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空虚 I
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「……失礼しました」
俺は職員室のドアを閉めた。
夕日が、窓から差し込んでいた。
綺麗だとは、あまり思えなかったけれど。
「…………煩いな」
何かが煩わしくなって、思わずそう言っていた。
運動場から聞こえてくる、活気溢れる部活動の掛け声だろうか。放課後の教室を練習場所にする吹奏楽の音色だろうか。
その全てだろう、と俺は思った。
「よう」
声がかかる。正面からだ。
無意識に俯いていた顔を上げると、昔のクラスメイトがいた。
健康的な黒髪の短髪。長らく髪を切ってない俺の肩にかかるような長髪とはえらい違いだ。
「……名前──なんだっけ」
「開口一番それかよ……──だよ。覚えてないのか?」
……聞こえなかった。
どうでもいいから、だろうか。
「…………そうだっけな。何か……用か?」
「……帰って、来んのか?」
「……どうだろうな」
適当に返事をすると、こいつは本気で心配そうに、憐れんだような目を、俺に向けた。
「…………何時も根暗で大人しくて、あんま喋んない奴だったけどさ、お前。やっぱ引きずってんのか。あの事」
「……どの事だよ」
「…………すまねえ」
チッ、と俺は舌打ちをした。腹立たしくてだ。
謝るくらいなら──何も言うな。
お前が向けているその視線の一つですら。かけてくる言葉の一つですら。
俺には大き過ぎる余計なお世話なんだから。
「…………帰る」
目の前にいるその男の横を通り抜けて、俺は帰ろうと歩を進めた。
「あっ、おい! 待っ」「心配しなくても」
引き止めようとするそいつに、俺は食い気味に。
「……また来る。……彼女が待ってるから」
「…………そう、か」
きっと、あいつの目には俺が余程可哀想な奴に見えているんだろう。
その声音すら、きっと、俺を憐れんでいた。憐れな奴だと断定して、声をかけてやらないとという使命感に駆られたような──俺があの日から腐る程聞いた、吐き気をもよおす声だった。
「…………煩いな」
何に、というわけでもなく。
俺はまた、呟いた。
今度は何も聞こえなかった。
窓が開いていて、風が吹き抜ける。
肌を撫ぜる冬の風は、俺を慰める彼女の掌と同じだった。
同じような、寂しい冷たさだった。
俺は職員室のドアを閉めた。
夕日が、窓から差し込んでいた。
綺麗だとは、あまり思えなかったけれど。
「…………煩いな」
何かが煩わしくなって、思わずそう言っていた。
運動場から聞こえてくる、活気溢れる部活動の掛け声だろうか。放課後の教室を練習場所にする吹奏楽の音色だろうか。
その全てだろう、と俺は思った。
「よう」
声がかかる。正面からだ。
無意識に俯いていた顔を上げると、昔のクラスメイトがいた。
健康的な黒髪の短髪。長らく髪を切ってない俺の肩にかかるような長髪とはえらい違いだ。
「……名前──なんだっけ」
「開口一番それかよ……──だよ。覚えてないのか?」
……聞こえなかった。
どうでもいいから、だろうか。
「…………そうだっけな。何か……用か?」
「……帰って、来んのか?」
「……どうだろうな」
適当に返事をすると、こいつは本気で心配そうに、憐れんだような目を、俺に向けた。
「…………何時も根暗で大人しくて、あんま喋んない奴だったけどさ、お前。やっぱ引きずってんのか。あの事」
「……どの事だよ」
「…………すまねえ」
チッ、と俺は舌打ちをした。腹立たしくてだ。
謝るくらいなら──何も言うな。
お前が向けているその視線の一つですら。かけてくる言葉の一つですら。
俺には大き過ぎる余計なお世話なんだから。
「…………帰る」
目の前にいるその男の横を通り抜けて、俺は帰ろうと歩を進めた。
「あっ、おい! 待っ」「心配しなくても」
引き止めようとするそいつに、俺は食い気味に。
「……また来る。……彼女が待ってるから」
「…………そう、か」
きっと、あいつの目には俺が余程可哀想な奴に見えているんだろう。
その声音すら、きっと、俺を憐れんでいた。憐れな奴だと断定して、声をかけてやらないとという使命感に駆られたような──俺があの日から腐る程聞いた、吐き気をもよおす声だった。
「…………煩いな」
何に、というわけでもなく。
俺はまた、呟いた。
今度は何も聞こえなかった。
窓が開いていて、風が吹き抜ける。
肌を撫ぜる冬の風は、俺を慰める彼女の掌と同じだった。
同じような、寂しい冷たさだった。
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