【完結】だって知らなかったんです。モブにはモブの生きる道

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10.別離

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「ご婚約おめでとうございます」
キャリーはスクルスと、ドレスショップを訪れていた。お揃いの服を作ってもらうためだ。婚約したとたん、スクルスは独占欲のかたまりになってしまって、衣装でさえお揃いにしたいと言い出した。本来なら王宮に店員を呼ぶのだが、自分の足で大切な婚約者の衣装を探したいとも。
「リーナ、どんなのがいい?」
キャリーは辛抱強くリーナに話しかけてみているが、返事はない。
「いいな、その色がキャリーには似合う」
スクルスはご機嫌であれこれ頼み始めた。キャリーはこんなに買ってもらっていいのか心配になっていた。
「大丈夫だ。ちゃんと予算内だよ」
キャリーの性格をわかっているスクルスはすぐにフォローするのを忘れない。

「そういえば、宮廷音楽隊はよかったのかい?結婚しても領地からそんなに離れてないから、勤めてもかまわないのに」
あら?やめてほしそうにバレンタインのことを見ていたくせに、とキャリーは思った。
「歌」
リーナの声がした。音楽隊の話で目が覚めたのかもしれない。
「私、どこでも歌えるの」
これは、リーナだ。あきらめ始めていたキャリーは泣きそうになった。リーナは、キャリーの声で、歌い始めた。魔法より魔法のような歌声。すべてを破壊してすべてを生み出すような、人間ではないみたいな歌声。
「相変わらず凄まじい声だな」
スクルスも苦笑する。

リーナ、起きたのね?
心の中で話しかけると、リーナが答えた。
「お別れよ」
「嫌よ」
「どうにもならない。私は次の人生を一から始めるの。さよなら、キャリー」
あっという間にリーナは消えてしまった。さよなら、さえ言えなかった。スクルスの前で、キャリーは泣き始めた。スクルスは慌てる。
「どうした?急に何があった?」
「なんでもないの」
キャリーは泣き続けたが、リーナはもうキャリーの中にいなかった。

「キャリー」
スクルスは泣くキャリーを抱きしめた。
「泣かないで。キャリーが悲しいと僕も悲しい」
キャリーは、泣きながら、もう一人じゃないんだと思った。リーナがいなくても、キャリーにはスクルスがいる。深い喪失感と深い安堵を同時に感じながら、キャリーは泣き続けた。

いつか、キャリーはリーナに誓う。リーナの歌のように打ち込めるものを探す。魂すべてでできることを。キャリーは試しに歌ってみた。普通だった。やはり、キャリーはリーナではないのだ。
「それにしても、ヒロインどこへ行っちゃったのかしら」
キャリーの物語はキャリーのもの。ヒロインと言えど、簡単には登場すらできない。これからだなのだ、キャリーの人生は。
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