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動き出す異変
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【スノーランド国・アクア学院】
ヨンダル国から帰国したクリス達は、いつも通りの日常を過ごしていた。
クリスとアイリスはアクア学院に通学していたら、後ろから声を掛けられた。
「おはようございます、アイリス様、クリス君」
「おはようございます、アイリス様。それに、ヨッ!クリス。」
クリスとアイリスが、振り返るとユリとボルがいた。
「「おはよう、ユリ、ボル。」」
クリス達は、ボル達と一緒に登校することにした。
「なぁ、クリス。冒険者ライセンスを取りにヨンダルク国へ行ったけどさ。始めは先生は「身構えなくっても大丈夫です。」って言っていたけどさぁ。結構、濃厚な日々だったよな。」
「まぁ、イクシオン事件とか交流会があったからね。危険に晒されたけど、その分、いい経験になったと思うよ。」
「だな。それに、今まで俺はクリスやアイリス様以外になら負けないと思っていたけど、実際に交流会中でノルダンと戦って負けて、マジ悔しかったけど。でも、実感したんだ。俺は、ほぼ毎日訓練は欠かさずにしている。だけど、始めは必死に訓練していたけど、いつの間にか、ただメニューをこなすだけになっていて、殆ど身につかない状態を続けていたとことに気付いたんだ。クリスは、どうだった?」
「僕は、毎日必死だよ。訓練相手が毎日、おばあちゃんだし。それに、おばあちゃんやアイリスに失望させたくないからね。そう思うと昨日よりも少しでも強くならないとっていう気持ちが強いし、今もあるから。」
「クリス…。」
アイリスは、クリスの話を聞いて嬉しく微笑んだ。
「そっか…。俺は、決意が弱かったんだな。まだまだだな。」
ボルは、頭を掻いた。
「あ、そういえば。ねぇ、ボル。」
「何だ?ユリ。」
「あなたのお母さんから聞いたのだけど、ノルダン君から手紙が来たそうね。」
「ああ、来たぞ。まだ未定だけど、今度、こっちに来るそうだ。日程が決まったら、皆にも教えるつもりだ。」
「ねぇ、その時は皆で背一杯おもてなしをしましょう!」
「おう、そうだな!」
ボルは、元気よく肯定した。
もちろん、クリスもリースから手紙が届いていた。
それも、一通だけでなく何通も届いていた。
内容は、どれも逢い引きする様な誘惑な内容だったため、クリスは毎回、アイリスが怒らない様に見られない様に気遣いながら読んで、返事を書く際は断ってもリースが傷つかない様な内容を書くのに頭を悩ませていた。
だが、そんなある日、クリスが机についてリースの手紙を読んでいた時、アイリスがクリスを驚かせるためにナイショでクリスの家に訪れ、アイリスは油断しているクリスの背後から手紙を読んでしまい、アイリスは殺気立った。
その殺気に気付いたクリスは振り返ると、背後に般若の姿が見えるアイリスの姿があった。
「ク~リ~ス~。」
アイリスは満面な笑顔を浮かべていたが目は笑っておらず、そして、憎悪が剥き出しの声でクリスの肩を掴み力を入れる。
「こ、これは、その違うだよアイリス。誤解なんだ。」
焦ったクリスは、咄嗟に浮気した男の言い訳の様な言葉が出てしまった。
「何が誤解なのかしら?まだ、私は何も聞いてないわよ?」
アイリスは笑顔のままだったが、殺気が強まり背後の般若がクラスチェンジして鬼に進化した様に見えたクリス。
アイリスは、クリスの肩を掴んでいる手により一層に力を入れる。
「だから、ちゃんと断っているよ。」
「「ちゃんと断っているよ。」ってことは、この他にも手紙が来ているってことよね?」
「そ、そうだけど…。」
「今まで来た手紙、見・せ・て。」
「う、うん。わかったよ。」
クリスは、机の引き出しから綺麗な箱を取り出して箱の蓋を開けると手紙が沢山入っていた。
「こんなに手紙が来ていたなんて!私なんてリースからニ通しか手紙が来てないのだけど?」
「まぁ、うん。」
「ちょっと良いかしら?」
「はい…。」
アイリスの威圧感に負けたクリスは、従うしかなかった。
「まだ、リースから手紙が来てないけど、私もリースに手紙を書くわ。」
「そ、そうだね。」
クリスは、恐る恐る肯定するしかなかった。
こうして、アイリスは殴り書きでリースに手紙を書いて送ったことで、アイリスも頻繁にリースとの手紙のやり取りが頻繁になった。
内容が気になったクリスは、そっと見ると完全な口喧嘩だった。
そんな日のことを思い出したクリスは、自然と苦笑いを浮かべていた。
「あ、そうだクリス。」
「ん?何?ボル。」
「ノルダンが、こっちに来たら、また戦おうってさ。あと、「その時は、必ずお前に勝ってみせる!」ってよ。」
「ハハハ…。」
クリスは、苦笑いを浮かべた。
「で、クリス。今日、帰ったらノルダンに返事の手紙を書くつもりなんだけど。もし、何か伝えたいことがあるんなら書くけど?」
「じゃあ、その時はお手柔らかに。って書いて伝えて欲しいかな。」
「はぁ、わかった。まぁ、クリスらしいな。」
「何か変だった?」
「普通、俺も負けないぜ!とか、返り討ちにしてやるぜ!とかだろ?なのに、その時はお手柔らかに。って、絶対にノルダンが見たら闘争心が消えるだろ?」
「そうかな?」
「俺なら闘争心が消えるな。そうだ、俺が「俺に勝とうなんざ一億年早い!出直して来い!」ってクリスが言っていたと書いといてやるよ。」
「ちょ、ちょっと、ボル。それは、本当にマズイから!」
「冗談だ!ワハハハ…。」
ボルは盛大に笑い、クリス達はアクア学院に到着した。
しかし、クリスとアイリスがアクア学園で授業を受けていた時だった。
「姫様!クリス様!」
突然、騎士団が教室に入って来た。
「どうかしたの?そんなに慌てて。」
「これは、失礼しました。ですが…。」
騎士団から速急にスノー城へと戻って欲しいと言われたクリスとアイリスはスノー城に戻ることにした。
【スノー城・玉座の間】
玉座の間に入ると、玉座の間にはバルミスタ国王、シリーダ妃、マミューラを含む【立花】が全員集合しており、全員が深刻な面持ちでクリスとアイリスが来るのを待っていた。
「揃ったようだな。先に謝罪をする。アイリス、クリス、学業中に呼び出してすまなかった。」
バルミスタは、椅子に座ったまま頭を下げた。
「いえ、私達は大丈夫ですので、顔を上げて下さい、お父様。それよりも、どうされたのですか?」
「まもなく、世界会議が行われることになったみたいだ。」
「世界会議?」
クリスは、頭を傾げた。
「そうね、クリスは知らないわね。世界会議はね。選ばれた各国の精霊を宿した人達が集まって話し合うのよ。私やリースも選ばれているわ。因みに、護衛は二人までよ。」
「そうなんだ。」
「そ、それでね、クリス。も、もし良かったらね、その私の護衛役になってくれないかしら…。」
アイリスは、モジモジしながら上目遣いでクリスを見る。
「もちろん、良いよ。だって、そのために僕は頑張ってアイリスの直轄の護衛騎士【立花】第0席になったんだから。」
「ありがとう、クリス。」
アイリスは、頬を赤らめながら微笑んだ。
「ゴホン、良い雰囲気なところ悪いのだが。クリスを呼んだのは、アイリスの護衛役としてとは別に他にも理由があってな。今回の会議の名目にクリスの話題と、そして、一番の問題が縁を切った国家反逆罪の愚弟バルガーが精霊フレイムを宿したボルダー殿を追い詰め、ボルダー殿が治めていたトライツ国を制圧したことも議題にあがっている。」
「え?国王様に弟様が居られたのですか?それに、国家反逆罪ですか?」
「ああ、数年前に我が国家の秘宝である【ウンディーネの加護】を盗んで行方をくらました愚か者だ。おそらく、今回の事件は【ウンディーネの加護】を使用したのだろう。」
「なるほど。ところで、【ウンディーネの加護】は、一体どんな能力なのですか?」
「【ウンディーネの加護】は指輪の形をしていてな。指輪を嵌めた手で精霊を宿した者以外の相手に触れると、その相手をコピーする能力を持っている。まぁ、コピーと言っても完全ではなく8割の強さで再現される。しかし、【立花】メンバーだけでなく、【四季風神】や【ドリア】メンバーなどの実力者を複数人、または数十人コピーできれば、簡単に精霊を宿した者が相手でも制圧ができる力がある。」
「精霊の加護は、どれも強力なのですね。」
「ああ、だからこそ厳重に保管していたんだがな。まさか、愚弟が盗むとは思わなかった。今回の事件は、私の落ち度が招いた事件だ。それよりも、クリスに関してはというのは…。」
「僕が、精霊を宿していることですよね?」
「ああ、その通りだ。ヨンダルク国に【炎帝】の諜報員が紛れ込んでいたらしく。それで、今回のイクシオンの事件で発覚したみたいだ。」
「なるほど。それで、世界会議はいつ何処で開催されるのですか?」
「【炎帝】の国、ソレイユ国だ。開催日は三日後だ。それと、クリス。1つ忠告しておくが【炎帝】には嘘や誤魔化しはするな。すぐに見破られる。マミューラから聞いた話だが、奴は、ちょっとした相手の体温の変化で見極められるみたいだぞ。」
「わかりました。でも、ご安心下さい。大丈夫です。元から何も隠さず素直に全て話そうと思ってましたので。もしも嘘をついたり誤魔化したりしてバレた場合、最悪、集まった精霊を宿した人達と戦闘になると思っていましたから。」
「わかっていれば、問題ない。それと、ソレイユ国はスノーランド国から遠い場所にある。だから、突然ですまないが、明日には出国しなければ間に合わない。」
「わかりました。あと、アイリス様の護衛役の件なのですが、僕以外に誰が護衛役に?」
「ユナイトとユーリアに任せることにした。今回、クリスはゲスト扱いになるらしい。」
「そうでしたか。なら、アイリス様の護衛は大丈夫ですね。では、僕は準備をしないといけませんので、これで失礼させて頂きます。」
「ああ。」
バルミスタが頷き、クリスは部屋から退出した。
【山小屋】
山奥にある自宅に戻ったクリスは、リュックサックや鞄に必要な持っていく物を仕分けをし入れていた。
「クリス、ちょっと良いかい?」
「何?おばあちゃん。」
「世界会議にはね。クリス以外に私が鍛えた人がいるんだよ。」
「じゃあ、僕の兄弟子だね。」
「いや、兄弟子じゃなく、姉弟子になる。」
「その人の名前は?」
「ルージュ。宿している精霊は土の精霊ノーム。二つの名は【武帝】。実力で言えば、第三席。世界で三番目に強い実力者だよ。」
「で、そのルージュって人がどうしたの?」
「いやね。幼い頃のルージュは、すぐに焼きもちを焼く子だったからね。もしかしたら、クリスにちょっかいを出してくるかもしれないから気を付けるんだよ。」
「わかったよ、おばあちゃん。」
【スノーランド国・港】
クリス達を見送りにバルミスタ国王、シリーダ妃、マミューラ、【立花】メンバー達が集まっていた。
「アイリス、気を付けてね。クリス君も。」
シリーダは、アイリスとクリスを抱き締めた。
「「はい。」」
「アイリスを頼んだぞ!お前達。」
「「ハッ!」」
バルミスタは、ユナイトやユーリア、ソレイユ国までの護衛として同行する騎士団達は右手を左胸に当てて頭を下げた。
「出航する!帆を貼れ!」
船長の掛け声と共に船は動き出し、クリス達はスノーランド国を出国した。
【スノー海】
スノー海は他の海よりも二番目に水温が低く、海水は透明で透き通っており、泳いでいる魚や波によって揺れている海藻、イソギンチャクなどが見えていた。
空は透き通る青空で風も追い風、波も穏やかで航海は順調だった。
船のデッキにクリスとアイリスは出ており、デッキの端に設けられている手摺りに手を置いて海を眺めていた。
「いい風ね、クリス。」
アイリスは左手で白色のストローハット帽子が飛ばされないように押さえて微笑みながら隣にいるクリスに振り向いた。
「そうだね、アイリス。海も穏やかで透き通っていて綺麗だね。」
「そうね。ところで、クリス。」
「ん?」
「突然なのだけど、クリスは夢とかあるの?」
「夢…。」
「クリスは、夢とかないの?」
「僕の夢は、もう殆ど叶っているよ。」
「え!?どういうこと?」
「僕の夢は、アイリスの直轄の護衛騎士【立花】になってアイリスを守ることだからね。ん?どうしたの?アイリス。顔が赤いけど?」
「な、何でもないわ!」
アイリスは、嬉しくって頬を赤く染めて狼狽えた。
「そう?」
「そんなことよりも、クリスは夢が叶ったなら、次の夢を持ったらどう?」
「そうだね。だったら、その先を目指すよ。」
「え!?さ、先って!」
(こ、こういう場合は、もっと、そ、その…し、親密な関係になるって意味よね!?よね!?きゃ~!ま、まだ、心の準備が。でも、クリスがどうしてもっていうなら…。)
アイリスは、瞬間湯沸かし器の様に顔を更に真っ赤に染めてクリスに振り向きながら声が裏返る。
「ん?アイリスが少しでも幸せになって欲しいから、まずは、その周りの環境作りかな。」
クリスは、アイリスの顔が更に真っ赤になっていたが気にせずに遠くを見る様に視線を空に向けた。
「はぁ~。」
アイリスは、残念そうに肩を下ろして深いため息をついた。
「ん?ところで、アイリスの夢は何?そういえば、聞いたことはなかったよ。」
「そ、それは…。」
(周りに騎士団や船乗り達がいる状況な上に、本人の前で、ずっと、クリスと一緒にいたい。なんて、そんな恥ずかしいこと言える訳ないわ…。でも、この状況をどうしたら…。)
アイリスは、頬を赤く染めて俯きながら左右の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジする。
「それは?」
「ヒ・ミ・ツ!」
アイリスは、人差し指を顔の前に上げて左右にリズムよく振ってウィンクした。
「それ、何かズルくない?」
ジト目でクリスは、アイリスを見る。
「フフフ…。だって、私。答えるって一言も言ってないわ。それに、女の子は誰しも秘密の1つや2つはあるものなのよ。」
アイリスは、人差し指を立てて自身の口元に当てて微笑んだ。
「そうかも知れないけど、何か納得できないよ。」
「まぁ、そうね。その時が来たら教えてあげるわ。」
「はぁ、わかったよ。その時が来るまで待つよ。その代わり、その時が来たら教えて。ん?」
「どうしたの?クリス。」
「気のせいだと思うけど、あの辺りから誰かがこっちを見ていた様な気がしたんだけど。」
クリスは、怪訝な表情を浮かべて左側にある岩を凝視する。
「気のせいよ。ほら、船は見当たらないわよ。」
「そうだね。魔力感知しても何も反応がないし…。」
クリスは、納得していない表情を浮かべて考える。
「もう!気を張りすぎよ。せっかく、事件や学院もないのだからリラックスしましょう。ねぇ?」
アイリスは、左右手でクリスの両頬を摘んで引っ張った。
「だね。じゃあ、飲み物を取ってくるよ。アイリスは何が良い?」
「ありがとう、クリス。それじゃあ、オレンジジュースをお願いするわ。」
「りょ~かい。」
クリスは、飲み物を取りに食堂へと向かった。
クリス達の船から遠く離れたクリスが懸念していた岩陰に、この海域を縄張りにしている海賊【睡蓮】がいた。
【睡蓮】は、他の海賊達とは違って大きな船で行動はせず、手漕ぎの小船で行動している。
「あのガキ、俺達がいることを勘付いたか?」
小船の上で立って両手で双眼鏡を持ってクリスを見ていたお頭のトームズが顔をしからめる。
「そんなことはないと思いますぜ。」
「そうだぜ、お頭。冗談はキツイですぜ。俺達は魔力感知を阻害するローブを羽織っているんですから、魔力感知はできないはずですぜ。で、どうですか?今回の獲物は。」
部下が、トームズに尋ねた。
「美味しい獲物だな。商人の船じゃなく、何処かの富豪家の船だな。お嬢様の姿が見える。それに、その護衛として騎士達がボチボチと乗っていやがる。だが、喜べお前達。お嬢様以外にも、騎士の中に綺麗どころがおるぞ。」
「マジですか!?お頭!」
「ああ、お前好みの女もいるぜ。」
「おお!おっと、それで、どうするんです?お頭。」
「勿論、こんな獲物は狩るに決まっているだろ。俺達は、海賊だぞ。いつも通り、あいつらを集めれるだけ集めとけよ。今回は、大物だからな。それとだ、今回は綺麗どころが多いと、そう皆に伝えろ。」
「アイアイサー!」
クリス達の船が離れて行ったので、部下はゆっくりと小船を動かした。
夜になると日中とは違い、月や星が雲に覆われいた。
クリス達の船は帆を畳み、錨を下ろして停船していた。
クリス達の船から離れた小島に海賊【睡蓮】が集まっていた。
全員が魔力感知を阻害するローブを羽織っており、全身真っ黒な服装をしている。
「よく、集まってくれたな。お前達。」
「そりゃあ、お頭。大物と良い女が沢山にいるってぇ聞かされちゃあ、誰もが急いで戻って来ますぜぇ。なぁ?おい」
「「オオ~!」」
海賊達は、歓声をあげた。
「ああ、今回は大きな獲物だ。しかも、嬉しいことに良い女も沢山おるからな。だがな、忠告しなくても、お前達は知っているとは思うが、大物ということは、それだけ難易度が上がる。油断せずに気を引き締めろよ、お前達。」
「「ウォォ~!」」
「あと、今回は船はなるべく壊すなよ。あれは、高く売れるからな。わかったら、出航するぞ!野郎共!」
「「アイアイサー!」」
海賊達は、それぞれ小船に乗り、ゆっくりと闇に溶ける様に姿を消していった。
クリス達が寝ている頃、明かりが灯してない海賊【睡蓮】の小船がクリス達の船を囲み、ゆっくりと近づいていく。
小船を漕ぐ音は波の音によって掻き消され、月や星が雲に覆われ真っ暗なので、見張りをしていたクリス達の船乗り達は気付かなかった。
それもそのはず、ここの海域は【睡蓮】達の狩り場から離れていたので気が緩んでおり、会話する者やランプを灯して本を読む者もいた。
一番最初に気付いたのは、寝ていたクリスだった。
クリスは寝ていても警戒を怠っていなかったので、目を覚ました。
「最悪だ、相手の数が多いし。それに、まだ騎士団の人達や船乗りの人も誰も気付いていないみたい。」
クリスは壁に掛けていた上着と壁に掛けていた剣を取り、すぐにデッキに向かった。
クリスの気配にアイリスとユナイト、ユーリアが気付き目を覚ました。
「クリス?」
アイリスは、目を擦りながら上半身を起こした。
クリスが勢い良く大きな音を立ててドアを開きながらデッキに上がると、船乗り達がクリスに気が付いた。
「ん?どうかされましたか?クリス様。」
「敵に囲まれています!早く、鐘を!」
「え!?落ち着いて下さい、クリス様。そんなことはないですよ。だって、この海域は海賊達の縄張りではありませんので、決して、そんなことは…。」
「お、おい!囲まれているぞ!」
船乗りの一人が辺りを見渡すと、既に海賊【睡蓮】に囲まれていた。
「な、何だと!?真っ暗で気付かなかった以前に、魔力感知も引っ掛からないらなかったぞ。糞、敵襲!敵襲だ~!」
船乗りは驚愕すると同時に、慌てて警告の鐘を激しく鳴らしながら大声で叫ぶ。
すぐにアイリス、ユナイト、ユーリアがデッキに現れ、少し遅れてから騎士団達が慌てて飛び出してきた。
「ちっ、やはり、あのガキはタダのガキじゃない様だな。あのガキのせいで、予想より気付かれるのが早かった。だが、まぁ、問題はないよな?お前達。」
トームズは、舌打ちする。
「勿論ですぜ!」
「ククク…。良い返事だ!良し、気合を入れて行くぞ!野郎共!」
「「ウォォ!」」
海賊達は一斉に三つ爪の付いたロープを頭上でクルクルと回して投げ飛ばし、クリス達の船に引っ掛けていく。
クリスは、ジャンプして一気に右舷から侵攻してくる海賊達のロープに接近して剣で切断していく。
「アクア・ウィップ!」
アイリスは水魔法で水の鞭を召喚して自由自在に操り、クリスと同様に右舷の海賊達のロープを切断していった。
「俺達もクリスや姫様の様にロープを切って、海賊達の侵攻を防げ!俺は船首に行く、ユーリアは船尾側を、他は左舷を頼んだぞ!」
「わかったわ!」
「「ハッ!」」
ユナイトの指示により、ユーリアや騎士団、船乗り達が海賊達のロープを切断していく。
しかし、海賊達は海に落下することに慣れており、躊躇わずにロープを伝わりクリス達の船に乗り込む。
特にクリス達の船の左舷からトームズが、ロープを使わずにジャンプしてクリス達の船に乗り込み、風魔法エア・クロウを唱え左右の手に纏った鋭い風の鉤爪で騎士団達の盾や鎧ごと切り裂き、仲間の道を確保したとこで、より侵攻が早くなった。
((あいつは!))
ユナイトとユーリアは、トームズを知っていた。
クリスとアイリスも反対側の左舷が押されていることに気づいていた。
しかし、かといって、今更、クリス達がトームズの方に向かっても既に海賊達が大勢乗り込んでいたので妨害されて時間が掛かるのは目に見えていたので反対側だけでも海賊達の侵攻を阻止しようとする。
しかし…。
「ユナイトさん!操縦室が。」
ロープを切断していたクリスは、トームズ側から侵攻した海賊達が操縦室へと向かうのが目に入った。
「ああ!わかっている!」
(くっ、このままだと非常に不味い。特に、操縦室を破壊されたり、船長や船乗り達が殺されては今後どうにもならなくなる。仕方ない、姫様の護衛が疎かになるがやむを得ない。)
「俺の近くにいる騎士団の何人かは、俺と一緒に着いて来い!船長や船乗り組員達を守り、操縦室を死守するんだ!クリス、ユーリア、姫様を頼んだぞ!」
ユナイトは指示を出して、数人の騎士団達を連れて操縦室へと向かった。
「わかったわ!」
「わかりました。」
ユーリアとクリスは、ロープを切断するのをやめてアイリスの傍に駆けつけた。
そのため、海賊達の侵攻速度が早まり、クリス達は海賊達に囲まれた状態になった。
「あなた達、円陣の陣形を取りなさい!そして、端に寄るのよ。」
「「ハッ!」」
ユーリアの指示で騎士団達は陣形を円陣を取り、外に出ていた船乗りは円陣の内側に入り端に寄る。
一方、操縦室側はユナイト達が間に合い、外回りを囲って海賊達の侵攻を防ぐことに成功していた。
そして、お互いに相手の出方を見ており硬直状態に陥った。
そんな時、海賊達の後ろからトームズが姿を現した。
「最悪だわ。やはり、見間違いではなかったわねトームズ。」
「久しぶりだな、ユーリアさんよ。」
「ユーリアさん、あの人を知っているのですか?」
「ええ、クリス。トームズは、あなたが倒したヤンバレの弟なのよ。昔は、二人はいつも組んでいて息のあった連携で有名だったのよ。その時の異名が【切り裂き兄弟】って言われていたわ。だけど、その後に何故か弟のトームズは兄のヤンバレと決別したって噂があったの。」
「へぇ、詳しいなユーリア。あんたは、前から綺麗だけじゃなく賢く強い。正に、俺好みだ。なぁ?俺の女になれよ。良い思いができるぜ。」
「遠慮するわ。人様に迷惑を掛ける人は、断固お断りだわ。」
「ククク…。やはり、強気の女は最高だな。その顔を歪ませたくなる。まぁ、それは良いとして。俺は兄貴と違い、誰かの下で働くのが大嫌いなんだ。だから、俺は兄貴を説得して、この組織【睡蓮】を作ろうとしたんだが失敗に終わってな。それで、決別したんだ。そんなことよりも、そこのガキが兄貴を倒したってのは本当か?なんかの冗談じゃないのか?」
「本当よ。あなたじゃあ、クリスには勝てないわよ。」
アイリスは、堂々と宣言した。
「それは、どうかな?」
トームズは、剣の刀身を舐めながら殺気を放ち、不敵な笑みを浮かべる。
クリス達は、より一層にトームズの警戒を強めた。
「行くぞ!野郎共!」
「「イエッサ!」」
トームズの掛け声により、海賊達は一斉にスロー・ダガーを取り出して投擲し、操縦室の窓を破壊して船の備えられている魔石で明かりを灯しているランプや外にある魔石のランプを次々に破壊していき、あっという間にクリス達は闇に包まれた。
「な、何だと!?」
「何も見えない。」
一瞬で真っ暗になったので視界が閉ざされた騎士団達は、予想外の事態に陥り取り乱した。
「チッ、面倒な事を。総員、魔力感知を…。いや、相手は魔力感知を阻害するローブを着ている。直ちに盾を前に出して自身の身を守れ!アクア・ウォール!」
(糞、これじゃあ、相手が何処にいるのか、何をしてくるのかが全く見えないぞ。しかも、相手は真っ暗でも見えるゴーグルをつけている。これは、非常に不味い。)
ユナイトは大声で指示を出しながら騎士団を守るため水魔法アクア・ウォールを唱え、騎士団達を守る様に水の壁が半球状で覆った。
「「くっ…。」」
ユナイト側の海賊達は、近寄れなくなった。
「チッ、だが、こっちはそうはいかねぇぜ?」
トームズはユナイト側を見て舌打ちしたが、こちら側は既に部下達が騎士団達に接近していた。
しかし、海賊達の前を黒い影が素早く通り向けた。
「「ぐぁ。」」
クリス側から悲鳴と倒れる音が響く。
【操縦室】
「早くせねば…。確か、この辺りだったはず…。あった。」
操縦室にいる船長は、暗闇で何も見えない状態で手を動かして手探りで水晶玉を見つけて魔力を込める。
そうすると操縦室は暗いままだったが、デッキ側の外側に設けられた魔石のランプが灯り再び明るくなった。
このランプは、漁(りょう)をする時に使用するランプだった。
明かりがつくと、アイリスを守るため円陣の内側にいたクリスが外側におり、クリスの足元には海賊達が倒れていた。
「「おお!」」
騎士団達は、歓喜の声をあげた。
海賊達は、クリスを見て動きが止まった。
「馬鹿な。なぜだ?俺達は魔力感知を阻害するローブを羽織っているんだぞ。魔力感知では感知は不可能だ。しかも、あの暗闇の中で俺達の姿が見えるはずもないだろ!?」
トームズは、驚愕した。
「クリス。どうやったの?なぜ、あの人達の居場所がわかったの?ううん、クリスは、まるで相手の姿が見えていたみたいに攻撃を当てたわよね?」
「いや、特に特別なことはしていないけど?ただ普通に見えたから攻撃して倒しただけだけだよ。」
「そんなことあるはずがないだろ!あの暗闇で見えるはずがない!」
「そんなこと言われても…。あ、そうか。僕はおばあちゃんと一緒に誰もいない山で暮らしていたし、夜まで訓練していたから自然と目が暗闇に慣れたかも。」
「お、お頭、どうしやすか?あのガキは、只者じゃないですぜ。何だか、関わるとヤバイ気がしますぜ。」
「黙れ!落ち着け、お前達。おい、そこのガキ。俺と一対一(サシ)で決着(けり)をつけないか?」
「あの人は、何を言っているの?クリスは、あの人のお兄さんに無傷で勝っているのに一対一でなんて。」
「これは、不味いな。」
「ええ、そうね。兄さん。」
「え!?どういうことなの?ユナイト。」
「戦う場所が問題なのです。丘だったら、クリスが勝てると思いますが。今回は、足場が揺れて不安定な船の上です。しかも、クリスは船の上での戦いは初めてなのに対して相手は慣れている狩り場です。ですが、このまま総力戦となれば勝てますが、この船や乗組員達が危険です。」
「トームズはコチラに尋ねていますが、そもそも私達に選択権はありません。」
「そんな…。」
「……。」
クリスは、アイリス、ユナイト、ユーリアに視線を向ける。
ユナイトとユーリアは頷いたが、アイリスは心配そうな表情を浮かべていた。
「わかりました、それで構いません。」
確認したクリスは、了承した。
「あ、そうだ。ユナイトさんよ、あと1つ条件を出させて貰う。こっちは、部下にガキやお前達に一切手出しをさせない。その代わり、お前達も何も手出しをするなよ。」
「ああ、わかった。お前らが守るならば、こちらも守ろう。」
ユナイトは不審に思い顔をしからめたが別に怪しい条件ではなかったので頷いた。
そして、お互い警戒しながら端に寄り、クリスとトームズだけが船の中央に残る形になった。
「準備はできたみたいだな。そうだな、試合開始の合図は、このコインをトスし、コインが床に落ちてからだ。良いな?」
トームズは、ポケットから一枚の髑髏(ドクロ)の絵柄のコインを取り出して人差し指と親指で摘んでクリスに見せる。
「わかりました。」
「じゃあ、始めるぞ。」
トームズは左手の親指でコインを弾き、コインは高速回転しながら上空へと舞う。
周りが緊張した面持ちで息を呑む中、クリスとトームズはコインを見ずに、お互い相手から視線を逸らさないでいた。
(風もなく、波のうねりも穏やか大した問題はない。でも、相手のあの余裕の表情を見ると何か罠があるかもしれない。まずは、うねりの間隔と揺れ具合はある程度一定だから覚えないと…。うねりの間隔と揺れ具合も把握した。これなら、何かされる前に早期決着ができる。)
クリスはトームズを警戒するだけでなく、周りから情報を集めていた。
そして、コインは床に落ちた。
「エア・クロウ!」
コインが床に落ちた瞬間、トームズは左右の手に風を纏わせて鋭い風の鉤爪になった。
(最初から全力でいき、決める!天和(テンホー)、地和(ちーほう)!)
クリスは魔力で身体強化をして更に天和で自然の魔力を体内に取り込み大幅に身体強化をした。
そして、走る時に必要な場所に全魔力を無駄なく強化して移動する地和を使いトームズに接近する。
トームズは、エア・クロウを唱えてクリスに襲い掛かろうとしたが、一瞬でクリスが消えて見失った。
「「~っ!?」」
クリスと相対しているトームズだけでなく、周りの全員がトームズと同様にクリスの姿が消えた様に見えて驚愕した。
トームズが気付いた時には、既にクリスはトームズの懐に入っていた。
(波のうねりが来るのは、あと5秒後。相手の反応が遅い。このタイミングなら確実に決まる!)
クリスは、右拳を握り締めて下から上に拳を振り上げてトームズの下顎にアッパーを決めようとした。
しかし、風は吹いていないのに波のうねりが早く来た上に揺れも大きかった。
「なっ!?」
突然の大きな揺れによって、クリスは体勢を崩したことでアッパーは放てずにふらついた。
「貰った!」
トームズは突然の大きな揺れにも体勢を崩すことなく、右手の鉤爪で体勢を崩して後ろに倒れそうになっているクリスに攻撃する。
「くっ。」
クリスは咄嗟に左手の手の甲をトームズの右手の手首に当てて内側から外側に振り、トームズの攻撃を受け流したがトームズの鉤爪が左頬を掠めて血が飛び散った。
トームズは、左手の鉤爪で追い打ちしようとしたが、クリスは後ろに倒れながら右足でトームズの側頭部を目掛けて蹴る。
「チッ。」
トームズは、左手の鉤爪の攻撃を中断して左腕を上げてクリスの蹴りを防いだ。
その隙に、クリスは床に両手をついてバク転をしてトームズとの距離を取り体勢を整えた。
「おいおい、信じられねぇぜ。あの体勢から攻撃を受け流すだけでなく、更には反撃までしてくるとはな。兄貴を倒しただけのことはなるな。」
先程の大きな揺れによって騎士団や船乗りは尻もちをついており、アイリス、ユナイト、ユーリアは咄嗟に手を伸ばして手摺りを掴んで倒れなかったが体勢を崩していた。
「何だったの?先の大きな揺れは。」
アイリスは、手摺りから手を放した。
「おかしいな。」
「ええ、そうね兄さん。風もなかったのに、あの大きな揺れは絶対に起きないわ。それに、私達は体勢を崩しているのに、あちらは誰一人も体勢を崩していないなんて可笑しいわ。」
ユナイトとユーリアは、原因を突き止めるために外側を見る。
しかし、海は穏やかで波やうなりは小さかった。
アイリスは、身を乗り出して船の真下を見て大きな揺れの原因がわかった。
「ユナイト、ユーリア!あの人達が原因だわ!」
アイリス指先を見ると、クリス達の船の周りに海賊達の小船があり海賊達が乗船していた。
「なるほど、何かの合図でアイツらが魔法で大きな波を起こして船を揺らしたんだな。」
「こんなの卑怯よ!」
アイリスは、大きな声でトームズに訴える。
「おいおい、何が卑怯だ?別に、俺の部下達はお前達に攻撃してないぞ?まさかとは思うが、俺の部下に手を出すのか?一国の騎士団達が約束を破るのか?」
「くっ…。」
アイリスは言い返すことはできず、両手でスカートを握り締めた。
「だろ?ガキ。」
トームズは、クリスに視線を向けた。
「ですね。」
「まぁ、そういうことだ姫様。じゃあ、続きをするぞガキ。」
「わかりました。」
クリスは、構える。
「エア・アーマ。」
(しかし、それにしても、部下に試合開始直後に大きな波を発生させろっと指示を出しておいて良かったぜ。今のは何だったんだ?一瞬、あいつの魔力が飛び跳ね上がったかと思った瞬間にあいつの姿が消え、気が付けば懐に入られていた。あんな異常な速さは見たことは一度もないぞ。)
トームズは平然とした態度で風の鎧を纏ったが、内心ではヒヤッとしていた。
(今のは、正直に危なかった。まずは、どうやって合図を送っているのかを見極めないと…。)
クリスは長期戦になると判断し、飛躍的に身体能力が向上する天和は、その反面、身体に大きな負担が掛かるので解いた。
クリスとトームズは、お互いに警戒を強めた。
先に動いたのはクリスだった。
クリスは一直線に走り、トームズに接近する。
「エア・カッター!」
(恐ろしく速いが、さっきのと比べれば、明らかに遅い。さっきのは偶々、偶然か?まぁ、良い。あと4秒、3秒…。)
トームズは左右の鉤爪を振って、複数の風の刃を放ちながら思考する。
複数の風の刃が迫る中、クリスは速度を落とさずに進んだ。
(来る!)
クリスは、周りの海賊達が踏ん張る体勢を取ったのを見たので立ち止まり揺れに備えると共に、腰に掛けている剣を抜刀して剣に魔力を込める。
そして、船が大きく揺れたが、クリスは体勢を崩すことなく剣を高速に振っていき風の刃を全て切り裂き掻き消した。
その隙にトームズはクリスに接近しており、左右の鉤爪でクリスに襲い掛かる。
クリスは猛烈なトームズの攻撃を剣で弾いて防ぎながら、反撃に転じた。
「くっ。」
トームズは舌打ちをしながら左右の鉤爪で防いだが、徐々に圧される形になり防戦一方になり纏っている風の鎧に当たったが特に破壊され霧散することはなかった。
「はぁぁ!」
クリスは、力一杯に剣を横に振り抜く。
「チッ。」
トームズは、手をクロスにして左右の鉤爪で攻撃を防いだが力に負けて後ろにズリ下がった。
(たださえ足場が不安定な船の上なのに、いつ来るかわからない大きな揺れも警戒をしないといけないから、斬撃に力が入りきっていない。このままじゃあ、あの鎧を破壊できず埒(らち)が明かない。かといって、あの鎧を破壊して倒すほどの威力がある魔法となると大魔法しかないけど。もし、ここで使ったら船をも壊してしまうし。それなら…。)
「アクア・ショット。」
クリスは複数の水弾を放ちながら、再びトームズに迫る。
「エア・ショット。」
トームズも圧縮空気弾を複数放ち、クリスに接近する。
お互いに激しい攻防が始まる。
クリスは剣で防いだり頭を傾げて紙一重で攻撃を躱し次々にトームズに攻撃を当てるが、風の鎧で阻まれダメージを当てることができなかった。
(糞、本当に何なんだ。このガキは。大人しそうな見かけなのに、やたらと強い。いや、強すぎだろうが!ガキの姿をした化け物じゃないか。それに、まるで俺の攻撃を見透かしているみたいな戦い方が癇に障る。)
トームズは左手の鉤爪で切り裂こうとしたが、クリスは剣を下から上に振り上げて鉤爪を弾いた。
「貰った!」
トームズは右手の鉤爪でクリスに攻撃をしようとした瞬間、クリスの右足のハイキックがトームズの左の下顎に決まり脳震盪を起こしてふらついた。
(糞、これだ。まるで俺の思考を見透かしている様な絶妙なタイミングでの攻撃。肉体ダメージよりも癇に障る。だが、それならば逆をつけばいい。あと4、3…。ここだな!)
「糞が!」
トームズはクリスが攻撃を仕掛けてくる様に、わざと激怒して冷静さを欠いた様に右腕を大きく引いて隙を作った。
(さぁ、カウンターをしに来るが良い。お前がカウンターをしに来た瞬間に船が大きく揺れて、お前は体勢を崩すことになる。それが、お前の最後だ。)
クリスは、カウンターを狙って攻撃を仕掛ける。
(来た!)
思惑通りになったトームズは不敵な笑みを浮かべたが、すぐにその笑みが消えた。
なぜなら、クリスの手には今まで使っていた剣を持っていなかったのだ。
(何!?剣がないだと!一体どこだ?腰の鞘にもおさまっていない。まさか、上。)
トームズはハッと気付き、真上を見上げると鋭い剣先下に向いた状態で間近まで迫っていた。
クリスは、剣を下から上に振り上げた時に剣を放り投げていた。
「くっ。」
すぐに船が大きく揺れるので、トームズは後ろに高くジャンプして落下してくる剣を避けた。
クリスも高くジャンプした瞬間、船は大きく揺れた。
クリスは、右手で放り投げた剣を取りながら空中にいるトームズに迫る。
「ハッ!」
クリスは、体を捻りながら遠心力もつけて剣を下から上へ掬い上げる様に剣を振り抜く。
「ぐっ。」
トームズは両手をクロスにして防いだが、威力に負けて両手が上に弾かれた。
「ここだ!アクア・ビッグバン。」
クリスは、左手に高密度に圧縮した巨大な水球を作り出した。
アイリス達は勝利を確信して笑顔を浮かべる一方、海賊達は絶望した表情を浮かべる。
そんな中、クリスは、左手を前に突き出して巨大な水球を無防備になったトームズに押し当てた。
「や、ヤバイ!ぐぁぁ!」
トームズが纏っていた風の鎧は粉砕し上半身の服も木っ端微塵に破れ、トームズは遠くに吹き飛ばされて海に落ちた。
「っと…。」
クリスは、音を立てずに船の上に着地した。
「決闘は僕が勝ちました。なので、あなた達は大人しく出ていって下さい。」
海賊達が呆然とクリスを見る中、クリスは海賊達に振り返って話す。
「「うぁぁ…。」」
「待ってくれ!俺も乗せてくれ!」
「早く、乗れ!馬鹿野郎!」
海賊達は蜘蛛の子を散らす様に一斉にクリスの船から飛び降り、海に落ちたりして下にある自分達の小船に乗ってあっという間に離れていった。
「あの人達、大丈夫かな?」
クリスは、離れていく海賊達を見て心配した。
「大丈夫よ、あんな腐っている人達でも一応、魔法使いなのだから。そんなことよりも、ありがとうクリス。助かったわ。」
アイリスは、微笑んだ。
「お礼は要らないよ。だって、僕は皆を、アイリスを守りたかっただけだから。」
「も、もう!恥ずかしいじゃない。クリスの馬鹿、馬鹿、馬鹿~!」
アイリスは顔を真っ赤に染まり、左右の手でクリスをトントンと軽く叩く。
「ちょ、ちょっと痛いよ、アイリス。」
「も~!でも、それ以上に嬉しいわ。」
アイリスは、顔を真っ赤に染めたまま微笑んだ。
ヨンダル国から帰国したクリス達は、いつも通りの日常を過ごしていた。
クリスとアイリスはアクア学院に通学していたら、後ろから声を掛けられた。
「おはようございます、アイリス様、クリス君」
「おはようございます、アイリス様。それに、ヨッ!クリス。」
クリスとアイリスが、振り返るとユリとボルがいた。
「「おはよう、ユリ、ボル。」」
クリス達は、ボル達と一緒に登校することにした。
「なぁ、クリス。冒険者ライセンスを取りにヨンダルク国へ行ったけどさ。始めは先生は「身構えなくっても大丈夫です。」って言っていたけどさぁ。結構、濃厚な日々だったよな。」
「まぁ、イクシオン事件とか交流会があったからね。危険に晒されたけど、その分、いい経験になったと思うよ。」
「だな。それに、今まで俺はクリスやアイリス様以外になら負けないと思っていたけど、実際に交流会中でノルダンと戦って負けて、マジ悔しかったけど。でも、実感したんだ。俺は、ほぼ毎日訓練は欠かさずにしている。だけど、始めは必死に訓練していたけど、いつの間にか、ただメニューをこなすだけになっていて、殆ど身につかない状態を続けていたとことに気付いたんだ。クリスは、どうだった?」
「僕は、毎日必死だよ。訓練相手が毎日、おばあちゃんだし。それに、おばあちゃんやアイリスに失望させたくないからね。そう思うと昨日よりも少しでも強くならないとっていう気持ちが強いし、今もあるから。」
「クリス…。」
アイリスは、クリスの話を聞いて嬉しく微笑んだ。
「そっか…。俺は、決意が弱かったんだな。まだまだだな。」
ボルは、頭を掻いた。
「あ、そういえば。ねぇ、ボル。」
「何だ?ユリ。」
「あなたのお母さんから聞いたのだけど、ノルダン君から手紙が来たそうね。」
「ああ、来たぞ。まだ未定だけど、今度、こっちに来るそうだ。日程が決まったら、皆にも教えるつもりだ。」
「ねぇ、その時は皆で背一杯おもてなしをしましょう!」
「おう、そうだな!」
ボルは、元気よく肯定した。
もちろん、クリスもリースから手紙が届いていた。
それも、一通だけでなく何通も届いていた。
内容は、どれも逢い引きする様な誘惑な内容だったため、クリスは毎回、アイリスが怒らない様に見られない様に気遣いながら読んで、返事を書く際は断ってもリースが傷つかない様な内容を書くのに頭を悩ませていた。
だが、そんなある日、クリスが机についてリースの手紙を読んでいた時、アイリスがクリスを驚かせるためにナイショでクリスの家に訪れ、アイリスは油断しているクリスの背後から手紙を読んでしまい、アイリスは殺気立った。
その殺気に気付いたクリスは振り返ると、背後に般若の姿が見えるアイリスの姿があった。
「ク~リ~ス~。」
アイリスは満面な笑顔を浮かべていたが目は笑っておらず、そして、憎悪が剥き出しの声でクリスの肩を掴み力を入れる。
「こ、これは、その違うだよアイリス。誤解なんだ。」
焦ったクリスは、咄嗟に浮気した男の言い訳の様な言葉が出てしまった。
「何が誤解なのかしら?まだ、私は何も聞いてないわよ?」
アイリスは笑顔のままだったが、殺気が強まり背後の般若がクラスチェンジして鬼に進化した様に見えたクリス。
アイリスは、クリスの肩を掴んでいる手により一層に力を入れる。
「だから、ちゃんと断っているよ。」
「「ちゃんと断っているよ。」ってことは、この他にも手紙が来ているってことよね?」
「そ、そうだけど…。」
「今まで来た手紙、見・せ・て。」
「う、うん。わかったよ。」
クリスは、机の引き出しから綺麗な箱を取り出して箱の蓋を開けると手紙が沢山入っていた。
「こんなに手紙が来ていたなんて!私なんてリースからニ通しか手紙が来てないのだけど?」
「まぁ、うん。」
「ちょっと良いかしら?」
「はい…。」
アイリスの威圧感に負けたクリスは、従うしかなかった。
「まだ、リースから手紙が来てないけど、私もリースに手紙を書くわ。」
「そ、そうだね。」
クリスは、恐る恐る肯定するしかなかった。
こうして、アイリスは殴り書きでリースに手紙を書いて送ったことで、アイリスも頻繁にリースとの手紙のやり取りが頻繁になった。
内容が気になったクリスは、そっと見ると完全な口喧嘩だった。
そんな日のことを思い出したクリスは、自然と苦笑いを浮かべていた。
「あ、そうだクリス。」
「ん?何?ボル。」
「ノルダンが、こっちに来たら、また戦おうってさ。あと、「その時は、必ずお前に勝ってみせる!」ってよ。」
「ハハハ…。」
クリスは、苦笑いを浮かべた。
「で、クリス。今日、帰ったらノルダンに返事の手紙を書くつもりなんだけど。もし、何か伝えたいことがあるんなら書くけど?」
「じゃあ、その時はお手柔らかに。って書いて伝えて欲しいかな。」
「はぁ、わかった。まぁ、クリスらしいな。」
「何か変だった?」
「普通、俺も負けないぜ!とか、返り討ちにしてやるぜ!とかだろ?なのに、その時はお手柔らかに。って、絶対にノルダンが見たら闘争心が消えるだろ?」
「そうかな?」
「俺なら闘争心が消えるな。そうだ、俺が「俺に勝とうなんざ一億年早い!出直して来い!」ってクリスが言っていたと書いといてやるよ。」
「ちょ、ちょっと、ボル。それは、本当にマズイから!」
「冗談だ!ワハハハ…。」
ボルは盛大に笑い、クリス達はアクア学院に到着した。
しかし、クリスとアイリスがアクア学園で授業を受けていた時だった。
「姫様!クリス様!」
突然、騎士団が教室に入って来た。
「どうかしたの?そんなに慌てて。」
「これは、失礼しました。ですが…。」
騎士団から速急にスノー城へと戻って欲しいと言われたクリスとアイリスはスノー城に戻ることにした。
【スノー城・玉座の間】
玉座の間に入ると、玉座の間にはバルミスタ国王、シリーダ妃、マミューラを含む【立花】が全員集合しており、全員が深刻な面持ちでクリスとアイリスが来るのを待っていた。
「揃ったようだな。先に謝罪をする。アイリス、クリス、学業中に呼び出してすまなかった。」
バルミスタは、椅子に座ったまま頭を下げた。
「いえ、私達は大丈夫ですので、顔を上げて下さい、お父様。それよりも、どうされたのですか?」
「まもなく、世界会議が行われることになったみたいだ。」
「世界会議?」
クリスは、頭を傾げた。
「そうね、クリスは知らないわね。世界会議はね。選ばれた各国の精霊を宿した人達が集まって話し合うのよ。私やリースも選ばれているわ。因みに、護衛は二人までよ。」
「そうなんだ。」
「そ、それでね、クリス。も、もし良かったらね、その私の護衛役になってくれないかしら…。」
アイリスは、モジモジしながら上目遣いでクリスを見る。
「もちろん、良いよ。だって、そのために僕は頑張ってアイリスの直轄の護衛騎士【立花】第0席になったんだから。」
「ありがとう、クリス。」
アイリスは、頬を赤らめながら微笑んだ。
「ゴホン、良い雰囲気なところ悪いのだが。クリスを呼んだのは、アイリスの護衛役としてとは別に他にも理由があってな。今回の会議の名目にクリスの話題と、そして、一番の問題が縁を切った国家反逆罪の愚弟バルガーが精霊フレイムを宿したボルダー殿を追い詰め、ボルダー殿が治めていたトライツ国を制圧したことも議題にあがっている。」
「え?国王様に弟様が居られたのですか?それに、国家反逆罪ですか?」
「ああ、数年前に我が国家の秘宝である【ウンディーネの加護】を盗んで行方をくらました愚か者だ。おそらく、今回の事件は【ウンディーネの加護】を使用したのだろう。」
「なるほど。ところで、【ウンディーネの加護】は、一体どんな能力なのですか?」
「【ウンディーネの加護】は指輪の形をしていてな。指輪を嵌めた手で精霊を宿した者以外の相手に触れると、その相手をコピーする能力を持っている。まぁ、コピーと言っても完全ではなく8割の強さで再現される。しかし、【立花】メンバーだけでなく、【四季風神】や【ドリア】メンバーなどの実力者を複数人、または数十人コピーできれば、簡単に精霊を宿した者が相手でも制圧ができる力がある。」
「精霊の加護は、どれも強力なのですね。」
「ああ、だからこそ厳重に保管していたんだがな。まさか、愚弟が盗むとは思わなかった。今回の事件は、私の落ち度が招いた事件だ。それよりも、クリスに関してはというのは…。」
「僕が、精霊を宿していることですよね?」
「ああ、その通りだ。ヨンダルク国に【炎帝】の諜報員が紛れ込んでいたらしく。それで、今回のイクシオンの事件で発覚したみたいだ。」
「なるほど。それで、世界会議はいつ何処で開催されるのですか?」
「【炎帝】の国、ソレイユ国だ。開催日は三日後だ。それと、クリス。1つ忠告しておくが【炎帝】には嘘や誤魔化しはするな。すぐに見破られる。マミューラから聞いた話だが、奴は、ちょっとした相手の体温の変化で見極められるみたいだぞ。」
「わかりました。でも、ご安心下さい。大丈夫です。元から何も隠さず素直に全て話そうと思ってましたので。もしも嘘をついたり誤魔化したりしてバレた場合、最悪、集まった精霊を宿した人達と戦闘になると思っていましたから。」
「わかっていれば、問題ない。それと、ソレイユ国はスノーランド国から遠い場所にある。だから、突然ですまないが、明日には出国しなければ間に合わない。」
「わかりました。あと、アイリス様の護衛役の件なのですが、僕以外に誰が護衛役に?」
「ユナイトとユーリアに任せることにした。今回、クリスはゲスト扱いになるらしい。」
「そうでしたか。なら、アイリス様の護衛は大丈夫ですね。では、僕は準備をしないといけませんので、これで失礼させて頂きます。」
「ああ。」
バルミスタが頷き、クリスは部屋から退出した。
【山小屋】
山奥にある自宅に戻ったクリスは、リュックサックや鞄に必要な持っていく物を仕分けをし入れていた。
「クリス、ちょっと良いかい?」
「何?おばあちゃん。」
「世界会議にはね。クリス以外に私が鍛えた人がいるんだよ。」
「じゃあ、僕の兄弟子だね。」
「いや、兄弟子じゃなく、姉弟子になる。」
「その人の名前は?」
「ルージュ。宿している精霊は土の精霊ノーム。二つの名は【武帝】。実力で言えば、第三席。世界で三番目に強い実力者だよ。」
「で、そのルージュって人がどうしたの?」
「いやね。幼い頃のルージュは、すぐに焼きもちを焼く子だったからね。もしかしたら、クリスにちょっかいを出してくるかもしれないから気を付けるんだよ。」
「わかったよ、おばあちゃん。」
【スノーランド国・港】
クリス達を見送りにバルミスタ国王、シリーダ妃、マミューラ、【立花】メンバー達が集まっていた。
「アイリス、気を付けてね。クリス君も。」
シリーダは、アイリスとクリスを抱き締めた。
「「はい。」」
「アイリスを頼んだぞ!お前達。」
「「ハッ!」」
バルミスタは、ユナイトやユーリア、ソレイユ国までの護衛として同行する騎士団達は右手を左胸に当てて頭を下げた。
「出航する!帆を貼れ!」
船長の掛け声と共に船は動き出し、クリス達はスノーランド国を出国した。
【スノー海】
スノー海は他の海よりも二番目に水温が低く、海水は透明で透き通っており、泳いでいる魚や波によって揺れている海藻、イソギンチャクなどが見えていた。
空は透き通る青空で風も追い風、波も穏やかで航海は順調だった。
船のデッキにクリスとアイリスは出ており、デッキの端に設けられている手摺りに手を置いて海を眺めていた。
「いい風ね、クリス。」
アイリスは左手で白色のストローハット帽子が飛ばされないように押さえて微笑みながら隣にいるクリスに振り向いた。
「そうだね、アイリス。海も穏やかで透き通っていて綺麗だね。」
「そうね。ところで、クリス。」
「ん?」
「突然なのだけど、クリスは夢とかあるの?」
「夢…。」
「クリスは、夢とかないの?」
「僕の夢は、もう殆ど叶っているよ。」
「え!?どういうこと?」
「僕の夢は、アイリスの直轄の護衛騎士【立花】になってアイリスを守ることだからね。ん?どうしたの?アイリス。顔が赤いけど?」
「な、何でもないわ!」
アイリスは、嬉しくって頬を赤く染めて狼狽えた。
「そう?」
「そんなことよりも、クリスは夢が叶ったなら、次の夢を持ったらどう?」
「そうだね。だったら、その先を目指すよ。」
「え!?さ、先って!」
(こ、こういう場合は、もっと、そ、その…し、親密な関係になるって意味よね!?よね!?きゃ~!ま、まだ、心の準備が。でも、クリスがどうしてもっていうなら…。)
アイリスは、瞬間湯沸かし器の様に顔を更に真っ赤に染めてクリスに振り向きながら声が裏返る。
「ん?アイリスが少しでも幸せになって欲しいから、まずは、その周りの環境作りかな。」
クリスは、アイリスの顔が更に真っ赤になっていたが気にせずに遠くを見る様に視線を空に向けた。
「はぁ~。」
アイリスは、残念そうに肩を下ろして深いため息をついた。
「ん?ところで、アイリスの夢は何?そういえば、聞いたことはなかったよ。」
「そ、それは…。」
(周りに騎士団や船乗り達がいる状況な上に、本人の前で、ずっと、クリスと一緒にいたい。なんて、そんな恥ずかしいこと言える訳ないわ…。でも、この状況をどうしたら…。)
アイリスは、頬を赤く染めて俯きながら左右の人差し指をくっつけたり離したりしてモジモジする。
「それは?」
「ヒ・ミ・ツ!」
アイリスは、人差し指を顔の前に上げて左右にリズムよく振ってウィンクした。
「それ、何かズルくない?」
ジト目でクリスは、アイリスを見る。
「フフフ…。だって、私。答えるって一言も言ってないわ。それに、女の子は誰しも秘密の1つや2つはあるものなのよ。」
アイリスは、人差し指を立てて自身の口元に当てて微笑んだ。
「そうかも知れないけど、何か納得できないよ。」
「まぁ、そうね。その時が来たら教えてあげるわ。」
「はぁ、わかったよ。その時が来るまで待つよ。その代わり、その時が来たら教えて。ん?」
「どうしたの?クリス。」
「気のせいだと思うけど、あの辺りから誰かがこっちを見ていた様な気がしたんだけど。」
クリスは、怪訝な表情を浮かべて左側にある岩を凝視する。
「気のせいよ。ほら、船は見当たらないわよ。」
「そうだね。魔力感知しても何も反応がないし…。」
クリスは、納得していない表情を浮かべて考える。
「もう!気を張りすぎよ。せっかく、事件や学院もないのだからリラックスしましょう。ねぇ?」
アイリスは、左右手でクリスの両頬を摘んで引っ張った。
「だね。じゃあ、飲み物を取ってくるよ。アイリスは何が良い?」
「ありがとう、クリス。それじゃあ、オレンジジュースをお願いするわ。」
「りょ~かい。」
クリスは、飲み物を取りに食堂へと向かった。
クリス達の船から遠く離れたクリスが懸念していた岩陰に、この海域を縄張りにしている海賊【睡蓮】がいた。
【睡蓮】は、他の海賊達とは違って大きな船で行動はせず、手漕ぎの小船で行動している。
「あのガキ、俺達がいることを勘付いたか?」
小船の上で立って両手で双眼鏡を持ってクリスを見ていたお頭のトームズが顔をしからめる。
「そんなことはないと思いますぜ。」
「そうだぜ、お頭。冗談はキツイですぜ。俺達は魔力感知を阻害するローブを羽織っているんですから、魔力感知はできないはずですぜ。で、どうですか?今回の獲物は。」
部下が、トームズに尋ねた。
「美味しい獲物だな。商人の船じゃなく、何処かの富豪家の船だな。お嬢様の姿が見える。それに、その護衛として騎士達がボチボチと乗っていやがる。だが、喜べお前達。お嬢様以外にも、騎士の中に綺麗どころがおるぞ。」
「マジですか!?お頭!」
「ああ、お前好みの女もいるぜ。」
「おお!おっと、それで、どうするんです?お頭。」
「勿論、こんな獲物は狩るに決まっているだろ。俺達は、海賊だぞ。いつも通り、あいつらを集めれるだけ集めとけよ。今回は、大物だからな。それとだ、今回は綺麗どころが多いと、そう皆に伝えろ。」
「アイアイサー!」
クリス達の船が離れて行ったので、部下はゆっくりと小船を動かした。
夜になると日中とは違い、月や星が雲に覆われいた。
クリス達の船は帆を畳み、錨を下ろして停船していた。
クリス達の船から離れた小島に海賊【睡蓮】が集まっていた。
全員が魔力感知を阻害するローブを羽織っており、全身真っ黒な服装をしている。
「よく、集まってくれたな。お前達。」
「そりゃあ、お頭。大物と良い女が沢山にいるってぇ聞かされちゃあ、誰もが急いで戻って来ますぜぇ。なぁ?おい」
「「オオ~!」」
海賊達は、歓声をあげた。
「ああ、今回は大きな獲物だ。しかも、嬉しいことに良い女も沢山おるからな。だがな、忠告しなくても、お前達は知っているとは思うが、大物ということは、それだけ難易度が上がる。油断せずに気を引き締めろよ、お前達。」
「「ウォォ~!」」
「あと、今回は船はなるべく壊すなよ。あれは、高く売れるからな。わかったら、出航するぞ!野郎共!」
「「アイアイサー!」」
海賊達は、それぞれ小船に乗り、ゆっくりと闇に溶ける様に姿を消していった。
クリス達が寝ている頃、明かりが灯してない海賊【睡蓮】の小船がクリス達の船を囲み、ゆっくりと近づいていく。
小船を漕ぐ音は波の音によって掻き消され、月や星が雲に覆われ真っ暗なので、見張りをしていたクリス達の船乗り達は気付かなかった。
それもそのはず、ここの海域は【睡蓮】達の狩り場から離れていたので気が緩んでおり、会話する者やランプを灯して本を読む者もいた。
一番最初に気付いたのは、寝ていたクリスだった。
クリスは寝ていても警戒を怠っていなかったので、目を覚ました。
「最悪だ、相手の数が多いし。それに、まだ騎士団の人達や船乗りの人も誰も気付いていないみたい。」
クリスは壁に掛けていた上着と壁に掛けていた剣を取り、すぐにデッキに向かった。
クリスの気配にアイリスとユナイト、ユーリアが気付き目を覚ました。
「クリス?」
アイリスは、目を擦りながら上半身を起こした。
クリスが勢い良く大きな音を立ててドアを開きながらデッキに上がると、船乗り達がクリスに気が付いた。
「ん?どうかされましたか?クリス様。」
「敵に囲まれています!早く、鐘を!」
「え!?落ち着いて下さい、クリス様。そんなことはないですよ。だって、この海域は海賊達の縄張りではありませんので、決して、そんなことは…。」
「お、おい!囲まれているぞ!」
船乗りの一人が辺りを見渡すと、既に海賊【睡蓮】に囲まれていた。
「な、何だと!?真っ暗で気付かなかった以前に、魔力感知も引っ掛からないらなかったぞ。糞、敵襲!敵襲だ~!」
船乗りは驚愕すると同時に、慌てて警告の鐘を激しく鳴らしながら大声で叫ぶ。
すぐにアイリス、ユナイト、ユーリアがデッキに現れ、少し遅れてから騎士団達が慌てて飛び出してきた。
「ちっ、やはり、あのガキはタダのガキじゃない様だな。あのガキのせいで、予想より気付かれるのが早かった。だが、まぁ、問題はないよな?お前達。」
トームズは、舌打ちする。
「勿論ですぜ!」
「ククク…。良い返事だ!良し、気合を入れて行くぞ!野郎共!」
「「ウォォ!」」
海賊達は一斉に三つ爪の付いたロープを頭上でクルクルと回して投げ飛ばし、クリス達の船に引っ掛けていく。
クリスは、ジャンプして一気に右舷から侵攻してくる海賊達のロープに接近して剣で切断していく。
「アクア・ウィップ!」
アイリスは水魔法で水の鞭を召喚して自由自在に操り、クリスと同様に右舷の海賊達のロープを切断していった。
「俺達もクリスや姫様の様にロープを切って、海賊達の侵攻を防げ!俺は船首に行く、ユーリアは船尾側を、他は左舷を頼んだぞ!」
「わかったわ!」
「「ハッ!」」
ユナイトの指示により、ユーリアや騎士団、船乗り達が海賊達のロープを切断していく。
しかし、海賊達は海に落下することに慣れており、躊躇わずにロープを伝わりクリス達の船に乗り込む。
特にクリス達の船の左舷からトームズが、ロープを使わずにジャンプしてクリス達の船に乗り込み、風魔法エア・クロウを唱え左右の手に纏った鋭い風の鉤爪で騎士団達の盾や鎧ごと切り裂き、仲間の道を確保したとこで、より侵攻が早くなった。
((あいつは!))
ユナイトとユーリアは、トームズを知っていた。
クリスとアイリスも反対側の左舷が押されていることに気づいていた。
しかし、かといって、今更、クリス達がトームズの方に向かっても既に海賊達が大勢乗り込んでいたので妨害されて時間が掛かるのは目に見えていたので反対側だけでも海賊達の侵攻を阻止しようとする。
しかし…。
「ユナイトさん!操縦室が。」
ロープを切断していたクリスは、トームズ側から侵攻した海賊達が操縦室へと向かうのが目に入った。
「ああ!わかっている!」
(くっ、このままだと非常に不味い。特に、操縦室を破壊されたり、船長や船乗り達が殺されては今後どうにもならなくなる。仕方ない、姫様の護衛が疎かになるがやむを得ない。)
「俺の近くにいる騎士団の何人かは、俺と一緒に着いて来い!船長や船乗り組員達を守り、操縦室を死守するんだ!クリス、ユーリア、姫様を頼んだぞ!」
ユナイトは指示を出して、数人の騎士団達を連れて操縦室へと向かった。
「わかったわ!」
「わかりました。」
ユーリアとクリスは、ロープを切断するのをやめてアイリスの傍に駆けつけた。
そのため、海賊達の侵攻速度が早まり、クリス達は海賊達に囲まれた状態になった。
「あなた達、円陣の陣形を取りなさい!そして、端に寄るのよ。」
「「ハッ!」」
ユーリアの指示で騎士団達は陣形を円陣を取り、外に出ていた船乗りは円陣の内側に入り端に寄る。
一方、操縦室側はユナイト達が間に合い、外回りを囲って海賊達の侵攻を防ぐことに成功していた。
そして、お互いに相手の出方を見ており硬直状態に陥った。
そんな時、海賊達の後ろからトームズが姿を現した。
「最悪だわ。やはり、見間違いではなかったわねトームズ。」
「久しぶりだな、ユーリアさんよ。」
「ユーリアさん、あの人を知っているのですか?」
「ええ、クリス。トームズは、あなたが倒したヤンバレの弟なのよ。昔は、二人はいつも組んでいて息のあった連携で有名だったのよ。その時の異名が【切り裂き兄弟】って言われていたわ。だけど、その後に何故か弟のトームズは兄のヤンバレと決別したって噂があったの。」
「へぇ、詳しいなユーリア。あんたは、前から綺麗だけじゃなく賢く強い。正に、俺好みだ。なぁ?俺の女になれよ。良い思いができるぜ。」
「遠慮するわ。人様に迷惑を掛ける人は、断固お断りだわ。」
「ククク…。やはり、強気の女は最高だな。その顔を歪ませたくなる。まぁ、それは良いとして。俺は兄貴と違い、誰かの下で働くのが大嫌いなんだ。だから、俺は兄貴を説得して、この組織【睡蓮】を作ろうとしたんだが失敗に終わってな。それで、決別したんだ。そんなことよりも、そこのガキが兄貴を倒したってのは本当か?なんかの冗談じゃないのか?」
「本当よ。あなたじゃあ、クリスには勝てないわよ。」
アイリスは、堂々と宣言した。
「それは、どうかな?」
トームズは、剣の刀身を舐めながら殺気を放ち、不敵な笑みを浮かべる。
クリス達は、より一層にトームズの警戒を強めた。
「行くぞ!野郎共!」
「「イエッサ!」」
トームズの掛け声により、海賊達は一斉にスロー・ダガーを取り出して投擲し、操縦室の窓を破壊して船の備えられている魔石で明かりを灯しているランプや外にある魔石のランプを次々に破壊していき、あっという間にクリス達は闇に包まれた。
「な、何だと!?」
「何も見えない。」
一瞬で真っ暗になったので視界が閉ざされた騎士団達は、予想外の事態に陥り取り乱した。
「チッ、面倒な事を。総員、魔力感知を…。いや、相手は魔力感知を阻害するローブを着ている。直ちに盾を前に出して自身の身を守れ!アクア・ウォール!」
(糞、これじゃあ、相手が何処にいるのか、何をしてくるのかが全く見えないぞ。しかも、相手は真っ暗でも見えるゴーグルをつけている。これは、非常に不味い。)
ユナイトは大声で指示を出しながら騎士団を守るため水魔法アクア・ウォールを唱え、騎士団達を守る様に水の壁が半球状で覆った。
「「くっ…。」」
ユナイト側の海賊達は、近寄れなくなった。
「チッ、だが、こっちはそうはいかねぇぜ?」
トームズはユナイト側を見て舌打ちしたが、こちら側は既に部下達が騎士団達に接近していた。
しかし、海賊達の前を黒い影が素早く通り向けた。
「「ぐぁ。」」
クリス側から悲鳴と倒れる音が響く。
【操縦室】
「早くせねば…。確か、この辺りだったはず…。あった。」
操縦室にいる船長は、暗闇で何も見えない状態で手を動かして手探りで水晶玉を見つけて魔力を込める。
そうすると操縦室は暗いままだったが、デッキ側の外側に設けられた魔石のランプが灯り再び明るくなった。
このランプは、漁(りょう)をする時に使用するランプだった。
明かりがつくと、アイリスを守るため円陣の内側にいたクリスが外側におり、クリスの足元には海賊達が倒れていた。
「「おお!」」
騎士団達は、歓喜の声をあげた。
海賊達は、クリスを見て動きが止まった。
「馬鹿な。なぜだ?俺達は魔力感知を阻害するローブを羽織っているんだぞ。魔力感知では感知は不可能だ。しかも、あの暗闇の中で俺達の姿が見えるはずもないだろ!?」
トームズは、驚愕した。
「クリス。どうやったの?なぜ、あの人達の居場所がわかったの?ううん、クリスは、まるで相手の姿が見えていたみたいに攻撃を当てたわよね?」
「いや、特に特別なことはしていないけど?ただ普通に見えたから攻撃して倒しただけだけだよ。」
「そんなことあるはずがないだろ!あの暗闇で見えるはずがない!」
「そんなこと言われても…。あ、そうか。僕はおばあちゃんと一緒に誰もいない山で暮らしていたし、夜まで訓練していたから自然と目が暗闇に慣れたかも。」
「お、お頭、どうしやすか?あのガキは、只者じゃないですぜ。何だか、関わるとヤバイ気がしますぜ。」
「黙れ!落ち着け、お前達。おい、そこのガキ。俺と一対一(サシ)で決着(けり)をつけないか?」
「あの人は、何を言っているの?クリスは、あの人のお兄さんに無傷で勝っているのに一対一でなんて。」
「これは、不味いな。」
「ええ、そうね。兄さん。」
「え!?どういうことなの?ユナイト。」
「戦う場所が問題なのです。丘だったら、クリスが勝てると思いますが。今回は、足場が揺れて不安定な船の上です。しかも、クリスは船の上での戦いは初めてなのに対して相手は慣れている狩り場です。ですが、このまま総力戦となれば勝てますが、この船や乗組員達が危険です。」
「トームズはコチラに尋ねていますが、そもそも私達に選択権はありません。」
「そんな…。」
「……。」
クリスは、アイリス、ユナイト、ユーリアに視線を向ける。
ユナイトとユーリアは頷いたが、アイリスは心配そうな表情を浮かべていた。
「わかりました、それで構いません。」
確認したクリスは、了承した。
「あ、そうだ。ユナイトさんよ、あと1つ条件を出させて貰う。こっちは、部下にガキやお前達に一切手出しをさせない。その代わり、お前達も何も手出しをするなよ。」
「ああ、わかった。お前らが守るならば、こちらも守ろう。」
ユナイトは不審に思い顔をしからめたが別に怪しい条件ではなかったので頷いた。
そして、お互い警戒しながら端に寄り、クリスとトームズだけが船の中央に残る形になった。
「準備はできたみたいだな。そうだな、試合開始の合図は、このコインをトスし、コインが床に落ちてからだ。良いな?」
トームズは、ポケットから一枚の髑髏(ドクロ)の絵柄のコインを取り出して人差し指と親指で摘んでクリスに見せる。
「わかりました。」
「じゃあ、始めるぞ。」
トームズは左手の親指でコインを弾き、コインは高速回転しながら上空へと舞う。
周りが緊張した面持ちで息を呑む中、クリスとトームズはコインを見ずに、お互い相手から視線を逸らさないでいた。
(風もなく、波のうねりも穏やか大した問題はない。でも、相手のあの余裕の表情を見ると何か罠があるかもしれない。まずは、うねりの間隔と揺れ具合はある程度一定だから覚えないと…。うねりの間隔と揺れ具合も把握した。これなら、何かされる前に早期決着ができる。)
クリスはトームズを警戒するだけでなく、周りから情報を集めていた。
そして、コインは床に落ちた。
「エア・クロウ!」
コインが床に落ちた瞬間、トームズは左右の手に風を纏わせて鋭い風の鉤爪になった。
(最初から全力でいき、決める!天和(テンホー)、地和(ちーほう)!)
クリスは魔力で身体強化をして更に天和で自然の魔力を体内に取り込み大幅に身体強化をした。
そして、走る時に必要な場所に全魔力を無駄なく強化して移動する地和を使いトームズに接近する。
トームズは、エア・クロウを唱えてクリスに襲い掛かろうとしたが、一瞬でクリスが消えて見失った。
「「~っ!?」」
クリスと相対しているトームズだけでなく、周りの全員がトームズと同様にクリスの姿が消えた様に見えて驚愕した。
トームズが気付いた時には、既にクリスはトームズの懐に入っていた。
(波のうねりが来るのは、あと5秒後。相手の反応が遅い。このタイミングなら確実に決まる!)
クリスは、右拳を握り締めて下から上に拳を振り上げてトームズの下顎にアッパーを決めようとした。
しかし、風は吹いていないのに波のうねりが早く来た上に揺れも大きかった。
「なっ!?」
突然の大きな揺れによって、クリスは体勢を崩したことでアッパーは放てずにふらついた。
「貰った!」
トームズは突然の大きな揺れにも体勢を崩すことなく、右手の鉤爪で体勢を崩して後ろに倒れそうになっているクリスに攻撃する。
「くっ。」
クリスは咄嗟に左手の手の甲をトームズの右手の手首に当てて内側から外側に振り、トームズの攻撃を受け流したがトームズの鉤爪が左頬を掠めて血が飛び散った。
トームズは、左手の鉤爪で追い打ちしようとしたが、クリスは後ろに倒れながら右足でトームズの側頭部を目掛けて蹴る。
「チッ。」
トームズは、左手の鉤爪の攻撃を中断して左腕を上げてクリスの蹴りを防いだ。
その隙に、クリスは床に両手をついてバク転をしてトームズとの距離を取り体勢を整えた。
「おいおい、信じられねぇぜ。あの体勢から攻撃を受け流すだけでなく、更には反撃までしてくるとはな。兄貴を倒しただけのことはなるな。」
先程の大きな揺れによって騎士団や船乗りは尻もちをついており、アイリス、ユナイト、ユーリアは咄嗟に手を伸ばして手摺りを掴んで倒れなかったが体勢を崩していた。
「何だったの?先の大きな揺れは。」
アイリスは、手摺りから手を放した。
「おかしいな。」
「ええ、そうね兄さん。風もなかったのに、あの大きな揺れは絶対に起きないわ。それに、私達は体勢を崩しているのに、あちらは誰一人も体勢を崩していないなんて可笑しいわ。」
ユナイトとユーリアは、原因を突き止めるために外側を見る。
しかし、海は穏やかで波やうなりは小さかった。
アイリスは、身を乗り出して船の真下を見て大きな揺れの原因がわかった。
「ユナイト、ユーリア!あの人達が原因だわ!」
アイリス指先を見ると、クリス達の船の周りに海賊達の小船があり海賊達が乗船していた。
「なるほど、何かの合図でアイツらが魔法で大きな波を起こして船を揺らしたんだな。」
「こんなの卑怯よ!」
アイリスは、大きな声でトームズに訴える。
「おいおい、何が卑怯だ?別に、俺の部下達はお前達に攻撃してないぞ?まさかとは思うが、俺の部下に手を出すのか?一国の騎士団達が約束を破るのか?」
「くっ…。」
アイリスは言い返すことはできず、両手でスカートを握り締めた。
「だろ?ガキ。」
トームズは、クリスに視線を向けた。
「ですね。」
「まぁ、そういうことだ姫様。じゃあ、続きをするぞガキ。」
「わかりました。」
クリスは、構える。
「エア・アーマ。」
(しかし、それにしても、部下に試合開始直後に大きな波を発生させろっと指示を出しておいて良かったぜ。今のは何だったんだ?一瞬、あいつの魔力が飛び跳ね上がったかと思った瞬間にあいつの姿が消え、気が付けば懐に入られていた。あんな異常な速さは見たことは一度もないぞ。)
トームズは平然とした態度で風の鎧を纏ったが、内心ではヒヤッとしていた。
(今のは、正直に危なかった。まずは、どうやって合図を送っているのかを見極めないと…。)
クリスは長期戦になると判断し、飛躍的に身体能力が向上する天和は、その反面、身体に大きな負担が掛かるので解いた。
クリスとトームズは、お互いに警戒を強めた。
先に動いたのはクリスだった。
クリスは一直線に走り、トームズに接近する。
「エア・カッター!」
(恐ろしく速いが、さっきのと比べれば、明らかに遅い。さっきのは偶々、偶然か?まぁ、良い。あと4秒、3秒…。)
トームズは左右の鉤爪を振って、複数の風の刃を放ちながら思考する。
複数の風の刃が迫る中、クリスは速度を落とさずに進んだ。
(来る!)
クリスは、周りの海賊達が踏ん張る体勢を取ったのを見たので立ち止まり揺れに備えると共に、腰に掛けている剣を抜刀して剣に魔力を込める。
そして、船が大きく揺れたが、クリスは体勢を崩すことなく剣を高速に振っていき風の刃を全て切り裂き掻き消した。
その隙にトームズはクリスに接近しており、左右の鉤爪でクリスに襲い掛かる。
クリスは猛烈なトームズの攻撃を剣で弾いて防ぎながら、反撃に転じた。
「くっ。」
トームズは舌打ちをしながら左右の鉤爪で防いだが、徐々に圧される形になり防戦一方になり纏っている風の鎧に当たったが特に破壊され霧散することはなかった。
「はぁぁ!」
クリスは、力一杯に剣を横に振り抜く。
「チッ。」
トームズは、手をクロスにして左右の鉤爪で攻撃を防いだが力に負けて後ろにズリ下がった。
(たださえ足場が不安定な船の上なのに、いつ来るかわからない大きな揺れも警戒をしないといけないから、斬撃に力が入りきっていない。このままじゃあ、あの鎧を破壊できず埒(らち)が明かない。かといって、あの鎧を破壊して倒すほどの威力がある魔法となると大魔法しかないけど。もし、ここで使ったら船をも壊してしまうし。それなら…。)
「アクア・ショット。」
クリスは複数の水弾を放ちながら、再びトームズに迫る。
「エア・ショット。」
トームズも圧縮空気弾を複数放ち、クリスに接近する。
お互いに激しい攻防が始まる。
クリスは剣で防いだり頭を傾げて紙一重で攻撃を躱し次々にトームズに攻撃を当てるが、風の鎧で阻まれダメージを当てることができなかった。
(糞、本当に何なんだ。このガキは。大人しそうな見かけなのに、やたらと強い。いや、強すぎだろうが!ガキの姿をした化け物じゃないか。それに、まるで俺の攻撃を見透かしているみたいな戦い方が癇に障る。)
トームズは左手の鉤爪で切り裂こうとしたが、クリスは剣を下から上に振り上げて鉤爪を弾いた。
「貰った!」
トームズは右手の鉤爪でクリスに攻撃をしようとした瞬間、クリスの右足のハイキックがトームズの左の下顎に決まり脳震盪を起こしてふらついた。
(糞、これだ。まるで俺の思考を見透かしている様な絶妙なタイミングでの攻撃。肉体ダメージよりも癇に障る。だが、それならば逆をつけばいい。あと4、3…。ここだな!)
「糞が!」
トームズはクリスが攻撃を仕掛けてくる様に、わざと激怒して冷静さを欠いた様に右腕を大きく引いて隙を作った。
(さぁ、カウンターをしに来るが良い。お前がカウンターをしに来た瞬間に船が大きく揺れて、お前は体勢を崩すことになる。それが、お前の最後だ。)
クリスは、カウンターを狙って攻撃を仕掛ける。
(来た!)
思惑通りになったトームズは不敵な笑みを浮かべたが、すぐにその笑みが消えた。
なぜなら、クリスの手には今まで使っていた剣を持っていなかったのだ。
(何!?剣がないだと!一体どこだ?腰の鞘にもおさまっていない。まさか、上。)
トームズはハッと気付き、真上を見上げると鋭い剣先下に向いた状態で間近まで迫っていた。
クリスは、剣を下から上に振り上げた時に剣を放り投げていた。
「くっ。」
すぐに船が大きく揺れるので、トームズは後ろに高くジャンプして落下してくる剣を避けた。
クリスも高くジャンプした瞬間、船は大きく揺れた。
クリスは、右手で放り投げた剣を取りながら空中にいるトームズに迫る。
「ハッ!」
クリスは、体を捻りながら遠心力もつけて剣を下から上へ掬い上げる様に剣を振り抜く。
「ぐっ。」
トームズは両手をクロスにして防いだが、威力に負けて両手が上に弾かれた。
「ここだ!アクア・ビッグバン。」
クリスは、左手に高密度に圧縮した巨大な水球を作り出した。
アイリス達は勝利を確信して笑顔を浮かべる一方、海賊達は絶望した表情を浮かべる。
そんな中、クリスは、左手を前に突き出して巨大な水球を無防備になったトームズに押し当てた。
「や、ヤバイ!ぐぁぁ!」
トームズが纏っていた風の鎧は粉砕し上半身の服も木っ端微塵に破れ、トームズは遠くに吹き飛ばされて海に落ちた。
「っと…。」
クリスは、音を立てずに船の上に着地した。
「決闘は僕が勝ちました。なので、あなた達は大人しく出ていって下さい。」
海賊達が呆然とクリスを見る中、クリスは海賊達に振り返って話す。
「「うぁぁ…。」」
「待ってくれ!俺も乗せてくれ!」
「早く、乗れ!馬鹿野郎!」
海賊達は蜘蛛の子を散らす様に一斉にクリスの船から飛び降り、海に落ちたりして下にある自分達の小船に乗ってあっという間に離れていった。
「あの人達、大丈夫かな?」
クリスは、離れていく海賊達を見て心配した。
「大丈夫よ、あんな腐っている人達でも一応、魔法使いなのだから。そんなことよりも、ありがとうクリス。助かったわ。」
アイリスは、微笑んだ。
「お礼は要らないよ。だって、僕は皆を、アイリスを守りたかっただけだから。」
「も、もう!恥ずかしいじゃない。クリスの馬鹿、馬鹿、馬鹿~!」
アイリスは顔を真っ赤に染まり、左右の手でクリスをトントンと軽く叩く。
「ちょ、ちょっと痛いよ、アイリス。」
「も~!でも、それ以上に嬉しいわ。」
アイリスは、顔を真っ赤に染めたまま微笑んだ。
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