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神隠しという強引なアピール
第5モフり ゆらりと揺れる尻尾の影を追う
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(さて、洋食が……あ! 具体的なメニューの指定せず完全おまかせのまま頼んじゃったぁ)
俺が一体何を心配してるのか、それは俺が食において好き嫌いが激しいからだ。例を挙げるならば、海鮮系全般はOUTである。寿司は食えるが旨さがわからないと、いう感じに他にも野菜等と好き嫌いが非常に多いのだ。
(食べ残しなんてしたら……ゴクリッ……非常に申し訳ないしぃ……嫌われるかも、あわわわわ)
そんな俺の心配もよそに、木が擦り合わさる音が聞こえる。その音は次第に大きくなりこちらへと近づいて来ているのがわかる。
その音の正体は四体の狐面をつけて黒い調理服を着た絡繰り人形であり、彼らが食事を運んできたのだった。
テーブル付近まで近づいた所で青葉が反応する。
「おお! やっときたか」
「……コトッ」
彼らが皿に乗った食事を並べていく。
「すまないねぇ」
「わぁーー、ご飯だーーー」
と、各々反応を示す。
「ありがとうございます」
「……カタッ」
反応はない、それはそうさ人形だから。しかし操っている酒膳さんへと感謝の気持ちを皆向けているのだった。
「さーてと、おぉこれは! セーフッ!」
嫌いなものは一つもなかったのだ。幸運なものだ。
「おや? その安堵した様子だと、運ばれてくる料理に緊張してたのかな?」
「ええまぁ、何分好き嫌いが激しくてですね」
「そいつに関しちゃ安心しな。酒膳はそいつの好みとか何が食えて何が食えないとかの判別が一瞬でつくんだ。苦手なものはそう出ないさ」
「へーーー、好き嫌い多いんだぁ。かわいいねーー」
「お前は黙ってさっさと食え! 酩酊野郎!」
「あーーん、もー青葉がいじめるよぉ! 助けて翠蓮ちゃーーん」
そのように忙しなく話している内に俺は三人の料理を見つめる。
喜久彌にはご飯、味噌汁、焼き鮭、油揚げ。
青葉には、ご飯、味噌汁、肉巻き油揚げ、たくあん。
翠蓮にはわかめご飯、味噌汁、煮物、いなり寿司。といった感じのメニューだった。それにしても全部に油揚げがあるな……。
因みに俺のはご飯、ハンバーグ、人参、ブロコッリー、オムレツだった。さながらお子様ランチみたいなのが気になるが……まぁいいか。
そして皆で分けて食べる大皿料理には、だし巻き卵、刺し身、サバの味噌漬け、餃子があった。各個人の好みに合わせているようだ。
翠蓮《すいれん》が話を切り替える。
「はいはい。それじゃ頂くよ」
「いただきます」
と、4人同時にそれぞれの言い方で言い、手を合掌した。
「もぐもぐッ」
(まぁ、やっぱし美味いな。にしてもここの店みたいな景色は実に良いが、この広さや椅子やテーブルの数の多さは推定5人程が生活するには大仰すぎるな。)
(他にも狐娘がいるのか? ならなぜここにいない? 時間を分けているのか? それとも狐朱さんみたく、偶々いないのか?)
謎は深まるばかりという感じだ。俺は考える、なぜここにいるのか? もう夜だというのなら、家にいる親が心配をしているのではないか? そもそも帰れるのか? 帰りたいかと言われれば、勿論“NO”だ。ここに居たいさ、しかしだからといって本当に死んだわけでも無いのに帰らないというのは、無責任というもの。せめて一報でも遅れればいいのだが……。
(いや待てよ……これが神隠しなら俺は行方不明者になるし、それなら……死んだも同然か!)
(ならば無理に帰ろうとしなくても良いのでは!? ……いやそもそも永住させてくれる。もしくはしてくれと言われていない以上、明日には帰されるかもしれない。それに時間は一ミリたりとも経たず元の時間に戻されるかもしれない)
それは嫌だ。そう強く心に突き刺さる。折角の楽園を自ずと捨てるなぞ、愚の骨頂。だが、甘えるわけにもいかない。相手は仮にも神格化された存在、下手を打てばこちらにとって良くない。まぁ何にしても身を流れに任せるしか無い……が、まぁ俺は生きているわけだし、死んだとか何かの事件に巻き込まれたと思われて心配かけるのは良くないよなぁ……。
(刹那の夢を満喫できたんだと、考えるべきかもなぁ)
「青年、どうしたんだい? そんな辛気臭い顔して」
「あーいえ、特段なにかあるわけじゃないんですけど……ただふと、俺はどうしてここにいるのかなって」
「あーそれね、まぁ恐らくだけど追々わかるさ。それと家の事とかは考えなくていいよ」
「え、それってどういう……」
「なーおい、それよりかぁよ。そこの刺身醤油取ってくれよ」
急な横槍により、俺の意識がそれて乱される。
「あーはい、どうぞ」
「お、サンキューなー」
(……まぁ、考えても仕方ないか。黙って食おう)
◆
そうして各々の食事を済ませ、絡繰り人形が残った食器をかたしに来た頃
彼女らが話し始めた。
「ふぅー食った食った」
「じゃあボクはもう部屋に戻って寝るねぇ」
「じゃーなー喜久彌。さてとアタシも戻るとするかな。じゃーなぁー」
そうして二人は扉を抜けて去っていった。
「私もそろそろ、眠くなってきたよ。青年はどうする? 部屋に戻って寝るのも良し、風呂にでも入るのも良し。好きにすると良い」
俺はふと考える。このまま眠るのもいいが、せっかくだしここのお風呂というものを体験してみようと結論付ける。
「じゃあお風呂に入らせてもらいますかね。炎天下の下にいたもんで、結構汗かいてて」
「そうか。それじゃ、お暇させてもらうよ。じゃーね、青年」
「はい、おやすみなさい」
翠蓮達と別れた後、俺は一人で廊下を歩いている。
(お風呂場か、イメージするんだっけ? イメージ、イメージ……)
俺は想像する。風呂場のイメージを……。その扉が現れるのを……。
「んんん……ハッ!」
なにも起きなかった。
「……だめやん! ……ん? アレは」
すると、目線の先に「ゆ」と書かれた紫色の柄付き暖簾を見つける。
「あ! あった! やったーーーー!」
嬉々として俺は駆け込む。
「さーてと、入りますか。……ガラガラっと」
そこには人の気配が全くない脱衣所だった。さながら温泉といった所だ。
「ほー、牛乳瓶等が入ったケースに、フリーのタオル、トイレに洗面台、何でもあるな」
しかし、一つだけ問題があった。俺はそのことに気づく。
「ん? 入ってすぐ脱衣所? ……!! 男女別じゃない!」
このことが示すことは、つまりは実質の混浴と言える。だがそもそもこの屋敷には女性しか住んでいなかったのだから、男女別である必要性は無かったのかもしれない。
(やばいぞ! もし誰か入って来たら……いやでも、時間帯によって男女の利用が違う温泉もあると聞く、ならば……まぁ大丈夫か)
そう思うことにした俺はそのまま服を脱いでタオルを手に取り、念のためにそれを腰に巻き付けた。
「さーてと、お邪魔しまーす。おお! やっぱ広いな!」
俺はここまで広い温泉をほぼ貸切状態で使えることに興奮していた。なぜなら特別感と優越感に少しの罪悪感がスパイスとなり、俺の心は少年のそれとなっていた。
「いやーいいねぇ。さて、体をまずは洗わないとな」
そうして俺は近くの洗い場へと向かった。
「フッフンッ! フンッフ、フフフンッフンッ……」
と、鼻歌まじりに体を洗う。すると鏡になにか映りこむ。
「ん!? 今なにか」
そう言い俺はあたりを見渡す。しかしそこには誰もいないし、怪しげな音や影もない。聞こえるのは俺自身の反響した声と水音のみ。
「気の所為か? 何か黒いものが見えたような?」
おれはそのまま体を洗い続ける。だが、俺の影には尻尾のような何かがうごめいていたのだった。
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次回予告 なんでもありな浴場に湿り浸る尻尾
俺が一体何を心配してるのか、それは俺が食において好き嫌いが激しいからだ。例を挙げるならば、海鮮系全般はOUTである。寿司は食えるが旨さがわからないと、いう感じに他にも野菜等と好き嫌いが非常に多いのだ。
(食べ残しなんてしたら……ゴクリッ……非常に申し訳ないしぃ……嫌われるかも、あわわわわ)
そんな俺の心配もよそに、木が擦り合わさる音が聞こえる。その音は次第に大きくなりこちらへと近づいて来ているのがわかる。
その音の正体は四体の狐面をつけて黒い調理服を着た絡繰り人形であり、彼らが食事を運んできたのだった。
テーブル付近まで近づいた所で青葉が反応する。
「おお! やっときたか」
「……コトッ」
彼らが皿に乗った食事を並べていく。
「すまないねぇ」
「わぁーー、ご飯だーーー」
と、各々反応を示す。
「ありがとうございます」
「……カタッ」
反応はない、それはそうさ人形だから。しかし操っている酒膳さんへと感謝の気持ちを皆向けているのだった。
「さーてと、おぉこれは! セーフッ!」
嫌いなものは一つもなかったのだ。幸運なものだ。
「おや? その安堵した様子だと、運ばれてくる料理に緊張してたのかな?」
「ええまぁ、何分好き嫌いが激しくてですね」
「そいつに関しちゃ安心しな。酒膳はそいつの好みとか何が食えて何が食えないとかの判別が一瞬でつくんだ。苦手なものはそう出ないさ」
「へーーー、好き嫌い多いんだぁ。かわいいねーー」
「お前は黙ってさっさと食え! 酩酊野郎!」
「あーーん、もー青葉がいじめるよぉ! 助けて翠蓮ちゃーーん」
そのように忙しなく話している内に俺は三人の料理を見つめる。
喜久彌にはご飯、味噌汁、焼き鮭、油揚げ。
青葉には、ご飯、味噌汁、肉巻き油揚げ、たくあん。
翠蓮にはわかめご飯、味噌汁、煮物、いなり寿司。といった感じのメニューだった。それにしても全部に油揚げがあるな……。
因みに俺のはご飯、ハンバーグ、人参、ブロコッリー、オムレツだった。さながらお子様ランチみたいなのが気になるが……まぁいいか。
そして皆で分けて食べる大皿料理には、だし巻き卵、刺し身、サバの味噌漬け、餃子があった。各個人の好みに合わせているようだ。
翠蓮《すいれん》が話を切り替える。
「はいはい。それじゃ頂くよ」
「いただきます」
と、4人同時にそれぞれの言い方で言い、手を合掌した。
「もぐもぐッ」
(まぁ、やっぱし美味いな。にしてもここの店みたいな景色は実に良いが、この広さや椅子やテーブルの数の多さは推定5人程が生活するには大仰すぎるな。)
(他にも狐娘がいるのか? ならなぜここにいない? 時間を分けているのか? それとも狐朱さんみたく、偶々いないのか?)
謎は深まるばかりという感じだ。俺は考える、なぜここにいるのか? もう夜だというのなら、家にいる親が心配をしているのではないか? そもそも帰れるのか? 帰りたいかと言われれば、勿論“NO”だ。ここに居たいさ、しかしだからといって本当に死んだわけでも無いのに帰らないというのは、無責任というもの。せめて一報でも遅れればいいのだが……。
(いや待てよ……これが神隠しなら俺は行方不明者になるし、それなら……死んだも同然か!)
(ならば無理に帰ろうとしなくても良いのでは!? ……いやそもそも永住させてくれる。もしくはしてくれと言われていない以上、明日には帰されるかもしれない。それに時間は一ミリたりとも経たず元の時間に戻されるかもしれない)
それは嫌だ。そう強く心に突き刺さる。折角の楽園を自ずと捨てるなぞ、愚の骨頂。だが、甘えるわけにもいかない。相手は仮にも神格化された存在、下手を打てばこちらにとって良くない。まぁ何にしても身を流れに任せるしか無い……が、まぁ俺は生きているわけだし、死んだとか何かの事件に巻き込まれたと思われて心配かけるのは良くないよなぁ……。
(刹那の夢を満喫できたんだと、考えるべきかもなぁ)
「青年、どうしたんだい? そんな辛気臭い顔して」
「あーいえ、特段なにかあるわけじゃないんですけど……ただふと、俺はどうしてここにいるのかなって」
「あーそれね、まぁ恐らくだけど追々わかるさ。それと家の事とかは考えなくていいよ」
「え、それってどういう……」
「なーおい、それよりかぁよ。そこの刺身醤油取ってくれよ」
急な横槍により、俺の意識がそれて乱される。
「あーはい、どうぞ」
「お、サンキューなー」
(……まぁ、考えても仕方ないか。黙って食おう)
◆
そうして各々の食事を済ませ、絡繰り人形が残った食器をかたしに来た頃
彼女らが話し始めた。
「ふぅー食った食った」
「じゃあボクはもう部屋に戻って寝るねぇ」
「じゃーなー喜久彌。さてとアタシも戻るとするかな。じゃーなぁー」
そうして二人は扉を抜けて去っていった。
「私もそろそろ、眠くなってきたよ。青年はどうする? 部屋に戻って寝るのも良し、風呂にでも入るのも良し。好きにすると良い」
俺はふと考える。このまま眠るのもいいが、せっかくだしここのお風呂というものを体験してみようと結論付ける。
「じゃあお風呂に入らせてもらいますかね。炎天下の下にいたもんで、結構汗かいてて」
「そうか。それじゃ、お暇させてもらうよ。じゃーね、青年」
「はい、おやすみなさい」
翠蓮達と別れた後、俺は一人で廊下を歩いている。
(お風呂場か、イメージするんだっけ? イメージ、イメージ……)
俺は想像する。風呂場のイメージを……。その扉が現れるのを……。
「んんん……ハッ!」
なにも起きなかった。
「……だめやん! ……ん? アレは」
すると、目線の先に「ゆ」と書かれた紫色の柄付き暖簾を見つける。
「あ! あった! やったーーーー!」
嬉々として俺は駆け込む。
「さーてと、入りますか。……ガラガラっと」
そこには人の気配が全くない脱衣所だった。さながら温泉といった所だ。
「ほー、牛乳瓶等が入ったケースに、フリーのタオル、トイレに洗面台、何でもあるな」
しかし、一つだけ問題があった。俺はそのことに気づく。
「ん? 入ってすぐ脱衣所? ……!! 男女別じゃない!」
このことが示すことは、つまりは実質の混浴と言える。だがそもそもこの屋敷には女性しか住んでいなかったのだから、男女別である必要性は無かったのかもしれない。
(やばいぞ! もし誰か入って来たら……いやでも、時間帯によって男女の利用が違う温泉もあると聞く、ならば……まぁ大丈夫か)
そう思うことにした俺はそのまま服を脱いでタオルを手に取り、念のためにそれを腰に巻き付けた。
「さーてと、お邪魔しまーす。おお! やっぱ広いな!」
俺はここまで広い温泉をほぼ貸切状態で使えることに興奮していた。なぜなら特別感と優越感に少しの罪悪感がスパイスとなり、俺の心は少年のそれとなっていた。
「いやーいいねぇ。さて、体をまずは洗わないとな」
そうして俺は近くの洗い場へと向かった。
「フッフンッ! フンッフ、フフフンッフンッ……」
と、鼻歌まじりに体を洗う。すると鏡になにか映りこむ。
「ん!? 今なにか」
そう言い俺はあたりを見渡す。しかしそこには誰もいないし、怪しげな音や影もない。聞こえるのは俺自身の反響した声と水音のみ。
「気の所為か? 何か黒いものが見えたような?」
おれはそのまま体を洗い続ける。だが、俺の影には尻尾のような何かがうごめいていたのだった。
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