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第30章 巡る巡る夏の夜
お祭り満喫中! #2
しおりを挟む「ど、どういうことですかクリスティド国王陛下、エリアス女王陛下………!」
セオドアは小声で2人に聞く。幸い国民達はお祭りに夢中で気づいていない。エリアスは『お久しぶりです』と町娘のようにドレスを持ち上げ礼をしてから、舌を出して笑った。
「はなびたいかい、というものに参加してみたくて、クリスティド様と共に城を抜け出したのですわ」
「抜け出した、とは………」
「ああ。勿論遊ぶ為だけじゃない。この祭りを参考にし、はなびを見て、我が国でも取り入れようかと視察をな。
………国民達は笑顔だ。全ての出店も楽しい。サクリファイス大帝国だけでこれを行うのは勿体ないな、とエリアス嬢と話していた所だ」
「……………しかし、立場を弁えるべきですわ、護衛を連れずに………」
アミィールがそう言うが、クリスティドは爽やかな笑みで人差し指を横に振った。
「あまり私たちを舐めないでくれ、アミィール嬢。我々は年老いたが未だに現役だ。暗殺者などにやられるほど温い生き方をしていない」
「ええ。仮に100万人がこの国に乗り込んできたとしても、わたくしとクリスティド様が入れば50万人ずつで始末することは容易ですわ」
「………………」
セオドアは閉口する。
滅茶苦茶怖い国王と女王である。
さらっと断言できるのが大物感ある。
黙っているセオドアをエリアスは軽く撫でて、クリスティドの服を引っ張る。
「クリスティド様、そろそろ違うところに行きましょう。はなびが始まる前に、様々な出店を視察しなければ」
「そうだね。邪魔したよ、またね」
2人はそう言って人混みに消えていった。
この祭り………凄くないか?国のトップが渡り歩いているんだぞ?護衛なしに。
呆然としているセオドアのズボンを、アドラオテルが引っ張った。
「父ちゃん、おれ、これやりたい」
「ママ、きんぎょさん、わたくしもしたいです」
「ああ、やってみようか。……アミィもいいかい?」
「勿論でございます」
セオドア一家は気を取り直して金魚掬いをした。アドラオテルは何度もポイの紙が破けて癇癪を起こし店員からお情けで1匹貰い、セオドアとセラフィールは全く取れず、アミィールは初めてだと言うのに店の金魚を取り尽くして出店の者に『勘弁してください』と泣かれて………結局アドラオテルの1匹と、セラフィールにも1匹……二匹の金魚を貰ったのだった。
* * *
「きんぎょー!」
「アド、振り回してはなりませんよ」
「パパ、わたくしの金魚、みてくださいまし」
「ああ、綺麗な白色だね」
そんな話をしながら広間の方へ向かう。
さっきのクリスティド国王陛下とエリアス女王陛下はびっくりしたな。まさか居るとは思わなかった。国を置いて出歩くのは賛同できないが…………
そんなことを思いながら射的コーナーに来た。案の定アドラオテルが騒ぎ出す。
「俺もあれやるー!」
「わたくしもー!」
「あっ、アド!セラ!お待ちくださいまし!」
「アミィ、アド、セラ!」
3人はさっさと行ってしまう。
子供達が居るとデートどころじゃなくなるな____って。
セオドアは追いかけるのをやめて、ひとつの射的の出店を見る。見覚えのあるごまプリン頭に、青紫色の髪。あんなキャラの濃い背中はユートピアに二人しかいない。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
フランは大声を上げながら射的用の銃を乱射している。それを隣で見ているのはサクリファイス大帝国皇族の魔剣で幽霊、乙女ゲーム『理想郷の王冠』の攻略対象キャラであるダーインスレイヴ。
ダーインスレイヴは呆れた声で言う。
「フラン、ひとつも当たってないぞ。金をドブに捨てる遊びなのか?しゃてき、というのは」
「ダーインスレイヴ様!今は肩の調子が悪いだけなのです!貴方のハートも射止めますよ!」
「はあ、全部空回るけどな」
「なら、ダーインスレイヴ様もやってくださいよ!」
応援ありがとうございます!
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