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クリスとイクシオン・ロード
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【ペナンの森】
森のあちらこちらに赤色の狼煙が騰がっており、ギルドマスターであるロジックと何かあれば救援に向かうために待機していた冒険者と騎士団達は狼狽えていた。
「これは、どうなっているんだ…。」
「ロジックさん!指示を!」
「ああ、4人1組になって救出をするんだ。魔物の討伐よりも退却を優先するように。おそらく、イクシオンが大量発生しているか、もしくは、上位種が現れている可能性が高い。気を付けろよ、お前達。」
「「了解!」」
冒険者と騎士団達は、班を作ってクリス達を救出しに森の中へと入っていった。
「頼むぞ、お前達。」
ロジックは、冒険者と騎士団達を見送りながら呟いた。
そんな時、リースとガディウス達が心配してやって来た。
「ロジック、狼煙が沢山出ているけど、今、森の中で一体何が起きているの?」
「リ、リース様。それに、【ドリア】の皆様。」
「良いから早く答えなさい、ロジック。」
「それが、私も現在、何も把握できてません。おそらく、イクシオンが大量発生しているか、考えたくない話ですがイクシオンの上位種が多数現れたかと推測してます。」
「その可能性は高いわね。」
「ドリアードの加護と何か関係があるかもしれませんね。」
「ええ、そうね。上位種がいるかもしれないから、念のためにツーマンセルで行動する様に。医療班も連れてきたからロジックと此処にいる騎士団と冒険者は、医療班の警護する様に。」
「あの、ところでリース様はどうなされるつもりですか?」
「行くに決まっているじゃない。だって、クリスもいるのよ。じゃあ、行くわよ。」
「「ハッ!」」
リースを筆頭に【ドリア】メンバーは、森の中へと入っていった。
【アイリス側】
「ギィ!」
アイリスは左右の手に双剣を握ったまま、トーマス達の護衛しながら森を出ようとしていた。
その時、右側の木の陰からイクシオンが飛び出して鋭い右爪で切り裂こうとアイリスに襲い掛かる。
「ヤッ!」
アイリスは左手の剣でイクシオンの右手を弾き、右手の剣でイクシオンの胴体を斬った。
「ギィ…。」
イクシオンは、その場に倒れた。
「~っ!左に避けなさい!良いから早く!急いで!」
アイリスは慌てて指示を出し、ボル達もすぐにアイリスの指示に従った直後、木の上から無数の水弾が襲ってきたが無事に避けることができた。
「アクア・ショット!」
アイリスは、木の枝の上にいるイクシオンに向かって無数の水弾を放つ。
イクシオンは口から水弾を放ち、相殺させようとしたが、アイリスの水弾の方が威力があり、放った水弾は全て粉砕されて被弾した。
被弾したことによってイクシオンは、木の枝から落下する中、アイリスがジャンプして目の前まで接近しており、アイリスは左右の手に握っている剣でイクシオンの胴体をクロスに斬った。
アイリスが地面に着地して、ワンテンポ遅れてイクシオンが落下して地面に落ちた。
背後から気配がしたのでアイリスは振り向。いた直後、イクシオンが飛び出てきた。
「リーフ・カッター!」
イクシオンの横から鋭い葉っぱが複数枚飛んできてイクシオンを切り裂いた。
「危ないじゃない!リース。」
アイリスは、魔法が飛んできた方に振り向いて怒鳴る。
「あら?助けてあげたのに、お礼の言葉じゃなくって怒られるとか心外だわね。」
リースは、わざとらしく口元に手を当てて驚いた表情をした。
「当然よ!もし、私がイクシオンに斬り掛かっていたらリーフ・カッターは私に直撃していたわ!」
「その時は、気付かない方がいけないじゃない!」
「あなた、馬鹿なの?ううん、馬鹿でしょう。」
「馬鹿とは何よ!この被害妄想女!」
「誰が被害妄想女よ!この脳筋女!」
「の、脳筋女ですってぇ~。あなたこそ、クレームばかりのオバタリアンじぁない!」
「私が、お、お、オバタリアンですってぇ~!」
「そうよ、良かったじゃない。大人の仲間入りできて。お、ば、さ、ん。」
「~っ!誰が、おばさんよ!あなたこそ、人のか、彼氏を奪おうと必死になって簡単にキスまでする阿婆擦(あばず)れじゃない!」
「あ、阿婆擦(あばず)れですてぇ~!」
「少し落ち着いて下さい、リース様、アイリス様。」
「「五月蝿いわよ!」」
「~っ!?」
その時、アイリス達の左側にある茂みがカサカサと揺れて音がした。
「アクア・ショット!」
「エナジー・ショット!」
怒りのままアイリスは圧縮した水弾を無数に広範囲に放ち、リースは自身の魔力と自然の魔力を合成して圧縮した緑の魔力弾を無数に広範囲に放った。
茂みから出てきたのは、イクシオンではなく冒険者の男性をおんぶしたクリスだった。
「「えっ!?嘘…。」」
激怒したまま魔法を放ったアイリスとリースは、クリスの姿を見て呆然と立ち尽くした。
「「避けて下さい!クリス様!」」
「避けろ!クリス!」
「避けて!クリス君!」
ガディウスやボル達が叫ぶ。
アイリスとリースが放った水弾と魔力弾は、木々を意図も容易く貫通しながらクリスに迫る。
「ちょっ、何で攻撃を!?うわっ!うっ、フッ、くっ!」
(このままだと、攻撃を避けるのは無理だ。)
状況を見て無理だと判断したクリスは、自身の魔力で身体強化し、更に自然の魔力を利用して身体強化を最大限まで高め、冒険者の男性をおんぶしたまま、素早く左右に動きながらギリギリで攻撃を躱していき、最後、左側にジャンプして木の幹を蹴って三角飛びをして全て避けることに成功しアイリス達の前に着地した。
「「す、凄い…。」」
ボル達は、クリスの身体能力を間近に見て感嘆した。
「ふ~、本当に死ぬかと思ったよ…。」
「「ごめんなさい。」」
シュンっと落ち込みながら謝罪するアイリスとリース。
「何がともあれ無事で良かったです。しかし、まさかクリスが、この世界で【女帝】と謂われているマミューラしか使えないと言われている天和(テンホー)の使い手とは驚きだな。」
「「天和(テンホー)?」」
クリス達は、頭を傾げた。
「あなた達知らないの?天和は、自然の魔力を利用して身体強化のことよ。私達、木属性の使い手は自然の魔力を魔法に利用はできるけど、体内に取り入れ自在にコントロールする身体強化はできないの。だから、天に選ばれ自然と調和する魔法。それを略して天和と名付けられたのよ。」
「へぇ~、そうだったんだ。」
「ねぇ、そんなことよりも、これからどうするの?討伐を優先するの?それとも、撤退を優先して1度退くの?」
「そうね…。」
「リ、リース様!このイクシオンを見て下さい。」
「何よ?え!?嘘…灰色じゃなくって黒だなんて…。」
「リース、黒って珍しいの?」
「ええ、イクシオンは普通は灰色なんだけど…。」
「そうなんだ。でも、僕が向こうで倒したイクシオンは、そこに倒れている同じぐらいの大きさと、もう1匹は体長2mぐらいで棍棒を持ったイクシオンを倒したけど、どちらも黒色だったけど?」
「リース様!」
「ええ、救出して1度撤退した方が良さそうね。アイリス、クリス力を貸して頂戴。」
「やれやれ、仕方ないわね。わかったわ。」
「ハハハ…。もちろん。」
「ありがとうアイリス、クリス。」
「「ありがとうございます。」」
ガディウスやトーマス達は、頭を下げた。
「あ、あの…。」
クリスにおんぶさせている冒険者の男性が、申し訳なさそうに声を掛けた。
「何だ?」
「クリス様はイクシオン・チーフを簡単に倒してしまいましたが、その…。」
「何だ?さっさと言え。」
「大変、失礼なことだと存じますが、クリス様が戦ったイクシオン・チーフは【ドリア】様方と同等ぐらいの魔力を放ってました。」
「何だと!?」
「はい、間違いありません。クリス様とイクシオン・チーフの戦いを間近で見ましたので…。」
「ク、クリス、あなた一体…。」
「ただ殴って、断罪の剣で真っ二つに斬っただけだよ?」
「断罪の剣ですか?その腰に掛けてある剣は名刀なのですか?」
「いえ、この剣はどこでも一般に販売してある普通の剣ですよ。」
クリアは、腰から鞘ごと抜いてガディウスに手渡した。
「本当ですね。名匠が作った品物でもなく、我が国で作られた一般に市販されている剣ですね。」
「じゃあ、断罪の剣って何なの?」
「断罪の剣は、誰でも作れるものですよ。剣をイメージした自身の魔力で剣ですから。」
クリスは、右手に魔力を集中させ剣をイメージして断罪の剣を作り出した。
断罪の剣から冷気が出ており、周囲の気温が下がる。
「「~っ!」」
クリスの膨大な魔力と、その膨大な魔力をギリギリまで圧縮した濃密な魔力を目の当たりしたアイリス達は息を呑んだ。
「な、何という重厚感がある魔力と威圧感。今までに、見たことや感じたことがないほど魔力が圧縮されている…。」
「ねぇ、クリス。その断罪の剣の切れ味はどうなの?」
「さぁ?とりあえず、あの岩を斬ってみるよ。離れてて危ないから、よっと。」
クリスは、右手を誰にも見えない速さで横に振りながら同時に魔力を高めて剣を伸ばした。
岩や周囲に変化はなかったが、ワンテンポ遅れて周囲にある木々や岩が真っ二つに切断されておりズレて大きな音を立てながら倒れた。
岩や木々の切断面は凍っていた。
「まぁ、切れ味はこんな感じかな。」
「ある意味、大魔法よりも殺傷力が高くない?」
「まぁ、斬るために特化した技だからね。それよりも早く、救出に向かわないと。」
「ええ、そうね。魔力感知では、あと5組みたいわね。」
「【ドリア】の人達が向かっているみたいだから、残りの1組の救出と森を出るまでのユリ達の護衛だけね。メンバーは私とクリス、リースとガディウスで分かれてしましょう。」
「ちょっと、アイリス!何で、あなたとクリスが組むのよ!」
「当たり前でしょう?だって、私とクリスは連携が取れるのだから。リースは、クリスと一緒に訓練もしたことないから無理でしょう?それに、残念だけど、私もガディウスさんとは訓練もしたことないから無理よ。お互いに、無理に連携を取ろうとしたら隙ができて危険でしょう?」
「~っ!くっ…。」
「アイリス様の言っていることは正しいです。さぁ、行きましょうリース様。」
「わかったわよ!私達は救出に向かうわ!クリス、この件が終わったら私と訓練するわよ!良いわね!」
リースは、クリスを指差す。
「ハハハ…良いよ。」
「ちょっと、クリス!」
「良かったら、アイリスも一緒に3人で訓練しようよ。」
「クリスが、どうしてもと言うなら良いわよ…。」
「じゃあ、どうしても。」
「わ、わかったわ。ほ、本当にクリスは仕方ないわね。私が居ないといけないわね。」
「そうだね。いつも、ありがとうアイリス。」
「い、良いわよ。お礼なんて…。」
「あ~!すぐイチャイチャして!」
「はぁ。リース様、早く行きましょう。」
「ちょ、ちょっと、ガディウス。待って、待ちなさい!」
「待ちません!今は一刻も早く、救出に向かうべきです!」
ガディウスはリースの手を取って強制的に連行するように引きずって行く。
「アイリス、イチャイチャするのは多目に見てあげるけど。今、以上に親密な関係になったら絶対に許さないんだからね!」
リースは、アイリスとクリスに振り向いて大声を出しながら森の中へと消えていった。
「~っ!リース!あ、あなた、な、何を考えているのよ!そんなこと、大きな声で言わないで頂戴!」
アイリスは顔を真っ赤にして大声を出し、アイリスの声は森の中に響いた。
「落ち着いて、アイリス。さぁ、僕達も行こうよ。」
「え!?ど、何処に?私達、その…まだ早いと思うのだけど…。だけど、クリスがどうしてもって言うなら…。」
アイリスは、恥ずかしそうに俯きながら左右の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジしながら頬を赤く染めて上目遣いでクリスを見つめる。
「え?森を出るまで、ボル達の護衛だけど?」
「そ、そうよね。アハハ…リースが変なこと言うから。」
「ん?」
「はぁ、何でもないわ。それよりも、行きましょうクリス。」
残念そうに落ち込んでため息を突いたアイリスは、頭を左右に振って気を取り直してクリスの手を取って森の出口へと向かった。
【【ドリア】メンバーのアニーとルドス側】
国王直轄護衛騎士団【ドリア】のメンバーのアニーとルドスは、逃げ遅れた騎士団2人と生徒2人の前に出て、剣と盾を持っているイクシオン・ソルジャー1匹と交戦していた。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは、巨体に似合わないほどに素早く動きながら握っている剣を振り下ろしてアニーに斬り掛かる。
「な!?速い!くっ。」
アニーは剣で防いだが、イクシオン・ソルジャーの攻撃が重く後ろにズリ下がった。
「大丈夫か?アニー。」
ルドスは、アニーの前に出て身構える。
「はい、大丈夫です。ですが、気を付けて下さいルドスさん。普通のイクシオン・ソルジャーより、このイクシオン・ソルジャーは遥かに強いです。見た目も灰色じゃなく黒色ですし、信じられませんが魔力も私達と同等ぐらいあります。何より、肉体も強化しておりパワーもあり動きも素早いです。この強さは、まるで、あのイクシオン・ジェネラルと同等の強さと変わらない強さだと思います。」
「ああ、俺も、そう思う。気を引き締めて掛かるぞ。だが、無理はするなよ。俺達の目的は討伐じゃない、生徒達を救出して撤退することだからな。そのことを忘れるなよ、アニー。」
「はい!」
「来るぞ!」
アニーが返事した瞬間、イクシオン・ソルジャーはアニー達に向かって走った。
「「リーフ・カッター。」」
アニーとルドスは、無数の葉っぱを召喚して剣を振ってイクシオン・ソルジャーに向かって放つ。
放たれた無数の葉っぱは、木の枝や茂みを切り裂きながらイクシオン・ソルジャーに迫る。
イクシオン・ソルジャーは怯まず、速度を落とすことなく左手に握っている盾に魔力を纏わせて前に出して突き進む。
アニーとルドスが放った無数のリーフ・カッターは、イクシオン・ソルジャーの盾を切断するどころか掠り傷しかつけられなかった。
「チィ、やはり、同等の魔力を保有しているな。」
ルドスは舌打ちし、接近したイクシオン・ソルジャーは剣を横に凪ぎはらおうとする。
「エナジー・ショット!」
アニーは4発の魔力弾を放ったが、イクシオン・ソルジャーは盾で防いだが自身の盾でルドスとアニーの姿が見えなくなったが剣を横に凪ぎはらった。
しかし、そこに2人の姿はなく、剣は空振りになり木々を横に真っ二つに切断した。
イクシオン・ソルジャーは、右側から膨大な魔力を感知して振り向くとアニーが剣を握っている腕上げており、その上に魔法陣が浮かび上がっていた。
「ソーラー・レイ!」
アニーはイクシオン・ソルジャーが振り向いた瞬間、剣を振り下ろすと同時に魔法陣から光線が放たれた。
イクシオン・ソルジャーは盾で防げないと悟り、口から高圧の流水を吹き出して相殺させた。
「嘘…。大魔法が、相殺されるなんて。でも!」
驚愕したアニーだったが、口元に笑みを浮かべた。
「そこだ!」
ルドスは木の枝のから飛び降り、イクシオン・ソルジャーの頭上から降下しながら剣を叩きつける様に振り下ろす。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは、すぐに剣で迎撃しようとする。
「リーフ・バインド!」
アニーは地面に剣を突き刺して木魔法リーフ・バインドを唱えるとイクシオン・ソルジャーの足元から木の蔓が伸びてイクシオン・ソルジャーの剣を握っている右手首を拘束する。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは慌てて左手に握っている盾で防ごうとしたが、右手と同様に蔓が巻き付いており動かすことができなかった。
そして、ルドスの一撃がイクシオン・ソルジャーの頭に決まり、イクシオン・ソルジャーは大きな音を立てながら倒れて息絶えた。
「どうにか倒せましたね。」
「ああ、ジェネラルと同等の魔力と力はあったが、戦闘経験が浅かったから助かった。あの時、口から高圧の流水を吐かれていたらヤバかった。」
「はい。それに、まさか私のソーラー・レイが相殺されるとは思わなかったです。本当に1体で助かりました。」
「ああ、そうだな。これは、一刻も早く報告しないと大変なことになる。並みの冒険者や騎士団でも危険だ。早く戻るぞ。」
「はい。」
ルドスとアニーは、騎士団と生徒達と一緒に森から出ようと急いだ。
【リースとガディウス側】
ルドスとアニーとは違い、2人は先に冒険者と生徒達を逃がしてイクシオン・チーフとイクシオン・ファナティクの2匹と交戦し苦戦していた。
「こいつらは、強いです。」
「ええ、厄介ね。3年前は、こんな変異種は居なかったのに。」
「そうですね。まずは、1体ずつ確実にしとめましょう。エナジー・ボム!」
ガディウスは、肯定しながら左手を挙げて掌に大きな自然の魔力と自身の魔力を混合させた魔力弾を作り出して走って迫ってくるファナティクに放つ。
無防備状態のファナティクに直撃し爆発した。
「エナジー・スピア!」
リースは右手に握っている剣を振り下ろして魔力の槍を5本放ち、土埃煙が舞い上がった。
「手応えはあったわ。まず1匹ね…え!?」
自信があったリースだったが、土埃の中からファナティクの大きな右手が現れ、ギリギリで双剣をクロスにして防ごうとしたが剣ごと上半身を鷲掴みされた。
「きゃっ。」
「リース様!この!」
ガディウスは迷わずに大剣を両手で握り締めて振り上げ、リースを握っている胴体に槍が3本と左右の腕に槍が1本ずつ突き刺さって流血しているファナティクの右腕を切断しようと飛び掛かる。
しかし、ガディウスはチーフの警戒を疎かになり、空中でチーフの棍棒が右の脇腹に当たり鎧を砕かれ鈍い音と共に弾き飛ばされた。
「ぐぁ。」
弾き飛ばされたガディウスは木々をへし折り、最後に地面の上を転がって止まったが、何本か肋骨が折れてしまい激痛で、すぐには立ち上がれなかった。
ファナティクは、リースを食べようと大きな口を開いて口元に移動させる。
「この離しなさい!くっ、いや~!」
リースは魔力を最大まで上げて必死にもがくが、もともとの力が弱いため身体強化してもビクともしない。
もうダメと思ったリースは目を閉じ、そして、周囲に血が飛び散った。
しかし、痛みがなかったリースは恐る恐ると目を開けると、目の前いるファナティクの心臓がある胸の位置の辺りから子供の小さな手が貫通しており子供の手が目の前で止まっていた。
すぐに子供も手は引き抜かれて見えなくなると、同時にファナティクは膝から崩れ落ちて倒れた。
ファナティクは倒れる直前に握っていた手に力が抜けたので、リースはすかさず脱出した。
そして、リースは誰が助けてくれたのかを確認するためにファナティクの背後に視線を向けるとクリスがいた。
「間に合って良かった。」
「ありがとう、クリス。やはり、あなたは私の運命の人ね。」
「危ない!」
「え!?」
頭だけ後ろに振り向くと、目の前にチーフの棍棒が迫っていた。
「きゃっ!」
リースは咄嗟に目を瞑ると同時に優しく抱きかかれた感触があった。
クリスがリースをお姫様抱っこしてジャンプをし、チーフの棍棒の先端に音を立てずにソッと着地した。
「ギィ!?」
棍棒を野球のバッドの様にスイングしたチーフは手応えがなく空振りに終わったので、周囲を見渡したが何処にもクリスとリースの姿を見つけることはできなかった。
そして、すぐに振った棍棒に重みを感じて振り向くとリースをお姫様抱っこしたクリスが棍棒の先端に立っていた。
「だぁぁ!」
クリスはチーフが振り向いた直後、天歩で自然の魔力を上乗せさせて身体強化を限界まで上げた状態でジャンプして空中で体を捻りながら回し蹴りをしてチーフの頬を蹴りを入れた。
「~っ!」
チーフの巨大な体は両足が宙を浮き、駒の様に回転して吹き飛ばされた。
木の幹に凭れ掛かる様に倒れたチーフの首は大きく捻れており絶命していた。
「ところで、クリス。どうして、あなたが此処にいるの?アイリスと一緒に森の出口に向かったんじゃなかったの?」
「ハハハ…まぁ、途中まではね。途中で、リースのことだからイクシオンをあまく見て油断してそうだったから不安になって、アイリスに言って僕だけ駆けつけたんだ。予想が当たったみたいだね。」
「~っ!よ、余計なお世話よ!助けてなんて一言も言ってないし、助けなんて必要なかったんだから!あと少しで、自力で抜け出せていたんだから!」
「ハハハ…ごめん。」
「ふ、フン、まぁ良いわ。一応、助けて貰った形になったから、お礼だけ言うわせて貰うわ。ありがとう。」
「どういたしまして。ところで、ガディウスさんは?」
「あ!そういえば、ガディウスのこと忘れていたわ。チーフに殴られて吹き飛ばされたのよ。」
「え?ガディウスさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。うっ…あばら骨を何本か持っていかれたが、命には別状ない。」
「すみません、もう少し早く来ていれば…。」
「いや、そんなことはない。クリス君が助けに来てくれて本当に助かったよ。リース様と私だけでは殺られていた。正直、イクシオンがこれほど強くなっていようとは思わなかった。その油断が、この有り様です。日頃から他人に油断するなよっと言っていたんだがな。初心に戻れた。」
「そうですね、油断せずに戦っておれば勝てていたと思います。イクシオンの動きを見れば戦闘経験が浅かったですし、リースなら大魔法を使えば確実に倒せていたと思いますよ。」
「あ、当たり前よ!」
突如、クリス達の横からイクシオン・ソルジャーが飛び出した。
「ギィ!」
ソルジャーは剣を横に振り抜き、クリス達をまとめて斬ろうする。
クリスは負傷しているガディウスを肩に担いでバックステップして離れ、リースはジャンプして攻撃を回避しながらイクシオンの頭上を飛び越えて背後に回った。
「ギィ!」
イクシオンは、リースの動きに合わせて顔を動かす。
「はい、これで終わりよソーラー・レイ。」
リースは、着地と同時に剣先をソルジャーの顔に向けて木属性の大魔法ソーラー・レイを唱えた瞬間、剣先から魔法陣が出現し光線が放たれた。
光線はソルジャーの顔面を飲み込み、空の雲を撃ち抜いき、細くなって消滅した。
光線に飲み込まれたソルジャーの顔面は真っ黒に焦げており後ろにゆっくりと倒れた。
「どう?クリス。凄いでしょう!」
「あっ、うん。凄いね。流石、リースだね。」
「フフン!当たり前でしょう。油断なんてしなければ、あんなの私の敵じゃないわ。」
リースは胸を張って自慢気に話す。
「ありがとう、助かったよクリス君。うっ…。」
「大丈夫ですか?ガディウスさん。リース、治癒魔法は使える?」
「勿論よ。誰にものを言っているのよ。」
「じゃあ、あとは任せたよ。」
クリスは、ガディウスを木の幹に凭れ掛かる様に座らせた。
「仕方ないわね。リーフ・エレメンタル・ヒール。」
リーフは、ガディウスの骨折している胸部の場所に手を翳(かざ)して魔法を発動した。
リースの掌から緑色の魔力に覆われ内部出血して腫れていた胸部に当てると、胸部はみるみると腫れが癒えていった。
(魔法の威力も想像以上で驚いたけど、それよりも発動が早い。これが、木属性の特有の自然の魔力を利用する魔法。他の属性魔法とは違い、自然の魔力を利用することで魔力の溜めと消費を抑えられ、威力も増す。特にリースは聖霊ドリヤードを宿している分、他の者達よりも格段に早く、そして、威力も段違いに高いな。)
クリスは倒れているソルジャーを見ながら、リースの戦いを思い出していた。
「ありがとうございます、リース様。」
「気にしないで良いわよ。それより、クリスどうしたの?」
「いや、聞いた話だとイクシオンは滅多に現れない魔物で現れても下位種しか現れないと聞いていたんだけど。今回は、上位種がこんなにも沢山現れているから変だなと思っただけだよ。」
「リース様…。」
「ええ、イクシオン達がドリヤードの加護を手に入れたことで力を増して、今なら国を落とせると思って侵攻しているかも知れないわね。」
「だったら、急いで戻ろう。それから、対策を考えないと最悪な事態に陥るかも知れない。」
クリスが告げると、リース達は深刻そうな表情で無言で頷いて肯定した。
クリス達は国に戻り、すぐに警戒レベルを最大にして騎士団だけでなく冒険者にも防衛を依頼し、国中にアナウンスで国民全員に知らせた。
この時、運が良く、【風魔】の件が片付いて間もなかったので、誰1人、国から外出した者はいなかった。
【ヨンダルク城前】
城の前には、報告を受けた国王であるヨルズが緊急召集の命令を出し、護衛についていない冒険者達と交代待ちの騎士団達が集まっていた。
場の空気は張り詰めており、誰一人も声を出さず静寂が訪れていた。
冒険者や騎士団達の前にヨルズや妃のリオン、リース、ヨンダルク国の国王直轄護衛騎士団【ドリア】メンバーのガディウス達だけでなく、バルミスタやシリーダ、アイリス、クリス、スノー・ランド国の国王直轄護衛騎士団【六花】のメンバーがヨルズとバルミスタを先頭に次々に現れる。
ヨルズとバルミスタを中心にクリス達は移動して待機し、ヨルズとバルミスタは一歩前に出た。
「突然の召集に応じて集まってくれたことに感謝する。まず、今現在、何が起こっているのかを実際、現場で行った【ドリア】のリーダーであるガディウスから説明して貰う。ガディウス。」
「ハッ!では、説明をするから聞いてくれ。まず、アイリス様が参加されると耳にしたので様子が気になり森が見える窓から外を見ていた際、緊急事態を知らせる狼煙が騰がっていたこと気付き、我々が救助に向かったのだが…。」
ヨルズから頼まれたガディウスが前に出て詳しく説明する。
「おいおい、冗談だろ…。」
「しかも、よりによってロードがドリヤードの加護を手にし、その結果、ロードの特有の体質である【共有】で他のイクシオンもドリヤードの加護の恩恵を得ているとか最悪じゃないか…。」
「ええ、本当に最悪な状況ね…。普通のただのイクシオンでも苦戦するのに、その力が1つ上の上位種の強さを持っているソルジャーやチーフと同等となんて、私達に勝ち目があるの?」
「無いに等しいんじゃないか?」
「「……。」」
誰もが絶望しており、言葉を発することはなく、場の空気が重くなって静まり返った。
「そんなことないわ。今度こそ…。」
「だってよ、【ドリア】であられるガディウス様方でも3年前の奇襲した際、ジェネラルを倒しきれなかったんだぞ。そのジェネラルもドリヤードの加護と呼ばれている【蒹葭玉樹(けんかぎょくじゅ)】によって格段に強くなっているんだろ?しかも、その上、ドリヤードの加護を手に入れたロードは元々ジェネラルより強い魔物なんだぞ。そんな奴を相手に勝ち目なんて、ほぼ0だろ?皆も、無謀だとわかっているだろ?」
冒険者の女性1人が雰囲気を変えようと思って元気付けようとしたが、同じ冒険者の男性に否定された。
「そ、それは…。」
「「~っ!」」
冒険者の女性は言い返すことはできず、集まった冒険者や騎士団達は息を呑む。
「それは、承知だ。命懸けの戦いになるのは確かだ。だから、強制的に戦場には向かわせようとはしない。本人の意思を尊重する。無論、辞退しても構わないし罰則もない。それは、ヨルズ国王様もお認めになさっている。」
「そんなの決まっているだろ!誰が好き好んで死にに行くものか。そうだろ?皆。ここにいる俺達は、冒険者ランクでシルバーにも到達できないブロンズ、アイアン、ストーンの落ちこぼれだぞ。そんな俺達が何かできるとでも思っているんだ!」
「確かに、無謀かもしれません。ですが、国の周りにはイクシオンが居ますので逃げることはできません。逃げることができないのだったら諦めず、戦えとはいいません。せめて、大切な人や家族、支え合った国民の人達のために避難誘導など良いので、できる範囲で構いません。どうか、お願いします。そして、思い出して下さい。あなた達は、なぜ冒険者に憧れて冒険者になったのかを…。」
クリスは、最後に頭を下げた。
「「……。」」
「正直に言うと、体が震えるほど、とても怖いけど…。でも、私は国民の避難誘導します。そして、もしイクシオンが侵入したら、その時は逃げずに戦います!今まで私を支えて下さった、この国の人達のために!」
1人の女性の冒険者は、恐怖で体が震えながらも自身の胸に手を当てて大きな声で宣言した。
「はぁ、女に先に言われたな。ったく、情けないぜ、本当によ…。勿論、俺も協力するぜ!」
「ちょっもと、あなた。「女に」って何よ!男とか女とか関係ないでしょう!」
「わ、悪かった、勘に触ったなら謝る。この通り、悪かった。」
「「ハハハ…。」」
2人のやり取りを見た人達が笑い、重く暗かった場の空気が和んだ。
「僕も、大したことはできないと思いますが協力します。いえ、させて下さい。」
「私も!」
「俺もだ!」
冒険者や騎士団達は、次々に声を出して名乗り出す。
「お、おい!お前達、正気か?相手は、イクシオンだぞ?ゴブリンとかじゃないんだぞ!」
「お前の言うことは正しい。だから、お前は何もしなくっても良い。だが、俺達は無謀だと知っていても命懸けで挑むつもりだ。あの少年の言葉で、俺達は思い出し目が覚めたんだ。なぜ、こうして冒険者になったのかをな。今、国の一大事に何もしないまま、目の前で国民達が傷つき倒れたりしたら、この先、俺は逃げて生き延びたとしても絶対に自決したくなるほど後悔すると思うからな。どうせ、死ぬなら人のために、この命を使いたい。」
「あ~、わかったよ。俺も力を貸す。」
「感謝する。」
ヨルズはお礼を言い、ガディウス達は無言で頭を下げた。
「それに、我々も惜しみ無く力を貸す。頼むぞ、アイリス、ユナイト、ユーリア、そして、クリスよ。」
「「ハッ!」」
「「おお!」」
「あの、バルミスタ国王様。1つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「【六花】であられるユナイト様、ユーリア様と聖霊を宿しておられるリース様やアイリス様はわかりますけど、そこのクリスって少年は大丈夫なのですか?相手はイクシオンですが。」
「フッ、そのことなら問題ない。クリス殿は、かの【女帝】と言われているマミューラの弟子で、そのマミューラに勝ったほどの実力者だ。今回も、既にソルジャーとチーフ、ファナティクを1人で難なく討伐している。」
「「おお!」」
冒険者や騎士団達の士気が上がった。
「まぁ、俺に任せな!この俺の家に代々受け継がれている伝説の剣エレメンタル・ソードを使って、ジェネラルだろうがロードだろうが1振りで倒してやるからよ。」
トーマスは、自慢げに布に包まれた豪華な装飾を施された一本の剣を取り出した。
「どうせ、偽物だろ。それ。」
「ハハハ…。違いない。」
「本物だ!あっ、信じてないな。お前ら!」
「だってね。」
「だっても、糞もあるか!本物だって!」
トーマスは必死に本物と言い張ったが、周りは信じておらず盛大に笑った。
まるで、戦を忘れているかの様に場の空気が明るくなった。
【ペナンの森の中】
クリス達はゴールドランクの冒険者と騎士団達だけでなく、国王であるヨルズ、バルミスタ、【六花】のユナイト、ユーリアも同行することになり一緒にイクシオンを討伐しにペナンの森に足を踏み入れていた。
ここにいるメンバーならば、普段は他愛もない話をしてゴブリンや魔物が出ても簡単に倒せるのだが、今は警戒心を最大限に高めており緊迫して重い空気が流れていた。
その雰囲気は、まるで難易度が高いダンジョンを攻略しているようだった。
その重い雰囲気を変えようとユナイトは、妹のユーリアに話し掛ける。
「懐かしいな、ユーリア。」
「ええ、だけど、お兄様。油断は禁物よ。」
「ああ、わかっている。」
ユーリアはユナイトの思惑に気付いていたが、今は、そんな場合ではないと判断して会話を切った。
ユナイトも自分の失態に気付いて、口を閉じた。
そして、暫くすると前方から数多くの魔物の気配がした。
「総員、戦闘準備だ!」
ヨルズの掛け声によって、クリス達は戦闘体勢を整え構える。
正面から下位種のイクシオンと、上位種のソルジャー、チーフ、ファナティクが現れ、そして、奥からソルジャー達より更に上の上位種であるジェネラルが2匹現れた。
ジェネラルが纏っている魔力は精霊を宿しているアイリス達に近いほど膨大で、放たれている威圧感は誰もが一番危険だと思うほどだった。
「奥のジェネラル2匹は、私とアイリスが相手するわ。他はお願いします、お父様。」
「ううん、念のため僕も手伝うよ。」
「私達を信用できないの?クリス。」
リースは、訝しげな表情でクリスを見る。
「勿論、信用しているよ。でも、今回は敵の数が多いから1対1の戦いにならない可能性が高いからね。」
「一理あるわね。わかったわ。」
「そうしてくれ。情けない話だが、直接、一目見て理解した。あの魔物は我々の手では負えそうにない。頼んだぞ、リース、アイリス、クリス。」
リースはヨルズに振り向いて頼み、ヨルズはバルミスタに視線を送り、バルミスタが無言で頷いたのでヨルズは承諾した。
「話は聞いていたが、本当にあのイクシオンなのか?それに、この数は俺達を上回っていないか?」
「上回っているわ、お兄様。それにしても、書物で読んだことはあるのだけど、実際に体験するとドリアの加護って本当に恐ろしい物ね…。」
ユナイトとユーリアは、強化させたイクシオン達を見て驚愕した。
ユナイト達が怯んでいるのを見たイクシオン達は先に動きだそうとしたので、クリスはその前に動いた。
「アクア・スピア!」
クリスは、水の槍を無数に召喚してジェネラルの前にいるイクシオン達に向かって放つ。
下位種のイクシオンは当たり所が悪く息絶えたり、致命傷を負ったが上位種は武器で払い除けたり、掴んだりしてクリスの攻撃は通用しなかった。
「「クリス!?」」
クリスはアイリスとリースの驚きの声を無視し、腰に掛けてある剣を抜刀してジェネラルに向かって一直線に走り、剣で次々に立ちはだかるイクシオン達を斬って倒していく。
イクシオン達は、クリスに集まって行った。
「クリスったら、仕方ないわね。」
「本当ね。でも、先に攻撃されていたら危険だったわ。」
アイリスとリースも笑みを浮かべながら突撃した。
少し遅れて我に返ったヨルズとバルミスタは、すぐに指示を出す。
「【ドリア】メンバーは上位種、他はパーティーを組んで下位種の相手しろ。私の気遣いは無用だ!」
「ユナイト、ユーリアも上位種の相手をしろ。無論、ヨルズ殿と同じく私の気遣いは無用だ。」
「「ハッ!」」
「「ウォォ!」」
ガディウスやユナイト達も参戦し、あっという間に大乱闘になった。
「魔物が、俺達と同等の実力があるとはな。全く、困ったものだ。」
ユナイトは、ソルジャーと鍔迫り合いなっており、言葉と裏腹に笑みを浮かべていた。
「ハッ!」
ユナイトは、魔力を最大限まで解き放ち身体能力を向上させてソルジャーを跳ね除けてバランスを崩しているソルジャーに渾身の一撃を決めて倒した。
「全くですよ。アクア・ショット!」
ファナティクと交戦していたユーリアは、ファナティクの拳を避けながら肯定し、無数の水弾を放った。
ファナティクは両腕をクロスにして防いだ。
その隙にユーリアは、ファナティクの懐に入った。
「ほぼ無傷なんて、呆れるほど頑丈なのね。だけど、ウォーター・カッター!」
ユーリアは、剣に流水を纏わせて殺傷力を上げて体を回転させながら遠心力をつけて振り抜く。
頑丈なファナティクの腹部を切り裂いた。
しかし、ファナティクを倒すまでは至らず、ファナティクは反撃しようと右拳を振り上げる。
「アクア・スピア!」
ユーリアは、水の槍を複数放った。
水の槍は、大きな傷を負ったファナティクは身体強化が弱まっていたので、水の槍が体のあちらこちらに突き刺さって絶命した。
「アクア・ドラゴン!」
「ソーラー・レイ!」
バルミスタは水の龍を、ヨルズは魔力の光線を放ち、チーフ2匹を倒し、【ドリア】メンバーのガディウス達も上位種を倒していく。
「流石、国王様方だ。」
【ドリア】メンバーのノーンは、下位種のイクシオンを倒した後、バルミスタとヨルズの戦いを見て感嘆した。
「まだ、お前達に守られるほど鈍っていないぞ。」
ヨルズは、笑みを浮かべながら剣を振り下ろして下位種のイクシオンを倒した。
しかし、下位種のイクシオンを任せられている冒険者や騎士団達はパーティーを組んでいても押されていた。
「危ない!アクア・ジェット!」
バランスを崩されて殺されかけていた冒険者を見つけたバルミスタは、すぐに左手から流水を放ち、冒険者に襲い掛かろうとしていたイクシオンを押し流した。
しかし、その隙に下位種のイクシオン2匹がバルミスタに襲い掛かった。
「くっ。」
バルミスタは、1匹のイクシオンのジャンプ蹴りを握っている剣で防いだが、もう1匹が懐に入っていた。
「「国王様!」」
ユナイトとユーリアは叫んだ。
バルミスタの懐に入ったイクシオンは、鋭い爪で切り裂こうとしたが、飛んできた剣が側頭部に突き刺さって倒れた。
剣を投擲したのは、クリスだった。
クリスは戦いながらアイリス、リース、バルミスタ、ヨルズの4人を見守っていたので、バルミスタが危機に陥ったので持っていた剣を投擲したのだった。
しかし、クリスはファナティクと戦っていたので隙ができた。
ファナティクは、笑みを浮かべながら右拳を振り下ろす。
「ハイドロ・キャノン!」
クリスは避けながらファナティクの懐に入り、右手でファナティクの腹に当てて水大魔法ハイドロ・キャノンを唱えて右手から高圧の流水を放つ。
流水はファナティクの腹は貫通し、ファナティクはその場に倒れた。
「「クリス!」」
アイリスとリースは、クリスに駆けつけた。
「もう、勝手に戦い始めるなんて、もっと私達のことを信用しなさいよ。」
「アイリスの言う通りよ。」
「2人のことは信用しているよ。だから、一直線に突っ込んだよ。きっと、来てくれると思ってね。」
「そうだったの?疑ってごめんなさい。」
「ありがとう、アイリス、リース。さて、本番だよ。」
クリスは視線を正面に向けると、目の前には片手で大剣を持っているジェネラル2匹がいた。
「「ええ!」」
アイリスとリースは気合いを入れ直し、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「僕は右のジェネラルを相手にするからアイリスとリースは左をお願いするよ。」
「何でそうなるのよ?」
「今は勝負とか、遊んでいい場合じゃないからね。なるべく、早く倒した方が皆の被害も小さく済むからね。」
「「わかったわ。」」
クリス達は、それぞれのジェネラルに向かった。
アイリスとリースは、ジェネラルの左右側から接近する。
「ウォーター・カッター!」
「リーフ・カッター」
アイリスは剣を何度も振って水の刃を飛ばし、リースは魔力で召喚した葉っぱを飛ばす。
ジェネラルは右手に握っている大剣を横に振って水の刃を打ち消し、次にリースに振り向いて左手から水弾を放って相殺させたが、1枚の葉っぱが左手に直撃した。
しかし、ジェネラルの左手は掠り傷を負った程度のダメージだった。
「ソルジャーとかチーフでもダメージを与えられたのに。掠り傷しかつかないなんて、何て硬さなのよ。」
「ヤッ!」
アイリスは、ジャンプして全力で剣を振り下ろす。
だが、斬ったと思ったアイリスだったが、ジェネラルが一瞬で消えたと共にアイリスの背後に回っていた。
「えっ!?」
「アイリス!しゃがんで!ソーラー・レイ!」
リースは、大声を出しながらジェネラルに光線を放つ。
ジェネラルは、ジャンプしてアイリスから離れて光線を避けた。
「アイリス、油断しないで!」
「ご、ごめん。」
(油断はしてなかったのだけど…。さっきのは、一体…。)
アイリスは、違和感を感じて息を呑んだ。
ジェネラルが自身の周りに無数の水弾を召喚して左手を前に出した瞬間、水弾がアイリスに向かって放たれた。
「アクア・ショット!」
アイリスは水弾を放ち相殺させるが、ジェネラルの方が数が多く、アイリスは剣で弾いていく。
「ハッ!」
リースは、ジェネラルの左側から接近して剣に魔力を込めて横に凪ぎ払った。
しかし、アイリスの時と同じで一瞬でジェネラルの姿が消えて空振りになり、気付いた時には横を向いていたジェネラルがリースに向いて大剣を振り下ろそうとしていた。
「リース!」
アイリスはリースに飛びついて一緒に倒れ、ジェネラルの大剣を躱した。
大剣は地面を深く抉り、ジェネラルはそのまま大剣を地面に擦りながらアイリス達に斬りかかる。
「アクア・ドラゴン!」
アイリスは、倒れながら左手をジェネラルに向けて水大魔法アクア・ドラゴンを唱えて水龍を召喚して放つ。
水龍はジェネラルの大剣が衝突したが押し勝ち、ジェネラルに迫る。
ジェネラルは左手を大剣に添えて堪えるが、後ろにズリ下がり背中に木々が衝突していく。
「ギィ!」
ジェネラルは堪えながら口に魔力を溜めて口から流水を解き放ち、水龍を消滅させた。
ジェネラルは左手の掌に大きな水弾を作りだし、上空に放った。
アイリスとリースは、嫌な胸騒ぎがした。
大きな水弾は回転しながら上空で止まり、そして、無数の水弾を巻き散らかした。
「総員、上空に気を付けろ!攻撃が来るぞ!」
「アクア・ウォール。」
「「リーフ・ウォール。」」
ユナイトが大声で警告したが、冒険者や騎士団だけでなく下位種のイクシオンは当たりどころが悪ければ即死、致命傷を受けて倒れ、ガディウス達【ドリア】メンバーや、ユナイト、ユーリアは武器や魔法でどうにか防いだ。
「敵味方関係なく攻撃するなんて、何を考えているの。」
「やはり、魔物って感じね。」
アイリスは避けながら呟き、リースも回避しながら答えた。
ジェネラルは自身が放った水弾をコントロールして自分に当たらない様にすると共にリースに集中放火して、一気にリースに接近し大剣を上から振り下ろそうとする。
水弾の集中放火されたリースは避けるのが困難になり剣で防ぐが、目の前にジェネラルが大剣を振り下ろす。
「リーフ・シールド。」
リースは魔法を唱えると自身を包む様に地面から木が出現する。
だが、ジェネラルの力の前では威力を軽減するのが背一杯だった。
木の結界は簡単に粉砕され、リースは剣を横に向けて左手で刀身を支えながら額の高さで受け止めた。
「うっ。重い…。」
リースはジェネラルの力で押し込まれていき、地面に片膝をついて必死に耐える。
「リース!ハッ!」
水弾の数が減ったことで、アイリスはリースの横に駆けつけながら回転し遠心力を加えてジェネラルの大剣を弾き飛ばした。
「ここよ!」
リースは前にダッシュしてジェネラルの腹部を斬ろうとしたがジェネラルの姿は消えて空振りに終わり、少し下がった場所にジェネラルの姿があった。
ジェネラルは、大剣を横に振り抜く。
「「きゃっ。」」
アイリスとリースは、剣で防いだが弾き飛ばされ地面を転がった。
ジェネラルが2人に接近してくる。
「ウォーター・ジェット!」
体勢を整えたアイリスは左手を前に出して流水を放ち、ジェネラルを押し流すことはできなかったが足を止めさせるには十分だった。
「アイリス、さっきジェネラルから背後を取られたのは油断じゃないわよね?」
「ええ、あの時、確かに確実に斬ったと思えるタイミングだったのだけど、突然、ジェネラルの姿が消えて見失ったと思ったら背後にいたの。」
「私も似た様な現象だった。真横から攻撃した時、消えたと思ったら、何故か正面を向いていたわ。」
「ジェネラルが、何をしているかを突き止めなければ危険ね。その間は、接近戦する時は2人で戦うわよ。」
「仕方ないけど、そうするしかないわね。でも、遠距離で魔法攻撃するなら生半可な魔法だと意味ないと思うから大魔法を使うしかないけど、避けられて魔力だけ消費しかねないわよ。」
「ええ、だから、2人で接近戦するしかないわ。」
アイリスとリースは、お互いに向き合い頷いた。
【クリス側】
アイリスとリースが交戦しているジェネラルが上空に大きな水弾を放って周囲に水弾を巻き散らしている中、クリスは水弾を避けながらジェネラルに迫る。
「ハッ!」
ジェネラルの大剣を避けながら、クリスは断罪の剣で凪ぎ払う。
しかし、ジェネラルの姿が消えたと思ったら、姿が消えた場所から少し後ろに離れた場所におり、ジェネラルは大剣を横に凪ぎ払う。
「~っ!?くっ。」
クリスはバック・ステップして躱して避けたが、ジェネラルは猛スピードで近付いてきていた。
「ハァッ!」
クリスは、後ろにあった木の幹を両足で蹴り飛ばして自らジェネラルに接近して剣を振った。
クリスの剣とジェネラルの大剣が衝突して火花が散り、衝撃波が生まれた。
お互いに弾かれてクリスは地面を転がったがすぐに体勢を整え、ジェネラルは後ろにズリ下がった。
立ち上がったクリスも、アイリス達と同様にジェネラルの異様な現象に眉をしからめていた。
(気のせいじゃなかった。さっきから、瞬間移動している?いや、それなら初めから背後を取って攻撃すれば良いはずだし。他に考えられるとしたら、幻影の可能性が高いと見るべきかな。どちらにせよ、魔力感知を最大限に高めれば、不意打ちされてもどうにか対処できるし、まずは間合いを確かめるのが先決かな。)
「ヤッ!」
することを決めたクリスは、断罪の剣を横に振りながら途中で剣に魔力を込めて一気に刀身を10mぐらいに伸ばして攻撃した。
ジェネラルの姿は蜃気楼の様に消えたが、その後ろにジェネラルがおり大剣で防ぐ。
(まずは、半歩ぐらい後ろ。)
ジェネラルの位置と距離を確認きたクリスは、ジェネラルに接近してジャンプ蹴りをする。
しかし、再び、ジェネラルが蜃気楼の様に消えて空振りに終わったが、クリスは空中で体を捻りながら回し蹴りを繰り出すと大剣で防がれる感触があった。
(なるほど、今回も半歩だけ後ろ。)
クリスは、納得した様な表情で大剣の刀身を踏み台にして蹴って1度、後ろに下がった。
「アイリス!リース!ジェネラルは幻影を使っているから気を付けて!本体は半歩だけ後方にいる!」
クリスは、大きな声で知らせた。
「さてと、違和感の正体もわかったことだし、さっさと終わらせよう。」
クリスは、自然の魔力を体内に取り込み身体能力を向上させる天和(テンホー)を使った。
突然、クリスの魔力が跳ね上がったので、ジェネラルは驚いて目を大きく見開き、本能が危険だと察知して身構える。
「ウォーター・カッター。」
クリスは広範囲に水の刃を放ち、ジェネラルだけでなく、その周りの木々も伐る。
ジェネラルは蜃気楼の様に消えたが、近くの木々が倒れてきたので大剣で防ぐ。
「そこだね。」
その隙に、クリスはジェネラルの懐に入り込むと同時に無防備なジェネラルの心臓部に断罪の剣を突き刺した。
「ギィ…。」
ジェネラルは、口から緑色の血を吐きながら左手で心臓を刺しているクリスの右腕を掴んで逃がさないようにして右手に握っている大剣を振り下ろす。
だが、クリスは左手で大剣を掴んで受け止め、心臓を突き刺している断罪の剣から膨大な魔力を解き放つ。
ジェネラルは、驚愕した面持ちで自分の心臓を貫いている断罪の剣に視線を向けた。
「アクア・ドラゴン。」
クリスが魔法を唱えると断罪の剣から水龍が現れ、それと同時にジェネラルの体が弾けた。
残ったのは、クリスを逃がさないようにとクリスの右腕を握った左腕と剣を振り下ろした右腕だけだった。
クリスは、すぐに近くで戦っているアイリスとリースの様子を窺う。
【アイリス、リース側】
ジェネラルに接近戦を繰り広げているアイリスとリースは、共闘していくうちに幼い頃に一緒に訓練していた感覚が思い出し始めており、2人の呼吸が噛み合って動きに迷いがなく速く鋭くなっていく。
そんな2人を相手にいしているジェネラルは、幻影を作り出す暇もなく、自慢の怪力や一撃の破壊力を出した直後は隙ができてしまうので繰り出すことはできず、それ以前に動きが速い2人には当たらないと直感していた。
なので、受け身しかとれず、次第に追い込まれて掠り傷を負っていく。
「決めるわよ!」
「わかっているわ。だけど、仕切らないで欲しいわ!」
アイリスの掛け声にリースは賛同しながら頬を膨らませた。
アイリスとリースは、お互いに何度も交差しながらジェネラルに接近する。
ジェネラルはタイミングを見計り、2人が交差した時、全力で大剣を振り下ろした。
アイリスとリースは、スライディングをしてジェネラルの股の下を掻い潜って避けながらジェネラルの左右のアキレス腱を剣で斬る。
アキレス腱を切られたジェネラルは、振り返ようとしたがバランスを崩して倒れた。
その隙にアイリスとリースは、ジェネラルに飛びかかって剣を逆手に持ち替え、ジェネラルの背中に着地すると共にジェネラルの後頭部に剣を刺した。
起き上がろうとしていたジェネラルは、白目を向いて倒れた。
「お疲れ様、2人共。」
「当然よ。まぁ、私1人でも勝てていたけどね。」
「私もアイリスに同意するわ。」
「うん、そうだね。2人なら勝てていたと思うよ。」
「クリス、それよりも、納得できないことがあるの。」
リースは、腰に手を当てて頬を膨らます。
「何かな?」
「何で、1人でジェネラルを相手をした貴方が、私達よりも早く倒しているのよ。」
リースは、人差し指でクリスに指さした。
「おそらく、僕が相手したジェネラルが油断したか、もしくは、リース達が相手したジェネラルより弱かったんじゃないのかな?」
クリスは、苦笑いを浮かべて答える。
途中でジェネラルが放った広範囲魔法で大きな被害を出したが、他のバルミスタやヨルズ、ガディウス達も順調にイクシオンを討伐していった。
最後に生き残っているのは、トーマスの5人パーティーが交戦しているイクシオンだけだった。
「「エナジー・ショット。」」
トーマスの仲間の2人が複数のエナジー・ショットを放ち、トーマスは剣を両手で腰の位置で握ったままイクシオンの左横から迫る。
「貰った!我が代々受け継がれた家系の伝説の宝刀、エレメンタル・ソードの威力を身を持って知るが良い!」
トーマスは剣に魔力を込めると剣は輝き、そして、真横に振り抜いた。
「「おお!」」
「凄いわ…。」
「信じられないけど、本物だったんだわ…。」
成り行きを見ていた冒険者や騎士団達だけでなく、アイリスやリースも自然と感嘆な声が出た。
(決まったぜ!ん?)
トーマスは剣を鞘に戻そうとした時、刀身が半ばで折れていることに気付き、次第に心拍は大きくなり表情が青くなった。
折れた刀身は、クルクルと回転しながら上空を飛んでいた。
「「へ?」」
アイリス達は、呆然と回転しながら宙を舞う折れた刀身に視線が集まる。
トーマスは、恐る恐るイクシオンに振り返る。
「ギィ!」
斬られたと思ったイクシオンは硬直したが、自分の身に何も痛みがなかったので、すぐに右手を挙げてトーマスを切り裂こうとする。
「ヒィ…。」
トーマスは恐怖で後ろに倒れ、尻餅をついて目を瞑った。
「ハッ!」
クリスはジャンプして木の幹を使い三角飛びをし、回転しながら飛んで来た折れた刀身を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた刀身は、猛スピードでイクシオンの挙げた右手の掌を貫通して木の幹に突き刺さり固定した。
「アイリス!リース!」
「「任せて!」」
アイリスはイクシオンの右側から接近し、リースはジャンプしてイクシオンの左側から迫る。
2人は交差すると同時にイクシオンの首が地面に落ちた。
ジェネラル3匹と上位種を含むイクシオンの群れを倒したアイリス達は疲弊しており、大声で喜び会うことはなかったが、軽くハイタッチや肩を組んだり、拳同士を軽く当てたりして喜ぶ者、疲れ果てて地べたに座り込んだり、大の字で横になる者などで緊迫していた空気が和んだ。
しかし、その喜びもつかの間だった。
「それにしても、クリスは凄いわね。魔力もそうだけど、1つ1つの動きに無駄がないのだから。あの【女帝】と言われているマミューラさんに勝ったのも頷けるわ。」
「ですね。その年齢で、これほどの体術を極めているとは、本当に恐ろしい才能です。」
リースに肯定したガディウスの意見に他の【ドリア】メンバーも頷いて賛同する。
「ちょっと、才能という言葉だけで片付けないでくれるかしら?クリスは、私のために毎日、日が暮れても訓練し、雨の時でも日が暮れるまで必死で努力していたんだから。」
「そうだったのですね。それは、失礼なことを言ってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、別に気にしないで下さい。頭を上げて下さい。アイリスが言った通り、僕は自慢するために頑張った訳ではないので…。~っ!?」
苦笑いを浮かべていたクリスだったが、途中で背筋がゾッとするほどの危険な気配を感じ、深刻な表情を浮かべながら勢い良く気配が感じた方向に振り向いた。
「ん?どうしたの?クリス。って、え!?何、この膨大な魔力は…。嘘でしょう…。」
その気配をアイリスも気付き驚愕し、少し遅れてリースや【ドリア】メンバーも気付いて息を呑む。
そして、すぐにドシン、ドシンっと大きな地響きと共に,大地が揺れた。
「な、何だ?この大きな揺れは…。」
トーマスは呟き、騎士団や冒険者達は表情が強ばった。
地響きは段々と大きくなり、木々が押し倒されていく音も大きく聞こえ、着実に何かが近づいて来ていることがわかった。
「一時、撤退だ!」
我に返ったガディウスは、すぐに大声で退却命令を出す。
しかし、周囲からも木々が倒れる音が聞こえて来る。
「アイリス。」
「ええ、これは非常に不味いわね。完全に囲まれているわ。リース。」
「わかっているわ。ガディウス!撤退は間に合わないから、陣形を整えるのよ!ここで、迎え撃つしかないわ。」
「ハッ!総員、直ちに円の陣形だ!魔物に囲まれているぞ。」
ガディウスの指示により、冒険者や騎士団達が集まり円型の陣形になった。
しかし、誰もが疲弊しきっており、動きに切れがなく不安な表情で武器を持って円陣を作って構える。
「う、嘘だろ…。なぁ、俺達は勝てるのか?」
1人の冒険者が不安を口にし、誰も答えなかった。
いや、もし口にして答えると気力が無くなり何もできなくなる。
例え、嘘でも皆を励ますために「勝てる」と言える雰囲気ではなかった。
そして、森の中からクリス達を取り囲う様に下級のイクシオンだけでなく、上位種のソルジャーやファナティク、チーフなどが現れた。
特に目の前にいるロードはクリスだけでなく、アイリスやリースの魔力すらも上回っていた。
「嘘でしょう…。明らかに精霊を宿している私達よりも魔力が高いなんて…。魔力だけなら、成人した精霊使いをも凌駕しているわ。【氷帝】や【炎帝】には及ばないけど、上位の精霊使いであられる【武帝】と同等だわ…。」
リースは、正面にいるロードを見て信じられないという表情で呟いた。
「あ、あら?珍しいわね。いつも強気のリースは、どこへ行ったの?」
「目が悪くなったの?アイリス。あなたこそ、手が震えているわよ。」
「これは、その、ただの武者震いよ!」
「僕がロードと戦うから、2人は他のイクシオンを頼むよ。」
「クリス、1人では無理よ!あなたも、わかっているでしょう?ロードの放っている魔力と威圧感は、精霊を宿している私達を遥かに凌駕していることに。悔しいけど、私達では勝てないわ。今は、どうにかここから離脱して国民の人達と一緒に撤退するしかないわ。数年後すれば、私達も成長して武術や魔力も強くなるから、その時に討伐するしか…。」
「アイリス、逃げるとしても誰かが時間を稼がないと無理だよ。この中で、1番、時間を稼げるのは僕だ。だから、ここで僕が時間を稼ぐから、その間にアイリス達は一点突破で脱出して欲しい。」
「そんなことできないわ。クリス1人にさせないわ。」
クリスとアイリスが言い合いをしていた時、冒険者達の不安が爆発した。
「う、嘘だろ…。これほどの数を相手にするのは、絶対に無理だ…。例え、俺達が万全な状態であったとしても勝てる気がしない…。」
「お、俺は、こんなところで死にたくない!死んでたまるか!うぉぉ!」
「俺もだ。」
「わ、私もよ!」
絶望した冒険者達が死の恐怖に堪えきれずに負けて自暴自棄になり無謀にも特攻する。
「待て!落ち着け!」
【ドリア】メンバーのガディウス達は、大声で制止させようとするが冒険者達の足は止まらなかった。
「くっ。」
クリスだけは口よりも先に体が動いており、冷静さを失って走り出している冒険者の後ろから襟元を掴んで引っ張たり、足を引っかけて転ばせたりして冷静さを欠いて突撃する人達を止める。
しかし、突撃する冒険者達の人数が多く、クリス1人では全員を止めることができなかった。
「「ウォォ!」」
無謀な行動をした冒険者達は、周囲に魔物の数が一番薄いロードを向かって行く。
「ギィ!」
ロードは、右手のそれぞれの指先に水を纏わせて振り下ろすと共に水魔法ウォーター・カッターを放ち、水の刃が冒険者達を襲う。
「「なっ!?」」
襲い掛かった冒険者達は驚愕したが、すぐに避けることが無理だと判断し、武器に魔力を込めて強度を上げ受け止めようとする者や魔法を唱えて相殺させようとする。
しかし、武器と魔法は無惨にも簡単に切断され、冒険者達は真っ二つになって息絶えた。
ロードは、嘲笑うかの様に口元に笑みを浮かべた。
「嘘だろ…。ゴールドランクの冒険者でも相手の攻撃は防ぐことができないとか…。」
冒険者や騎士団達は、目の前で何もできず死んだ仲間を見て怖じけてしまうが、逃げ場がないと理解しているので、すぐに立ち直った。
「アイリス、リース。僕がロードを…。」
「クリス、3人で戦えば良いでしょう?」
「アイリスの言う通りだわ。冒険者と騎士団の指揮とサポートは任せたわよ、ガディウス。」
「ハッ!」
「ユナイト達は、お父様達の護衛をして。」
「「畏まりました。お任せ下さい。」」
「いや、私達も…。」
「お願いします、お父様。ロードは、とても危険です。ここは…。」
「……わかった。皆の者、すまない。あとは頼んだぞ!」
ヨルズは娘のリースの顔を見て必死さを感じ戸惑い、周囲のガディウス達を見たら頷いたので了承した。
ユナイトとユーリアは、バルミスタ達を城の地下にあるシェルターへと向かった。
ロードは、大きく息を吸い込み、その行為を見たクリス達全員は胸騒ぎを感じた。
「な、何だ?何をしているんだ?」
「何か来ます!」
騎士団の1人が呟き、クリスが警告した瞬間、ロードは前屈みになりながら口から高圧の流水を光線の様に物凄いスピードで吐き出した。
流水は木々は勿論のこと、岩すらも意図も簡単に切断する。
「避けろ!」
流水が間近に接近するその一瞬の光景を見て防げないと判断したクリスは大声で指示を出しながら、アイリスとリースと一緒にジャンプして躱わした。
攻撃を避けられたロードは、高圧の流水を吐きながら頭を横に振ってガディウス達を狙う。
「くっ。」
「きゃ。」
ガディウスは慌ててしゃがみ、他の【ドリア】メンバーもジャンプしたり、かがんで無事に避けることに成功したが、冒険者と騎士団達は反応できなかった人や、つい癖で持っている盾で防ごうとして真っ二つに切断される人、反応できたが間に合わず足や腕、頭など切断される者が続出した。
(くっ、今の攻撃で3分の2が殺られた…。)
「僕が突っ込むから、その隙にアイリスとリースは大魔法の準備をして欲しい。」
「「わ、わかったわ。」」
クリスが動くと共にガディウスの指示で、ガディウス達【ドリア】メンバーは、上位種のイクシオンを他は3~5人のパーティーを組んで下位種と戦おうとする。
クリスは天和(テンホー)を使い自然の魔力を取り込んで身体能力を向上させて素早くジグザグに走り、ロードに狙いを定めさせにくくしながら接近する。
ロードは左右の手を何度も振り、水の刃を無数飛ばす。
「地和(チーホー)。」
クリスは、走力に必要なタイミングとその箇所だけに魔力を集中させることにより、一切無駄のない魔力操作によって、更に、より速く加速した。
そして、クリスは走りながら体を傾けたり、ジャンプなどをして器用に最低限の動きで躱していく。
ロードは、クリスの動きと身のこなしを見て警戒心を強める。
クリスの動きを見たジェネラルは、魔法を放っても当たらないと察知して接近戦に持ち込むため動いた。
ジェネラルも巨体なのに見会わないスピードでクリスに接近し左右拳で攻撃するが、クリスは素早い動きで躱していきながら殴ったり蹴ったり反撃するが全くダメージは与えられなかった。
しかし、ジェネラルの意識はクリスに集中していき、周りの警戒が疎かになっていく。
クリスは、ジェネラルと戦いながらでもアイリスとリースを意識しており、魔法の準備が整ったと察知し、わざと少しずつ動きを遅くしていきロードが大振りする様に誘う。
そんなクリスの思惑を気付かないロードはクリスとの間合いとタイミングを見計り、巨大な右拳を叩きつける様に大振りで振り下ろす。
クリスは、ロードの目の前でジャンプしてロードの右拳を避けた。
クリスがジェネラルを惹き付けている間に、アイリスとリースはお互いの手を繋いで目を閉じて集中しており、お互いの魔力を感じとって魔力を共鳴させて信じられないほどの膨大な魔力を解き放つ。
魔力を共鳴させるユニゾン魔法は、術者1人に他の術者が魔力を送り魔力を上乗せする合成魔法より遥かに威力が高い。
だが、その分だけ難しくリスクもある。
何より、相手との相性もあるが相性が良くてもお互いのことを熟知していなければユニゾン魔法は成功しない。
もし仮に失敗した場合、お互いの魔力が喧嘩して暴発し怪我をしたり、個人の魔力が高ければ高いほど共鳴した時に高まる魔力は明らかに違い死ぬ可能性が高まる。
共鳴が完了したアイリスとリースは、ゆっくりと目を開けてお互いの手を握っている手を上に挙げて纏っている膨大な魔力を握っている手に魔力を集中させる。
そして、クリスがジャンプしてロードの右拳を避けてできた隙を見て、握って挙げている手を振り下ろしてロードに向ける。
「エメラルド・ドラゴン!」
アイリスとリースが繋いだ手から黄緑色の巨大なドラゴンが解き放たれた。
「グォォ!」
ドラゴンは雄叫びを出しながら、大きな口を開けて一直線にロードに襲い掛かる。
ロードはクリスを追うように頭を上げ様とした瞬間、膨大な魔力を感じてバッと前方に視線を向けるとアイリスとリースが放った巨大なドラゴンが目の前まで迫って来ていた。
危険を感じたロードは慌てて避けようとしたが、ジャンプして空中にいたクリスが木の幹を蹴って反動をつけてロード背中を蹴り飛ばしたことで体勢が崩れて避けることができなくなった。
巨大なドラゴンはロードを飲み込もうとする。
しかし、ロードは両手を大きく開いて抱きつく様にドラゴンの左右の頬を押さえ込む。
だが、ドラゴンはロードに噛みつき、ドラゴンの鋭い牙はロードの右肩から左側の腹部に掛けて深く突き刺さった。
ドラゴンはロードに噛みついたまま、押して木々を押し倒し岩を粉砕していくだけでなく深く大地を抉って行く。
「ギィィ!」
ロードは血管が浮き彫りになり、そこから血管が裂けて緑色の血が出るほど両手に力を込めて、巨大なドラゴンの左右の頬を締めつけて消滅させようとする。
その光景を見たアイリス達はロードを討伐したと思い、他のイクシオン達はボスが殺られたと思っており両者の動きは完全に止まっていた。
だが、巨大なドラゴンは森の半ばでロードに潰されて消滅したのだった。
「「嘘…。」」
アイリスとリースは絶望して、その場に座り込み、他の人達は現実が受け止められず自失して呆然と立ち尽くした。
しかし、クリスだけは諦めていなかった。
「アクア・ビッグバン。」
木の枝から枝へと飛び移りながら移動していたクリスは気配を消したまま飛び降り、ロードの頭上から降下しながら右手の掌に巨大な圧縮した水の塊を作り出してロードの頭にぶつけた。
ロードは威力に負けて地面にうつ伏せ状態に叩きつけられ、大地は大きく抉れた。
「やったわ!」
「流石、クリス!」
「「おお!」」
「……。」
アイリスとリースは歓喜の声をあげ、他の人達も歓喜の声をあげたが、攻撃したクリスは無言のままだった。
「ギィ…。」
うつ伏せの状態で大地にめり込んだロードは、そのまま左手を伸ばして、空中にいるクリスの左足を掴んで起き上がった。
「「クリス!」」
アイリスとリースの悲鳴が響く中、クリスは右手に魔力を込めて断罪の剣を発動させてロードの首を斬り落とそうとする。
しかし、クリスが思っている以上にロードの皮膚は硬く、掠り傷しかつけれなかった。
「なっ!?」
流石のクリスも予想外な出来事に驚愕した。
「そんな…。だって、クリスの断罪の剣は岩をも簡単に切り裂くほどの威力があるのよ。それなのに掠り傷しかつけれないなんて…。」
アイリスは、信じられない表情を浮かべて呟いた。
だが、ロードも深刻なダメージを受けていた。アイリスとリースが放ったドラゴンの攻撃で肩と腹に深い刺し傷がり、クリスの攻撃で頭と背中は爛れていた。
ロードの満身創痍な状態を見た誰もが、あと少しで倒せると希望の光が見えていた。
しかし、次の瞬間、ロードの傷口は輝き出してみるみると治っていったのだ。
「「~っ。」」
「え!?嘘でしょう…。何が起きているの!?」
皆が言葉を失っている中、アイリスの小さな呟きは大きく聞こえた。
ロードはクリスを掴んだまま、グルグルとジャイアント・スイングする様に回り、クリスを周囲に生えている木々に叩きつけて最後に放り投げた。
猛スピードで投げられたクリスは、空中で体勢を整える暇もなく、次々に木々に当たってはへし折っていき、最後に100m先の木の幹で背中を激しく打って止まった。
「がはっ。」
クリスは吐血し、木の幹に凭れ掛かった。
「「クリス!」」
アイリスとリースは、慌ててクリスに駆けつける。
「「だ、大丈夫?」」
「背中を強打しただけで大丈夫。心配してくれて、ありがとう2人共。」
アイリスとリースは、心配しながら左右からクリスの体を支え合って回復魔法でクリスを怪我を癒す。
「一体、どうなっているのよ。あの致命傷だった傷がほぼ完全に消えているなんてありえないわ。回復魔法を使った感じはしなかったし、魔法の兆候もなかったわよ。」
「アイリス、あれは魔法じゃなくって、ロードの特有の能力の【共有】によって、受けたダメージを周りのイクシオンと共有することで怪我を分かち合って軽減したのよ。」
「それじゃあ、先に周りのイクシオンを倒さないとロードは倒せないってことなの?」
「そういうことね…。」
「そんなの無理よ。だって、この森にはイクシオンがどれだけいるかもわからない上に、強いのよ。」
「ええ、でも、書物にある程度、仲間が近くにいないと共有の能力は働かないと書いてあったわ。」
「それでも、無理よ。」
「取り込み中に申し訳ないけど、僕に1つだけ提案があるんだけど。良いかな?」
「この状況で、提案なんて…。」
「あっ…。」
リースが訝しげな表情を浮かべる中、アイリスだけは心当たりがあった。
「駄目よ!クリス。今度こそ、元の姿に戻れなくなってしまうかもしれないのよ!ううん、それどころか、死ぬ可能性もあるのよ!」
「大丈夫だよ、アイリス。今回は完全解放まではしないから、多分、姿も変わらないし死ぬ可能性はないよ。ただ、暴走しないように気を付ければ大丈夫だと思う。」
「ねぇ、何の話をしているのよ!私にもわかりやすく説明しなさいよ!」
「ごめん、リース。わかったよ。精霊を宿しているのは、君やアイリスだけでなく僕もなんだ。僕に宿っている精霊の力を少しだけ解放するって話なんだ。」
「え!?クリスって、精霊使いだったの!?だって、全く精霊の特殊な魔力を一切感じないわよ。」
「まぁね、精霊の力を完全に封印しているからね。」
「何で、封印なんかするの?しかも、完全封印って。」
「君やアイリスみたいに誓約をしているわけと違って、僕のは人為的に宿していないんだ。精霊自らが、僕に宿ったから力の制御が難しいんだ。」
「それって…。」
クリスの話を聞いたリースはあることに気付き口にしようとしたら、目の前からロードがゆっくりと歩いて来ていた。
「もう時間がない。アイリスとリースは、ガディウスさん達と力を合わせて一点突破してこの森を抜けて城へと向かって欲しい。そして、国の防御魔法陣を最大まで上げる様に王様に伝えて欲しい。もし、準備ができたら狼煙か魔法で教えて。」
「……わかったわ。」
「私は、残るわ。」
アイリスは渋々と承諾したが、リースは反対した。
「駄目だ、リース。今回は森のイクシオンも倒さないといけないから広範囲の魔法を使うしかないんだ。僕の攻撃に巻き込まれてしまうよ。」
「私は、この国の姫なのよ。それに、私だって、この身に精霊を宿しているのよ。うっ…。」
クリスは、リースの首筋に手刀をして気絶させた。
「アイリス、リースを頼んだよ。」
「わかったわ…。だけど、絶対に無理はしないでね。約束よ。」
「うん。」
アイリスは両手でクリスの頬に触れ、背伸びをして口づけをした。
「あとは頼んだよ、アイリス。」
「ええ、任せて!」
(心配だけど、今は少しでも国に戻ることがクリスのためになる。)
アイリスは気絶したリースをおんぶして、クリスが心配で足を止めて振り向きたいが、その想いを押し殺してクリスに振り向くことなく、急いでガディウス達の下へと向かった。
30mぐらい離れた場所にロードがいた。
「さぁ、アイリスが戻って合図が来るまで持たせないと…。」
クリスは天和を使い、自然の魔力を取り込んで身体能力を底上げして構えた。
【ガディウス側】
「ガディウス隊長、どうします?我々だけでも撤退しないと、このままだと全滅するのは明らかです。」
ルドスはイクシオンを倒して、ガディウスに駆けつけて提案する。
【ドリア】メンバーだけなら、今、ロードがいないので、ここから脱出は可能だった。
しかし、冒険者や騎士団と一緒には無理だった。
なぜなら、冒険者や騎士団よりもイクシオンの方が足が速く追いつかれてしまうからであった。
「それは、駄目だ!命を懸けてくれているのだぞ、見捨てて見殺しにする訳にはいかん!」
「ですが、このままだと…。」
「私は、ガディウス隊長に賛成です。逃げたいならルドスさんだけ逃げて下さっても構いません。」
「そんなことするか!」
ルドスとアニーが口喧嘩していると、そこにソルジャーが剣を振って襲い掛かる。
「危ない!何をやっているんだ!2人共。」
「ヤッ!そうですわよ。」
【ドリア】メンバーのヤンザはソルジャーの前に割り込んで槍で受け止め、同じく【ドリア】メンバーのモナリがソルジャーの背後から大きな斧を横に振って首を跳ねた。
「だが、ルドスの言う通り、追い込まれているのは確かだ。」
「だな。」
【ドリア】メンバーの大盾使いオパールと杖を肩に担いでいるノーンが集まった。
「別に、俺やノーン、ルドスは命が欲しくって撤退しようとは思っていない。ただ、この先のことを考えたら、俺達【ドリア】が全滅したら不味いと思うからだ。そうだろ?ガディウス隊長。」
「ああ、お前の言う通りだ、オパール。しかし…。」
ガディウスは頭の中では理解しているが、どうしても仲間を見捨てるということで踏み止まってしまう。
ガディウスが悩んでいる時、リースを背負ったアイリスが来た。
「「リース様!」」
【ドリア】メンバーは、一斉に大声出してアイリスに駆けつけた。
「リース様は、大丈夫なのですか?」
「ええ、言うこと聞かなさそうだったから、クリスが気絶させたわ。」
「誠に、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「ところで、クリス殿とロードはどうなさりましたか?」
「そのことなんだけど、まず、皆でここから撤退するわよ。あなた達【ドリア】は生き残った冒険者と騎士団を囲う様にしてイクシオンから守り、私が殿(しんがり)をして追ってくるイクシオンを倒すから。説明は、撤退しながら話すわ。早速、行動に移して頂戴!」
アイリスはアニーに気絶しているリースを渡し、ガディウス達は撤退を始めた。
撤退は上手くいき、アイリス達を追っていたイクシオンだったが、本能でこれ以上ロードから離れたらロードに迷惑が掛かると思い、途中でアイリス達を諦めてクリスの方へと向かった。
「なるほど。ですが、クリス殿は大丈夫なのですか?こう言っては何ですが、リース様とアイリス様のユニゾン魔法ですら、とどめを刺すには至らなかったのですよ?しかも、相手はすぐに傷も癒える化け物なのですよ?」
ガディウスは、クリスの心配する。
他の【ドリア】メンバーも心配したが、冒険者、騎士団達はクリスは助からないと思っていた。
「大丈夫よ…。そう、大丈夫に決まっているわ。だって、約束したのだから…。」
(そうよね?クリス。)
アイリスは走りながら頭だけ後ろを振り返ったが、すぐに正面を向いた。
そして、アイリス達はヨンダルク国へと帰還した。
「用件はわかったが。国の防御魔法陣を最大まで上げると、1時間しか結界が張れん。」
クリスの決死の覚悟して戦っているのでそうしたいのは山々だが、国民の命が掛かっているのでヨルズはどうして良いものか悩んだ。
「ヨルズ国王様、お願いします。一刻の猶予もありません。どうか…。」
「私からも頼む。クリスを信じて欲しい。」
アイリスは頭を下げて頼み、国王であるバルミスタも頼んだ。
「わかった。バルミスタ国王にも大変な迷惑を掛けている。直ちに、国の防御魔法陣を最大にせよ!」
「ハッ!」
ヨルズの指示で国の防御魔法陣が最大まで高められた。
そして、クリスに知らせるために狼煙を揚げて時、ベッドに寝かされていたリースが目を覚ました。
「ん…。ここは…。え!?お城?」
「はい、そうですリース様。お目覚めは如何ですか?」
何かあったらいけないので、椅子に座ってリースの看病していたモナリが声を掛ける。
「大丈夫よ。それより、どうなっているの?教えて頂戴!え!?」
教えて貰おうとしたリースだったが、背筋がゾッとする様な膨大で禍々しい魔力を感じて起き上がり、慌てて窓から魔力を感じた森を覗くと森は真っ白に氷ついており、国の防御魔法陣を最大に上げているにも関わらず、国中の建物や道などが霜が付いていた。
「嘘…。何…なのよ…これ…。」
リースは驚愕した面持ちで呟き、すぐに部屋を出て森へと向かう途中でアイリスと合流した。
「~っ!」
違う近くの窓から覗いたモナリだけでなく、国中の誰もが信じられない表情を浮かべて言葉を失っていた。
【森の中・アイリスとリース側】
急いでクリスの下へと駆けつけるため、全てが凍り真っ白になった森の中をアイリスとリースは走っていた。
全てのものが凍っているので、風が吹いても木々も凍っているので音も立つことはない。
ただ空気中も所々凍っているのでキラキラと輝いており、まるで時間が停止しているかの様に感じていた。
「何なの?これは…。それに、近付くにつれて殺気というよりも、それを通り越した死を感じらされるほどの圧迫感が強まっていっているわ。」
リースは驚いた面持ちで周囲を見渡しながら息を呑み、隣で走っているアイリスに尋ねる。
「クリスが力を解放して、禁術魔法の絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を使ったのよ。この圧迫感も、封印を解除したからよ。」
「アイリス、禁術って簡単に言うけど。私や貴女でも、まだ使えないのよ。それに、この圧迫感は異常過ぎるわ。クリスって、何者よ。しかも、クリスって【炎帝】や【氷帝】と同じ、精霊が選んだということは…。クリスも、その…悪魔の…。」
「リース!」
アイリスは鋭い眼光でリースを睨み付け、殺気を含んだ声で大声を出し、話を途中で止めさせた。
「ごめん…。」
リースは、申し訳ない表情を浮かべながら視線を逸らして素直に謝った。
「クリスはクリスよ…。」
「そうね…。」
【クリス側】
クリスは、なるべくロードの攻撃が当たらない様に距離を取りながら戦っていた。
他のイクシオンはロードが命令したのかわからないがクリスに手を出す者はおらず、ただ、戦いを静観していた。
「ギィ!」
ロードは巨体に見会わない速さでクリスに接近し、左右の拳を交互に叩きつける様に連打する。
クリスはバック・ステップして躱していき、ロードが大振りになった瞬間、前に出てロードの懐に潜り込んだ。
「アクア・ビッグバン!」
クリスは、右手の掌に巨大な圧縮した水の塊をロードのお腹に当てて上に弾き飛ばす。
「アクア・スピア!」
クリスは水の槍を無数に召喚して放つ。
ロードは左手を振って水の刃を放ち、クリスが放った水の槍を切り裂いた。
しかし、真下にいた筈のクリスの姿はなかった。
クリスは水の槍を放った際、気配と魔力を消してジャンプをしロードの真上に移動していたのだ。
クリスは、自分に全く気付いていないロードの後ろの首筋に全魔力を一点集中させた右足の踵落としを決めた。
ロードは物凄いスピードで落下して地面に叩きつけられクレーターができた。
「アクア・ビッグバン!」
クリスは降下しながら再び、右手の掌に巨大な圧縮した水の塊を作り出してロードの背中に押し当てた。
ロードは、更に地面深くめり込んだ。
クリスは、直ぐにジャンプしてロードから離れてクレーターの外に着地した。
クレーターの中央にめり込んでいるロードは、何事もなかった様に起き上がり、右手で首筋を押さえて左右に首を曲げてクリスを睨み付ける。
ロードの傷は【共有】の能力で、すぐに癒えていく。
体術ならクリスが何枚も上手だが、魔力と肉体強度はロードが勝っているため、どんなに攻撃してもロードに致命傷や倒すまでには至らない。
そして、せっかく与えたダメージもロードの【共有】の能力で消えてしまう。
ずっと、そんな戦いが行われていた。
そして、始めは遊んでいたロードだったが、自分の攻撃が当たらず、クリスに殴られ続けたことによりストレスが溜まっていき、とうと爆発した。
「ギィィィ!」
ロードは大きな砲口をあげ、膨大な魔力を解き放つ。
(とうと、来たか。)
クリスは、更に警戒を強める。
ロードの動きは今までよりも速く、クリスは驚愕した。
ロードは左手でクリスを叩こうとしたが、クリスはジャンプして避けてロードの背後にある木の枝を蹴って勢いをつけてロードの背中を蹴り飛ばす勢いで蹴った。
しかし、ロードは前に左手をついて吹き飛ばされない様にし、クリスに振り返りながら右手の裏拳を繰り出す。
「くっ。」
クリスは避けきれないと判断し、全魔力を右腕辺りに集中して防いだが、吹き飛ばされて地面を転がった。
クリスは、すぐに体勢を整えようとしたが右腕は痺れており上手く体勢が整えることができなかった。
そして、大きな影が覆われたのでクリスが見上げると、頭上からにロードが踏みつける様に降下してきており、クリスは斜め前に飛び込むようにして回避した。
「ギィ!」
勝ったと思ったロードは、避けられたことで更にストレスが溜まり、右拳を地面に叩きつけ、地面に大きなクレーターができた。
そして、ロードが雄叫びをした瞬間、周りのソルジャーやチーフなど他のイクシオン達が一斉にクリスに襲い掛かる。
「くっ。ん?」
歯を食い縛り覚悟をしたクリスだったが、視界の端に狼煙が見えて口元に笑みを浮かべる。
そして、すぐにクリスは左目の眼帯を外したことにより、封印していた左目を開き、悪魔の瞳と言われている金色の瞳が顕となった。
クリスが眼帯を外し左目を開いた直後、クリスから膨大で人間のものとは思えないほどの禍々しい魔力が解き放たれた。
その膨大で禍々しい魔力を前にしたイクシオン達は恐怖で動きを止めた。
だが、ロードの雄叫びによって、再びイクシオン達は強ばった表情で一斉にクリスに襲い掛かる。
「絶対零度(アブソリュート・ゼロ)」
イクシオン達が一斉に襲い掛かってきているが、クリスは気にした様子もなく小さく呟く様に魔法を唱える右手の掌の上に魔力が物凄い速さで集まり圧縮されたいく。
そして、高密度に圧縮された魔力が小さな白い球体と出現としており、クリスは右手で球体を握り潰す。
白い球体を握り潰した瞬間、白い光と共にクリスを中心に一瞬でロードを含む、イクシオン達や木々や大地などクリスの周囲のあらゆる全てのものが氷付き、ダイヤモンドダスト現象が起きて、大気中の水蒸気が昇華し極小さな氷晶が降り注いだことにより太陽の日差しで大気が宝石の様に輝いて見えた。
クリスに襲い掛かった凍ったイクシオン達はバランスを崩して倒れ、ガラス細工の様な音を立てながら割れた。
しかし、凍っているロードは小さく揺れだし、次第に揺れは大きくなっていく。
そして、凍っているロードの表面の氷は砕けた。
ロードは大きく息を吸い込み、圧縮した流水を光線の様に吐く。
「エレメンタル・ソード。」
クリスは右手を前に出して唱えると、右手の前に真っ白な鞘におさまった1本の刀が出現し、クリスは手に取って腰に掛けて抜刀術の構えを取った。
そして、迫ってくるロードの流水を真っ二つに切断し、流水を凍らせた。
「ギィ。」
ロードは表情が強ばり、一歩後ろに下がる。
そこに、アイリスとリースが駆けつけた。
「「クリス!」」
「え!?嘘…。あの剣って、まさか…。」
「今まで、精霊に愛されていたと謂われているアリス様だけしか使えないと言われている伝説の魔法剣エレメンタル・ソード…。それに、あの瞳って…やはり、悪魔の瞳…。」
アイリスとリースはエレメンタル・ソードを見て驚き、リースはエレメンタル・ソードとクリスの悪魔の瞳を見て驚愕した。
「ギィィ!」
ロードは一歩後ろに下がった自分の足を見て苛立ちを覚え、クリスに飛び掛かった。
クリスは、1度、刀を鞘におさめて抜刀術の構えを取る。
そして、ロードとの距離が縮まる…。
「風花雪月(ふうかせつげつ)」
クリスは、前に出てロードの攻撃を躱しながら目に見えない速さで抜刀する。
クリスとすれ違ったロードは涼しい風を肌で感じたが痛みはなく、気にせずにクリスに振り向いて、再び、襲い掛かろうとした。
「お前も感じただろ?魔女の優しい抱擁を。」
クリスは背後から襲い掛かろうとしているロードを見もせず、ゆっくりと抜刀した刀を鞘におさめるとロードの胴体に大きな切り傷が浮かび上がると同時に一瞬で全身が凍り漬けになった。
今度は絶対零度の時とは違い、ロードは完全に凍ったままだった。
そして、クリスが右手の指を鳴らすと凍り漬けになったロードの体は粉々に砕け散った。
ロードを討伐し終えても、殺気と威圧感は全く衰えなかった。
アイリスとリースは、自身の胸元の服をギュッと握り締めながらクリスが暴走していないかと心配すると共に緊張する。
クリスはゆっくりとした動作で外した眼帯を拾い、左目に着け直すと膨大で禍々しい魔力と圧倒的な威圧感、殺気は嘘の様に消え、微笑みながらアイリスとリースに振り返った。
「無事に終わったよ、2人共。」
「「クリス!」」
アイリスとリースはクリスに駆け寄り、抱きつく様に飛び付いた。
「うぁ!?」
クリスは後ろに倒れた。
「もう、本当に心配したんだから…。」
「ごめん…。」
アイリスの呟きを聞いたクリスは謝り、左右の手でアイリスとリースの背中を優しく撫でた。
森のあちらこちらに赤色の狼煙が騰がっており、ギルドマスターであるロジックと何かあれば救援に向かうために待機していた冒険者と騎士団達は狼狽えていた。
「これは、どうなっているんだ…。」
「ロジックさん!指示を!」
「ああ、4人1組になって救出をするんだ。魔物の討伐よりも退却を優先するように。おそらく、イクシオンが大量発生しているか、もしくは、上位種が現れている可能性が高い。気を付けろよ、お前達。」
「「了解!」」
冒険者と騎士団達は、班を作ってクリス達を救出しに森の中へと入っていった。
「頼むぞ、お前達。」
ロジックは、冒険者と騎士団達を見送りながら呟いた。
そんな時、リースとガディウス達が心配してやって来た。
「ロジック、狼煙が沢山出ているけど、今、森の中で一体何が起きているの?」
「リ、リース様。それに、【ドリア】の皆様。」
「良いから早く答えなさい、ロジック。」
「それが、私も現在、何も把握できてません。おそらく、イクシオンが大量発生しているか、考えたくない話ですがイクシオンの上位種が多数現れたかと推測してます。」
「その可能性は高いわね。」
「ドリアードの加護と何か関係があるかもしれませんね。」
「ええ、そうね。上位種がいるかもしれないから、念のためにツーマンセルで行動する様に。医療班も連れてきたからロジックと此処にいる騎士団と冒険者は、医療班の警護する様に。」
「あの、ところでリース様はどうなされるつもりですか?」
「行くに決まっているじゃない。だって、クリスもいるのよ。じゃあ、行くわよ。」
「「ハッ!」」
リースを筆頭に【ドリア】メンバーは、森の中へと入っていった。
【アイリス側】
「ギィ!」
アイリスは左右の手に双剣を握ったまま、トーマス達の護衛しながら森を出ようとしていた。
その時、右側の木の陰からイクシオンが飛び出して鋭い右爪で切り裂こうとアイリスに襲い掛かる。
「ヤッ!」
アイリスは左手の剣でイクシオンの右手を弾き、右手の剣でイクシオンの胴体を斬った。
「ギィ…。」
イクシオンは、その場に倒れた。
「~っ!左に避けなさい!良いから早く!急いで!」
アイリスは慌てて指示を出し、ボル達もすぐにアイリスの指示に従った直後、木の上から無数の水弾が襲ってきたが無事に避けることができた。
「アクア・ショット!」
アイリスは、木の枝の上にいるイクシオンに向かって無数の水弾を放つ。
イクシオンは口から水弾を放ち、相殺させようとしたが、アイリスの水弾の方が威力があり、放った水弾は全て粉砕されて被弾した。
被弾したことによってイクシオンは、木の枝から落下する中、アイリスがジャンプして目の前まで接近しており、アイリスは左右の手に握っている剣でイクシオンの胴体をクロスに斬った。
アイリスが地面に着地して、ワンテンポ遅れてイクシオンが落下して地面に落ちた。
背後から気配がしたのでアイリスは振り向。いた直後、イクシオンが飛び出てきた。
「リーフ・カッター!」
イクシオンの横から鋭い葉っぱが複数枚飛んできてイクシオンを切り裂いた。
「危ないじゃない!リース。」
アイリスは、魔法が飛んできた方に振り向いて怒鳴る。
「あら?助けてあげたのに、お礼の言葉じゃなくって怒られるとか心外だわね。」
リースは、わざとらしく口元に手を当てて驚いた表情をした。
「当然よ!もし、私がイクシオンに斬り掛かっていたらリーフ・カッターは私に直撃していたわ!」
「その時は、気付かない方がいけないじゃない!」
「あなた、馬鹿なの?ううん、馬鹿でしょう。」
「馬鹿とは何よ!この被害妄想女!」
「誰が被害妄想女よ!この脳筋女!」
「の、脳筋女ですってぇ~。あなたこそ、クレームばかりのオバタリアンじぁない!」
「私が、お、お、オバタリアンですってぇ~!」
「そうよ、良かったじゃない。大人の仲間入りできて。お、ば、さ、ん。」
「~っ!誰が、おばさんよ!あなたこそ、人のか、彼氏を奪おうと必死になって簡単にキスまでする阿婆擦(あばず)れじゃない!」
「あ、阿婆擦(あばず)れですてぇ~!」
「少し落ち着いて下さい、リース様、アイリス様。」
「「五月蝿いわよ!」」
「~っ!?」
その時、アイリス達の左側にある茂みがカサカサと揺れて音がした。
「アクア・ショット!」
「エナジー・ショット!」
怒りのままアイリスは圧縮した水弾を無数に広範囲に放ち、リースは自身の魔力と自然の魔力を合成して圧縮した緑の魔力弾を無数に広範囲に放った。
茂みから出てきたのは、イクシオンではなく冒険者の男性をおんぶしたクリスだった。
「「えっ!?嘘…。」」
激怒したまま魔法を放ったアイリスとリースは、クリスの姿を見て呆然と立ち尽くした。
「「避けて下さい!クリス様!」」
「避けろ!クリス!」
「避けて!クリス君!」
ガディウスやボル達が叫ぶ。
アイリスとリースが放った水弾と魔力弾は、木々を意図も容易く貫通しながらクリスに迫る。
「ちょっ、何で攻撃を!?うわっ!うっ、フッ、くっ!」
(このままだと、攻撃を避けるのは無理だ。)
状況を見て無理だと判断したクリスは、自身の魔力で身体強化し、更に自然の魔力を利用して身体強化を最大限まで高め、冒険者の男性をおんぶしたまま、素早く左右に動きながらギリギリで攻撃を躱していき、最後、左側にジャンプして木の幹を蹴って三角飛びをして全て避けることに成功しアイリス達の前に着地した。
「「す、凄い…。」」
ボル達は、クリスの身体能力を間近に見て感嘆した。
「ふ~、本当に死ぬかと思ったよ…。」
「「ごめんなさい。」」
シュンっと落ち込みながら謝罪するアイリスとリース。
「何がともあれ無事で良かったです。しかし、まさかクリスが、この世界で【女帝】と謂われているマミューラしか使えないと言われている天和(テンホー)の使い手とは驚きだな。」
「「天和(テンホー)?」」
クリス達は、頭を傾げた。
「あなた達知らないの?天和は、自然の魔力を利用して身体強化のことよ。私達、木属性の使い手は自然の魔力を魔法に利用はできるけど、体内に取り入れ自在にコントロールする身体強化はできないの。だから、天に選ばれ自然と調和する魔法。それを略して天和と名付けられたのよ。」
「へぇ~、そうだったんだ。」
「ねぇ、そんなことよりも、これからどうするの?討伐を優先するの?それとも、撤退を優先して1度退くの?」
「そうね…。」
「リ、リース様!このイクシオンを見て下さい。」
「何よ?え!?嘘…灰色じゃなくって黒だなんて…。」
「リース、黒って珍しいの?」
「ええ、イクシオンは普通は灰色なんだけど…。」
「そうなんだ。でも、僕が向こうで倒したイクシオンは、そこに倒れている同じぐらいの大きさと、もう1匹は体長2mぐらいで棍棒を持ったイクシオンを倒したけど、どちらも黒色だったけど?」
「リース様!」
「ええ、救出して1度撤退した方が良さそうね。アイリス、クリス力を貸して頂戴。」
「やれやれ、仕方ないわね。わかったわ。」
「ハハハ…。もちろん。」
「ありがとうアイリス、クリス。」
「「ありがとうございます。」」
ガディウスやトーマス達は、頭を下げた。
「あ、あの…。」
クリスにおんぶさせている冒険者の男性が、申し訳なさそうに声を掛けた。
「何だ?」
「クリス様はイクシオン・チーフを簡単に倒してしまいましたが、その…。」
「何だ?さっさと言え。」
「大変、失礼なことだと存じますが、クリス様が戦ったイクシオン・チーフは【ドリア】様方と同等ぐらいの魔力を放ってました。」
「何だと!?」
「はい、間違いありません。クリス様とイクシオン・チーフの戦いを間近で見ましたので…。」
「ク、クリス、あなた一体…。」
「ただ殴って、断罪の剣で真っ二つに斬っただけだよ?」
「断罪の剣ですか?その腰に掛けてある剣は名刀なのですか?」
「いえ、この剣はどこでも一般に販売してある普通の剣ですよ。」
クリアは、腰から鞘ごと抜いてガディウスに手渡した。
「本当ですね。名匠が作った品物でもなく、我が国で作られた一般に市販されている剣ですね。」
「じゃあ、断罪の剣って何なの?」
「断罪の剣は、誰でも作れるものですよ。剣をイメージした自身の魔力で剣ですから。」
クリスは、右手に魔力を集中させ剣をイメージして断罪の剣を作り出した。
断罪の剣から冷気が出ており、周囲の気温が下がる。
「「~っ!」」
クリスの膨大な魔力と、その膨大な魔力をギリギリまで圧縮した濃密な魔力を目の当たりしたアイリス達は息を呑んだ。
「な、何という重厚感がある魔力と威圧感。今までに、見たことや感じたことがないほど魔力が圧縮されている…。」
「ねぇ、クリス。その断罪の剣の切れ味はどうなの?」
「さぁ?とりあえず、あの岩を斬ってみるよ。離れてて危ないから、よっと。」
クリスは、右手を誰にも見えない速さで横に振りながら同時に魔力を高めて剣を伸ばした。
岩や周囲に変化はなかったが、ワンテンポ遅れて周囲にある木々や岩が真っ二つに切断されておりズレて大きな音を立てながら倒れた。
岩や木々の切断面は凍っていた。
「まぁ、切れ味はこんな感じかな。」
「ある意味、大魔法よりも殺傷力が高くない?」
「まぁ、斬るために特化した技だからね。それよりも早く、救出に向かわないと。」
「ええ、そうね。魔力感知では、あと5組みたいわね。」
「【ドリア】の人達が向かっているみたいだから、残りの1組の救出と森を出るまでのユリ達の護衛だけね。メンバーは私とクリス、リースとガディウスで分かれてしましょう。」
「ちょっと、アイリス!何で、あなたとクリスが組むのよ!」
「当たり前でしょう?だって、私とクリスは連携が取れるのだから。リースは、クリスと一緒に訓練もしたことないから無理でしょう?それに、残念だけど、私もガディウスさんとは訓練もしたことないから無理よ。お互いに、無理に連携を取ろうとしたら隙ができて危険でしょう?」
「~っ!くっ…。」
「アイリス様の言っていることは正しいです。さぁ、行きましょうリース様。」
「わかったわよ!私達は救出に向かうわ!クリス、この件が終わったら私と訓練するわよ!良いわね!」
リースは、クリスを指差す。
「ハハハ…良いよ。」
「ちょっと、クリス!」
「良かったら、アイリスも一緒に3人で訓練しようよ。」
「クリスが、どうしてもと言うなら良いわよ…。」
「じゃあ、どうしても。」
「わ、わかったわ。ほ、本当にクリスは仕方ないわね。私が居ないといけないわね。」
「そうだね。いつも、ありがとうアイリス。」
「い、良いわよ。お礼なんて…。」
「あ~!すぐイチャイチャして!」
「はぁ。リース様、早く行きましょう。」
「ちょ、ちょっと、ガディウス。待って、待ちなさい!」
「待ちません!今は一刻も早く、救出に向かうべきです!」
ガディウスはリースの手を取って強制的に連行するように引きずって行く。
「アイリス、イチャイチャするのは多目に見てあげるけど。今、以上に親密な関係になったら絶対に許さないんだからね!」
リースは、アイリスとクリスに振り向いて大声を出しながら森の中へと消えていった。
「~っ!リース!あ、あなた、な、何を考えているのよ!そんなこと、大きな声で言わないで頂戴!」
アイリスは顔を真っ赤にして大声を出し、アイリスの声は森の中に響いた。
「落ち着いて、アイリス。さぁ、僕達も行こうよ。」
「え!?ど、何処に?私達、その…まだ早いと思うのだけど…。だけど、クリスがどうしてもって言うなら…。」
アイリスは、恥ずかしそうに俯きながら左右の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジしながら頬を赤く染めて上目遣いでクリスを見つめる。
「え?森を出るまで、ボル達の護衛だけど?」
「そ、そうよね。アハハ…リースが変なこと言うから。」
「ん?」
「はぁ、何でもないわ。それよりも、行きましょうクリス。」
残念そうに落ち込んでため息を突いたアイリスは、頭を左右に振って気を取り直してクリスの手を取って森の出口へと向かった。
【【ドリア】メンバーのアニーとルドス側】
国王直轄護衛騎士団【ドリア】のメンバーのアニーとルドスは、逃げ遅れた騎士団2人と生徒2人の前に出て、剣と盾を持っているイクシオン・ソルジャー1匹と交戦していた。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは、巨体に似合わないほどに素早く動きながら握っている剣を振り下ろしてアニーに斬り掛かる。
「な!?速い!くっ。」
アニーは剣で防いだが、イクシオン・ソルジャーの攻撃が重く後ろにズリ下がった。
「大丈夫か?アニー。」
ルドスは、アニーの前に出て身構える。
「はい、大丈夫です。ですが、気を付けて下さいルドスさん。普通のイクシオン・ソルジャーより、このイクシオン・ソルジャーは遥かに強いです。見た目も灰色じゃなく黒色ですし、信じられませんが魔力も私達と同等ぐらいあります。何より、肉体も強化しておりパワーもあり動きも素早いです。この強さは、まるで、あのイクシオン・ジェネラルと同等の強さと変わらない強さだと思います。」
「ああ、俺も、そう思う。気を引き締めて掛かるぞ。だが、無理はするなよ。俺達の目的は討伐じゃない、生徒達を救出して撤退することだからな。そのことを忘れるなよ、アニー。」
「はい!」
「来るぞ!」
アニーが返事した瞬間、イクシオン・ソルジャーはアニー達に向かって走った。
「「リーフ・カッター。」」
アニーとルドスは、無数の葉っぱを召喚して剣を振ってイクシオン・ソルジャーに向かって放つ。
放たれた無数の葉っぱは、木の枝や茂みを切り裂きながらイクシオン・ソルジャーに迫る。
イクシオン・ソルジャーは怯まず、速度を落とすことなく左手に握っている盾に魔力を纏わせて前に出して突き進む。
アニーとルドスが放った無数のリーフ・カッターは、イクシオン・ソルジャーの盾を切断するどころか掠り傷しかつけられなかった。
「チィ、やはり、同等の魔力を保有しているな。」
ルドスは舌打ちし、接近したイクシオン・ソルジャーは剣を横に凪ぎはらおうとする。
「エナジー・ショット!」
アニーは4発の魔力弾を放ったが、イクシオン・ソルジャーは盾で防いだが自身の盾でルドスとアニーの姿が見えなくなったが剣を横に凪ぎはらった。
しかし、そこに2人の姿はなく、剣は空振りになり木々を横に真っ二つに切断した。
イクシオン・ソルジャーは、右側から膨大な魔力を感知して振り向くとアニーが剣を握っている腕上げており、その上に魔法陣が浮かび上がっていた。
「ソーラー・レイ!」
アニーはイクシオン・ソルジャーが振り向いた瞬間、剣を振り下ろすと同時に魔法陣から光線が放たれた。
イクシオン・ソルジャーは盾で防げないと悟り、口から高圧の流水を吹き出して相殺させた。
「嘘…。大魔法が、相殺されるなんて。でも!」
驚愕したアニーだったが、口元に笑みを浮かべた。
「そこだ!」
ルドスは木の枝のから飛び降り、イクシオン・ソルジャーの頭上から降下しながら剣を叩きつける様に振り下ろす。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは、すぐに剣で迎撃しようとする。
「リーフ・バインド!」
アニーは地面に剣を突き刺して木魔法リーフ・バインドを唱えるとイクシオン・ソルジャーの足元から木の蔓が伸びてイクシオン・ソルジャーの剣を握っている右手首を拘束する。
「ギィ!」
イクシオン・ソルジャーは慌てて左手に握っている盾で防ごうとしたが、右手と同様に蔓が巻き付いており動かすことができなかった。
そして、ルドスの一撃がイクシオン・ソルジャーの頭に決まり、イクシオン・ソルジャーは大きな音を立てながら倒れて息絶えた。
「どうにか倒せましたね。」
「ああ、ジェネラルと同等の魔力と力はあったが、戦闘経験が浅かったから助かった。あの時、口から高圧の流水を吐かれていたらヤバかった。」
「はい。それに、まさか私のソーラー・レイが相殺されるとは思わなかったです。本当に1体で助かりました。」
「ああ、そうだな。これは、一刻も早く報告しないと大変なことになる。並みの冒険者や騎士団でも危険だ。早く戻るぞ。」
「はい。」
ルドスとアニーは、騎士団と生徒達と一緒に森から出ようと急いだ。
【リースとガディウス側】
ルドスとアニーとは違い、2人は先に冒険者と生徒達を逃がしてイクシオン・チーフとイクシオン・ファナティクの2匹と交戦し苦戦していた。
「こいつらは、強いです。」
「ええ、厄介ね。3年前は、こんな変異種は居なかったのに。」
「そうですね。まずは、1体ずつ確実にしとめましょう。エナジー・ボム!」
ガディウスは、肯定しながら左手を挙げて掌に大きな自然の魔力と自身の魔力を混合させた魔力弾を作り出して走って迫ってくるファナティクに放つ。
無防備状態のファナティクに直撃し爆発した。
「エナジー・スピア!」
リースは右手に握っている剣を振り下ろして魔力の槍を5本放ち、土埃煙が舞い上がった。
「手応えはあったわ。まず1匹ね…え!?」
自信があったリースだったが、土埃の中からファナティクの大きな右手が現れ、ギリギリで双剣をクロスにして防ごうとしたが剣ごと上半身を鷲掴みされた。
「きゃっ。」
「リース様!この!」
ガディウスは迷わずに大剣を両手で握り締めて振り上げ、リースを握っている胴体に槍が3本と左右の腕に槍が1本ずつ突き刺さって流血しているファナティクの右腕を切断しようと飛び掛かる。
しかし、ガディウスはチーフの警戒を疎かになり、空中でチーフの棍棒が右の脇腹に当たり鎧を砕かれ鈍い音と共に弾き飛ばされた。
「ぐぁ。」
弾き飛ばされたガディウスは木々をへし折り、最後に地面の上を転がって止まったが、何本か肋骨が折れてしまい激痛で、すぐには立ち上がれなかった。
ファナティクは、リースを食べようと大きな口を開いて口元に移動させる。
「この離しなさい!くっ、いや~!」
リースは魔力を最大まで上げて必死にもがくが、もともとの力が弱いため身体強化してもビクともしない。
もうダメと思ったリースは目を閉じ、そして、周囲に血が飛び散った。
しかし、痛みがなかったリースは恐る恐ると目を開けると、目の前いるファナティクの心臓がある胸の位置の辺りから子供の小さな手が貫通しており子供の手が目の前で止まっていた。
すぐに子供も手は引き抜かれて見えなくなると、同時にファナティクは膝から崩れ落ちて倒れた。
ファナティクは倒れる直前に握っていた手に力が抜けたので、リースはすかさず脱出した。
そして、リースは誰が助けてくれたのかを確認するためにファナティクの背後に視線を向けるとクリスがいた。
「間に合って良かった。」
「ありがとう、クリス。やはり、あなたは私の運命の人ね。」
「危ない!」
「え!?」
頭だけ後ろに振り向くと、目の前にチーフの棍棒が迫っていた。
「きゃっ!」
リースは咄嗟に目を瞑ると同時に優しく抱きかかれた感触があった。
クリスがリースをお姫様抱っこしてジャンプをし、チーフの棍棒の先端に音を立てずにソッと着地した。
「ギィ!?」
棍棒を野球のバッドの様にスイングしたチーフは手応えがなく空振りに終わったので、周囲を見渡したが何処にもクリスとリースの姿を見つけることはできなかった。
そして、すぐに振った棍棒に重みを感じて振り向くとリースをお姫様抱っこしたクリスが棍棒の先端に立っていた。
「だぁぁ!」
クリスはチーフが振り向いた直後、天歩で自然の魔力を上乗せさせて身体強化を限界まで上げた状態でジャンプして空中で体を捻りながら回し蹴りをしてチーフの頬を蹴りを入れた。
「~っ!」
チーフの巨大な体は両足が宙を浮き、駒の様に回転して吹き飛ばされた。
木の幹に凭れ掛かる様に倒れたチーフの首は大きく捻れており絶命していた。
「ところで、クリス。どうして、あなたが此処にいるの?アイリスと一緒に森の出口に向かったんじゃなかったの?」
「ハハハ…まぁ、途中まではね。途中で、リースのことだからイクシオンをあまく見て油断してそうだったから不安になって、アイリスに言って僕だけ駆けつけたんだ。予想が当たったみたいだね。」
「~っ!よ、余計なお世話よ!助けてなんて一言も言ってないし、助けなんて必要なかったんだから!あと少しで、自力で抜け出せていたんだから!」
「ハハハ…ごめん。」
「ふ、フン、まぁ良いわ。一応、助けて貰った形になったから、お礼だけ言うわせて貰うわ。ありがとう。」
「どういたしまして。ところで、ガディウスさんは?」
「あ!そういえば、ガディウスのこと忘れていたわ。チーフに殴られて吹き飛ばされたのよ。」
「え?ガディウスさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。うっ…あばら骨を何本か持っていかれたが、命には別状ない。」
「すみません、もう少し早く来ていれば…。」
「いや、そんなことはない。クリス君が助けに来てくれて本当に助かったよ。リース様と私だけでは殺られていた。正直、イクシオンがこれほど強くなっていようとは思わなかった。その油断が、この有り様です。日頃から他人に油断するなよっと言っていたんだがな。初心に戻れた。」
「そうですね、油断せずに戦っておれば勝てていたと思います。イクシオンの動きを見れば戦闘経験が浅かったですし、リースなら大魔法を使えば確実に倒せていたと思いますよ。」
「あ、当たり前よ!」
突如、クリス達の横からイクシオン・ソルジャーが飛び出した。
「ギィ!」
ソルジャーは剣を横に振り抜き、クリス達をまとめて斬ろうする。
クリスは負傷しているガディウスを肩に担いでバックステップして離れ、リースはジャンプして攻撃を回避しながらイクシオンの頭上を飛び越えて背後に回った。
「ギィ!」
イクシオンは、リースの動きに合わせて顔を動かす。
「はい、これで終わりよソーラー・レイ。」
リースは、着地と同時に剣先をソルジャーの顔に向けて木属性の大魔法ソーラー・レイを唱えた瞬間、剣先から魔法陣が出現し光線が放たれた。
光線はソルジャーの顔面を飲み込み、空の雲を撃ち抜いき、細くなって消滅した。
光線に飲み込まれたソルジャーの顔面は真っ黒に焦げており後ろにゆっくりと倒れた。
「どう?クリス。凄いでしょう!」
「あっ、うん。凄いね。流石、リースだね。」
「フフン!当たり前でしょう。油断なんてしなければ、あんなの私の敵じゃないわ。」
リースは胸を張って自慢気に話す。
「ありがとう、助かったよクリス君。うっ…。」
「大丈夫ですか?ガディウスさん。リース、治癒魔法は使える?」
「勿論よ。誰にものを言っているのよ。」
「じゃあ、あとは任せたよ。」
クリスは、ガディウスを木の幹に凭れ掛かる様に座らせた。
「仕方ないわね。リーフ・エレメンタル・ヒール。」
リーフは、ガディウスの骨折している胸部の場所に手を翳(かざ)して魔法を発動した。
リースの掌から緑色の魔力に覆われ内部出血して腫れていた胸部に当てると、胸部はみるみると腫れが癒えていった。
(魔法の威力も想像以上で驚いたけど、それよりも発動が早い。これが、木属性の特有の自然の魔力を利用する魔法。他の属性魔法とは違い、自然の魔力を利用することで魔力の溜めと消費を抑えられ、威力も増す。特にリースは聖霊ドリヤードを宿している分、他の者達よりも格段に早く、そして、威力も段違いに高いな。)
クリスは倒れているソルジャーを見ながら、リースの戦いを思い出していた。
「ありがとうございます、リース様。」
「気にしないで良いわよ。それより、クリスどうしたの?」
「いや、聞いた話だとイクシオンは滅多に現れない魔物で現れても下位種しか現れないと聞いていたんだけど。今回は、上位種がこんなにも沢山現れているから変だなと思っただけだよ。」
「リース様…。」
「ええ、イクシオン達がドリヤードの加護を手に入れたことで力を増して、今なら国を落とせると思って侵攻しているかも知れないわね。」
「だったら、急いで戻ろう。それから、対策を考えないと最悪な事態に陥るかも知れない。」
クリスが告げると、リース達は深刻そうな表情で無言で頷いて肯定した。
クリス達は国に戻り、すぐに警戒レベルを最大にして騎士団だけでなく冒険者にも防衛を依頼し、国中にアナウンスで国民全員に知らせた。
この時、運が良く、【風魔】の件が片付いて間もなかったので、誰1人、国から外出した者はいなかった。
【ヨンダルク城前】
城の前には、報告を受けた国王であるヨルズが緊急召集の命令を出し、護衛についていない冒険者達と交代待ちの騎士団達が集まっていた。
場の空気は張り詰めており、誰一人も声を出さず静寂が訪れていた。
冒険者や騎士団達の前にヨルズや妃のリオン、リース、ヨンダルク国の国王直轄護衛騎士団【ドリア】メンバーのガディウス達だけでなく、バルミスタやシリーダ、アイリス、クリス、スノー・ランド国の国王直轄護衛騎士団【六花】のメンバーがヨルズとバルミスタを先頭に次々に現れる。
ヨルズとバルミスタを中心にクリス達は移動して待機し、ヨルズとバルミスタは一歩前に出た。
「突然の召集に応じて集まってくれたことに感謝する。まず、今現在、何が起こっているのかを実際、現場で行った【ドリア】のリーダーであるガディウスから説明して貰う。ガディウス。」
「ハッ!では、説明をするから聞いてくれ。まず、アイリス様が参加されると耳にしたので様子が気になり森が見える窓から外を見ていた際、緊急事態を知らせる狼煙が騰がっていたこと気付き、我々が救助に向かったのだが…。」
ヨルズから頼まれたガディウスが前に出て詳しく説明する。
「おいおい、冗談だろ…。」
「しかも、よりによってロードがドリヤードの加護を手にし、その結果、ロードの特有の体質である【共有】で他のイクシオンもドリヤードの加護の恩恵を得ているとか最悪じゃないか…。」
「ええ、本当に最悪な状況ね…。普通のただのイクシオンでも苦戦するのに、その力が1つ上の上位種の強さを持っているソルジャーやチーフと同等となんて、私達に勝ち目があるの?」
「無いに等しいんじゃないか?」
「「……。」」
誰もが絶望しており、言葉を発することはなく、場の空気が重くなって静まり返った。
「そんなことないわ。今度こそ…。」
「だってよ、【ドリア】であられるガディウス様方でも3年前の奇襲した際、ジェネラルを倒しきれなかったんだぞ。そのジェネラルもドリヤードの加護と呼ばれている【蒹葭玉樹(けんかぎょくじゅ)】によって格段に強くなっているんだろ?しかも、その上、ドリヤードの加護を手に入れたロードは元々ジェネラルより強い魔物なんだぞ。そんな奴を相手に勝ち目なんて、ほぼ0だろ?皆も、無謀だとわかっているだろ?」
冒険者の女性1人が雰囲気を変えようと思って元気付けようとしたが、同じ冒険者の男性に否定された。
「そ、それは…。」
「「~っ!」」
冒険者の女性は言い返すことはできず、集まった冒険者や騎士団達は息を呑む。
「それは、承知だ。命懸けの戦いになるのは確かだ。だから、強制的に戦場には向かわせようとはしない。本人の意思を尊重する。無論、辞退しても構わないし罰則もない。それは、ヨルズ国王様もお認めになさっている。」
「そんなの決まっているだろ!誰が好き好んで死にに行くものか。そうだろ?皆。ここにいる俺達は、冒険者ランクでシルバーにも到達できないブロンズ、アイアン、ストーンの落ちこぼれだぞ。そんな俺達が何かできるとでも思っているんだ!」
「確かに、無謀かもしれません。ですが、国の周りにはイクシオンが居ますので逃げることはできません。逃げることができないのだったら諦めず、戦えとはいいません。せめて、大切な人や家族、支え合った国民の人達のために避難誘導など良いので、できる範囲で構いません。どうか、お願いします。そして、思い出して下さい。あなた達は、なぜ冒険者に憧れて冒険者になったのかを…。」
クリスは、最後に頭を下げた。
「「……。」」
「正直に言うと、体が震えるほど、とても怖いけど…。でも、私は国民の避難誘導します。そして、もしイクシオンが侵入したら、その時は逃げずに戦います!今まで私を支えて下さった、この国の人達のために!」
1人の女性の冒険者は、恐怖で体が震えながらも自身の胸に手を当てて大きな声で宣言した。
「はぁ、女に先に言われたな。ったく、情けないぜ、本当によ…。勿論、俺も協力するぜ!」
「ちょっもと、あなた。「女に」って何よ!男とか女とか関係ないでしょう!」
「わ、悪かった、勘に触ったなら謝る。この通り、悪かった。」
「「ハハハ…。」」
2人のやり取りを見た人達が笑い、重く暗かった場の空気が和んだ。
「僕も、大したことはできないと思いますが協力します。いえ、させて下さい。」
「私も!」
「俺もだ!」
冒険者や騎士団達は、次々に声を出して名乗り出す。
「お、おい!お前達、正気か?相手は、イクシオンだぞ?ゴブリンとかじゃないんだぞ!」
「お前の言うことは正しい。だから、お前は何もしなくっても良い。だが、俺達は無謀だと知っていても命懸けで挑むつもりだ。あの少年の言葉で、俺達は思い出し目が覚めたんだ。なぜ、こうして冒険者になったのかをな。今、国の一大事に何もしないまま、目の前で国民達が傷つき倒れたりしたら、この先、俺は逃げて生き延びたとしても絶対に自決したくなるほど後悔すると思うからな。どうせ、死ぬなら人のために、この命を使いたい。」
「あ~、わかったよ。俺も力を貸す。」
「感謝する。」
ヨルズはお礼を言い、ガディウス達は無言で頭を下げた。
「それに、我々も惜しみ無く力を貸す。頼むぞ、アイリス、ユナイト、ユーリア、そして、クリスよ。」
「「ハッ!」」
「「おお!」」
「あの、バルミスタ国王様。1つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「【六花】であられるユナイト様、ユーリア様と聖霊を宿しておられるリース様やアイリス様はわかりますけど、そこのクリスって少年は大丈夫なのですか?相手はイクシオンですが。」
「フッ、そのことなら問題ない。クリス殿は、かの【女帝】と言われているマミューラの弟子で、そのマミューラに勝ったほどの実力者だ。今回も、既にソルジャーとチーフ、ファナティクを1人で難なく討伐している。」
「「おお!」」
冒険者や騎士団達の士気が上がった。
「まぁ、俺に任せな!この俺の家に代々受け継がれている伝説の剣エレメンタル・ソードを使って、ジェネラルだろうがロードだろうが1振りで倒してやるからよ。」
トーマスは、自慢げに布に包まれた豪華な装飾を施された一本の剣を取り出した。
「どうせ、偽物だろ。それ。」
「ハハハ…。違いない。」
「本物だ!あっ、信じてないな。お前ら!」
「だってね。」
「だっても、糞もあるか!本物だって!」
トーマスは必死に本物と言い張ったが、周りは信じておらず盛大に笑った。
まるで、戦を忘れているかの様に場の空気が明るくなった。
【ペナンの森の中】
クリス達はゴールドランクの冒険者と騎士団達だけでなく、国王であるヨルズ、バルミスタ、【六花】のユナイト、ユーリアも同行することになり一緒にイクシオンを討伐しにペナンの森に足を踏み入れていた。
ここにいるメンバーならば、普段は他愛もない話をしてゴブリンや魔物が出ても簡単に倒せるのだが、今は警戒心を最大限に高めており緊迫して重い空気が流れていた。
その雰囲気は、まるで難易度が高いダンジョンを攻略しているようだった。
その重い雰囲気を変えようとユナイトは、妹のユーリアに話し掛ける。
「懐かしいな、ユーリア。」
「ええ、だけど、お兄様。油断は禁物よ。」
「ああ、わかっている。」
ユーリアはユナイトの思惑に気付いていたが、今は、そんな場合ではないと判断して会話を切った。
ユナイトも自分の失態に気付いて、口を閉じた。
そして、暫くすると前方から数多くの魔物の気配がした。
「総員、戦闘準備だ!」
ヨルズの掛け声によって、クリス達は戦闘体勢を整え構える。
正面から下位種のイクシオンと、上位種のソルジャー、チーフ、ファナティクが現れ、そして、奥からソルジャー達より更に上の上位種であるジェネラルが2匹現れた。
ジェネラルが纏っている魔力は精霊を宿しているアイリス達に近いほど膨大で、放たれている威圧感は誰もが一番危険だと思うほどだった。
「奥のジェネラル2匹は、私とアイリスが相手するわ。他はお願いします、お父様。」
「ううん、念のため僕も手伝うよ。」
「私達を信用できないの?クリス。」
リースは、訝しげな表情でクリスを見る。
「勿論、信用しているよ。でも、今回は敵の数が多いから1対1の戦いにならない可能性が高いからね。」
「一理あるわね。わかったわ。」
「そうしてくれ。情けない話だが、直接、一目見て理解した。あの魔物は我々の手では負えそうにない。頼んだぞ、リース、アイリス、クリス。」
リースはヨルズに振り向いて頼み、ヨルズはバルミスタに視線を送り、バルミスタが無言で頷いたのでヨルズは承諾した。
「話は聞いていたが、本当にあのイクシオンなのか?それに、この数は俺達を上回っていないか?」
「上回っているわ、お兄様。それにしても、書物で読んだことはあるのだけど、実際に体験するとドリアの加護って本当に恐ろしい物ね…。」
ユナイトとユーリアは、強化させたイクシオン達を見て驚愕した。
ユナイト達が怯んでいるのを見たイクシオン達は先に動きだそうとしたので、クリスはその前に動いた。
「アクア・スピア!」
クリスは、水の槍を無数に召喚してジェネラルの前にいるイクシオン達に向かって放つ。
下位種のイクシオンは当たり所が悪く息絶えたり、致命傷を負ったが上位種は武器で払い除けたり、掴んだりしてクリスの攻撃は通用しなかった。
「「クリス!?」」
クリスはアイリスとリースの驚きの声を無視し、腰に掛けてある剣を抜刀してジェネラルに向かって一直線に走り、剣で次々に立ちはだかるイクシオン達を斬って倒していく。
イクシオン達は、クリスに集まって行った。
「クリスったら、仕方ないわね。」
「本当ね。でも、先に攻撃されていたら危険だったわ。」
アイリスとリースも笑みを浮かべながら突撃した。
少し遅れて我に返ったヨルズとバルミスタは、すぐに指示を出す。
「【ドリア】メンバーは上位種、他はパーティーを組んで下位種の相手しろ。私の気遣いは無用だ!」
「ユナイト、ユーリアも上位種の相手をしろ。無論、ヨルズ殿と同じく私の気遣いは無用だ。」
「「ハッ!」」
「「ウォォ!」」
ガディウスやユナイト達も参戦し、あっという間に大乱闘になった。
「魔物が、俺達と同等の実力があるとはな。全く、困ったものだ。」
ユナイトは、ソルジャーと鍔迫り合いなっており、言葉と裏腹に笑みを浮かべていた。
「ハッ!」
ユナイトは、魔力を最大限まで解き放ち身体能力を向上させてソルジャーを跳ね除けてバランスを崩しているソルジャーに渾身の一撃を決めて倒した。
「全くですよ。アクア・ショット!」
ファナティクと交戦していたユーリアは、ファナティクの拳を避けながら肯定し、無数の水弾を放った。
ファナティクは両腕をクロスにして防いだ。
その隙にユーリアは、ファナティクの懐に入った。
「ほぼ無傷なんて、呆れるほど頑丈なのね。だけど、ウォーター・カッター!」
ユーリアは、剣に流水を纏わせて殺傷力を上げて体を回転させながら遠心力をつけて振り抜く。
頑丈なファナティクの腹部を切り裂いた。
しかし、ファナティクを倒すまでは至らず、ファナティクは反撃しようと右拳を振り上げる。
「アクア・スピア!」
ユーリアは、水の槍を複数放った。
水の槍は、大きな傷を負ったファナティクは身体強化が弱まっていたので、水の槍が体のあちらこちらに突き刺さって絶命した。
「アクア・ドラゴン!」
「ソーラー・レイ!」
バルミスタは水の龍を、ヨルズは魔力の光線を放ち、チーフ2匹を倒し、【ドリア】メンバーのガディウス達も上位種を倒していく。
「流石、国王様方だ。」
【ドリア】メンバーのノーンは、下位種のイクシオンを倒した後、バルミスタとヨルズの戦いを見て感嘆した。
「まだ、お前達に守られるほど鈍っていないぞ。」
ヨルズは、笑みを浮かべながら剣を振り下ろして下位種のイクシオンを倒した。
しかし、下位種のイクシオンを任せられている冒険者や騎士団達はパーティーを組んでいても押されていた。
「危ない!アクア・ジェット!」
バランスを崩されて殺されかけていた冒険者を見つけたバルミスタは、すぐに左手から流水を放ち、冒険者に襲い掛かろうとしていたイクシオンを押し流した。
しかし、その隙に下位種のイクシオン2匹がバルミスタに襲い掛かった。
「くっ。」
バルミスタは、1匹のイクシオンのジャンプ蹴りを握っている剣で防いだが、もう1匹が懐に入っていた。
「「国王様!」」
ユナイトとユーリアは叫んだ。
バルミスタの懐に入ったイクシオンは、鋭い爪で切り裂こうとしたが、飛んできた剣が側頭部に突き刺さって倒れた。
剣を投擲したのは、クリスだった。
クリスは戦いながらアイリス、リース、バルミスタ、ヨルズの4人を見守っていたので、バルミスタが危機に陥ったので持っていた剣を投擲したのだった。
しかし、クリスはファナティクと戦っていたので隙ができた。
ファナティクは、笑みを浮かべながら右拳を振り下ろす。
「ハイドロ・キャノン!」
クリスは避けながらファナティクの懐に入り、右手でファナティクの腹に当てて水大魔法ハイドロ・キャノンを唱えて右手から高圧の流水を放つ。
流水はファナティクの腹は貫通し、ファナティクはその場に倒れた。
「「クリス!」」
アイリスとリースは、クリスに駆けつけた。
「もう、勝手に戦い始めるなんて、もっと私達のことを信用しなさいよ。」
「アイリスの言う通りよ。」
「2人のことは信用しているよ。だから、一直線に突っ込んだよ。きっと、来てくれると思ってね。」
「そうだったの?疑ってごめんなさい。」
「ありがとう、アイリス、リース。さて、本番だよ。」
クリスは視線を正面に向けると、目の前には片手で大剣を持っているジェネラル2匹がいた。
「「ええ!」」
アイリスとリースは気合いを入れ直し、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「僕は右のジェネラルを相手にするからアイリスとリースは左をお願いするよ。」
「何でそうなるのよ?」
「今は勝負とか、遊んでいい場合じゃないからね。なるべく、早く倒した方が皆の被害も小さく済むからね。」
「「わかったわ。」」
クリス達は、それぞれのジェネラルに向かった。
アイリスとリースは、ジェネラルの左右側から接近する。
「ウォーター・カッター!」
「リーフ・カッター」
アイリスは剣を何度も振って水の刃を飛ばし、リースは魔力で召喚した葉っぱを飛ばす。
ジェネラルは右手に握っている大剣を横に振って水の刃を打ち消し、次にリースに振り向いて左手から水弾を放って相殺させたが、1枚の葉っぱが左手に直撃した。
しかし、ジェネラルの左手は掠り傷を負った程度のダメージだった。
「ソルジャーとかチーフでもダメージを与えられたのに。掠り傷しかつかないなんて、何て硬さなのよ。」
「ヤッ!」
アイリスは、ジャンプして全力で剣を振り下ろす。
だが、斬ったと思ったアイリスだったが、ジェネラルが一瞬で消えたと共にアイリスの背後に回っていた。
「えっ!?」
「アイリス!しゃがんで!ソーラー・レイ!」
リースは、大声を出しながらジェネラルに光線を放つ。
ジェネラルは、ジャンプしてアイリスから離れて光線を避けた。
「アイリス、油断しないで!」
「ご、ごめん。」
(油断はしてなかったのだけど…。さっきのは、一体…。)
アイリスは、違和感を感じて息を呑んだ。
ジェネラルが自身の周りに無数の水弾を召喚して左手を前に出した瞬間、水弾がアイリスに向かって放たれた。
「アクア・ショット!」
アイリスは水弾を放ち相殺させるが、ジェネラルの方が数が多く、アイリスは剣で弾いていく。
「ハッ!」
リースは、ジェネラルの左側から接近して剣に魔力を込めて横に凪ぎ払った。
しかし、アイリスの時と同じで一瞬でジェネラルの姿が消えて空振りになり、気付いた時には横を向いていたジェネラルがリースに向いて大剣を振り下ろそうとしていた。
「リース!」
アイリスはリースに飛びついて一緒に倒れ、ジェネラルの大剣を躱した。
大剣は地面を深く抉り、ジェネラルはそのまま大剣を地面に擦りながらアイリス達に斬りかかる。
「アクア・ドラゴン!」
アイリスは、倒れながら左手をジェネラルに向けて水大魔法アクア・ドラゴンを唱えて水龍を召喚して放つ。
水龍はジェネラルの大剣が衝突したが押し勝ち、ジェネラルに迫る。
ジェネラルは左手を大剣に添えて堪えるが、後ろにズリ下がり背中に木々が衝突していく。
「ギィ!」
ジェネラルは堪えながら口に魔力を溜めて口から流水を解き放ち、水龍を消滅させた。
ジェネラルは左手の掌に大きな水弾を作りだし、上空に放った。
アイリスとリースは、嫌な胸騒ぎがした。
大きな水弾は回転しながら上空で止まり、そして、無数の水弾を巻き散らかした。
「総員、上空に気を付けろ!攻撃が来るぞ!」
「アクア・ウォール。」
「「リーフ・ウォール。」」
ユナイトが大声で警告したが、冒険者や騎士団だけでなく下位種のイクシオンは当たりどころが悪ければ即死、致命傷を受けて倒れ、ガディウス達【ドリア】メンバーや、ユナイト、ユーリアは武器や魔法でどうにか防いだ。
「敵味方関係なく攻撃するなんて、何を考えているの。」
「やはり、魔物って感じね。」
アイリスは避けながら呟き、リースも回避しながら答えた。
ジェネラルは自身が放った水弾をコントロールして自分に当たらない様にすると共にリースに集中放火して、一気にリースに接近し大剣を上から振り下ろそうとする。
水弾の集中放火されたリースは避けるのが困難になり剣で防ぐが、目の前にジェネラルが大剣を振り下ろす。
「リーフ・シールド。」
リースは魔法を唱えると自身を包む様に地面から木が出現する。
だが、ジェネラルの力の前では威力を軽減するのが背一杯だった。
木の結界は簡単に粉砕され、リースは剣を横に向けて左手で刀身を支えながら額の高さで受け止めた。
「うっ。重い…。」
リースはジェネラルの力で押し込まれていき、地面に片膝をついて必死に耐える。
「リース!ハッ!」
水弾の数が減ったことで、アイリスはリースの横に駆けつけながら回転し遠心力を加えてジェネラルの大剣を弾き飛ばした。
「ここよ!」
リースは前にダッシュしてジェネラルの腹部を斬ろうとしたがジェネラルの姿は消えて空振りに終わり、少し下がった場所にジェネラルの姿があった。
ジェネラルは、大剣を横に振り抜く。
「「きゃっ。」」
アイリスとリースは、剣で防いだが弾き飛ばされ地面を転がった。
ジェネラルが2人に接近してくる。
「ウォーター・ジェット!」
体勢を整えたアイリスは左手を前に出して流水を放ち、ジェネラルを押し流すことはできなかったが足を止めさせるには十分だった。
「アイリス、さっきジェネラルから背後を取られたのは油断じゃないわよね?」
「ええ、あの時、確かに確実に斬ったと思えるタイミングだったのだけど、突然、ジェネラルの姿が消えて見失ったと思ったら背後にいたの。」
「私も似た様な現象だった。真横から攻撃した時、消えたと思ったら、何故か正面を向いていたわ。」
「ジェネラルが、何をしているかを突き止めなければ危険ね。その間は、接近戦する時は2人で戦うわよ。」
「仕方ないけど、そうするしかないわね。でも、遠距離で魔法攻撃するなら生半可な魔法だと意味ないと思うから大魔法を使うしかないけど、避けられて魔力だけ消費しかねないわよ。」
「ええ、だから、2人で接近戦するしかないわ。」
アイリスとリースは、お互いに向き合い頷いた。
【クリス側】
アイリスとリースが交戦しているジェネラルが上空に大きな水弾を放って周囲に水弾を巻き散らしている中、クリスは水弾を避けながらジェネラルに迫る。
「ハッ!」
ジェネラルの大剣を避けながら、クリスは断罪の剣で凪ぎ払う。
しかし、ジェネラルの姿が消えたと思ったら、姿が消えた場所から少し後ろに離れた場所におり、ジェネラルは大剣を横に凪ぎ払う。
「~っ!?くっ。」
クリスはバック・ステップして躱して避けたが、ジェネラルは猛スピードで近付いてきていた。
「ハァッ!」
クリスは、後ろにあった木の幹を両足で蹴り飛ばして自らジェネラルに接近して剣を振った。
クリスの剣とジェネラルの大剣が衝突して火花が散り、衝撃波が生まれた。
お互いに弾かれてクリスは地面を転がったがすぐに体勢を整え、ジェネラルは後ろにズリ下がった。
立ち上がったクリスも、アイリス達と同様にジェネラルの異様な現象に眉をしからめていた。
(気のせいじゃなかった。さっきから、瞬間移動している?いや、それなら初めから背後を取って攻撃すれば良いはずだし。他に考えられるとしたら、幻影の可能性が高いと見るべきかな。どちらにせよ、魔力感知を最大限に高めれば、不意打ちされてもどうにか対処できるし、まずは間合いを確かめるのが先決かな。)
「ヤッ!」
することを決めたクリスは、断罪の剣を横に振りながら途中で剣に魔力を込めて一気に刀身を10mぐらいに伸ばして攻撃した。
ジェネラルの姿は蜃気楼の様に消えたが、その後ろにジェネラルがおり大剣で防ぐ。
(まずは、半歩ぐらい後ろ。)
ジェネラルの位置と距離を確認きたクリスは、ジェネラルに接近してジャンプ蹴りをする。
しかし、再び、ジェネラルが蜃気楼の様に消えて空振りに終わったが、クリスは空中で体を捻りながら回し蹴りを繰り出すと大剣で防がれる感触があった。
(なるほど、今回も半歩だけ後ろ。)
クリスは、納得した様な表情で大剣の刀身を踏み台にして蹴って1度、後ろに下がった。
「アイリス!リース!ジェネラルは幻影を使っているから気を付けて!本体は半歩だけ後方にいる!」
クリスは、大きな声で知らせた。
「さてと、違和感の正体もわかったことだし、さっさと終わらせよう。」
クリスは、自然の魔力を体内に取り込み身体能力を向上させる天和(テンホー)を使った。
突然、クリスの魔力が跳ね上がったので、ジェネラルは驚いて目を大きく見開き、本能が危険だと察知して身構える。
「ウォーター・カッター。」
クリスは広範囲に水の刃を放ち、ジェネラルだけでなく、その周りの木々も伐る。
ジェネラルは蜃気楼の様に消えたが、近くの木々が倒れてきたので大剣で防ぐ。
「そこだね。」
その隙に、クリスはジェネラルの懐に入り込むと同時に無防備なジェネラルの心臓部に断罪の剣を突き刺した。
「ギィ…。」
ジェネラルは、口から緑色の血を吐きながら左手で心臓を刺しているクリスの右腕を掴んで逃がさないようにして右手に握っている大剣を振り下ろす。
だが、クリスは左手で大剣を掴んで受け止め、心臓を突き刺している断罪の剣から膨大な魔力を解き放つ。
ジェネラルは、驚愕した面持ちで自分の心臓を貫いている断罪の剣に視線を向けた。
「アクア・ドラゴン。」
クリスが魔法を唱えると断罪の剣から水龍が現れ、それと同時にジェネラルの体が弾けた。
残ったのは、クリスを逃がさないようにとクリスの右腕を握った左腕と剣を振り下ろした右腕だけだった。
クリスは、すぐに近くで戦っているアイリスとリースの様子を窺う。
【アイリス、リース側】
ジェネラルに接近戦を繰り広げているアイリスとリースは、共闘していくうちに幼い頃に一緒に訓練していた感覚が思い出し始めており、2人の呼吸が噛み合って動きに迷いがなく速く鋭くなっていく。
そんな2人を相手にいしているジェネラルは、幻影を作り出す暇もなく、自慢の怪力や一撃の破壊力を出した直後は隙ができてしまうので繰り出すことはできず、それ以前に動きが速い2人には当たらないと直感していた。
なので、受け身しかとれず、次第に追い込まれて掠り傷を負っていく。
「決めるわよ!」
「わかっているわ。だけど、仕切らないで欲しいわ!」
アイリスの掛け声にリースは賛同しながら頬を膨らませた。
アイリスとリースは、お互いに何度も交差しながらジェネラルに接近する。
ジェネラルはタイミングを見計り、2人が交差した時、全力で大剣を振り下ろした。
アイリスとリースは、スライディングをしてジェネラルの股の下を掻い潜って避けながらジェネラルの左右のアキレス腱を剣で斬る。
アキレス腱を切られたジェネラルは、振り返ようとしたがバランスを崩して倒れた。
その隙にアイリスとリースは、ジェネラルに飛びかかって剣を逆手に持ち替え、ジェネラルの背中に着地すると共にジェネラルの後頭部に剣を刺した。
起き上がろうとしていたジェネラルは、白目を向いて倒れた。
「お疲れ様、2人共。」
「当然よ。まぁ、私1人でも勝てていたけどね。」
「私もアイリスに同意するわ。」
「うん、そうだね。2人なら勝てていたと思うよ。」
「クリス、それよりも、納得できないことがあるの。」
リースは、腰に手を当てて頬を膨らます。
「何かな?」
「何で、1人でジェネラルを相手をした貴方が、私達よりも早く倒しているのよ。」
リースは、人差し指でクリスに指さした。
「おそらく、僕が相手したジェネラルが油断したか、もしくは、リース達が相手したジェネラルより弱かったんじゃないのかな?」
クリスは、苦笑いを浮かべて答える。
途中でジェネラルが放った広範囲魔法で大きな被害を出したが、他のバルミスタやヨルズ、ガディウス達も順調にイクシオンを討伐していった。
最後に生き残っているのは、トーマスの5人パーティーが交戦しているイクシオンだけだった。
「「エナジー・ショット。」」
トーマスの仲間の2人が複数のエナジー・ショットを放ち、トーマスは剣を両手で腰の位置で握ったままイクシオンの左横から迫る。
「貰った!我が代々受け継がれた家系の伝説の宝刀、エレメンタル・ソードの威力を身を持って知るが良い!」
トーマスは剣に魔力を込めると剣は輝き、そして、真横に振り抜いた。
「「おお!」」
「凄いわ…。」
「信じられないけど、本物だったんだわ…。」
成り行きを見ていた冒険者や騎士団達だけでなく、アイリスやリースも自然と感嘆な声が出た。
(決まったぜ!ん?)
トーマスは剣を鞘に戻そうとした時、刀身が半ばで折れていることに気付き、次第に心拍は大きくなり表情が青くなった。
折れた刀身は、クルクルと回転しながら上空を飛んでいた。
「「へ?」」
アイリス達は、呆然と回転しながら宙を舞う折れた刀身に視線が集まる。
トーマスは、恐る恐るイクシオンに振り返る。
「ギィ!」
斬られたと思ったイクシオンは硬直したが、自分の身に何も痛みがなかったので、すぐに右手を挙げてトーマスを切り裂こうとする。
「ヒィ…。」
トーマスは恐怖で後ろに倒れ、尻餅をついて目を瞑った。
「ハッ!」
クリスはジャンプして木の幹を使い三角飛びをし、回転しながら飛んで来た折れた刀身を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた刀身は、猛スピードでイクシオンの挙げた右手の掌を貫通して木の幹に突き刺さり固定した。
「アイリス!リース!」
「「任せて!」」
アイリスはイクシオンの右側から接近し、リースはジャンプしてイクシオンの左側から迫る。
2人は交差すると同時にイクシオンの首が地面に落ちた。
ジェネラル3匹と上位種を含むイクシオンの群れを倒したアイリス達は疲弊しており、大声で喜び会うことはなかったが、軽くハイタッチや肩を組んだり、拳同士を軽く当てたりして喜ぶ者、疲れ果てて地べたに座り込んだり、大の字で横になる者などで緊迫していた空気が和んだ。
しかし、その喜びもつかの間だった。
「それにしても、クリスは凄いわね。魔力もそうだけど、1つ1つの動きに無駄がないのだから。あの【女帝】と言われているマミューラさんに勝ったのも頷けるわ。」
「ですね。その年齢で、これほどの体術を極めているとは、本当に恐ろしい才能です。」
リースに肯定したガディウスの意見に他の【ドリア】メンバーも頷いて賛同する。
「ちょっと、才能という言葉だけで片付けないでくれるかしら?クリスは、私のために毎日、日が暮れても訓練し、雨の時でも日が暮れるまで必死で努力していたんだから。」
「そうだったのですね。それは、失礼なことを言ってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、別に気にしないで下さい。頭を上げて下さい。アイリスが言った通り、僕は自慢するために頑張った訳ではないので…。~っ!?」
苦笑いを浮かべていたクリスだったが、途中で背筋がゾッとするほどの危険な気配を感じ、深刻な表情を浮かべながら勢い良く気配が感じた方向に振り向いた。
「ん?どうしたの?クリス。って、え!?何、この膨大な魔力は…。嘘でしょう…。」
その気配をアイリスも気付き驚愕し、少し遅れてリースや【ドリア】メンバーも気付いて息を呑む。
そして、すぐにドシン、ドシンっと大きな地響きと共に,大地が揺れた。
「な、何だ?この大きな揺れは…。」
トーマスは呟き、騎士団や冒険者達は表情が強ばった。
地響きは段々と大きくなり、木々が押し倒されていく音も大きく聞こえ、着実に何かが近づいて来ていることがわかった。
「一時、撤退だ!」
我に返ったガディウスは、すぐに大声で退却命令を出す。
しかし、周囲からも木々が倒れる音が聞こえて来る。
「アイリス。」
「ええ、これは非常に不味いわね。完全に囲まれているわ。リース。」
「わかっているわ。ガディウス!撤退は間に合わないから、陣形を整えるのよ!ここで、迎え撃つしかないわ。」
「ハッ!総員、直ちに円の陣形だ!魔物に囲まれているぞ。」
ガディウスの指示により、冒険者や騎士団達が集まり円型の陣形になった。
しかし、誰もが疲弊しきっており、動きに切れがなく不安な表情で武器を持って円陣を作って構える。
「う、嘘だろ…。なぁ、俺達は勝てるのか?」
1人の冒険者が不安を口にし、誰も答えなかった。
いや、もし口にして答えると気力が無くなり何もできなくなる。
例え、嘘でも皆を励ますために「勝てる」と言える雰囲気ではなかった。
そして、森の中からクリス達を取り囲う様に下級のイクシオンだけでなく、上位種のソルジャーやファナティク、チーフなどが現れた。
特に目の前にいるロードはクリスだけでなく、アイリスやリースの魔力すらも上回っていた。
「嘘でしょう…。明らかに精霊を宿している私達よりも魔力が高いなんて…。魔力だけなら、成人した精霊使いをも凌駕しているわ。【氷帝】や【炎帝】には及ばないけど、上位の精霊使いであられる【武帝】と同等だわ…。」
リースは、正面にいるロードを見て信じられないという表情で呟いた。
「あ、あら?珍しいわね。いつも強気のリースは、どこへ行ったの?」
「目が悪くなったの?アイリス。あなたこそ、手が震えているわよ。」
「これは、その、ただの武者震いよ!」
「僕がロードと戦うから、2人は他のイクシオンを頼むよ。」
「クリス、1人では無理よ!あなたも、わかっているでしょう?ロードの放っている魔力と威圧感は、精霊を宿している私達を遥かに凌駕していることに。悔しいけど、私達では勝てないわ。今は、どうにかここから離脱して国民の人達と一緒に撤退するしかないわ。数年後すれば、私達も成長して武術や魔力も強くなるから、その時に討伐するしか…。」
「アイリス、逃げるとしても誰かが時間を稼がないと無理だよ。この中で、1番、時間を稼げるのは僕だ。だから、ここで僕が時間を稼ぐから、その間にアイリス達は一点突破で脱出して欲しい。」
「そんなことできないわ。クリス1人にさせないわ。」
クリスとアイリスが言い合いをしていた時、冒険者達の不安が爆発した。
「う、嘘だろ…。これほどの数を相手にするのは、絶対に無理だ…。例え、俺達が万全な状態であったとしても勝てる気がしない…。」
「お、俺は、こんなところで死にたくない!死んでたまるか!うぉぉ!」
「俺もだ。」
「わ、私もよ!」
絶望した冒険者達が死の恐怖に堪えきれずに負けて自暴自棄になり無謀にも特攻する。
「待て!落ち着け!」
【ドリア】メンバーのガディウス達は、大声で制止させようとするが冒険者達の足は止まらなかった。
「くっ。」
クリスだけは口よりも先に体が動いており、冷静さを失って走り出している冒険者の後ろから襟元を掴んで引っ張たり、足を引っかけて転ばせたりして冷静さを欠いて突撃する人達を止める。
しかし、突撃する冒険者達の人数が多く、クリス1人では全員を止めることができなかった。
「「ウォォ!」」
無謀な行動をした冒険者達は、周囲に魔物の数が一番薄いロードを向かって行く。
「ギィ!」
ロードは、右手のそれぞれの指先に水を纏わせて振り下ろすと共に水魔法ウォーター・カッターを放ち、水の刃が冒険者達を襲う。
「「なっ!?」」
襲い掛かった冒険者達は驚愕したが、すぐに避けることが無理だと判断し、武器に魔力を込めて強度を上げ受け止めようとする者や魔法を唱えて相殺させようとする。
しかし、武器と魔法は無惨にも簡単に切断され、冒険者達は真っ二つになって息絶えた。
ロードは、嘲笑うかの様に口元に笑みを浮かべた。
「嘘だろ…。ゴールドランクの冒険者でも相手の攻撃は防ぐことができないとか…。」
冒険者や騎士団達は、目の前で何もできず死んだ仲間を見て怖じけてしまうが、逃げ場がないと理解しているので、すぐに立ち直った。
「アイリス、リース。僕がロードを…。」
「クリス、3人で戦えば良いでしょう?」
「アイリスの言う通りだわ。冒険者と騎士団の指揮とサポートは任せたわよ、ガディウス。」
「ハッ!」
「ユナイト達は、お父様達の護衛をして。」
「「畏まりました。お任せ下さい。」」
「いや、私達も…。」
「お願いします、お父様。ロードは、とても危険です。ここは…。」
「……わかった。皆の者、すまない。あとは頼んだぞ!」
ヨルズは娘のリースの顔を見て必死さを感じ戸惑い、周囲のガディウス達を見たら頷いたので了承した。
ユナイトとユーリアは、バルミスタ達を城の地下にあるシェルターへと向かった。
ロードは、大きく息を吸い込み、その行為を見たクリス達全員は胸騒ぎを感じた。
「な、何だ?何をしているんだ?」
「何か来ます!」
騎士団の1人が呟き、クリスが警告した瞬間、ロードは前屈みになりながら口から高圧の流水を光線の様に物凄いスピードで吐き出した。
流水は木々は勿論のこと、岩すらも意図も簡単に切断する。
「避けろ!」
流水が間近に接近するその一瞬の光景を見て防げないと判断したクリスは大声で指示を出しながら、アイリスとリースと一緒にジャンプして躱わした。
攻撃を避けられたロードは、高圧の流水を吐きながら頭を横に振ってガディウス達を狙う。
「くっ。」
「きゃ。」
ガディウスは慌ててしゃがみ、他の【ドリア】メンバーもジャンプしたり、かがんで無事に避けることに成功したが、冒険者と騎士団達は反応できなかった人や、つい癖で持っている盾で防ごうとして真っ二つに切断される人、反応できたが間に合わず足や腕、頭など切断される者が続出した。
(くっ、今の攻撃で3分の2が殺られた…。)
「僕が突っ込むから、その隙にアイリスとリースは大魔法の準備をして欲しい。」
「「わ、わかったわ。」」
クリスが動くと共にガディウスの指示で、ガディウス達【ドリア】メンバーは、上位種のイクシオンを他は3~5人のパーティーを組んで下位種と戦おうとする。
クリスは天和(テンホー)を使い自然の魔力を取り込んで身体能力を向上させて素早くジグザグに走り、ロードに狙いを定めさせにくくしながら接近する。
ロードは左右の手を何度も振り、水の刃を無数飛ばす。
「地和(チーホー)。」
クリスは、走力に必要なタイミングとその箇所だけに魔力を集中させることにより、一切無駄のない魔力操作によって、更に、より速く加速した。
そして、クリスは走りながら体を傾けたり、ジャンプなどをして器用に最低限の動きで躱していく。
ロードは、クリスの動きと身のこなしを見て警戒心を強める。
クリスの動きを見たジェネラルは、魔法を放っても当たらないと察知して接近戦に持ち込むため動いた。
ジェネラルも巨体なのに見会わないスピードでクリスに接近し左右拳で攻撃するが、クリスは素早い動きで躱していきながら殴ったり蹴ったり反撃するが全くダメージは与えられなかった。
しかし、ジェネラルの意識はクリスに集中していき、周りの警戒が疎かになっていく。
クリスは、ジェネラルと戦いながらでもアイリスとリースを意識しており、魔法の準備が整ったと察知し、わざと少しずつ動きを遅くしていきロードが大振りする様に誘う。
そんなクリスの思惑を気付かないロードはクリスとの間合いとタイミングを見計り、巨大な右拳を叩きつける様に大振りで振り下ろす。
クリスは、ロードの目の前でジャンプしてロードの右拳を避けた。
クリスがジェネラルを惹き付けている間に、アイリスとリースはお互いの手を繋いで目を閉じて集中しており、お互いの魔力を感じとって魔力を共鳴させて信じられないほどの膨大な魔力を解き放つ。
魔力を共鳴させるユニゾン魔法は、術者1人に他の術者が魔力を送り魔力を上乗せする合成魔法より遥かに威力が高い。
だが、その分だけ難しくリスクもある。
何より、相手との相性もあるが相性が良くてもお互いのことを熟知していなければユニゾン魔法は成功しない。
もし仮に失敗した場合、お互いの魔力が喧嘩して暴発し怪我をしたり、個人の魔力が高ければ高いほど共鳴した時に高まる魔力は明らかに違い死ぬ可能性が高まる。
共鳴が完了したアイリスとリースは、ゆっくりと目を開けてお互いの手を握っている手を上に挙げて纏っている膨大な魔力を握っている手に魔力を集中させる。
そして、クリスがジャンプしてロードの右拳を避けてできた隙を見て、握って挙げている手を振り下ろしてロードに向ける。
「エメラルド・ドラゴン!」
アイリスとリースが繋いだ手から黄緑色の巨大なドラゴンが解き放たれた。
「グォォ!」
ドラゴンは雄叫びを出しながら、大きな口を開けて一直線にロードに襲い掛かる。
ロードはクリスを追うように頭を上げ様とした瞬間、膨大な魔力を感じてバッと前方に視線を向けるとアイリスとリースが放った巨大なドラゴンが目の前まで迫って来ていた。
危険を感じたロードは慌てて避けようとしたが、ジャンプして空中にいたクリスが木の幹を蹴って反動をつけてロード背中を蹴り飛ばしたことで体勢が崩れて避けることができなくなった。
巨大なドラゴンはロードを飲み込もうとする。
しかし、ロードは両手を大きく開いて抱きつく様にドラゴンの左右の頬を押さえ込む。
だが、ドラゴンはロードに噛みつき、ドラゴンの鋭い牙はロードの右肩から左側の腹部に掛けて深く突き刺さった。
ドラゴンはロードに噛みついたまま、押して木々を押し倒し岩を粉砕していくだけでなく深く大地を抉って行く。
「ギィィ!」
ロードは血管が浮き彫りになり、そこから血管が裂けて緑色の血が出るほど両手に力を込めて、巨大なドラゴンの左右の頬を締めつけて消滅させようとする。
その光景を見たアイリス達はロードを討伐したと思い、他のイクシオン達はボスが殺られたと思っており両者の動きは完全に止まっていた。
だが、巨大なドラゴンは森の半ばでロードに潰されて消滅したのだった。
「「嘘…。」」
アイリスとリースは絶望して、その場に座り込み、他の人達は現実が受け止められず自失して呆然と立ち尽くした。
しかし、クリスだけは諦めていなかった。
「アクア・ビッグバン。」
木の枝から枝へと飛び移りながら移動していたクリスは気配を消したまま飛び降り、ロードの頭上から降下しながら右手の掌に巨大な圧縮した水の塊を作り出してロードの頭にぶつけた。
ロードは威力に負けて地面にうつ伏せ状態に叩きつけられ、大地は大きく抉れた。
「やったわ!」
「流石、クリス!」
「「おお!」」
「……。」
アイリスとリースは歓喜の声をあげ、他の人達も歓喜の声をあげたが、攻撃したクリスは無言のままだった。
「ギィ…。」
うつ伏せの状態で大地にめり込んだロードは、そのまま左手を伸ばして、空中にいるクリスの左足を掴んで起き上がった。
「「クリス!」」
アイリスとリースの悲鳴が響く中、クリスは右手に魔力を込めて断罪の剣を発動させてロードの首を斬り落とそうとする。
しかし、クリスが思っている以上にロードの皮膚は硬く、掠り傷しかつけれなかった。
「なっ!?」
流石のクリスも予想外な出来事に驚愕した。
「そんな…。だって、クリスの断罪の剣は岩をも簡単に切り裂くほどの威力があるのよ。それなのに掠り傷しかつけれないなんて…。」
アイリスは、信じられない表情を浮かべて呟いた。
だが、ロードも深刻なダメージを受けていた。アイリスとリースが放ったドラゴンの攻撃で肩と腹に深い刺し傷がり、クリスの攻撃で頭と背中は爛れていた。
ロードの満身創痍な状態を見た誰もが、あと少しで倒せると希望の光が見えていた。
しかし、次の瞬間、ロードの傷口は輝き出してみるみると治っていったのだ。
「「~っ。」」
「え!?嘘でしょう…。何が起きているの!?」
皆が言葉を失っている中、アイリスの小さな呟きは大きく聞こえた。
ロードはクリスを掴んだまま、グルグルとジャイアント・スイングする様に回り、クリスを周囲に生えている木々に叩きつけて最後に放り投げた。
猛スピードで投げられたクリスは、空中で体勢を整える暇もなく、次々に木々に当たってはへし折っていき、最後に100m先の木の幹で背中を激しく打って止まった。
「がはっ。」
クリスは吐血し、木の幹に凭れ掛かった。
「「クリス!」」
アイリスとリースは、慌ててクリスに駆けつける。
「「だ、大丈夫?」」
「背中を強打しただけで大丈夫。心配してくれて、ありがとう2人共。」
アイリスとリースは、心配しながら左右からクリスの体を支え合って回復魔法でクリスを怪我を癒す。
「一体、どうなっているのよ。あの致命傷だった傷がほぼ完全に消えているなんてありえないわ。回復魔法を使った感じはしなかったし、魔法の兆候もなかったわよ。」
「アイリス、あれは魔法じゃなくって、ロードの特有の能力の【共有】によって、受けたダメージを周りのイクシオンと共有することで怪我を分かち合って軽減したのよ。」
「それじゃあ、先に周りのイクシオンを倒さないとロードは倒せないってことなの?」
「そういうことね…。」
「そんなの無理よ。だって、この森にはイクシオンがどれだけいるかもわからない上に、強いのよ。」
「ええ、でも、書物にある程度、仲間が近くにいないと共有の能力は働かないと書いてあったわ。」
「それでも、無理よ。」
「取り込み中に申し訳ないけど、僕に1つだけ提案があるんだけど。良いかな?」
「この状況で、提案なんて…。」
「あっ…。」
リースが訝しげな表情を浮かべる中、アイリスだけは心当たりがあった。
「駄目よ!クリス。今度こそ、元の姿に戻れなくなってしまうかもしれないのよ!ううん、それどころか、死ぬ可能性もあるのよ!」
「大丈夫だよ、アイリス。今回は完全解放まではしないから、多分、姿も変わらないし死ぬ可能性はないよ。ただ、暴走しないように気を付ければ大丈夫だと思う。」
「ねぇ、何の話をしているのよ!私にもわかりやすく説明しなさいよ!」
「ごめん、リース。わかったよ。精霊を宿しているのは、君やアイリスだけでなく僕もなんだ。僕に宿っている精霊の力を少しだけ解放するって話なんだ。」
「え!?クリスって、精霊使いだったの!?だって、全く精霊の特殊な魔力を一切感じないわよ。」
「まぁね、精霊の力を完全に封印しているからね。」
「何で、封印なんかするの?しかも、完全封印って。」
「君やアイリスみたいに誓約をしているわけと違って、僕のは人為的に宿していないんだ。精霊自らが、僕に宿ったから力の制御が難しいんだ。」
「それって…。」
クリスの話を聞いたリースはあることに気付き口にしようとしたら、目の前からロードがゆっくりと歩いて来ていた。
「もう時間がない。アイリスとリースは、ガディウスさん達と力を合わせて一点突破してこの森を抜けて城へと向かって欲しい。そして、国の防御魔法陣を最大まで上げる様に王様に伝えて欲しい。もし、準備ができたら狼煙か魔法で教えて。」
「……わかったわ。」
「私は、残るわ。」
アイリスは渋々と承諾したが、リースは反対した。
「駄目だ、リース。今回は森のイクシオンも倒さないといけないから広範囲の魔法を使うしかないんだ。僕の攻撃に巻き込まれてしまうよ。」
「私は、この国の姫なのよ。それに、私だって、この身に精霊を宿しているのよ。うっ…。」
クリスは、リースの首筋に手刀をして気絶させた。
「アイリス、リースを頼んだよ。」
「わかったわ…。だけど、絶対に無理はしないでね。約束よ。」
「うん。」
アイリスは両手でクリスの頬に触れ、背伸びをして口づけをした。
「あとは頼んだよ、アイリス。」
「ええ、任せて!」
(心配だけど、今は少しでも国に戻ることがクリスのためになる。)
アイリスは気絶したリースをおんぶして、クリスが心配で足を止めて振り向きたいが、その想いを押し殺してクリスに振り向くことなく、急いでガディウス達の下へと向かった。
30mぐらい離れた場所にロードがいた。
「さぁ、アイリスが戻って合図が来るまで持たせないと…。」
クリスは天和を使い、自然の魔力を取り込んで身体能力を底上げして構えた。
【ガディウス側】
「ガディウス隊長、どうします?我々だけでも撤退しないと、このままだと全滅するのは明らかです。」
ルドスはイクシオンを倒して、ガディウスに駆けつけて提案する。
【ドリア】メンバーだけなら、今、ロードがいないので、ここから脱出は可能だった。
しかし、冒険者や騎士団と一緒には無理だった。
なぜなら、冒険者や騎士団よりもイクシオンの方が足が速く追いつかれてしまうからであった。
「それは、駄目だ!命を懸けてくれているのだぞ、見捨てて見殺しにする訳にはいかん!」
「ですが、このままだと…。」
「私は、ガディウス隊長に賛成です。逃げたいならルドスさんだけ逃げて下さっても構いません。」
「そんなことするか!」
ルドスとアニーが口喧嘩していると、そこにソルジャーが剣を振って襲い掛かる。
「危ない!何をやっているんだ!2人共。」
「ヤッ!そうですわよ。」
【ドリア】メンバーのヤンザはソルジャーの前に割り込んで槍で受け止め、同じく【ドリア】メンバーのモナリがソルジャーの背後から大きな斧を横に振って首を跳ねた。
「だが、ルドスの言う通り、追い込まれているのは確かだ。」
「だな。」
【ドリア】メンバーの大盾使いオパールと杖を肩に担いでいるノーンが集まった。
「別に、俺やノーン、ルドスは命が欲しくって撤退しようとは思っていない。ただ、この先のことを考えたら、俺達【ドリア】が全滅したら不味いと思うからだ。そうだろ?ガディウス隊長。」
「ああ、お前の言う通りだ、オパール。しかし…。」
ガディウスは頭の中では理解しているが、どうしても仲間を見捨てるということで踏み止まってしまう。
ガディウスが悩んでいる時、リースを背負ったアイリスが来た。
「「リース様!」」
【ドリア】メンバーは、一斉に大声出してアイリスに駆けつけた。
「リース様は、大丈夫なのですか?」
「ええ、言うこと聞かなさそうだったから、クリスが気絶させたわ。」
「誠に、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「ところで、クリス殿とロードはどうなさりましたか?」
「そのことなんだけど、まず、皆でここから撤退するわよ。あなた達【ドリア】は生き残った冒険者と騎士団を囲う様にしてイクシオンから守り、私が殿(しんがり)をして追ってくるイクシオンを倒すから。説明は、撤退しながら話すわ。早速、行動に移して頂戴!」
アイリスはアニーに気絶しているリースを渡し、ガディウス達は撤退を始めた。
撤退は上手くいき、アイリス達を追っていたイクシオンだったが、本能でこれ以上ロードから離れたらロードに迷惑が掛かると思い、途中でアイリス達を諦めてクリスの方へと向かった。
「なるほど。ですが、クリス殿は大丈夫なのですか?こう言っては何ですが、リース様とアイリス様のユニゾン魔法ですら、とどめを刺すには至らなかったのですよ?しかも、相手はすぐに傷も癒える化け物なのですよ?」
ガディウスは、クリスの心配する。
他の【ドリア】メンバーも心配したが、冒険者、騎士団達はクリスは助からないと思っていた。
「大丈夫よ…。そう、大丈夫に決まっているわ。だって、約束したのだから…。」
(そうよね?クリス。)
アイリスは走りながら頭だけ後ろを振り返ったが、すぐに正面を向いた。
そして、アイリス達はヨンダルク国へと帰還した。
「用件はわかったが。国の防御魔法陣を最大まで上げると、1時間しか結界が張れん。」
クリスの決死の覚悟して戦っているのでそうしたいのは山々だが、国民の命が掛かっているのでヨルズはどうして良いものか悩んだ。
「ヨルズ国王様、お願いします。一刻の猶予もありません。どうか…。」
「私からも頼む。クリスを信じて欲しい。」
アイリスは頭を下げて頼み、国王であるバルミスタも頼んだ。
「わかった。バルミスタ国王にも大変な迷惑を掛けている。直ちに、国の防御魔法陣を最大にせよ!」
「ハッ!」
ヨルズの指示で国の防御魔法陣が最大まで高められた。
そして、クリスに知らせるために狼煙を揚げて時、ベッドに寝かされていたリースが目を覚ました。
「ん…。ここは…。え!?お城?」
「はい、そうですリース様。お目覚めは如何ですか?」
何かあったらいけないので、椅子に座ってリースの看病していたモナリが声を掛ける。
「大丈夫よ。それより、どうなっているの?教えて頂戴!え!?」
教えて貰おうとしたリースだったが、背筋がゾッとする様な膨大で禍々しい魔力を感じて起き上がり、慌てて窓から魔力を感じた森を覗くと森は真っ白に氷ついており、国の防御魔法陣を最大に上げているにも関わらず、国中の建物や道などが霜が付いていた。
「嘘…。何…なのよ…これ…。」
リースは驚愕した面持ちで呟き、すぐに部屋を出て森へと向かう途中でアイリスと合流した。
「~っ!」
違う近くの窓から覗いたモナリだけでなく、国中の誰もが信じられない表情を浮かべて言葉を失っていた。
【森の中・アイリスとリース側】
急いでクリスの下へと駆けつけるため、全てが凍り真っ白になった森の中をアイリスとリースは走っていた。
全てのものが凍っているので、風が吹いても木々も凍っているので音も立つことはない。
ただ空気中も所々凍っているのでキラキラと輝いており、まるで時間が停止しているかの様に感じていた。
「何なの?これは…。それに、近付くにつれて殺気というよりも、それを通り越した死を感じらされるほどの圧迫感が強まっていっているわ。」
リースは驚いた面持ちで周囲を見渡しながら息を呑み、隣で走っているアイリスに尋ねる。
「クリスが力を解放して、禁術魔法の絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を使ったのよ。この圧迫感も、封印を解除したからよ。」
「アイリス、禁術って簡単に言うけど。私や貴女でも、まだ使えないのよ。それに、この圧迫感は異常過ぎるわ。クリスって、何者よ。しかも、クリスって【炎帝】や【氷帝】と同じ、精霊が選んだということは…。クリスも、その…悪魔の…。」
「リース!」
アイリスは鋭い眼光でリースを睨み付け、殺気を含んだ声で大声を出し、話を途中で止めさせた。
「ごめん…。」
リースは、申し訳ない表情を浮かべながら視線を逸らして素直に謝った。
「クリスはクリスよ…。」
「そうね…。」
【クリス側】
クリスは、なるべくロードの攻撃が当たらない様に距離を取りながら戦っていた。
他のイクシオンはロードが命令したのかわからないがクリスに手を出す者はおらず、ただ、戦いを静観していた。
「ギィ!」
ロードは巨体に見会わない速さでクリスに接近し、左右の拳を交互に叩きつける様に連打する。
クリスはバック・ステップして躱していき、ロードが大振りになった瞬間、前に出てロードの懐に潜り込んだ。
「アクア・ビッグバン!」
クリスは、右手の掌に巨大な圧縮した水の塊をロードのお腹に当てて上に弾き飛ばす。
「アクア・スピア!」
クリスは水の槍を無数に召喚して放つ。
ロードは左手を振って水の刃を放ち、クリスが放った水の槍を切り裂いた。
しかし、真下にいた筈のクリスの姿はなかった。
クリスは水の槍を放った際、気配と魔力を消してジャンプをしロードの真上に移動していたのだ。
クリスは、自分に全く気付いていないロードの後ろの首筋に全魔力を一点集中させた右足の踵落としを決めた。
ロードは物凄いスピードで落下して地面に叩きつけられクレーターができた。
「アクア・ビッグバン!」
クリスは降下しながら再び、右手の掌に巨大な圧縮した水の塊を作り出してロードの背中に押し当てた。
ロードは、更に地面深くめり込んだ。
クリスは、直ぐにジャンプしてロードから離れてクレーターの外に着地した。
クレーターの中央にめり込んでいるロードは、何事もなかった様に起き上がり、右手で首筋を押さえて左右に首を曲げてクリスを睨み付ける。
ロードの傷は【共有】の能力で、すぐに癒えていく。
体術ならクリスが何枚も上手だが、魔力と肉体強度はロードが勝っているため、どんなに攻撃してもロードに致命傷や倒すまでには至らない。
そして、せっかく与えたダメージもロードの【共有】の能力で消えてしまう。
ずっと、そんな戦いが行われていた。
そして、始めは遊んでいたロードだったが、自分の攻撃が当たらず、クリスに殴られ続けたことによりストレスが溜まっていき、とうと爆発した。
「ギィィィ!」
ロードは大きな砲口をあげ、膨大な魔力を解き放つ。
(とうと、来たか。)
クリスは、更に警戒を強める。
ロードの動きは今までよりも速く、クリスは驚愕した。
ロードは左手でクリスを叩こうとしたが、クリスはジャンプして避けてロードの背後にある木の枝を蹴って勢いをつけてロードの背中を蹴り飛ばす勢いで蹴った。
しかし、ロードは前に左手をついて吹き飛ばされない様にし、クリスに振り返りながら右手の裏拳を繰り出す。
「くっ。」
クリスは避けきれないと判断し、全魔力を右腕辺りに集中して防いだが、吹き飛ばされて地面を転がった。
クリスは、すぐに体勢を整えようとしたが右腕は痺れており上手く体勢が整えることができなかった。
そして、大きな影が覆われたのでクリスが見上げると、頭上からにロードが踏みつける様に降下してきており、クリスは斜め前に飛び込むようにして回避した。
「ギィ!」
勝ったと思ったロードは、避けられたことで更にストレスが溜まり、右拳を地面に叩きつけ、地面に大きなクレーターができた。
そして、ロードが雄叫びをした瞬間、周りのソルジャーやチーフなど他のイクシオン達が一斉にクリスに襲い掛かる。
「くっ。ん?」
歯を食い縛り覚悟をしたクリスだったが、視界の端に狼煙が見えて口元に笑みを浮かべる。
そして、すぐにクリスは左目の眼帯を外したことにより、封印していた左目を開き、悪魔の瞳と言われている金色の瞳が顕となった。
クリスが眼帯を外し左目を開いた直後、クリスから膨大で人間のものとは思えないほどの禍々しい魔力が解き放たれた。
その膨大で禍々しい魔力を前にしたイクシオン達は恐怖で動きを止めた。
だが、ロードの雄叫びによって、再びイクシオン達は強ばった表情で一斉にクリスに襲い掛かる。
「絶対零度(アブソリュート・ゼロ)」
イクシオン達が一斉に襲い掛かってきているが、クリスは気にした様子もなく小さく呟く様に魔法を唱える右手の掌の上に魔力が物凄い速さで集まり圧縮されたいく。
そして、高密度に圧縮された魔力が小さな白い球体と出現としており、クリスは右手で球体を握り潰す。
白い球体を握り潰した瞬間、白い光と共にクリスを中心に一瞬でロードを含む、イクシオン達や木々や大地などクリスの周囲のあらゆる全てのものが氷付き、ダイヤモンドダスト現象が起きて、大気中の水蒸気が昇華し極小さな氷晶が降り注いだことにより太陽の日差しで大気が宝石の様に輝いて見えた。
クリスに襲い掛かった凍ったイクシオン達はバランスを崩して倒れ、ガラス細工の様な音を立てながら割れた。
しかし、凍っているロードは小さく揺れだし、次第に揺れは大きくなっていく。
そして、凍っているロードの表面の氷は砕けた。
ロードは大きく息を吸い込み、圧縮した流水を光線の様に吐く。
「エレメンタル・ソード。」
クリスは右手を前に出して唱えると、右手の前に真っ白な鞘におさまった1本の刀が出現し、クリスは手に取って腰に掛けて抜刀術の構えを取った。
そして、迫ってくるロードの流水を真っ二つに切断し、流水を凍らせた。
「ギィ。」
ロードは表情が強ばり、一歩後ろに下がる。
そこに、アイリスとリースが駆けつけた。
「「クリス!」」
「え!?嘘…。あの剣って、まさか…。」
「今まで、精霊に愛されていたと謂われているアリス様だけしか使えないと言われている伝説の魔法剣エレメンタル・ソード…。それに、あの瞳って…やはり、悪魔の瞳…。」
アイリスとリースはエレメンタル・ソードを見て驚き、リースはエレメンタル・ソードとクリスの悪魔の瞳を見て驚愕した。
「ギィィ!」
ロードは一歩後ろに下がった自分の足を見て苛立ちを覚え、クリスに飛び掛かった。
クリスは、1度、刀を鞘におさめて抜刀術の構えを取る。
そして、ロードとの距離が縮まる…。
「風花雪月(ふうかせつげつ)」
クリスは、前に出てロードの攻撃を躱しながら目に見えない速さで抜刀する。
クリスとすれ違ったロードは涼しい風を肌で感じたが痛みはなく、気にせずにクリスに振り向いて、再び、襲い掛かろうとした。
「お前も感じただろ?魔女の優しい抱擁を。」
クリスは背後から襲い掛かろうとしているロードを見もせず、ゆっくりと抜刀した刀を鞘におさめるとロードの胴体に大きな切り傷が浮かび上がると同時に一瞬で全身が凍り漬けになった。
今度は絶対零度の時とは違い、ロードは完全に凍ったままだった。
そして、クリスが右手の指を鳴らすと凍り漬けになったロードの体は粉々に砕け散った。
ロードを討伐し終えても、殺気と威圧感は全く衰えなかった。
アイリスとリースは、自身の胸元の服をギュッと握り締めながらクリスが暴走していないかと心配すると共に緊張する。
クリスはゆっくりとした動作で外した眼帯を拾い、左目に着け直すと膨大で禍々しい魔力と圧倒的な威圧感、殺気は嘘の様に消え、微笑みながらアイリスとリースに振り返った。
「無事に終わったよ、2人共。」
「「クリス!」」
アイリスとリースはクリスに駆け寄り、抱きつく様に飛び付いた。
「うぁ!?」
クリスは後ろに倒れた。
「もう、本当に心配したんだから…。」
「ごめん…。」
アイリスの呟きを聞いたクリスは謝り、左右の手でアイリスとリースの背中を優しく撫でた。
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