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第三章 波乱

39.ターマン

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「やぁやぁいのりん、瑠璃ちゃん、話は聞いたよ。大変だったね」



「隼人さん」



「大変というか、超大変」



 音を立てて着陸したヘリから出てきた隼人さんは、爽やかな笑顔を浮かべていた。

 その隣にはガタイの良い男二人が立っていた。



「安心して。この二人は僕のSPだから。荷物運びとして連れてきた」



 隼人さんが指をパチリと鳴らすと、転がっていた男達を担いでヘリの中に放り込んでいく。



「こいつらを研究室に連れて行く。助けるとかじゃない、交渉材料と情報の為だ」



 コノミはヘリに乗り込みながらそう言った。

 私と瑠璃ちゃんも、案内されるままヘリに乗り込んでヘッドセットを装着した。

 

「ねぇコノミ、交渉材料って何?」



 夜の街並みを眺めていたコノミに声をかける。

 

「こいつらは翆ちゃんを拉致した奴らの仲間だ。もし奴らが仲間想いなら、翆ちゃんがどうこうされるのは防げるはずだ」



「なるほど」



「で、僕が今こいつらの携帯でお仲間さんに連絡しているトコー」



「ど、どうなんですか?」



「んー、怒ってるねぇ、卑怯だとかごちゃごちゃ言ってるよ」



「卑怯って……! 何言ってるんですか!?」



「ま、向こうさんはオツムがちょっとアレだから、仕方ないよ」



「卑怯という意味を、辞書で引かせて、脳みそに張り付けたい。腹立つ」



 瑠璃ちゃんが眉根を寄せて怒っている。

 感情をあまり表情に出さない瑠璃ちゃんだけど、ここまで怒っているのは初めて見た。



 翆ちゃんが拉致されて、同じことをしたらこちらが卑怯者扱い。

 こんなの誰だって怒るだろうし、もちろん私だって怒っている。



「怒るだけ無駄だ。放っておけばいい。奴らには必ず断罪の嵐が吹き荒れる」



「とかいうコノミンも怒ってるってさ――っと、そろそろ着くよ」



「おお、ついにターマン!」



「ターマン最上階!」



 窓の外を見てぶっきらぼうに言い放つコノミを、フォローするように隼人さんが言った。



 そして眼下にはタワーマンションの群れが見え、その一画にあるマンションの屋上、ヘリポートに向けてヘリが降下していった。

 

「マンションの最上階にヘリポート……住む世界が違う……ここが異世界……」

「瑠璃、異世界召喚された……?」



 ヘリから降りた私と瑠璃ちゃんは、強い風が吹く屋上からあたりを見回してみる。

 360°広がる大パノラマに思わずため息が漏れる。



 見渡す限りビルの群れに沢山の光が瞬いている光景は、翆ちゃんが拉致されたというのに一瞬現実を忘れさせるくらいだった。

 

「ほぁ……百万ドルの夜景キターー……」

「きれい……すごい……」



 空には満点の星、眼下には無限とも思える街の光。

 なんてロマンチックなんだろう。

 と、心ときめかせながら浸っていると。



「行くぞ二人共」

「ぴぇん」

「一瞬の煌めき……」



 コノミと隼人さんはさっさとマンションの中へ入ってしまった。

 私達は最高の夜景に後ろ髪を慌てて追いかけるようにその後に続いたのだった。
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