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交流会
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【ヨンダルク国・ヨンダルク城・1階の大広間】
大広間の奥にはヨルズ、リオン、リース、バルミスタ、シリーダ、アイリスが椅子に腰掛けており、ヨルズ達の前には【ドリア】メンバーとユナイト、ユーリア、クリスが床に片膝をつけており、そして、その後ろにギルドマスターのロジックと冒険者と騎士団の代表者3名ずつがクリス達の様に床に片膝をついて敬礼していた。
「面を上げよ。皆の者、此度、イクシオンの軍勢の侵攻を食い止めるだけでなく、イクシオン・ロードの討伐、ドリアードの加護の奪還、誠に感謝する。」
「ハッ!勿体無き、お言葉。」
ガディウスは感謝し、クリス達は一斉に深々と頭を下げた。
「ところで、バルミスタ国王、シリーダ殿。説明を願いたいのだが。そこに居るクリス殿は、一体、何者なのだ!」
ヨルズは、隣に座っているバルミスタに視線を向けて尋ねる。
「「……。」」
バルミスタとシリーダは、戸惑った表情を浮かべながら無言でクリスに視線を向けた。
「大変、失礼だと存じますが、私、自ら説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。是非、説明を願おう。」
「では、始めに…。」
クリスは立ち上がり、自分がお伽噺に出てくるクリス本人だということ、精霊イエティを宿していること、そして、悪魔の瞳の持ち主であることなど偽りなく繊細に詳しく話し、質問があれば真摯に答えた。
普通は知られたくないことは隠したり、誤魔化したり、濁したりするものだが、クリスは直感で全て偽りなく素直に話した方が良いと感じたからであった。
真摯に対応をしたことで、ヨルズ達との間に信頼が生まれた。
「なるほど。まさか、クリス殿があのお伽噺に出てくるクリス本人だとは驚きだ。」
「信じて頂けるのですか?」
「無論だとも。あの禁術を目の辺りしたのだからな。しかし、禁術は噂にするが、実際は噂を通り超した絶大な威力だった。まさか、国の防御結界を最大に上げていても国中が霜がつくとはな。最大にしていなければ、ペナンの森と同様に国民共々、国中が凍り付けにされていたところだったぞ。」
「そうだな。私も初めて間近で見たが、恐ろしい魔法だった。だが、救いなのは誰もかもが使えるということではなく、適応した選ばれた人間しか使えないという点だな。」
ヨルズは右手で自身の顎を触りながら話し、バルミスタは肯定しながら説明し、他の皆は無言で頷いた。
「それにしても、氷の森って幻想的で綺麗ねリース。」
リオンは、嬉しそうな表情を浮かべて尋ねる。
「そうですね、お母様。そもそも、氷自体が珍しいですからね。」
「ん?リース様。1つ、お聞きしますが、そんなに氷って珍しいのでしょうか?」
「ええ、珍しいに決まっているわクリス。だって、この国は年中、暖かい気候に恵まれているの。だから、雪が降らないのも勿論だけど、霜が付くこともないのよ。クリスも城に戻る時に見たでしょう?国民達も好奇心で遠くから凍った森を見たり、森の近くまで行ったりしてはしゃいでいたわ。あと、タメ口で構わないわよ。あなたは、この国を救った英雄なのだから。」
「では、お言葉に甘えさせて貰います。ところで、アクア学院の皆はどうしているのかな?」
「それなら、安心して。2階の大広間の窓から森を見ていたわよ。」
「それは、良かった。」
「そうだ。せっかく、アクア学院の生徒達も来られているんだ。この機に、ヨンダルク学院と交流してみたらどうだろうか?」
ヨルズは、右拳を軽く振り下ろして左手の掌を叩きながら提案した。
「あら、それは良いわね!どうですか?バルミスタ国王。」
「うむ、そうだな、良い提案だ。この機にコミュニケーションを取ることで、より親睦を深めることができるだろう。私は賛成する。どうだろうか?」
「そうね、あなた。」
バルミスタは大きく頷き、シリーダは微笑んで肯定した。
「「え!?」」
提案を聞いたクリスとアイリスとリースの3人は、嫌な胸騒ぎがした。
クリスとアイリスは、俺について来いタイプのボルとその取り巻きの存在が頭をよぎり、リースは、知らないうちに勝手にできた自分のファンクラブ【リース様親衛隊】の存在が頭に浮かび、クリス達は争いが起きる可能性があると思った。
だが、必ず争いが勃発するとは限らないため、せっかく、場の雰囲気が良いので、3人は躊躇い、何も口を出すことはなかったため、最終的に交流会をすることが決まった。
その後、ヨルズはヨンダルク学院に手紙を書き、騎士団に渡して届ける様に依頼し、バルミスタは明日に交流会することをアクア学院の教師達に伝え、ボル達はアクア学院が毎年、貸し切りにしている宿へ行った。
アイリスとクリスはヨルズ達から誘われてヨンダルク国に来ていたので、ボル達と一緒に宿に行かず、城で過ごすことにした。
【3階の大広間・ベランダ】
夕食の時間が訪れ、クリス達は大広間のベランダで満月の下で食事を摂っていた。
ベランダから見える光景は、満月の光が、まだ木々が薄らっと凍っている森を照らし、その氷が光を反射することで、まるで森が光って輝いており幻想的な雰囲気を醸し出している。
クリスとアイリスは飲み物を片手に持ち、ベランダの柵側で寄り添いながら森を眺めていた。
「綺麗ね、クリス。」
「そうだね、アイリス。」
「2人で良い雰囲気を醸し出しているところ悪いのだけど、私を忘れないで欲しいわ!」
「「リース!?」」
「もう、目を離したら、すぐにイチャイチャして!」
「イ、イチャイチャなんて、し、してないわよ。何よ、その目は…。」
アイリスは慌てて否定したが、リースはジト目していた。
「別に。そんなに気になるなら、鏡で自分の顔を見たらわかるわよ?アイリス。」
「うう…。」
アイリスは、両手で自身の真っ赤に染まった両頬に当てて視線を逸らして唸った。
「それより、リース。明日の交流会の話しなのだけど、僕とアイリスは協力して、できる限り皆の仲を取り繕うつもりだけど。リースも協力してくれないかな?もしかしたら、それでも、険悪の雰囲気になるかもしないけど…。」
「もちろん、協力するわ。お互い、苦労するわね。」
「「はぁ…。」」
未だにモジモジしているアイリスの隣にいるクリスとリースは、明日の交流会のことを考えたら深い溜め息が出た。
そして、翌朝。
クリス達の胸騒ぎが現実のものとなるであった。
【ヨンダルク学院・グランド】
クリスとアイリスはリースと一緒にヨンダルク学院に登校すると、グランドでは人混みができ、ざわついていた。
クリス達は、慌てて駆けつける。
人混みの中央には、ボルを筆頭のアクア学院の男子達とヨンダルク学院の【リース様親衛隊】のメンバーである男子達が睨み合っていた。
「おい!お前、今、何て言った?」
ボルは、怒声をあげながら【リース様親衛隊】のリーダーである眼鏡を掛けた男子生徒ノルダンを睨みつける。
「おや?聞こえてませんでしたか?やはり、魔物がいない平和ボケしたアクア学院の皆さんは弱いだけだなく、耳もですけど、理解できないほど頭の方も弱いのですね?私は優しいので、もう1度、言って差し上げます。あなた達と交流しても我々には得るものが何もないのです。そんな無駄な時間を割く暇もないと言ったのですよ。あなた達は冒険者ライセンスを取ってはしゃいでいましたが、あなた達よりも我々は1年も早く冒険者ライセンスを取得したエリートです。もう、わかるでしょう?我々とあなた達の実力の差を。」
ノルダンは、右手で掛けてある眼鏡をクイッと少し上げて嘲笑い、ヨンダルク学院の男子生徒達も見下した様な笑みを浮かべた。
「この野郎!!」
ボルが激怒すると、両者の取り巻き達は魔力を解き放ちながら構えて争い備える。
場の空気が張り詰め、一触即発になった。
緊迫した雰囲気の前に両学院の女子達は、オドオドするしかなかった。
そんな時…。
「「そこまでよ!」」
アイリスとリースが大声を出すと張り詰めた緊迫した場の空気が一変し、殺気と高まった魔力が嘘のように消えた。
「「アイリス様!?」」
「「リース様!?」」
ボルとノルダン達は、2人に振り返った。
「これは、どういうことなの?説明しなさい、ノルダン。」
「ハッ!それはですね…。」
リースはノルダンに尋ねると、ノルダンはこれまでの経緯を話した。
「なるほど、そういうことね。」
「はい、我々とこの者達とでは実力にレベルに差があり、向こうには得るものがありますが、こちらには一切得るものがないのです。」
「あなたが言いたいことはわかったわ。だけど、相手のことを勝手にこうだと決めつけたりしたら駄目よ。確かに魔力や魔物討伐の経験などは貴方が上だけど、そちらの人は貴方よりも剣術が上だと思うわ。」
リースは、ボルを一目見ただけで理解した。
「確かに彼の手を見たところ、私よりも剣術は上かもしれませんが、接近される前に倒しますよ。」
ノルダンは、目を細めてボルの掌を見て怪訝な表情で肯定した。
ボルの掌は、毎日、数えきれないほど素振りをしてできた豆があり、皮膚がボロボロになっていた。
「そうかしら?だったら、こうしましょう?あなた達が、そこにいるクリスに勝てた場合、交流会はなかったことにします。それと、希望があれば将来、騎士団に入団させてあげるわ。だけど、もし負けた場合は3日間の交流会に積極的に参加して貰います。どうかしら?ノルダン。」
「良いでしょう。ところで、リース様。先程、「あなた達。」って仰いましたが、まさかとは思いますが…。」
「ええ、そうよ。ノルダン、あなただけでなく、交流会に反対している全員対クリス1人よ。勿論、クリスは身体強化だけで魔法攻撃は一切使わせないわ。」
「リース様は、私達を見下しているのですか?そこの頼り無さそうな者が、私達に勝てるとでも?」
リースの話を聞いたノルダンは、顔がピクッと反応して視線が鋭くなった。
「~っ!」
クリスを馬鹿にされたアイリスはノルダンを睨みつけたが、クリス本人は苦笑いを浮かべていた。
「別に、あなた達を見下していないわ。私は言ったわよね?「相手のことを勝手にこうだと決めつけたりしたら駄目よ。」って、それに、あなたが先ほど言ったでしょう?「接近される前に倒しますよ。」と。例え、相手が魔法が使えなくても接近できることを知って貰うためよ。それに、クリスは強いわよ。油断していると、あっという間に負けてしまうわよ。」
「わかりました。その勝負を受けましょう。」
「そういうことたがら宜しくね、クリス。」
「え?あ、うん、わかったよ。お手柔らかに…。」
(あれ?何でいつの間にかに僕が戦うことになったのだろう?普通、ボル達が戦うのが普通の流れだと思うのだけど?しかも、勝手に条件をつけられて厳しくなってないかな?)
クリスは、疑問に思ったが話の流れで断ることができず苦笑いを浮かべて了承した。
「頼む、クリス。すまないが、俺達の代わりに戦って勝ってくれ。そして、あいつらを見返してくれ!」
ボルは、真剣な表情を浮かべて後ろからクリスの肩に手を置いて頼んだ。
「あ、うん。頑張ってみるよ。」
「き、君達!いったい、どうしましたか?」
教師のバリンは、異変に気付いて駆けつけた。
「お騒がせして、大変、申し訳ありません。あの、先生。実は…。」
リースは、バリンに頭を下げて経緯を説明した。
「リ、リース様、頭をお上げ下さい。リース様がお気にすることはありません。私も、国王様から交流会をすることになったとお聞きした際、こうなるだろうかと思っていました。まぁ、今回の決闘はお互いのことを知るために必要なことでしょうし。そうだ、この機会に全生徒に見て頂きましょう!うん、それが良い!どうでしょうか?リース様。」
バリンは、提案しながら胸元で手を叩いた。
「ええ、そうですね。それで、良いかしら?アイリス。」
「ええ、良いわよ。」
リースは肯定し、アイリスも頷いた。
こうして、全生徒と教師達がグランドに集合して決闘が開催されることになった。
【グランド】
アクア学院の生徒達は不安そうな表情で見守り、ヨンダルク学院の全生徒は、興味津々にクリスとノルダン達の決闘が始まるのを待っていた。
クリスは膝を屈伸したり腕を伸ばしたりしてストレッチをし、ノルダン達は余裕の笑みを浮かべていた。
「それでは、アクア学院代表クリス君対ヨンダルク学院【リース様親衛隊】との決闘を行います。両者共、準備は良いですね?」
バリンは、クリス達を見て確認する。
「「はい。」」
「それで、試合開始!」
「苦しまない様に、すぐに終わらせてあげよう。」
「「エナジー・ショット!」」
ノルダンの言葉と共に、【リース様親衛隊】はエナジー・ショットを放つ。
「ほっと、よっと…。」
クリスは、横に走りながら体を傾けたりして躱していき、少しずつ接近する。
そして、魔力弾の弾幕に隙ができた瞬間、クリスは身体強化を一気に高めて一瞬で距離を詰めた。
【リース様親衛隊】達は、クリスが消えた様に見えた。
「消えた!?」
「ここですよ。」
「な、何だと!?ぐぁ。」
クリスの声が聞こえて、男子が気が付いた時には目の前にクリスがおり、驚愕の表情を浮かべたと同時にクリスに鳩尾を殴られ気絶させられた。
クリスは、未だに怯んでいる近くにいる【リース様親衛隊】達に迫り、容赦なく殴ったり、蹴ったりして気絶させていった。
「落ち着け!相手は1人なのです!一斉に掛かれば良いのです!」
ノルダンの言葉によって、少し冷静になった【リース様親衛隊】達は一斉にクリスに襲い掛かる。
「オラッ!」
クリスの正面から接近した男子は、右拳で殴りにいく。
クリスは、右拳を避けながら殴ってきた男子の伸びた状態になった右腕を両手で掴んで横に振り、隣から襲い掛かってきている男子にぶつけた。
「「ぐぁ。」」
ぶつかった男子達は倒れた。
「ここだ!」
機会を窺っていた男子は、クリスの背後から両腕を広げてクリスを取り押さえようとした。
しかし、クリスが振り返りながら右手の裏拳をして、裏拳が下顎に当たって脳震盪を起こして足元がおぼつかずにフラフラする。
「ヤッ!」
クリスは、そのまま振り返りながら脳震盪した男子に回し蹴りをして吹き飛ばし、後方にいた男子達にぶつけた。
クリスは、簡単にすぐにでも周囲の男子達を蹴散らせて無効化できるのだが、わざと囲まれいる状況で戦っていた。
それは、密集しているので魔法攻撃だと味方に当たる可能性が高いので魔法攻撃をされないと思っていたからだった。
クリスの勢いは止まるどころか勢いは増していき、次々に【リース様親衛隊】達が倒されていく。
「くっ、猪口才な!ウッド・アロー!」
予想外な展開に焦ったノルダンは、仲間が密集しているにも関わらず、クリスから少し離れた場所から鋭い木の矢を10本召喚して放った。
「「ノルダン様!?」」
「避けろ!」
【リース様親衛隊】達は、悲鳴に似た驚愕の声をあげる。
「くっ!」
クリスは避けることはできたが、避けると近くの男子達に直撃して危険だと判断して、その場で回転しながら魔力を膨大な放出したことで魔力が渦を帯びて竜巻が発生して男子達を弾き飛ばし、竜巻は一瞬で巨大化して飛んできた木の矢を上空へと巻き上げた。
「ば、馬鹿な!な、何だ?この膨大な魔力は…。こんなことがあるはずが…。うわぁぁ…。」
クリスの膨大な魔力を目の当たりにしたノルダンは信じられない表情で呆然と立ち尽くして呟き、思考が停止していたため、そのまま魔力の竜巻に飲み込まれて宙を舞った。
「危ない!くっ…。」
魔力の竜巻は弱まっていき消滅すると、上空からノルダンが落ちてきて教師のバリンが慌てて受け止めた。
「「……。」」
誰もが驚愕して言葉を失っており、静寂が場を支配していた。
「あの、すみません。大丈夫ですか?魔法ではないのですが、身体強化以外に魔力を使ってしまいましたので、僕の負けです。」
クリスは、頭を下げた。
「……す、凄い!」
「お、おい、み、見たかよ!なぁ!夢じゃないよな!」
「ああ!あのノルダン様だけでなく、1人で大人数を相手に負けるどころか逆に全員を倒したぞ。」
「私達も頑張れば、あの人の様になれるかな?」
「なれるよ!きっと!それにしても、あの人は誰なのかな?格好良いよね!」
「うん、そうだね!」
ヨンダルク学院の生徒達は、クリスの戦いを目の当たりにしたことで自分達も強くなれるという可能性を実感して盛大に盛り上がった。
「何を言っているのよ、クリス。あなたは魔法は使っていないのだから、あなたの勝ちに決まっているわ。だから、今から交流会するわよ。それで、良いわね?あなた達。」
「「はい!」」
ヨンダルク学院の生徒達は、誰もリースに反対する者はおらず肯定した。
こうして、交流会が始まった。
アクア学院の生徒達とヨンダルク学院の生徒達は、ギスギスした感じはなくなり、逆に親しく会話をしたり、それぞれ別々でヨンダルク学院の校内を案内したりされたりして親睦を深めた。
特に両学院の男子達は、お互いの実力を確認する様に決闘したりしていた。
一方、女子は近辺情報の話や恋話をしたりして盛り上がり、ヨンダルク学院の貴族の女子達はクリスと会話がしたかったが、クリスの隣にはアイリスとリースが居たので声が掛け辛く、木の影から様子を窺う者やハンカチを噛み締める者がいた。
クリスとアイリスは、リースから学院の校内を案内されて食堂に来ていた。
「ここが食堂よ。まぁ、私は1度も利用しないのだけどね。」
「そうなんだ。でも、広くって綺麗な食堂なのだからリースも利用すれば良いのにね、アイリス。」
「ええ、そうね。なぜ、利用しないの?リース。」
「それは、理由があるのよ。」
「理由?」
「ええ、それは…。」
リースが答えようとした時、クリスのお腹が鳴った。
「あ、ごめん。」
「クリス、恥ずかしいからやめてよね。」
「ごめん、アイリス。」
「少し早いけど、昼食にする?2人供。」
「そうね。クリスも、それで良い?」
「勿論、僕は賛成だよ。でも、厨房にコックさんの姿がないみたいだけど?呼びに行かないといけないのかな?」
「そういえば、そうね…。」
クリスとアイリスは、部屋中を見渡してもコックの姿がなかった。
「じゃあ、2人共、任せたわよ。」
リースは、微笑みながらクリスとアイリスの肩に手を乗せた。
「「え?」」
「ちょっと、どういうことなの?リース。説明しなさいよ。」
「この食堂はね。食材とかは無料なのだけど、自分達で料理しないといけないのよ。食材は、ある物なら好きものを好きな分だけ使っても構わないの。だから、自分で適当に作ったり、レシピの本も沢山置いてあるからレシピ通りに作ることもできるのよ。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、リース。あなたも手伝いなさいよ。」
「私は、剣は握るけど包丁は握ったことはないわよ。」
「「え!?」」
クリスとアイリスは、驚愕な表情を浮かべた。
「まぁ、そういことだから、殆どの生徒は食堂を使わないのよ。」
「それは、わかるわ。じゃあ、売店とかないの?」
「あるにはあるのだけど、もうこの時間帯だと売店は戦場になっているわ。」
「「え?戦場?」」
リースの言っていることが理解できなかったクリスとアイリスは、頭を傾げた。
「まぁ、行けばわかるわ。こっちよ。」
リースは溜め息を吐いて、クリスとアイリスと一緒に売店へと向かった。
【売店】
クリス達は売店についたが、売店の前には多くの生徒達が密集していた。
いや、群がっていると言える状態だった。
生徒達は並んでおらず、順番とか一切なく、よく見ると屈強な生徒達が群がっており強引に我先にと力で抗争していた。
「何よ、これ…。」
「……。」
アイリスは顔が引きずっており、クリスは言葉を失って呆然と立ち尽くしていた。
「お前、邪魔だ!退け!」
屈強な男子生徒は、前にいる細々した男子生徒の後ろ襟を掴んで引きながら後ろに投げ飛ばした。
「うわ~。」
投げ飛ばされた男子生徒は、クリスの前に倒れた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ありがと…。って、ええ!!君は、ノルダン様方に勝利したアクア学院のお方ですよね?」
「はい、そうですけど。」
「だ、大丈夫です。わざわざ気遣って頂き、感謝します。あ、今は…。では、失礼します!うぉぉ!退け退け!日替わりパンは、俺の物だ!」
男子は慌ててバッと立ち上がり、勢い良く頭を下げて再び売店という戦場に身を投じた。
「アハハ…。これは、凄いね。」
苦笑いを浮かべるクリス。
「凄いってものじゃないわよ、クリス。リース、何なの?この戦場の様な殺気染みた威圧感は…。」
「だから、言ったでしょう?戦場だと。」
「リース。あなた、毎日どうしているのよ?料理できないから食堂は使わないのでしょう?」
「ええ、いつもは弁当を作って貰っているから、それを持ってきているわ。だけど、今日から交流会が始まるから学園祭みたいに屋台とか出して賑わうかなっと思っていたの。だから、弁当を持ってきてないのよ。」
リースは、深いため息を吐いた。
「はぁ、仕方ないわね。この際、私が3人分作るしかないわね。」
「いや、アイリスに料理を作らせたとか国王様達の耳に入ったら僕が怒られそうだから、僕が料理するよ。」
「「え!?」」
「ねぇ、クリス。あなた、料理ができるの?」
「まぁ、お婆ちゃんと2人暮らしだったからある程度はね。2人の口に合うかどうかはわからないけど。」
「クリスって、ただ強いだけじゃなく料理もできるなんて素敵!って、何よ?アイリス。邪魔しないで欲しいのだけど。」
「「何よ?」じゃないわよ!何、どさくさに紛れてクリスに抱きつこうとしているのよ!リース!」
「良いじゃない、別に。だって、クリスは将来、私の夫になるのだから。」
「何を勝手なことを言っているのよ!大問題よ!クリスは、わ、わ、私の…そ、その…だ、旦那様になるのだから!」
「あのさ、2人供。とても嬉しいけど。皆の視線が、こっちに集まっているのだけど。」
クリスは、苦笑いを浮かべながら右手の人差し指で頬を掻いた。
「~っ!」
「いえ~い!」
アイリスは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まり勢い良く視線を逸らし、逆にリースは笑顔を浮かべてクリスの腕を組んでピースしてアピールする。
「行くわよ!クリス。」
「あ、うん。」
「あ、待ちなさいよ。」
アイリスはクリスの腕を掴んで引っ張り、その場から離れ、リースが追いかけた。
【食堂】
ヨンダルク学院とアクア学院の女子生徒達しかいなかった。
女子達は、食事をしながらお互いの国の話をしたり聞いたりしながら料理をしたりして親睦を深めていた。
だが、クリス達が食堂に入ると視線がクリス達に集まった。
「ねぇ、ユリ。あの男の子って、ノルダン様達に勝った男の子よね?一体、何者なの?」
「ああ、クリス君ですか。最近、姫様直属の護衛騎士になった【六花】第0席の人ですよ。」
「え!?嘘!凄い!【六花】って言えば、こちらで言うと【ドリア】様方と同じよね?私達と同い年なのに、【六花】に選ばれたなんて!」
「はい。歴代で最少年だそうですよ。」
ユリの話を聞いたヨンダルク学院の女子生徒達は、クリスを見つめた。
そんな視線に気付いていたクリスだったが、気にせずに袖を捲り上げて厨房に立った。
「じゃあ、作るから。アイリスとリースは、何が食べたい?希望とかあれば作るよ。」
「それより、クリスは、どんな料理ができるの?」
「ある程度は何でも作れるら、何でも言って良いよ。」
「ハイハイ!じゃあ、私は、まずはカルパッチョが食べたい!」
リースは、勢い良く手を挙げて注文する。
「流石にカルパッチョは無理よ。ねぇ?クリス。」
「カルパッチョなら、大丈夫!」
クリスは、魚と野菜など材料を選んで脇に置いて料理を始めた。
まず、クリスはプロの料理人顔負けするぐらいの流れる様な手捌きで玉ねぎを薄切りにして水につけた。
その次にサーモンを三枚下ろしにしてそぎ切りにし、玉ねぎを水切りしてボールに入れた。
更にボールにオリーブ、黒胡椒、塩、レモン汁、切ったサーモンを入れて良くかき混ぜ10分程度置いた。
最後に、大葉やパクチーなど盛り付けて完成した。
「はい、カルパッチョの出来上がり。」
「「……。」」
アイリスとリースだけでなく、クリスが料理をしている姿を見ていた女子達もクリスの手際の良さを見て言葉を失っていた。
「はい、お待たせ。サーモンのカルパッチョだよ。アイリスの分もあるから。」
呆然としているアイリスとリースだったが、クリスは気にせずに2人の前に料理を置いた。
クリスが作ったカルパッチョは、まるでプロの料理人が作った様に色鮮やかに盛り付けられており、大葉の良い香りが漂っていた。
「「~っ。頂くわ。」」
アイリスとリースは美味しそうな料理を見て自然と唾を飲み、ゆっくりとフォークとナイフを使って口にする。
「「~っ!?」」
アイリスとリースは、あまりの美味しさに驚愕して大きく目を見開いた。
「お、美味しい!」
「何これ!とても美味しいわ!プロの料理人が作ったみたい!ううん!これ以上に美味しいわ!」
「口に合って良かったよ。」
クリスは、ホッと胸をなで下ろして微笑んだ。
2人のヨンダルク学院の女子生徒がクリスに歩み寄る。
「あの、もし良ければ、私達に料理を教えて頂けませんか?」
「え?僕、何かで良いの?ここには、レシピがあるけど。」
「「はい!お願いします!」」
「僕で良いなら、別に構わないけど。」
「「やった~!」」
女子達は、嬉しそうに両手でハイタッチした。
その光景を見ていたアクア学院の女子達と他のヨンダルク学院の女子達はお互いの顔を見て頷いた。
「ねぇ?クリス君。その、私達にも教えてくれないかな?」
ユリは、両手を合わせてウィンクした。
「もちろん、良いよユリ。じゃあ、アイリス。何が食べたい?」
「そうね、チンジャオロースとかできる?あと、私達にも料理を教えて。」
「わかったよ。」
クリスは、アイリスやリース、女子達に教えながらチンジャオロースを作った際にご飯も炊けた。
「「美味しい!」」
アイリスとリースだけでなく、女子達も味見をして頬を綻ばせた。
その後、クリスは、各自、女子達が作っている料理を見ながら、それぞれに的確なアドバイスをしていった。
「スパゲッティだったら、麺は茹でた後にオリーブオイルを絡めると美味しくなるよ。」
「は、はい!」
「おでんは、最初にこんにゃくから茹でることで、こんにゃく成分によって煮崩れしにくくなるし、具材を面取りすることで煮崩れをある程度は防止できるよ。屋台のおでん屋は、必ず、こんにゃくから入れているよ。」
「そうだったのですね。」
「クリス君、簡単に美味しいうどんのスープの作り方とかある?」
「あるよ。うどんや雑炊、雑煮のスープは、簡単に作るなら麺つゆに塩と出汁の素を入れてお湯で薄めて作る方法とかオススメだよ。」
「うん、作ってみる。ありがとう!クリス君。」
「ク、クリス、こっちに来て。今、あなたが作ったカルパッチョを作ろうとしているのだけど。玉ねぎは、どこまで剥けば良いの?」
玉ねぎを向いていたリースは、目元が真っ赤に染まり涙を潤ませながら尋ねた。
「ごめん、リース。教えていなかったね。それは流石に剥きすぎだよ。玉ねぎの皮は、表面の茶色の部分だから。」
「そうだったのね。目に滲みるし、料理って大変なのね。」
クリスは、リースが持っている辣韮(ラッキョウ)みたいに小さくなった玉ねぎを見て苦笑いしながら謝罪をした。
時間が経つに連れ、両学院は打ち解けていき、まるで長年からの友達の様な関係になっていき、気が付くと交流会はいつの間にか料理教室になっていた。
日が落ち、学院の閉校の合図の鐘が学院全土に響いた。
「ん?この鐘の音は?」
クリスは、カルパッチョを食べていたリースに尋ねる。
「……。閉校の知らせよ。」
リースは、口元に手を当てて食べ終えてから説明した。
「なら、今日はここまでだね。」
「そうね、ありがとうクリス。あなたのお陰で、楽しい1日だったわ。」
「「ありがとう!クリス君。」」
「どういたしまして。」
こうして、交流会1日目が終わった。
【ヨンダルク城・クリスの部屋】
「う~ん…。」
クリスはベッドの上に横になり、腕を伸ばして背伸びをする。
そんな時、ノックの音がした。
「クリスいる?」
「アイリス、どうかした?こんな夜更けに。鍵かけてないから入って良いよ。」
「お邪魔するわね。」
「どうかした?」
「用があるって訳でないけど。お疲れ様って言いたかっただけ。」
「アイリスも、お疲れ様。今日は本当に疲れたよ。」
「フフフ…。クリスは大活躍だったのもね。」
「はぁ、でも、打ち解けたみたいで良かったよ。ん?どうかした?アイリス。」
1度溜め息をしたクリスは今日1日を思い出して頬を綻ばしたが、アイリスは頬を膨らませていた。
「クリスが、私より料理ができることが、ちょっとね…。」
「そうかな?僕より、アイリスの方が料理が上手だと思うけど。」
「お世辞は、良いわよ。」
「お世辞じゃないよ。だって、僕はレシピ通りにしか作れないけど、アイリスはどうしたらもっと美味しくなるか、工夫しながら料理しているでしょう?」
「フフフ…そうね。そういうことにしとくわ。明日も、楽しくなると良いわね。」
「そうだね…。」
アイリスはクリスに寄り添い、隣にいるクリスの肩に頭を寄せた。
クリスとアイリスは、窓からイルミネーションの様な明るい夜空の星を眺めた。
そして、翌日。
今日はアクア学院とヨンダルク学院の教師達の話し合いによって、教師達が同行の下、アクア学院とヨンダルク学院の生徒達を混合したパーティーでペナンの森で魔物討伐することになった。
【ペナンの森】
クリスの禁術アブソリュート・ゼロによって凍りついていた森は、今は氷が溶けており普段と変わらない感じだった。
クリスの左にアイリス、右にはリースがおり、3人は生徒や教師達の後方を歩いていた。
「完全に氷が溶けたみたいわね、クリス。」
「そうだね、アイリス。本当に溶けて良かったよ。」
クリスは、ホッと胸を撫で下ろす。
「ねぇ、クリス。また凍らせてよ。良いでしょう?」
リースは、クリスの腕を組んでウィンクする。
「え?」
「何を馬鹿なことを言っているのよ、リース。」
「え~、綺麗だったじゃない。」
「確かに綺麗だったのは認めるけど、被害が多数出たばかりでしょう。作物が痛んだり、林業を生業としている人達からクレームがきたりして大変だったでしょう。」
「まぁ、そうだけど…。」
リースは、押し黙った。
そんなリース達の前にいる生徒達は、楽しく会話をしていた。
「あの、先生。昨日まで、この森は何もかも凍りついていたので魔物がいないと思うですが?」
ノルダンは、右手で自分の眼鏡を少し下から押して掛け直す。
「いや、そうでもないみたいだぞ。酒場にいた冒険者から聞いた話だが、国の左右にいた魔物が縄張りを広げるために此方に現れているそうだ。」
「ほう、左右側の魔物ということは、ゴブリン、ウルフ、ビッグ・ラットですか?」
「そうだ。流石、ノルダンは優等生だな。この国で1番危険な魔物はイクシオンだが、冒険者達がイクシオンが住みかにしていた洞窟の中を調査したところ、魔物は一切いなかったとのことだ。」
「なるほど、それなら安全ですね。それでアクア学院の人達と力を合わせて魔物討伐することにしたのですね?」
「ああ、その通りだ。よし、着いたな。皆、これから魔物討伐を始める。何かあったら狼煙をあげること。わかったな?」
「「はい!」」
「では、早速だが混合チームで討伐開始する!」
「「よしゃぁぁ!」」
「行くぜ!」
「「おう!」」
男子達は、気合いを入れて森の中へと足を踏み入れる。
「私達も行きましょう。」
「「そうだね。」」
一方、女子達はマイペースで森の中へと入って行った。
クリスとアイリスとリースは森の奥へと行かず、辺りを見渡していた。
「リース様方は、魔物討伐に行かれないのですか?」
「ええ、私達は遠慮するわ。一時の間は、魔物討伐はしないわ。」
「そうね。この前ので、1年分をまとめて討伐したって気がするほど疲れたもの。」
「そうだね。」
「そうですか。では、どうしますか?帰国しますか?」
「私達は、ここで寛(くつろ)がせて貰うわ。だから、気にしないで頂戴。」
「はい、わかりました。」
「あの辺りとか、どうかしら?アイリス。」
「そうね。クリス、行きましょう。」
「うん、わかったよ。」
クリスはアイリス達と一緒に移動し、リュックからトレジャー・シートを取り出して敷いてお弁当と水筒を取り出した。
「驚きなさい、ジャン、ジャ、ジャ~ン!今日は特製の弁当よ。」
「リース、何で、そんなに自信あり気に言っているのよ。その弁当、あなたが作った訳じゃないのに。」
アイリスは、冷めた目でリースを見た。
「べ、別に、良いじゃない。そんな細かいことを気にしちゃいけないわ。それよりも、早く食べましょう。」
恥ずかしくなったリースは、顔を真っ赤に染まり早口になった。
「はぁ、そうね。クリス、頼むわ。」
「うん、わかったよ。じゃあ、改めてだけど、お疲れ様!」
「「お疲れ様!」」
クリス達は、笑顔を浮かべながらアップルジュースが入ったコップを掲げた。
「でも、驚いたわよ。まさか、クリスが私達以上に強いなんて。私より強い男の子なんていないから諦めていたけど。やっぱり、女の子は守られる立場に憧れるわ。ねぇ、アイリス?」
「そうね。でも、私は、もしクリスが弱かったとしても、そ、その、す、好き…なままよ…。」
「ありがとう、アイリス。」
「お、お礼なんて要らないから!」
「あ~!ズルいわよアイリス。私もだからね!クリス。」
「うん、リースもありがとう。」
「いや、リース。あなたは、絶対違うでしょう。さっき、言ったじゃない。」
「あれは、その…そう、+アルファって意味よ。」
リースは慌てて否定し、アイリスは溜め息を吐き、クリスは苦笑いを浮かべた。
魔法でゴブリンを倒したノルダンは、遠くからクリス達を見た。
「何者なんだ?彼は。昨日から思ったのだが、何故、アイリス様やリース様とあんなに仲睦(なかむつ)まじいんだ?」
「ウォォ!そりゃあ、何たってクリスは姫様直属の護衛騎士【六花】第0席だからだ。」
ノルダンと一緒のパーティーのボルは剣を振り下ろしてゴブリンを斬った後、剣を振って血を弾き肩に担いでノルダンに振り向いて答えた。
「彼がか?」
「ああ、そうだ。最近なったばかりだからな。そっちまで話が届いてないみたいだな。聞いた話だけど、【女帝】って言われている【六花】第1席のマミューラ様に勝ったと言われているんだぜ。驚いただろ?」
「フン、別に驚きはしないさ。この私に勝ったんだ。それくらいの実力がないと、私は負けていない。」
「そうかよ…。」
ボルは、つまらなさそうな表情をして呟いた。
こうして、無事に親睦を深めることができた。
交流会3日目の最終日、学院で宴が開かれた。
グランドの中央にはキャンプファイアの準備がされており、グランドの回りには様々な出店が建ち並んでいる。
昨日、クリス達が魔物討伐をして学院から離れていた間に町の商店街の人達が準備を行っていた。
「今日は、町の皆さんが君達のために準備をして頂きました。皆さん、町の皆さんに感謝を。」
「「ありがとうございます!」」
「それでは、交流会最終日、今日1日、楽しく過ごしましょう!」
「「はい!」」
生徒達は大きな返事をし、あちらこちら散り散りに別れて移動し始めた。
クリスとアイリスとリースは、輪投げや的当て、ヨーヨー釣り、鰻の鷲掴みなどをして遊んだ。
お昼になり、クリス達は食堂へ行った。
【ヨンダルク学院・食堂】
クリスは、鰻の鷲掴みで手に入れた鰻を調理して蒲焼き、せいろ蒸し、白焼きを作り、残った肝は吸い物に入れ、骨は軽く油であげて塩コショウで味付けをした。
「お待たせ。アイリスが白焼きで、リースがせいろ蒸しだったよね。」
「うん、合っているわ。ありがとう、クリス。」
「この前も驚いたけど、クリスって何でも作れるのね。本当に凄いわ。」
「別に凄くはないよ。作り方がわかれば、誰だって作れるからね。」
「クリスは、【六花】よりも料理人の方が向いているかもね。」
「アハハ…。それは、否定できないかも。」
「それは、否定しなさいよクリス。まぁ、良いわ。冷える前に食べましょう。」
溜め息を吐いたアイリスは、ジト目でクリスを見つめた。
「そうね。」
「そうだね。」
「「頂きます。」」
クリス達は手を合わせ、声を出して会釈した。
「うん、ふっくらして、とても美味しいわ。」
「こっちの白焼きも、塩加減が絶妙で美味しいわよ。」
「良かったよ。」
クリス達は、だんらんと食事を楽しんだ。
食後、はし巻きやイカ焼きなど食べながら屋台を回り歩いていた際、アイリスとリースは男子達から、クリスは女子達から夜行われるキャンプファイアのダンスの申し込みがあったがアイリスとリースはキッパリと断り、クリスは申し訳なさそうに断った。
そして、日が落ちてグランドの中央に設置されたキャンプファイアに火が灯された。
そして、その灯火に寄り集まる様に続々と生徒達が集まっていく。
演奏が始まり音楽が流れ始めると、同時に円を描く様にキャンプファイアの回りを男女のカップルや女子同士がダンスしながら回り始めた。
その近くにはダンスの申し込みをする生徒達や、町の人や生徒、教師達がダンスしている生徒達を見ながら会話をしたり食事をしている。
「アイリス、私がジャンケンに勝ったから先にクリスと踊るわね。」
「くっ、もう、わかっているわよ!不覚だわ…。あの時、グーを出せば良かった…。」
悔しそうな表情を浮かべていたアイリスだったが、すぐに肩を落として落ち込んだ。
そんな時、会話を聞いていたヨンダルク学院の男子がアイリス達に近づいた。
「あ、あのアイリス様。もし良ければ、僕と踊って…ヒィ…。」
男子は歯を見せて微笑みながらアイリスに声を掛けたが、アイリスの殺気に満ちた瞳を見て腰を抜かし尻餅をついて四つん這いになりながら慌てて立ち去った。
「あらあら、アイリスったら。フフフ…鬼の形相というより閻魔になっているわね。じゃあ、行きましょうかクリス。」
「え、でも…。」
「行きなさい、クリス。約束は守りなさい。私は大丈夫だから。その代わり、次は私と踊ることを絶対に忘れないでよね。」
アイリスは笑顔を浮かべていたが目が笑っておらず、殺気が醸し出されていた。
「う、うん。も、勿論、忘れていないよ。」
「ほら!」
リースは、クリスの手を取ってキャンプファイアの近くまで引っ張った。
「リース様、もしよろしければ僕と踊って頂けませんか?」
クリスは頭を下げながら左足を後ろに引くと同時に、右手をリースに差し出す様に前に出し左手は腰に当てた。
「喜んで!」
リースは、微笑みながら頬を赤く染めてクリスの右手に手を置いた。
そして、クリスとリースは、フォークダンスを踊り始めた。
クリスとリースは皆から注目されているが、特に気にしてはいなかった。
「ねぇ、クリス。」
「何?」
「明日でお別れになるけど、私は…。」
「ごめん、リース。リースの気持ちは、とても嬉しいのだけど。僕は…。」
クリスが申し訳なさそうな表情で断ろうとしたが、リースは人差し指をクリスの口に押し当てて止めた。
「知っているわよ。クリスはアイリスのことが好きなんでしょう?それでも、私は諦めないから。だって、スノーランド国もヨンダルク国も一夫多婦は認められているのだから。だから、覚悟しといてよね!あと、手紙を書くから絶対に返事を返してよね。」
リースはウィンクし、背伸びをしてクリスに口付けをした。
キスする瞬間を見ていた周りにいる人達の動きが止まり、演奏も止まった。
「~っ!。わかったよ。リースには負けるよ。勝てる気がしないよ。」
クリスは目を大きく見開き驚愕したが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「フフフ…宜しい。」
リースは、優しく微笑んだ。
リースとのダンスが終わり、アイリスとダンスを始めた。
「あ、あのアイリス。いえ、アイリス様。どうかされましたか?」
クリスは怯えながら、ジト目のアイリスに尋ねる。
「ねぇ、クリス。先程、クリスとリースがキスしていたのは、私の目の錯覚だったのかしら?」
「あ…あ、あれは…。」
クリスは説明をした。
「なるほどね。フフフ…。」
(私のこと好きだと言ってくれたんだ。)
アイリスは、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んだ。
「ホッ、良かった。機嫌を直してくれて。」
「それより、クリス。」
「ん?何?え!?」
アイリスは両手でクリスの左右の頬に当てて、背伸びをしてキスした。
「~っ!」
「リースとキスしたのだから、私としても良いでしょう?」
アイリスは、口元に手を当てて悪戯っぽくウィンクして微笑んだ。
再び、見ていた人達の動きが止まっていた。
こうして、キャンプファイアの周りに楽しそうに踊る影が映し出され賑やかな声が聞こえた。
大広間の奥にはヨルズ、リオン、リース、バルミスタ、シリーダ、アイリスが椅子に腰掛けており、ヨルズ達の前には【ドリア】メンバーとユナイト、ユーリア、クリスが床に片膝をつけており、そして、その後ろにギルドマスターのロジックと冒険者と騎士団の代表者3名ずつがクリス達の様に床に片膝をついて敬礼していた。
「面を上げよ。皆の者、此度、イクシオンの軍勢の侵攻を食い止めるだけでなく、イクシオン・ロードの討伐、ドリアードの加護の奪還、誠に感謝する。」
「ハッ!勿体無き、お言葉。」
ガディウスは感謝し、クリス達は一斉に深々と頭を下げた。
「ところで、バルミスタ国王、シリーダ殿。説明を願いたいのだが。そこに居るクリス殿は、一体、何者なのだ!」
ヨルズは、隣に座っているバルミスタに視線を向けて尋ねる。
「「……。」」
バルミスタとシリーダは、戸惑った表情を浮かべながら無言でクリスに視線を向けた。
「大変、失礼だと存じますが、私、自ら説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。是非、説明を願おう。」
「では、始めに…。」
クリスは立ち上がり、自分がお伽噺に出てくるクリス本人だということ、精霊イエティを宿していること、そして、悪魔の瞳の持ち主であることなど偽りなく繊細に詳しく話し、質問があれば真摯に答えた。
普通は知られたくないことは隠したり、誤魔化したり、濁したりするものだが、クリスは直感で全て偽りなく素直に話した方が良いと感じたからであった。
真摯に対応をしたことで、ヨルズ達との間に信頼が生まれた。
「なるほど。まさか、クリス殿があのお伽噺に出てくるクリス本人だとは驚きだ。」
「信じて頂けるのですか?」
「無論だとも。あの禁術を目の辺りしたのだからな。しかし、禁術は噂にするが、実際は噂を通り超した絶大な威力だった。まさか、国の防御結界を最大に上げていても国中が霜がつくとはな。最大にしていなければ、ペナンの森と同様に国民共々、国中が凍り付けにされていたところだったぞ。」
「そうだな。私も初めて間近で見たが、恐ろしい魔法だった。だが、救いなのは誰もかもが使えるということではなく、適応した選ばれた人間しか使えないという点だな。」
ヨルズは右手で自身の顎を触りながら話し、バルミスタは肯定しながら説明し、他の皆は無言で頷いた。
「それにしても、氷の森って幻想的で綺麗ねリース。」
リオンは、嬉しそうな表情を浮かべて尋ねる。
「そうですね、お母様。そもそも、氷自体が珍しいですからね。」
「ん?リース様。1つ、お聞きしますが、そんなに氷って珍しいのでしょうか?」
「ええ、珍しいに決まっているわクリス。だって、この国は年中、暖かい気候に恵まれているの。だから、雪が降らないのも勿論だけど、霜が付くこともないのよ。クリスも城に戻る時に見たでしょう?国民達も好奇心で遠くから凍った森を見たり、森の近くまで行ったりしてはしゃいでいたわ。あと、タメ口で構わないわよ。あなたは、この国を救った英雄なのだから。」
「では、お言葉に甘えさせて貰います。ところで、アクア学院の皆はどうしているのかな?」
「それなら、安心して。2階の大広間の窓から森を見ていたわよ。」
「それは、良かった。」
「そうだ。せっかく、アクア学院の生徒達も来られているんだ。この機に、ヨンダルク学院と交流してみたらどうだろうか?」
ヨルズは、右拳を軽く振り下ろして左手の掌を叩きながら提案した。
「あら、それは良いわね!どうですか?バルミスタ国王。」
「うむ、そうだな、良い提案だ。この機にコミュニケーションを取ることで、より親睦を深めることができるだろう。私は賛成する。どうだろうか?」
「そうね、あなた。」
バルミスタは大きく頷き、シリーダは微笑んで肯定した。
「「え!?」」
提案を聞いたクリスとアイリスとリースの3人は、嫌な胸騒ぎがした。
クリスとアイリスは、俺について来いタイプのボルとその取り巻きの存在が頭をよぎり、リースは、知らないうちに勝手にできた自分のファンクラブ【リース様親衛隊】の存在が頭に浮かび、クリス達は争いが起きる可能性があると思った。
だが、必ず争いが勃発するとは限らないため、せっかく、場の雰囲気が良いので、3人は躊躇い、何も口を出すことはなかったため、最終的に交流会をすることが決まった。
その後、ヨルズはヨンダルク学院に手紙を書き、騎士団に渡して届ける様に依頼し、バルミスタは明日に交流会することをアクア学院の教師達に伝え、ボル達はアクア学院が毎年、貸し切りにしている宿へ行った。
アイリスとクリスはヨルズ達から誘われてヨンダルク国に来ていたので、ボル達と一緒に宿に行かず、城で過ごすことにした。
【3階の大広間・ベランダ】
夕食の時間が訪れ、クリス達は大広間のベランダで満月の下で食事を摂っていた。
ベランダから見える光景は、満月の光が、まだ木々が薄らっと凍っている森を照らし、その氷が光を反射することで、まるで森が光って輝いており幻想的な雰囲気を醸し出している。
クリスとアイリスは飲み物を片手に持ち、ベランダの柵側で寄り添いながら森を眺めていた。
「綺麗ね、クリス。」
「そうだね、アイリス。」
「2人で良い雰囲気を醸し出しているところ悪いのだけど、私を忘れないで欲しいわ!」
「「リース!?」」
「もう、目を離したら、すぐにイチャイチャして!」
「イ、イチャイチャなんて、し、してないわよ。何よ、その目は…。」
アイリスは慌てて否定したが、リースはジト目していた。
「別に。そんなに気になるなら、鏡で自分の顔を見たらわかるわよ?アイリス。」
「うう…。」
アイリスは、両手で自身の真っ赤に染まった両頬に当てて視線を逸らして唸った。
「それより、リース。明日の交流会の話しなのだけど、僕とアイリスは協力して、できる限り皆の仲を取り繕うつもりだけど。リースも協力してくれないかな?もしかしたら、それでも、険悪の雰囲気になるかもしないけど…。」
「もちろん、協力するわ。お互い、苦労するわね。」
「「はぁ…。」」
未だにモジモジしているアイリスの隣にいるクリスとリースは、明日の交流会のことを考えたら深い溜め息が出た。
そして、翌朝。
クリス達の胸騒ぎが現実のものとなるであった。
【ヨンダルク学院・グランド】
クリスとアイリスはリースと一緒にヨンダルク学院に登校すると、グランドでは人混みができ、ざわついていた。
クリス達は、慌てて駆けつける。
人混みの中央には、ボルを筆頭のアクア学院の男子達とヨンダルク学院の【リース様親衛隊】のメンバーである男子達が睨み合っていた。
「おい!お前、今、何て言った?」
ボルは、怒声をあげながら【リース様親衛隊】のリーダーである眼鏡を掛けた男子生徒ノルダンを睨みつける。
「おや?聞こえてませんでしたか?やはり、魔物がいない平和ボケしたアクア学院の皆さんは弱いだけだなく、耳もですけど、理解できないほど頭の方も弱いのですね?私は優しいので、もう1度、言って差し上げます。あなた達と交流しても我々には得るものが何もないのです。そんな無駄な時間を割く暇もないと言ったのですよ。あなた達は冒険者ライセンスを取ってはしゃいでいましたが、あなた達よりも我々は1年も早く冒険者ライセンスを取得したエリートです。もう、わかるでしょう?我々とあなた達の実力の差を。」
ノルダンは、右手で掛けてある眼鏡をクイッと少し上げて嘲笑い、ヨンダルク学院の男子生徒達も見下した様な笑みを浮かべた。
「この野郎!!」
ボルが激怒すると、両者の取り巻き達は魔力を解き放ちながら構えて争い備える。
場の空気が張り詰め、一触即発になった。
緊迫した雰囲気の前に両学院の女子達は、オドオドするしかなかった。
そんな時…。
「「そこまでよ!」」
アイリスとリースが大声を出すと張り詰めた緊迫した場の空気が一変し、殺気と高まった魔力が嘘のように消えた。
「「アイリス様!?」」
「「リース様!?」」
ボルとノルダン達は、2人に振り返った。
「これは、どういうことなの?説明しなさい、ノルダン。」
「ハッ!それはですね…。」
リースはノルダンに尋ねると、ノルダンはこれまでの経緯を話した。
「なるほど、そういうことね。」
「はい、我々とこの者達とでは実力にレベルに差があり、向こうには得るものがありますが、こちらには一切得るものがないのです。」
「あなたが言いたいことはわかったわ。だけど、相手のことを勝手にこうだと決めつけたりしたら駄目よ。確かに魔力や魔物討伐の経験などは貴方が上だけど、そちらの人は貴方よりも剣術が上だと思うわ。」
リースは、ボルを一目見ただけで理解した。
「確かに彼の手を見たところ、私よりも剣術は上かもしれませんが、接近される前に倒しますよ。」
ノルダンは、目を細めてボルの掌を見て怪訝な表情で肯定した。
ボルの掌は、毎日、数えきれないほど素振りをしてできた豆があり、皮膚がボロボロになっていた。
「そうかしら?だったら、こうしましょう?あなた達が、そこにいるクリスに勝てた場合、交流会はなかったことにします。それと、希望があれば将来、騎士団に入団させてあげるわ。だけど、もし負けた場合は3日間の交流会に積極的に参加して貰います。どうかしら?ノルダン。」
「良いでしょう。ところで、リース様。先程、「あなた達。」って仰いましたが、まさかとは思いますが…。」
「ええ、そうよ。ノルダン、あなただけでなく、交流会に反対している全員対クリス1人よ。勿論、クリスは身体強化だけで魔法攻撃は一切使わせないわ。」
「リース様は、私達を見下しているのですか?そこの頼り無さそうな者が、私達に勝てるとでも?」
リースの話を聞いたノルダンは、顔がピクッと反応して視線が鋭くなった。
「~っ!」
クリスを馬鹿にされたアイリスはノルダンを睨みつけたが、クリス本人は苦笑いを浮かべていた。
「別に、あなた達を見下していないわ。私は言ったわよね?「相手のことを勝手にこうだと決めつけたりしたら駄目よ。」って、それに、あなたが先ほど言ったでしょう?「接近される前に倒しますよ。」と。例え、相手が魔法が使えなくても接近できることを知って貰うためよ。それに、クリスは強いわよ。油断していると、あっという間に負けてしまうわよ。」
「わかりました。その勝負を受けましょう。」
「そういうことたがら宜しくね、クリス。」
「え?あ、うん、わかったよ。お手柔らかに…。」
(あれ?何でいつの間にかに僕が戦うことになったのだろう?普通、ボル達が戦うのが普通の流れだと思うのだけど?しかも、勝手に条件をつけられて厳しくなってないかな?)
クリスは、疑問に思ったが話の流れで断ることができず苦笑いを浮かべて了承した。
「頼む、クリス。すまないが、俺達の代わりに戦って勝ってくれ。そして、あいつらを見返してくれ!」
ボルは、真剣な表情を浮かべて後ろからクリスの肩に手を置いて頼んだ。
「あ、うん。頑張ってみるよ。」
「き、君達!いったい、どうしましたか?」
教師のバリンは、異変に気付いて駆けつけた。
「お騒がせして、大変、申し訳ありません。あの、先生。実は…。」
リースは、バリンに頭を下げて経緯を説明した。
「リ、リース様、頭をお上げ下さい。リース様がお気にすることはありません。私も、国王様から交流会をすることになったとお聞きした際、こうなるだろうかと思っていました。まぁ、今回の決闘はお互いのことを知るために必要なことでしょうし。そうだ、この機会に全生徒に見て頂きましょう!うん、それが良い!どうでしょうか?リース様。」
バリンは、提案しながら胸元で手を叩いた。
「ええ、そうですね。それで、良いかしら?アイリス。」
「ええ、良いわよ。」
リースは肯定し、アイリスも頷いた。
こうして、全生徒と教師達がグランドに集合して決闘が開催されることになった。
【グランド】
アクア学院の生徒達は不安そうな表情で見守り、ヨンダルク学院の全生徒は、興味津々にクリスとノルダン達の決闘が始まるのを待っていた。
クリスは膝を屈伸したり腕を伸ばしたりしてストレッチをし、ノルダン達は余裕の笑みを浮かべていた。
「それでは、アクア学院代表クリス君対ヨンダルク学院【リース様親衛隊】との決闘を行います。両者共、準備は良いですね?」
バリンは、クリス達を見て確認する。
「「はい。」」
「それで、試合開始!」
「苦しまない様に、すぐに終わらせてあげよう。」
「「エナジー・ショット!」」
ノルダンの言葉と共に、【リース様親衛隊】はエナジー・ショットを放つ。
「ほっと、よっと…。」
クリスは、横に走りながら体を傾けたりして躱していき、少しずつ接近する。
そして、魔力弾の弾幕に隙ができた瞬間、クリスは身体強化を一気に高めて一瞬で距離を詰めた。
【リース様親衛隊】達は、クリスが消えた様に見えた。
「消えた!?」
「ここですよ。」
「な、何だと!?ぐぁ。」
クリスの声が聞こえて、男子が気が付いた時には目の前にクリスがおり、驚愕の表情を浮かべたと同時にクリスに鳩尾を殴られ気絶させられた。
クリスは、未だに怯んでいる近くにいる【リース様親衛隊】達に迫り、容赦なく殴ったり、蹴ったりして気絶させていった。
「落ち着け!相手は1人なのです!一斉に掛かれば良いのです!」
ノルダンの言葉によって、少し冷静になった【リース様親衛隊】達は一斉にクリスに襲い掛かる。
「オラッ!」
クリスの正面から接近した男子は、右拳で殴りにいく。
クリスは、右拳を避けながら殴ってきた男子の伸びた状態になった右腕を両手で掴んで横に振り、隣から襲い掛かってきている男子にぶつけた。
「「ぐぁ。」」
ぶつかった男子達は倒れた。
「ここだ!」
機会を窺っていた男子は、クリスの背後から両腕を広げてクリスを取り押さえようとした。
しかし、クリスが振り返りながら右手の裏拳をして、裏拳が下顎に当たって脳震盪を起こして足元がおぼつかずにフラフラする。
「ヤッ!」
クリスは、そのまま振り返りながら脳震盪した男子に回し蹴りをして吹き飛ばし、後方にいた男子達にぶつけた。
クリスは、簡単にすぐにでも周囲の男子達を蹴散らせて無効化できるのだが、わざと囲まれいる状況で戦っていた。
それは、密集しているので魔法攻撃だと味方に当たる可能性が高いので魔法攻撃をされないと思っていたからだった。
クリスの勢いは止まるどころか勢いは増していき、次々に【リース様親衛隊】達が倒されていく。
「くっ、猪口才な!ウッド・アロー!」
予想外な展開に焦ったノルダンは、仲間が密集しているにも関わらず、クリスから少し離れた場所から鋭い木の矢を10本召喚して放った。
「「ノルダン様!?」」
「避けろ!」
【リース様親衛隊】達は、悲鳴に似た驚愕の声をあげる。
「くっ!」
クリスは避けることはできたが、避けると近くの男子達に直撃して危険だと判断して、その場で回転しながら魔力を膨大な放出したことで魔力が渦を帯びて竜巻が発生して男子達を弾き飛ばし、竜巻は一瞬で巨大化して飛んできた木の矢を上空へと巻き上げた。
「ば、馬鹿な!な、何だ?この膨大な魔力は…。こんなことがあるはずが…。うわぁぁ…。」
クリスの膨大な魔力を目の当たりにしたノルダンは信じられない表情で呆然と立ち尽くして呟き、思考が停止していたため、そのまま魔力の竜巻に飲み込まれて宙を舞った。
「危ない!くっ…。」
魔力の竜巻は弱まっていき消滅すると、上空からノルダンが落ちてきて教師のバリンが慌てて受け止めた。
「「……。」」
誰もが驚愕して言葉を失っており、静寂が場を支配していた。
「あの、すみません。大丈夫ですか?魔法ではないのですが、身体強化以外に魔力を使ってしまいましたので、僕の負けです。」
クリスは、頭を下げた。
「……す、凄い!」
「お、おい、み、見たかよ!なぁ!夢じゃないよな!」
「ああ!あのノルダン様だけでなく、1人で大人数を相手に負けるどころか逆に全員を倒したぞ。」
「私達も頑張れば、あの人の様になれるかな?」
「なれるよ!きっと!それにしても、あの人は誰なのかな?格好良いよね!」
「うん、そうだね!」
ヨンダルク学院の生徒達は、クリスの戦いを目の当たりにしたことで自分達も強くなれるという可能性を実感して盛大に盛り上がった。
「何を言っているのよ、クリス。あなたは魔法は使っていないのだから、あなたの勝ちに決まっているわ。だから、今から交流会するわよ。それで、良いわね?あなた達。」
「「はい!」」
ヨンダルク学院の生徒達は、誰もリースに反対する者はおらず肯定した。
こうして、交流会が始まった。
アクア学院の生徒達とヨンダルク学院の生徒達は、ギスギスした感じはなくなり、逆に親しく会話をしたり、それぞれ別々でヨンダルク学院の校内を案内したりされたりして親睦を深めた。
特に両学院の男子達は、お互いの実力を確認する様に決闘したりしていた。
一方、女子は近辺情報の話や恋話をしたりして盛り上がり、ヨンダルク学院の貴族の女子達はクリスと会話がしたかったが、クリスの隣にはアイリスとリースが居たので声が掛け辛く、木の影から様子を窺う者やハンカチを噛み締める者がいた。
クリスとアイリスは、リースから学院の校内を案内されて食堂に来ていた。
「ここが食堂よ。まぁ、私は1度も利用しないのだけどね。」
「そうなんだ。でも、広くって綺麗な食堂なのだからリースも利用すれば良いのにね、アイリス。」
「ええ、そうね。なぜ、利用しないの?リース。」
「それは、理由があるのよ。」
「理由?」
「ええ、それは…。」
リースが答えようとした時、クリスのお腹が鳴った。
「あ、ごめん。」
「クリス、恥ずかしいからやめてよね。」
「ごめん、アイリス。」
「少し早いけど、昼食にする?2人供。」
「そうね。クリスも、それで良い?」
「勿論、僕は賛成だよ。でも、厨房にコックさんの姿がないみたいだけど?呼びに行かないといけないのかな?」
「そういえば、そうね…。」
クリスとアイリスは、部屋中を見渡してもコックの姿がなかった。
「じゃあ、2人共、任せたわよ。」
リースは、微笑みながらクリスとアイリスの肩に手を乗せた。
「「え?」」
「ちょっと、どういうことなの?リース。説明しなさいよ。」
「この食堂はね。食材とかは無料なのだけど、自分達で料理しないといけないのよ。食材は、ある物なら好きものを好きな分だけ使っても構わないの。だから、自分で適当に作ったり、レシピの本も沢山置いてあるからレシピ通りに作ることもできるのよ。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、リース。あなたも手伝いなさいよ。」
「私は、剣は握るけど包丁は握ったことはないわよ。」
「「え!?」」
クリスとアイリスは、驚愕な表情を浮かべた。
「まぁ、そういことだから、殆どの生徒は食堂を使わないのよ。」
「それは、わかるわ。じゃあ、売店とかないの?」
「あるにはあるのだけど、もうこの時間帯だと売店は戦場になっているわ。」
「「え?戦場?」」
リースの言っていることが理解できなかったクリスとアイリスは、頭を傾げた。
「まぁ、行けばわかるわ。こっちよ。」
リースは溜め息を吐いて、クリスとアイリスと一緒に売店へと向かった。
【売店】
クリス達は売店についたが、売店の前には多くの生徒達が密集していた。
いや、群がっていると言える状態だった。
生徒達は並んでおらず、順番とか一切なく、よく見ると屈強な生徒達が群がっており強引に我先にと力で抗争していた。
「何よ、これ…。」
「……。」
アイリスは顔が引きずっており、クリスは言葉を失って呆然と立ち尽くしていた。
「お前、邪魔だ!退け!」
屈強な男子生徒は、前にいる細々した男子生徒の後ろ襟を掴んで引きながら後ろに投げ飛ばした。
「うわ~。」
投げ飛ばされた男子生徒は、クリスの前に倒れた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ありがと…。って、ええ!!君は、ノルダン様方に勝利したアクア学院のお方ですよね?」
「はい、そうですけど。」
「だ、大丈夫です。わざわざ気遣って頂き、感謝します。あ、今は…。では、失礼します!うぉぉ!退け退け!日替わりパンは、俺の物だ!」
男子は慌ててバッと立ち上がり、勢い良く頭を下げて再び売店という戦場に身を投じた。
「アハハ…。これは、凄いね。」
苦笑いを浮かべるクリス。
「凄いってものじゃないわよ、クリス。リース、何なの?この戦場の様な殺気染みた威圧感は…。」
「だから、言ったでしょう?戦場だと。」
「リース。あなた、毎日どうしているのよ?料理できないから食堂は使わないのでしょう?」
「ええ、いつもは弁当を作って貰っているから、それを持ってきているわ。だけど、今日から交流会が始まるから学園祭みたいに屋台とか出して賑わうかなっと思っていたの。だから、弁当を持ってきてないのよ。」
リースは、深いため息を吐いた。
「はぁ、仕方ないわね。この際、私が3人分作るしかないわね。」
「いや、アイリスに料理を作らせたとか国王様達の耳に入ったら僕が怒られそうだから、僕が料理するよ。」
「「え!?」」
「ねぇ、クリス。あなた、料理ができるの?」
「まぁ、お婆ちゃんと2人暮らしだったからある程度はね。2人の口に合うかどうかはわからないけど。」
「クリスって、ただ強いだけじゃなく料理もできるなんて素敵!って、何よ?アイリス。邪魔しないで欲しいのだけど。」
「「何よ?」じゃないわよ!何、どさくさに紛れてクリスに抱きつこうとしているのよ!リース!」
「良いじゃない、別に。だって、クリスは将来、私の夫になるのだから。」
「何を勝手なことを言っているのよ!大問題よ!クリスは、わ、わ、私の…そ、その…だ、旦那様になるのだから!」
「あのさ、2人供。とても嬉しいけど。皆の視線が、こっちに集まっているのだけど。」
クリスは、苦笑いを浮かべながら右手の人差し指で頬を掻いた。
「~っ!」
「いえ~い!」
アイリスは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まり勢い良く視線を逸らし、逆にリースは笑顔を浮かべてクリスの腕を組んでピースしてアピールする。
「行くわよ!クリス。」
「あ、うん。」
「あ、待ちなさいよ。」
アイリスはクリスの腕を掴んで引っ張り、その場から離れ、リースが追いかけた。
【食堂】
ヨンダルク学院とアクア学院の女子生徒達しかいなかった。
女子達は、食事をしながらお互いの国の話をしたり聞いたりしながら料理をしたりして親睦を深めていた。
だが、クリス達が食堂に入ると視線がクリス達に集まった。
「ねぇ、ユリ。あの男の子って、ノルダン様達に勝った男の子よね?一体、何者なの?」
「ああ、クリス君ですか。最近、姫様直属の護衛騎士になった【六花】第0席の人ですよ。」
「え!?嘘!凄い!【六花】って言えば、こちらで言うと【ドリア】様方と同じよね?私達と同い年なのに、【六花】に選ばれたなんて!」
「はい。歴代で最少年だそうですよ。」
ユリの話を聞いたヨンダルク学院の女子生徒達は、クリスを見つめた。
そんな視線に気付いていたクリスだったが、気にせずに袖を捲り上げて厨房に立った。
「じゃあ、作るから。アイリスとリースは、何が食べたい?希望とかあれば作るよ。」
「それより、クリスは、どんな料理ができるの?」
「ある程度は何でも作れるら、何でも言って良いよ。」
「ハイハイ!じゃあ、私は、まずはカルパッチョが食べたい!」
リースは、勢い良く手を挙げて注文する。
「流石にカルパッチョは無理よ。ねぇ?クリス。」
「カルパッチョなら、大丈夫!」
クリスは、魚と野菜など材料を選んで脇に置いて料理を始めた。
まず、クリスはプロの料理人顔負けするぐらいの流れる様な手捌きで玉ねぎを薄切りにして水につけた。
その次にサーモンを三枚下ろしにしてそぎ切りにし、玉ねぎを水切りしてボールに入れた。
更にボールにオリーブ、黒胡椒、塩、レモン汁、切ったサーモンを入れて良くかき混ぜ10分程度置いた。
最後に、大葉やパクチーなど盛り付けて完成した。
「はい、カルパッチョの出来上がり。」
「「……。」」
アイリスとリースだけでなく、クリスが料理をしている姿を見ていた女子達もクリスの手際の良さを見て言葉を失っていた。
「はい、お待たせ。サーモンのカルパッチョだよ。アイリスの分もあるから。」
呆然としているアイリスとリースだったが、クリスは気にせずに2人の前に料理を置いた。
クリスが作ったカルパッチョは、まるでプロの料理人が作った様に色鮮やかに盛り付けられており、大葉の良い香りが漂っていた。
「「~っ。頂くわ。」」
アイリスとリースは美味しそうな料理を見て自然と唾を飲み、ゆっくりとフォークとナイフを使って口にする。
「「~っ!?」」
アイリスとリースは、あまりの美味しさに驚愕して大きく目を見開いた。
「お、美味しい!」
「何これ!とても美味しいわ!プロの料理人が作ったみたい!ううん!これ以上に美味しいわ!」
「口に合って良かったよ。」
クリスは、ホッと胸をなで下ろして微笑んだ。
2人のヨンダルク学院の女子生徒がクリスに歩み寄る。
「あの、もし良ければ、私達に料理を教えて頂けませんか?」
「え?僕、何かで良いの?ここには、レシピがあるけど。」
「「はい!お願いします!」」
「僕で良いなら、別に構わないけど。」
「「やった~!」」
女子達は、嬉しそうに両手でハイタッチした。
その光景を見ていたアクア学院の女子達と他のヨンダルク学院の女子達はお互いの顔を見て頷いた。
「ねぇ?クリス君。その、私達にも教えてくれないかな?」
ユリは、両手を合わせてウィンクした。
「もちろん、良いよユリ。じゃあ、アイリス。何が食べたい?」
「そうね、チンジャオロースとかできる?あと、私達にも料理を教えて。」
「わかったよ。」
クリスは、アイリスやリース、女子達に教えながらチンジャオロースを作った際にご飯も炊けた。
「「美味しい!」」
アイリスとリースだけでなく、女子達も味見をして頬を綻ばせた。
その後、クリスは、各自、女子達が作っている料理を見ながら、それぞれに的確なアドバイスをしていった。
「スパゲッティだったら、麺は茹でた後にオリーブオイルを絡めると美味しくなるよ。」
「は、はい!」
「おでんは、最初にこんにゃくから茹でることで、こんにゃく成分によって煮崩れしにくくなるし、具材を面取りすることで煮崩れをある程度は防止できるよ。屋台のおでん屋は、必ず、こんにゃくから入れているよ。」
「そうだったのですね。」
「クリス君、簡単に美味しいうどんのスープの作り方とかある?」
「あるよ。うどんや雑炊、雑煮のスープは、簡単に作るなら麺つゆに塩と出汁の素を入れてお湯で薄めて作る方法とかオススメだよ。」
「うん、作ってみる。ありがとう!クリス君。」
「ク、クリス、こっちに来て。今、あなたが作ったカルパッチョを作ろうとしているのだけど。玉ねぎは、どこまで剥けば良いの?」
玉ねぎを向いていたリースは、目元が真っ赤に染まり涙を潤ませながら尋ねた。
「ごめん、リース。教えていなかったね。それは流石に剥きすぎだよ。玉ねぎの皮は、表面の茶色の部分だから。」
「そうだったのね。目に滲みるし、料理って大変なのね。」
クリスは、リースが持っている辣韮(ラッキョウ)みたいに小さくなった玉ねぎを見て苦笑いしながら謝罪をした。
時間が経つに連れ、両学院は打ち解けていき、まるで長年からの友達の様な関係になっていき、気が付くと交流会はいつの間にか料理教室になっていた。
日が落ち、学院の閉校の合図の鐘が学院全土に響いた。
「ん?この鐘の音は?」
クリスは、カルパッチョを食べていたリースに尋ねる。
「……。閉校の知らせよ。」
リースは、口元に手を当てて食べ終えてから説明した。
「なら、今日はここまでだね。」
「そうね、ありがとうクリス。あなたのお陰で、楽しい1日だったわ。」
「「ありがとう!クリス君。」」
「どういたしまして。」
こうして、交流会1日目が終わった。
【ヨンダルク城・クリスの部屋】
「う~ん…。」
クリスはベッドの上に横になり、腕を伸ばして背伸びをする。
そんな時、ノックの音がした。
「クリスいる?」
「アイリス、どうかした?こんな夜更けに。鍵かけてないから入って良いよ。」
「お邪魔するわね。」
「どうかした?」
「用があるって訳でないけど。お疲れ様って言いたかっただけ。」
「アイリスも、お疲れ様。今日は本当に疲れたよ。」
「フフフ…。クリスは大活躍だったのもね。」
「はぁ、でも、打ち解けたみたいで良かったよ。ん?どうかした?アイリス。」
1度溜め息をしたクリスは今日1日を思い出して頬を綻ばしたが、アイリスは頬を膨らませていた。
「クリスが、私より料理ができることが、ちょっとね…。」
「そうかな?僕より、アイリスの方が料理が上手だと思うけど。」
「お世辞は、良いわよ。」
「お世辞じゃないよ。だって、僕はレシピ通りにしか作れないけど、アイリスはどうしたらもっと美味しくなるか、工夫しながら料理しているでしょう?」
「フフフ…そうね。そういうことにしとくわ。明日も、楽しくなると良いわね。」
「そうだね…。」
アイリスはクリスに寄り添い、隣にいるクリスの肩に頭を寄せた。
クリスとアイリスは、窓からイルミネーションの様な明るい夜空の星を眺めた。
そして、翌日。
今日はアクア学院とヨンダルク学院の教師達の話し合いによって、教師達が同行の下、アクア学院とヨンダルク学院の生徒達を混合したパーティーでペナンの森で魔物討伐することになった。
【ペナンの森】
クリスの禁術アブソリュート・ゼロによって凍りついていた森は、今は氷が溶けており普段と変わらない感じだった。
クリスの左にアイリス、右にはリースがおり、3人は生徒や教師達の後方を歩いていた。
「完全に氷が溶けたみたいわね、クリス。」
「そうだね、アイリス。本当に溶けて良かったよ。」
クリスは、ホッと胸を撫で下ろす。
「ねぇ、クリス。また凍らせてよ。良いでしょう?」
リースは、クリスの腕を組んでウィンクする。
「え?」
「何を馬鹿なことを言っているのよ、リース。」
「え~、綺麗だったじゃない。」
「確かに綺麗だったのは認めるけど、被害が多数出たばかりでしょう。作物が痛んだり、林業を生業としている人達からクレームがきたりして大変だったでしょう。」
「まぁ、そうだけど…。」
リースは、押し黙った。
そんなリース達の前にいる生徒達は、楽しく会話をしていた。
「あの、先生。昨日まで、この森は何もかも凍りついていたので魔物がいないと思うですが?」
ノルダンは、右手で自分の眼鏡を少し下から押して掛け直す。
「いや、そうでもないみたいだぞ。酒場にいた冒険者から聞いた話だが、国の左右にいた魔物が縄張りを広げるために此方に現れているそうだ。」
「ほう、左右側の魔物ということは、ゴブリン、ウルフ、ビッグ・ラットですか?」
「そうだ。流石、ノルダンは優等生だな。この国で1番危険な魔物はイクシオンだが、冒険者達がイクシオンが住みかにしていた洞窟の中を調査したところ、魔物は一切いなかったとのことだ。」
「なるほど、それなら安全ですね。それでアクア学院の人達と力を合わせて魔物討伐することにしたのですね?」
「ああ、その通りだ。よし、着いたな。皆、これから魔物討伐を始める。何かあったら狼煙をあげること。わかったな?」
「「はい!」」
「では、早速だが混合チームで討伐開始する!」
「「よしゃぁぁ!」」
「行くぜ!」
「「おう!」」
男子達は、気合いを入れて森の中へと足を踏み入れる。
「私達も行きましょう。」
「「そうだね。」」
一方、女子達はマイペースで森の中へと入って行った。
クリスとアイリスとリースは森の奥へと行かず、辺りを見渡していた。
「リース様方は、魔物討伐に行かれないのですか?」
「ええ、私達は遠慮するわ。一時の間は、魔物討伐はしないわ。」
「そうね。この前ので、1年分をまとめて討伐したって気がするほど疲れたもの。」
「そうだね。」
「そうですか。では、どうしますか?帰国しますか?」
「私達は、ここで寛(くつろ)がせて貰うわ。だから、気にしないで頂戴。」
「はい、わかりました。」
「あの辺りとか、どうかしら?アイリス。」
「そうね。クリス、行きましょう。」
「うん、わかったよ。」
クリスはアイリス達と一緒に移動し、リュックからトレジャー・シートを取り出して敷いてお弁当と水筒を取り出した。
「驚きなさい、ジャン、ジャ、ジャ~ン!今日は特製の弁当よ。」
「リース、何で、そんなに自信あり気に言っているのよ。その弁当、あなたが作った訳じゃないのに。」
アイリスは、冷めた目でリースを見た。
「べ、別に、良いじゃない。そんな細かいことを気にしちゃいけないわ。それよりも、早く食べましょう。」
恥ずかしくなったリースは、顔を真っ赤に染まり早口になった。
「はぁ、そうね。クリス、頼むわ。」
「うん、わかったよ。じゃあ、改めてだけど、お疲れ様!」
「「お疲れ様!」」
クリス達は、笑顔を浮かべながらアップルジュースが入ったコップを掲げた。
「でも、驚いたわよ。まさか、クリスが私達以上に強いなんて。私より強い男の子なんていないから諦めていたけど。やっぱり、女の子は守られる立場に憧れるわ。ねぇ、アイリス?」
「そうね。でも、私は、もしクリスが弱かったとしても、そ、その、す、好き…なままよ…。」
「ありがとう、アイリス。」
「お、お礼なんて要らないから!」
「あ~!ズルいわよアイリス。私もだからね!クリス。」
「うん、リースもありがとう。」
「いや、リース。あなたは、絶対違うでしょう。さっき、言ったじゃない。」
「あれは、その…そう、+アルファって意味よ。」
リースは慌てて否定し、アイリスは溜め息を吐き、クリスは苦笑いを浮かべた。
魔法でゴブリンを倒したノルダンは、遠くからクリス達を見た。
「何者なんだ?彼は。昨日から思ったのだが、何故、アイリス様やリース様とあんなに仲睦(なかむつ)まじいんだ?」
「ウォォ!そりゃあ、何たってクリスは姫様直属の護衛騎士【六花】第0席だからだ。」
ノルダンと一緒のパーティーのボルは剣を振り下ろしてゴブリンを斬った後、剣を振って血を弾き肩に担いでノルダンに振り向いて答えた。
「彼がか?」
「ああ、そうだ。最近なったばかりだからな。そっちまで話が届いてないみたいだな。聞いた話だけど、【女帝】って言われている【六花】第1席のマミューラ様に勝ったと言われているんだぜ。驚いただろ?」
「フン、別に驚きはしないさ。この私に勝ったんだ。それくらいの実力がないと、私は負けていない。」
「そうかよ…。」
ボルは、つまらなさそうな表情をして呟いた。
こうして、無事に親睦を深めることができた。
交流会3日目の最終日、学院で宴が開かれた。
グランドの中央にはキャンプファイアの準備がされており、グランドの回りには様々な出店が建ち並んでいる。
昨日、クリス達が魔物討伐をして学院から離れていた間に町の商店街の人達が準備を行っていた。
「今日は、町の皆さんが君達のために準備をして頂きました。皆さん、町の皆さんに感謝を。」
「「ありがとうございます!」」
「それでは、交流会最終日、今日1日、楽しく過ごしましょう!」
「「はい!」」
生徒達は大きな返事をし、あちらこちら散り散りに別れて移動し始めた。
クリスとアイリスとリースは、輪投げや的当て、ヨーヨー釣り、鰻の鷲掴みなどをして遊んだ。
お昼になり、クリス達は食堂へ行った。
【ヨンダルク学院・食堂】
クリスは、鰻の鷲掴みで手に入れた鰻を調理して蒲焼き、せいろ蒸し、白焼きを作り、残った肝は吸い物に入れ、骨は軽く油であげて塩コショウで味付けをした。
「お待たせ。アイリスが白焼きで、リースがせいろ蒸しだったよね。」
「うん、合っているわ。ありがとう、クリス。」
「この前も驚いたけど、クリスって何でも作れるのね。本当に凄いわ。」
「別に凄くはないよ。作り方がわかれば、誰だって作れるからね。」
「クリスは、【六花】よりも料理人の方が向いているかもね。」
「アハハ…。それは、否定できないかも。」
「それは、否定しなさいよクリス。まぁ、良いわ。冷える前に食べましょう。」
溜め息を吐いたアイリスは、ジト目でクリスを見つめた。
「そうね。」
「そうだね。」
「「頂きます。」」
クリス達は手を合わせ、声を出して会釈した。
「うん、ふっくらして、とても美味しいわ。」
「こっちの白焼きも、塩加減が絶妙で美味しいわよ。」
「良かったよ。」
クリス達は、だんらんと食事を楽しんだ。
食後、はし巻きやイカ焼きなど食べながら屋台を回り歩いていた際、アイリスとリースは男子達から、クリスは女子達から夜行われるキャンプファイアのダンスの申し込みがあったがアイリスとリースはキッパリと断り、クリスは申し訳なさそうに断った。
そして、日が落ちてグランドの中央に設置されたキャンプファイアに火が灯された。
そして、その灯火に寄り集まる様に続々と生徒達が集まっていく。
演奏が始まり音楽が流れ始めると、同時に円を描く様にキャンプファイアの回りを男女のカップルや女子同士がダンスしながら回り始めた。
その近くにはダンスの申し込みをする生徒達や、町の人や生徒、教師達がダンスしている生徒達を見ながら会話をしたり食事をしている。
「アイリス、私がジャンケンに勝ったから先にクリスと踊るわね。」
「くっ、もう、わかっているわよ!不覚だわ…。あの時、グーを出せば良かった…。」
悔しそうな表情を浮かべていたアイリスだったが、すぐに肩を落として落ち込んだ。
そんな時、会話を聞いていたヨンダルク学院の男子がアイリス達に近づいた。
「あ、あのアイリス様。もし良ければ、僕と踊って…ヒィ…。」
男子は歯を見せて微笑みながらアイリスに声を掛けたが、アイリスの殺気に満ちた瞳を見て腰を抜かし尻餅をついて四つん這いになりながら慌てて立ち去った。
「あらあら、アイリスったら。フフフ…鬼の形相というより閻魔になっているわね。じゃあ、行きましょうかクリス。」
「え、でも…。」
「行きなさい、クリス。約束は守りなさい。私は大丈夫だから。その代わり、次は私と踊ることを絶対に忘れないでよね。」
アイリスは笑顔を浮かべていたが目が笑っておらず、殺気が醸し出されていた。
「う、うん。も、勿論、忘れていないよ。」
「ほら!」
リースは、クリスの手を取ってキャンプファイアの近くまで引っ張った。
「リース様、もしよろしければ僕と踊って頂けませんか?」
クリスは頭を下げながら左足を後ろに引くと同時に、右手をリースに差し出す様に前に出し左手は腰に当てた。
「喜んで!」
リースは、微笑みながら頬を赤く染めてクリスの右手に手を置いた。
そして、クリスとリースは、フォークダンスを踊り始めた。
クリスとリースは皆から注目されているが、特に気にしてはいなかった。
「ねぇ、クリス。」
「何?」
「明日でお別れになるけど、私は…。」
「ごめん、リース。リースの気持ちは、とても嬉しいのだけど。僕は…。」
クリスが申し訳なさそうな表情で断ろうとしたが、リースは人差し指をクリスの口に押し当てて止めた。
「知っているわよ。クリスはアイリスのことが好きなんでしょう?それでも、私は諦めないから。だって、スノーランド国もヨンダルク国も一夫多婦は認められているのだから。だから、覚悟しといてよね!あと、手紙を書くから絶対に返事を返してよね。」
リースはウィンクし、背伸びをしてクリスに口付けをした。
キスする瞬間を見ていた周りにいる人達の動きが止まり、演奏も止まった。
「~っ!。わかったよ。リースには負けるよ。勝てる気がしないよ。」
クリスは目を大きく見開き驚愕したが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「フフフ…宜しい。」
リースは、優しく微笑んだ。
リースとのダンスが終わり、アイリスとダンスを始めた。
「あ、あのアイリス。いえ、アイリス様。どうかされましたか?」
クリスは怯えながら、ジト目のアイリスに尋ねる。
「ねぇ、クリス。先程、クリスとリースがキスしていたのは、私の目の錯覚だったのかしら?」
「あ…あ、あれは…。」
クリスは説明をした。
「なるほどね。フフフ…。」
(私のこと好きだと言ってくれたんだ。)
アイリスは、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んだ。
「ホッ、良かった。機嫌を直してくれて。」
「それより、クリス。」
「ん?何?え!?」
アイリスは両手でクリスの左右の頬に当てて、背伸びをしてキスした。
「~っ!」
「リースとキスしたのだから、私としても良いでしょう?」
アイリスは、口元に手を当てて悪戯っぽくウィンクして微笑んだ。
再び、見ていた人達の動きが止まっていた。
こうして、キャンプファイアの周りに楽しそうに踊る影が映し出され賑やかな声が聞こえた。
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