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分岐点④※軽い性描写があります。
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月曜日、出勤したユリは同僚に『沢田さん』について尋ねた。
『沢田さん』は、とても仕事のできる女性らしい。
『沢田さん』は、寂し気な顔立ちをしているらしい。
『沢田さん』は、色白で小太りの、色気のあるタイプらしい。
『沢田さん』は、昨年の暮れに離婚したらしい。保育園に通う娘がいたが、元の夫が引き取ったらしい。
とても情報通のこの同僚は、同時にとても噂好きだ。ユリが、夫の同僚について尋ねたことを、面白おかしく尾ひれを付けてすぐに広めるだろう。
構わないと思った。むしろ、『沢田さん』や秀夫のもとに噂が届けばいいと思った。
二人はどんな反応をするだろう。あの手紙を読んだ時のユリのように、不安になるだろうか。怒るだろうか。
それとも、本当に『沢田さん』は何の関係もなくて、秀夫に苦情を言うだろうか。
もしそうなったら、秀夫はユリを責めるだろう。
構わない。その時は改めて、あの手紙について秀夫に問いただすだけだ。自分を信じないのかと、秀夫は憤るだろう。取り返しのつかないケンカになるかもしれない。
構わない。すでにユリは、秀夫が信じられない。
何の反応も手ごたえもないままに、土曜日になった。
秀夫の出発は来週の水曜日だ。その日は空港まで送る約束をしたので、ユリも有休を取っている。
いつもの通り、秀夫はフットサルに出かけた。飲み会もしばらく参加できなくなるし、おそらく今夜は遅くなるだろう。ユリは簡単に夕食を済ませた。
10時過ぎにベッドに入り電気を消すと、すぐに玄関のドアを開ける音がして秀夫が帰ってきた。予想より、随分早い。出迎えようか、どうしようか。悩んでいると、秀夫が寝室に入ってくる気配がする。とっさにユリは寝たふりをした。
「ユリ、寝ちゃった?」
少し呂律の怪しい声が、耳元で聞こえる。かなり飲んでいるのだろう、息が酒臭い。
「ねぇ、ユリ…」
秀夫の手が、背中からユリの胸を鷲掴みにした。驚いて、目を見開く。そのままタオルケットをベッドの下にずり落とし、秀夫がユリの上にのしかかってくる。
気持ち悪い。とっさにそう思った。声が出ない。
ユリは無言で秀夫の体を力いっぱい押し、距離を取ろうとした。構わず秀夫がユリを抱きしめる。嫌だ。気持ち悪い。必死で抵抗する。声は出ない。
秀夫は足でユリのパジャマのズボンとショーツを一度に脱がせ、力づくで膝を開かせると、なんの愛撫もなくいきなり押し入ってきた。
痛い。苦しい。気持ち悪い。
早く。早く終わって。唇を噛みしめて、ユリは耐える。
酒臭い息がだんだん荒くなり、小さなうめき声とともに、秀夫がユリの中で果てた。
「ユリ、愛してる…」
耳元で、秀夫が囁く声が聞こえた。
脱力した秀夫の体を無理やり押しやって、ユリは浴室に駆け込んだ。
(どうしよう…どうしよう…)
シャワーを浴びながら、必死で体をこする。
(今ので子供ができたらどうしよう…どうしよう…)
あんなに望んでいたのに。
ユリはもう、秀夫との未来を描けない自分に気がついた。
熱いシャワーを浴びながら、涙と震えが止まらない体を抱えるようにして、浴室の床にうずくまる。
いつから?一体いつから自分は、秀夫を愛していないんだろう?
『沢田さん』は、とても仕事のできる女性らしい。
『沢田さん』は、寂し気な顔立ちをしているらしい。
『沢田さん』は、色白で小太りの、色気のあるタイプらしい。
『沢田さん』は、昨年の暮れに離婚したらしい。保育園に通う娘がいたが、元の夫が引き取ったらしい。
とても情報通のこの同僚は、同時にとても噂好きだ。ユリが、夫の同僚について尋ねたことを、面白おかしく尾ひれを付けてすぐに広めるだろう。
構わないと思った。むしろ、『沢田さん』や秀夫のもとに噂が届けばいいと思った。
二人はどんな反応をするだろう。あの手紙を読んだ時のユリのように、不安になるだろうか。怒るだろうか。
それとも、本当に『沢田さん』は何の関係もなくて、秀夫に苦情を言うだろうか。
もしそうなったら、秀夫はユリを責めるだろう。
構わない。その時は改めて、あの手紙について秀夫に問いただすだけだ。自分を信じないのかと、秀夫は憤るだろう。取り返しのつかないケンカになるかもしれない。
構わない。すでにユリは、秀夫が信じられない。
何の反応も手ごたえもないままに、土曜日になった。
秀夫の出発は来週の水曜日だ。その日は空港まで送る約束をしたので、ユリも有休を取っている。
いつもの通り、秀夫はフットサルに出かけた。飲み会もしばらく参加できなくなるし、おそらく今夜は遅くなるだろう。ユリは簡単に夕食を済ませた。
10時過ぎにベッドに入り電気を消すと、すぐに玄関のドアを開ける音がして秀夫が帰ってきた。予想より、随分早い。出迎えようか、どうしようか。悩んでいると、秀夫が寝室に入ってくる気配がする。とっさにユリは寝たふりをした。
「ユリ、寝ちゃった?」
少し呂律の怪しい声が、耳元で聞こえる。かなり飲んでいるのだろう、息が酒臭い。
「ねぇ、ユリ…」
秀夫の手が、背中からユリの胸を鷲掴みにした。驚いて、目を見開く。そのままタオルケットをベッドの下にずり落とし、秀夫がユリの上にのしかかってくる。
気持ち悪い。とっさにそう思った。声が出ない。
ユリは無言で秀夫の体を力いっぱい押し、距離を取ろうとした。構わず秀夫がユリを抱きしめる。嫌だ。気持ち悪い。必死で抵抗する。声は出ない。
秀夫は足でユリのパジャマのズボンとショーツを一度に脱がせ、力づくで膝を開かせると、なんの愛撫もなくいきなり押し入ってきた。
痛い。苦しい。気持ち悪い。
早く。早く終わって。唇を噛みしめて、ユリは耐える。
酒臭い息がだんだん荒くなり、小さなうめき声とともに、秀夫がユリの中で果てた。
「ユリ、愛してる…」
耳元で、秀夫が囁く声が聞こえた。
脱力した秀夫の体を無理やり押しやって、ユリは浴室に駆け込んだ。
(どうしよう…どうしよう…)
シャワーを浴びながら、必死で体をこする。
(今ので子供ができたらどうしよう…どうしよう…)
あんなに望んでいたのに。
ユリはもう、秀夫との未来を描けない自分に気がついた。
熱いシャワーを浴びながら、涙と震えが止まらない体を抱えるようにして、浴室の床にうずくまる。
いつから?一体いつから自分は、秀夫を愛していないんだろう?
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