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第二章 鬼囃子編

110 おぞましいスキル

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「ほっほっほっほ! 随分と博識なお嬢さんですからして。せっかくですからして、ワシの仲間達をご紹介させていただきますですね」

 モニカのネタばらしに何の痛痒も見せずに笑うベルンは、その枯れ木のような腕を大きく広げた。
 途端に周囲の空気が一変し、ベルンの体から黒い煙のようなものが滲みだし始めた。

「アダムさん。ここは私が。邪法には聖法、命を冒涜するあの方は絶対に許せない。許しておけない」
「……大丈夫か?」
「大丈夫。問題ないよ」
「分かった」

 硬く結ばれたモニカの口は僅かに歪み、歯を食いしばっているのが分かる。
 恐怖によるものではなく、純粋な怒り。
 その証拠にモニカの滑らかな髪が漣のように揺らめいている。

「ミミル! お前は目を探せ!」
「口惜しいが了解じゃ!」

 ミミルがその場から離脱するのを横目に見ながら、ベルンはその表情をおぞましいものへと歪める。
 イヒイヒイヒ、と奇妙な笑い声をあげ、白目は深紅に染まり赤い光を放っていた。
 そしてベルンの周囲に複数の丸い物体がぽつぽつと出現。
 
「気持ちわりぃな……」
「人の好みをとやかく言う私ではないですけれど、かなり趣味が悪いですわね」

 ベルンの周囲に現れた物体、その正体を見極めて俺もリリスも思わず呻き声をあげた。
 その正体とは、干からびてミイラ状になった人間の頭部。
 眼球は腐り落ち、眼球があった場所は暗く落ち窪んで小さな赤い光が灯っている。
 
「たすけて……」
「ころしてくれえ」
「苦しい、くるしいよぉ」
「ママァ」

 ミイラの頭部はベルンの周囲を飛び回りつつ呪詛のような悲しみの声を上げている。
 空中に浮遊する頭部は二十。
 そのどれもが苦しみ、呻き、助けを乞い、恨みを吐き出している。

「あれ、全部生きてるのか……?」
「スキルの力で無理矢理生かされているの。早く消滅させてあげなきゃ……!」
「出来ますかな? 十二司教の力侮るものではございませんですからして!」

 それがベルンとモニカの戦闘開始の合図だった。
 ミイラの口が大きく開き、そこから紫色の光線が一斉に射出される。

「聖壁!」

 光線の発射と同時にモニカが障壁を張るが、光線はモニカの横を通過。

「えっ!?」
「うぉっ!」
「きゃっ!」
『ぎゃーす!』
『あいつー!』
『こっちを狙ってきたー!』

 咄嗟に避けたものの、ベルンの標的はモニカと見せかけての俺達。
 正当に戦うとは思っていなかった分、警戒していて正解だったな。
 おまけに地面に転がっている教徒達も、ついでに狙い撃ちされてバラバラに吹き飛んでいた。
 どちゃどちゃと周囲に散らばる教徒達の肉片と血飛沫が嫌な臭いを発する。

「貴方という人は!」
「ほっほっほ! あなたを狙うとは一言も言っておりませんですからして、はい」

 モニカがきつく責めるが、ベルンがそれを聞いて悪びれるわけも無し。
 カラカラと笑って追撃の光線を発射してさらに教徒達の体を撃ち抜いて止めをさしていく。
 二十個のミイラから発射される光線は、縦横斜め縦横無尽に空を焼き、地面を吹き飛ばし、教徒達を、俺達を狙ってくる。

「モニカ! 俺達の事は気にするな! 存分にやっておしまいなさい!」
「! 分かった!」

 優しいモニカの事だ。
 全体攻撃をされてしまえば俺達に意識を割かなくてはならない。
 俺達が参戦してもいいが、それはモニカの意思を踏みにじる事になる。
 それに、俺のサーヴァントであるモニカがベルンのような悪者に負けるわけがない。
 俺はそう信じている。
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