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第十四話

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ファイルナ公爵家にはすぐ着いた。ナティは緊張した。セルジーンは穏やかだけれど、ファイルナ公爵夫人はどんな方だろう。噂しか知らない。

夫人の病室に通されると、可愛らしい部屋だった。ナティくらいの年の女の子用の内装で、それに合った家具が置いてある。ナティが侯爵邸で暮らしていた部屋に少し似ているかもしれない。

ベッドに横たわる夫人に近づく。顔を拝見してびっくりした。たしか夫人はそれなりの年齢のはずだ。それがまるで少女のように見えた。顔色はとても悪いけれど。

「あなたがあの有名なナティさんなの?ずいぶん若いのね」
夫人にだけは言われたくない。夫人は本当に妖精か女神様なのではないだろうか。

ファイルナ公爵夫人に似合う服。それは、ナティにとってのルダだ。
着たら何物にも負けない。優しくて強いドレス。
ナティはデザイン画を描き始めた。
あっという間に3つのデザインができた。ファイルナ公爵夫人はイメージが湧きやすい。

夫人に見せると、目が輝いた。
「素敵ね」
選んでもらいたい、とお願いすると、
「これを着たいわ」
すぐに決まった。色だけはかなり悩んだが、最終的には、夫人もナティも納得の一着になりそうだった。

「ありがとうございました。なるべく早く仕上げて持って参ります」
公爵邸を辞して、帰りもセルジーンに送ってもらった。セルジーンは泣いていた。「母上があんなに楽しそうなのは久しぶりに見ました。ありがとうございます」

「素敵なお母様ですね。私もあんなお母様がいたら、幸せです。」
セルジーンはその言葉で、しばし考えた。
「ナティ嬢。私と婚約してください」

ナティはあまりに想定外なことを言われて、目をまん丸にして固まった。
セルジーンは優しそうでいい夫になるかもしれないけれど、まだ幼すぎる。いや、3歳くらい年下なら問題ないだろうか?

「セルジーン様。ありがとうございました。でも、身分が違いすぎます」
「問題ないですよ。僕は、正妻ではなく妾の子です。公爵から引き継ぐものは何もありません。」
本当に問題ないだろうか?
レンバルト様のことが一瞬頭を過ったけれど、セルジーン様の申し込みはナティにとって不快なものではなかった。
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