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「スイート! こんな辺鄙な場所で、一体何をしているのだ!」
アレクサンドル王子が、私の城(カフェ)に土足で踏み込んできた。
後ろには近衛騎士たちが数名、申し訳なさそうな顔で控えている。
静かで穏やかだった店内の空気が、一瞬にして騒がしいものに変わった。
私はカウンターの中で、重いため息をついた。
せっかくガナッシュ様が残していった「余韻」が台無しだ。
私は手に持っていたゴムベラを置き、努めて冷静な声を出した。
「……いらっしゃいませ。お客様、一名様でよろしいですか?」
「誰が客だ! ふざけるな!」
王子がダン! とテーブルを叩く。
可哀想なテーブル。
さっきガナッシュ様が座っていた時は、あんなに大切に扱われていたのに。
「見てみろ、この惨状を! 埃っぽい森、古びた屋敷、そして……なんだこの甘ったるい匂いは! 吐き気がするぞ!」
「最高級発酵バターの香りですが。貴方のつけている香水よりは、よほど上品かと」
「口答えをするな!」
王子は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「僕は、君を憐れんでわざわざ迎えに来てやったのだぞ! こんな貧しい暮らし、公爵令嬢だった君には耐えられないだろうと思ってな!」
「はあ」
私は生返事をした。
私の頭の中は今、これから仕込むシフォンケーキのメレンゲのことで一杯なのだ。
卵白の温度は適切か。
砂糖を加えるタイミングは間違っていないか。
王子の怒鳴り声は、換気扇の音よりも耳障りだった。
「聞いていないのか! ……いいか、スイート。特別にチャンスをやろう」
王子が尊大な態度で腕を組む。
「今すぐ僕に謝罪し、王都へ戻ってこい。そうすれば、側室……いや、ミントの話し相手兼、事務処理係として雇ってやってもいい」
事務処理係。
本音が出たわね。
要するに、私が抜けたせいで書類仕事が回らなくなったのでしょう。
「お断りします」
私は即答した。
「なっ……!? 正気か!?」
「正気です。見ての通り、私は今、カフェの経営で忙しいのです。事務処理なら、ご自分でなさってください」
「こ、この僕に書類仕事をやれと言うのか!? 次期国王である僕に!」
「王になる方が、国の政務もできないのですか? それは大変ですね」
「き、貴様……!」
王子がワナワナと震え出す。
図星を突かれて言い返せないのだろう。
昔からそうだ。
彼はプライドだけはエベレスト級に高いが、実務能力はミジンコ以下だ。
「大体な、なんだその格好は! エプロンなどつけて、まるで召使いではないか! 恥を知れ!」
「労働の何が恥なのですか? 自分の手で何かを作り出し、お客様に喜んでいただく。これほど尊いことはありません」
私は胸を張った。
「それに、このエプロンは特注品です。機能性とデザイン性を兼ね備えた、私の戦闘服です」
「黙れ黙れ黙れ! あーもう、イライラする!」
王子が子供のように地団駄を踏む。
「とにかく戻れ! これは王命に等しい命令だ! ミントも泣いているんだぞ! 『スイート様がいなくて寂しい』とな!」
嘘をおっしゃい。
あの女狐のことだ、きっと「あの方がいないと、私の欲しいドレスの予算が通りませんわ」とでも泣きついたに違いない。
「お引き取りください。他のお客様のご迷惑になります」
「客など、どこにいる!」
王子が店内を見回す。
「こんな森の奥に、客など来るはずがないだろう! どうせ閑古鳥が鳴いているに決まっている!」
「いらっしゃいましたよ。つい先程まで」
「嘘をつくな! 見栄を張るのもいい加減にしろ!」
話が通じない。
私は諦めて、次の作業に移ることにした。
「マリィ、塩を持ってきて」
「えっ? お嬢様、お菓子に塩を?」
「いいえ。撒くのよ」
「は、はいっ!」
マリィが察して、厨房から粗塩の壺を持ってくる。
「な、何をしようとしている!」
「お清めです。不浄なものが入り込んだので」
「誰が不浄だ!」
王子が激昂し、私の方へと歩み寄ってきた。
その手が、私の腕を掴もうと伸びる。
「いい加減にしろ! 力ずくでも連れて帰るぞ!」
「おやめください! 暴力は……!」
私が身構えた、その時だった。
チリン、チリン♪
再び、ドアベルが鳴った。
「……騒がしいな」
低く、重厚な声。
店内の温度が、一気に五度くらい下がった気がした。
「な、なんだ!?」
王子が振り返る。
そこには、一度帰ったはずのガナッシュ様が立っていた。
「わ、忘れてしまったのだ。……手袋を」
ガナッシュ様は気まずそうに、テーブルの上に置き忘れた革手袋を指差した。
ああ、なんておっちょこちょい。
可愛らしい。
しかし、その目は笑っていなかった。
彼はゆっくりと歩を進め、私と王子の間に割って入った。
身長差、約二十センチ。
ガナッシュ様の巨大な背中が、私の視界を埋め尽くす。
「……おい、若造」
ガナッシュ様が、王子を見下ろして言った。
「この店は、静かに菓子を楽しむ場所だ。大声を出すなら、外でやってもらおうか」
「な、なんだ貴様は! 無礼だぞ! 僕はアレクサンドル王子だ!」
「知っている」
ガナッシュ様は短く答えた。
「だからこそ言っている。王族たる者が、婦女子に暴力を振るおうとするなど……嘆かわしいと思わんか?」
「ぐっ……! き、貴様、顔を見せろ!」
王子が怯えながらも虚勢を張る。
ガナッシュ様は無言で、私の方をちらりと見た。
「(どうする? 名乗ってもいいか?)」
目線で問いかけてくる。
私はこくりと頷いた。
ガナッシュ様は、王子に向き直ると、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「辺境伯、ガナッシュ・フォン・ビターだ」
「……へ?」
王子の顔が凍りついた。
「ガ、ガナッシュ……? あの、『血濡れの騎士団長』!? 『歩く断頭台』!? 『泣く子も失禁する鬼』!?」
失礼な二つ名ばかりだ。
「いかにも。……で? 俺の大事なパティシエに、何か用か?」
ガナッシュ様が、腰の剣に手をかけた。
チャリ……。
金属音が響く。
それだけで、近衛騎士たちが全員、ガタガタと震え上がって後退った。
「ひ、ひぃぃッ!!」
王子が悲鳴を上げる。
「ま、待て! 誤解だ! 僕はただ、元婚約者として挨拶を……!」
「挨拶にしては、随分と威勢が良かったようだが?」
ガナッシュ様が一歩踏み出す。
王子が二歩下がる。
「か、帰る! 今日は帰るぞ!」
王子は踵を返すと、逃げるように出口へ向かった。
しかし、ドアの前で立ち止まり、捨て台詞を吐くことも忘れなかった。
「ス、スイート! 覚えておけ! 今日はこの辺にしておいてやるが、僕がいないと何もできない君のことだ、すぐに泣きついてくるに決まっている! その時は、土下座して頼むんだな! フンッ!」
バタンッ!!
ドアが乱暴に閉められた。
嵐のような、本当に迷惑な客だった。
「……やれやれ」
ガナッシュ様が肩をすくめる。
その瞬間、彼が纏っていた「魔王のオーラ」が霧散し、いつもの「お菓子好きの武人」に戻った。
「助かりました、ガナッシュ様」
私は深々と頭を下げた。
「貴方が戻ってきてくださらなかったら、どうなっていたか」
「いや……手袋を忘れた俺の不手際だ。それに」
彼は少し照れくさそうに頬をかいた。
「『大事なパティシエ』と言ったのは、本心だ。貴殿に怪我をされては、俺のこれからの菓子ライフに関わる」
「ふふっ、光栄です」
私はカウンターから出て、彼の手袋を手に取った。
「どうぞ、お忘れ物です」
「かたじけない」
ガナッシュ様は手袋を受け取ると、ふと真剣な顔になった。
「だが、あの王子……諦めが悪そうだ。また来るかもしれん」
「ええ、そうでしょうね。彼は思い込みが激しいので」
「……俺が、警備を置こうか?」
「いえ、お気遣いなく。ここは私の城です」
私はニッコリと微笑んだ。
「それに、次に来た時は……とっておきの『激辛スパイス入りクッキー』でもご馳走して差し上げますから」
「……それは、怖いな」
ガナッシュ様が苦笑する。
こうして、開店初日の騒動は幕を閉じた。
王子は撃退され、ガナッシュ様との絆は(胃袋を通じて)より強固になった。
「さて、気を取り直して。シフォンケーキを焼きましょうか」
「……あ」
ガナッシュ様が立ち止まる。
「シフォンケーキ……? それは、どんな菓子だ?」
「空気のようにふわふわで、雲を食べているような食感のケーキです」
「く、雲……」
ガナッシュ様の目が輝く。
「……俺は、まだ帰らなくていいかもしれん」
「あら? お仕事は?」
「……少しなら、休憩しても罰は当たらんだろう」
彼はそう言って、再び先程の席に座り直した。
私は笑いを噛み殺しながら、新しいボウルを手に取った。
どうやら私の店には、頼もしい騎士様(常連客)が常駐してくれることになりそうだ。
アレクサンドル王子が、私の城(カフェ)に土足で踏み込んできた。
後ろには近衛騎士たちが数名、申し訳なさそうな顔で控えている。
静かで穏やかだった店内の空気が、一瞬にして騒がしいものに変わった。
私はカウンターの中で、重いため息をついた。
せっかくガナッシュ様が残していった「余韻」が台無しだ。
私は手に持っていたゴムベラを置き、努めて冷静な声を出した。
「……いらっしゃいませ。お客様、一名様でよろしいですか?」
「誰が客だ! ふざけるな!」
王子がダン! とテーブルを叩く。
可哀想なテーブル。
さっきガナッシュ様が座っていた時は、あんなに大切に扱われていたのに。
「見てみろ、この惨状を! 埃っぽい森、古びた屋敷、そして……なんだこの甘ったるい匂いは! 吐き気がするぞ!」
「最高級発酵バターの香りですが。貴方のつけている香水よりは、よほど上品かと」
「口答えをするな!」
王子は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「僕は、君を憐れんでわざわざ迎えに来てやったのだぞ! こんな貧しい暮らし、公爵令嬢だった君には耐えられないだろうと思ってな!」
「はあ」
私は生返事をした。
私の頭の中は今、これから仕込むシフォンケーキのメレンゲのことで一杯なのだ。
卵白の温度は適切か。
砂糖を加えるタイミングは間違っていないか。
王子の怒鳴り声は、換気扇の音よりも耳障りだった。
「聞いていないのか! ……いいか、スイート。特別にチャンスをやろう」
王子が尊大な態度で腕を組む。
「今すぐ僕に謝罪し、王都へ戻ってこい。そうすれば、側室……いや、ミントの話し相手兼、事務処理係として雇ってやってもいい」
事務処理係。
本音が出たわね。
要するに、私が抜けたせいで書類仕事が回らなくなったのでしょう。
「お断りします」
私は即答した。
「なっ……!? 正気か!?」
「正気です。見ての通り、私は今、カフェの経営で忙しいのです。事務処理なら、ご自分でなさってください」
「こ、この僕に書類仕事をやれと言うのか!? 次期国王である僕に!」
「王になる方が、国の政務もできないのですか? それは大変ですね」
「き、貴様……!」
王子がワナワナと震え出す。
図星を突かれて言い返せないのだろう。
昔からそうだ。
彼はプライドだけはエベレスト級に高いが、実務能力はミジンコ以下だ。
「大体な、なんだその格好は! エプロンなどつけて、まるで召使いではないか! 恥を知れ!」
「労働の何が恥なのですか? 自分の手で何かを作り出し、お客様に喜んでいただく。これほど尊いことはありません」
私は胸を張った。
「それに、このエプロンは特注品です。機能性とデザイン性を兼ね備えた、私の戦闘服です」
「黙れ黙れ黙れ! あーもう、イライラする!」
王子が子供のように地団駄を踏む。
「とにかく戻れ! これは王命に等しい命令だ! ミントも泣いているんだぞ! 『スイート様がいなくて寂しい』とな!」
嘘をおっしゃい。
あの女狐のことだ、きっと「あの方がいないと、私の欲しいドレスの予算が通りませんわ」とでも泣きついたに違いない。
「お引き取りください。他のお客様のご迷惑になります」
「客など、どこにいる!」
王子が店内を見回す。
「こんな森の奥に、客など来るはずがないだろう! どうせ閑古鳥が鳴いているに決まっている!」
「いらっしゃいましたよ。つい先程まで」
「嘘をつくな! 見栄を張るのもいい加減にしろ!」
話が通じない。
私は諦めて、次の作業に移ることにした。
「マリィ、塩を持ってきて」
「えっ? お嬢様、お菓子に塩を?」
「いいえ。撒くのよ」
「は、はいっ!」
マリィが察して、厨房から粗塩の壺を持ってくる。
「な、何をしようとしている!」
「お清めです。不浄なものが入り込んだので」
「誰が不浄だ!」
王子が激昂し、私の方へと歩み寄ってきた。
その手が、私の腕を掴もうと伸びる。
「いい加減にしろ! 力ずくでも連れて帰るぞ!」
「おやめください! 暴力は……!」
私が身構えた、その時だった。
チリン、チリン♪
再び、ドアベルが鳴った。
「……騒がしいな」
低く、重厚な声。
店内の温度が、一気に五度くらい下がった気がした。
「な、なんだ!?」
王子が振り返る。
そこには、一度帰ったはずのガナッシュ様が立っていた。
「わ、忘れてしまったのだ。……手袋を」
ガナッシュ様は気まずそうに、テーブルの上に置き忘れた革手袋を指差した。
ああ、なんておっちょこちょい。
可愛らしい。
しかし、その目は笑っていなかった。
彼はゆっくりと歩を進め、私と王子の間に割って入った。
身長差、約二十センチ。
ガナッシュ様の巨大な背中が、私の視界を埋め尽くす。
「……おい、若造」
ガナッシュ様が、王子を見下ろして言った。
「この店は、静かに菓子を楽しむ場所だ。大声を出すなら、外でやってもらおうか」
「な、なんだ貴様は! 無礼だぞ! 僕はアレクサンドル王子だ!」
「知っている」
ガナッシュ様は短く答えた。
「だからこそ言っている。王族たる者が、婦女子に暴力を振るおうとするなど……嘆かわしいと思わんか?」
「ぐっ……! き、貴様、顔を見せろ!」
王子が怯えながらも虚勢を張る。
ガナッシュ様は無言で、私の方をちらりと見た。
「(どうする? 名乗ってもいいか?)」
目線で問いかけてくる。
私はこくりと頷いた。
ガナッシュ様は、王子に向き直ると、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「辺境伯、ガナッシュ・フォン・ビターだ」
「……へ?」
王子の顔が凍りついた。
「ガ、ガナッシュ……? あの、『血濡れの騎士団長』!? 『歩く断頭台』!? 『泣く子も失禁する鬼』!?」
失礼な二つ名ばかりだ。
「いかにも。……で? 俺の大事なパティシエに、何か用か?」
ガナッシュ様が、腰の剣に手をかけた。
チャリ……。
金属音が響く。
それだけで、近衛騎士たちが全員、ガタガタと震え上がって後退った。
「ひ、ひぃぃッ!!」
王子が悲鳴を上げる。
「ま、待て! 誤解だ! 僕はただ、元婚約者として挨拶を……!」
「挨拶にしては、随分と威勢が良かったようだが?」
ガナッシュ様が一歩踏み出す。
王子が二歩下がる。
「か、帰る! 今日は帰るぞ!」
王子は踵を返すと、逃げるように出口へ向かった。
しかし、ドアの前で立ち止まり、捨て台詞を吐くことも忘れなかった。
「ス、スイート! 覚えておけ! 今日はこの辺にしておいてやるが、僕がいないと何もできない君のことだ、すぐに泣きついてくるに決まっている! その時は、土下座して頼むんだな! フンッ!」
バタンッ!!
ドアが乱暴に閉められた。
嵐のような、本当に迷惑な客だった。
「……やれやれ」
ガナッシュ様が肩をすくめる。
その瞬間、彼が纏っていた「魔王のオーラ」が霧散し、いつもの「お菓子好きの武人」に戻った。
「助かりました、ガナッシュ様」
私は深々と頭を下げた。
「貴方が戻ってきてくださらなかったら、どうなっていたか」
「いや……手袋を忘れた俺の不手際だ。それに」
彼は少し照れくさそうに頬をかいた。
「『大事なパティシエ』と言ったのは、本心だ。貴殿に怪我をされては、俺のこれからの菓子ライフに関わる」
「ふふっ、光栄です」
私はカウンターから出て、彼の手袋を手に取った。
「どうぞ、お忘れ物です」
「かたじけない」
ガナッシュ様は手袋を受け取ると、ふと真剣な顔になった。
「だが、あの王子……諦めが悪そうだ。また来るかもしれん」
「ええ、そうでしょうね。彼は思い込みが激しいので」
「……俺が、警備を置こうか?」
「いえ、お気遣いなく。ここは私の城です」
私はニッコリと微笑んだ。
「それに、次に来た時は……とっておきの『激辛スパイス入りクッキー』でもご馳走して差し上げますから」
「……それは、怖いな」
ガナッシュ様が苦笑する。
こうして、開店初日の騒動は幕を閉じた。
王子は撃退され、ガナッシュ様との絆は(胃袋を通じて)より強固になった。
「さて、気を取り直して。シフォンケーキを焼きましょうか」
「……あ」
ガナッシュ様が立ち止まる。
「シフォンケーキ……? それは、どんな菓子だ?」
「空気のようにふわふわで、雲を食べているような食感のケーキです」
「く、雲……」
ガナッシュ様の目が輝く。
「……俺は、まだ帰らなくていいかもしれん」
「あら? お仕事は?」
「……少しなら、休憩しても罰は当たらんだろう」
彼はそう言って、再び先程の席に座り直した。
私は笑いを噛み殺しながら、新しいボウルを手に取った。
どうやら私の店には、頼もしい騎士様(常連客)が常駐してくれることになりそうだ。
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