らに落ちていたバッグからラッピングされた箱を取り出した。
「結構大きいね。何だろう」
 何かワクワクするな、と言いながらリョウは包装紙を外した。
 中から出てきたのは、ポータブルゲーム機だった。
「や、マジで嬉しいんだけど」
 人気のゲーム機を手にして、嬉しそうなリョウの顔は嘘を言っているようではなかった。
「この前、悠のゲーム機で二人で遊んだとき楽しかったもんな」
 嬉しそうにリョウが言う。
「リモコン外して一台でも二人で遊べるけど、一人一台ずつあったらもっと色んなゲームできるし……離れてるときもオンラインで一緒に遊べたりするし……」
 そこまで言って、やっぱり子供っぽいと思い恥ずかしくなってしまい、悠は赤くなってまた俯いてしまう。
「俺も買おうと思ってたんだけど、売り切れのところ多くてさ……これ手に入れるの大変だったよな」
 大切そうに箱をテーブルに置いてから真っ赤になった悠を抱き上げた。
「明日はいっぱいこれで一緒にゲームしよう。楽しみだ。でも……」
 今夜はもうずっとベッドでもいい?
 可愛すぎて、限界。
 
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