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本編

青春を謳歌せよ!

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異世界で勇者として死んだ霖(ながめ)が叶えたかった願いとは何だろう??
赤くなって俯いた霖を見つめて考えた。

「……あれか、青春を取り戻したい、的な?」

ぼそっとキネセンが言った。
その瞬間、霖がさらに赤くなって、キネセンを睨んだ。

「気づいたならっ!言わなくってもいいじゃんっ!!」

「いや、確認は必要だろう??」

淡々とキネセンが答えるが、霖はまた半透明になってしまった。
そこに追い討ちをかけるように鳩の女神が言う。

「その通りです。勇者の願いは、普通の若者のように学校に行って、友達と笑い合い、誰かに恋をするような普通の青春を送ってみたかった、でした。」

「わ~っ!!何でみなまで言うんですか!!インディラっ!!」

霖は立ち上がり、じたばたしている。
可愛い。
恥ずかしがってジタバタする霖、可愛い。
俺はにまにまとそれを見ていた。

「それで学校に来たが幽霊って訳だ。なら、何で梅雨時にしか見えないんだ??」

「梅雨時にしか見えない?とはどういう事ですか??」

キネセンが相変わらずノートに書き込みながら、女神に尋ねると、鳩はクルックーと鳴いて首を傾げた。
霖もじたばたするのをやめて、女神を見つめる。

「え??プログラムの問題ではないのですか??」

「え?勇者は他者から認識されない時間があるのですか??」

話がここにきて噛み合わない。
どうやら、霖が梅雨時にしか見えないのは、その変なシナリオのせいではないらしい。

「……霖が長雨の時しか見えないのは、異世界転生プログラムとは無関係の可能性あり……。なら…何だ??気温と湿度、他に何か要因があるのか??」

キネセンはぶつくさ言いながらノートをとっている。
意外とマイペースだな?キネセン!?
インディラさんはそれこそ鳩が豆鉄砲を食らったみたいになってるし、霖はあわあわしてるのに。
ああ、俺?俺は可愛い霖を観察中だ。

「まぁいい。ここは聞いても仕方がないようだ。」

「良くないよ!杵くんっ!!」

「良くないです。どういう事ですか??」

「だがそれを今ここで話し合って意味があるのか?今は霖が死んでいるのに、そっちに帰れないことが問題なんじゃなかったのか??」

冷静と言うより、機械的にキネセンは言った。
霖も女神さんもそう言われては言い返せず、でも納得もしにくいみたいな顔をしている。
俺は思わず言ってしまった。

「………キネセンって、アホみたいにブレないな……。」

「は??論点がズレたら、結論が出ないだろうが??」

「いや、むしろ、キネセンのブレなさ加減の方が怖ええよ?何?アンドロイド??」

女神さんと霖がこんなにあわあわしてるのに、気になんないとか凄いなって意味なんだけど、キネセンはどうとらえたのか、それまでガリガリ書いていたペンを置いた。

「確かにな。ブレたっていいんじゃないか?結論を出したって仕方がない。もっと言えば、どうして死んでいるのに霖が帰れないかすら、すでにどうでも良いことなんだろ?インディラさん?」

キネセンは急に諦めたようにそう言った。
え??何?どういう事??
キネセン怒ってるの?怒るとそうなる感じなん!?
霖はキネセンの変化に少し動揺して、鳩とキネセンを交互に見ている。
キネセンは鳩のインディラさんを黙って見つめていた。

「……その通りですね。わかったところで、今はもう、どうでも良いことなのかも知れません……。」

女神は鳩の姿で深々とため息をついた。
どういう事だ??
俺と霖は顔を見合わせる。
キネセンは冷たい眼差しで、じっと鳩を見ている。

「あんたは言った。魔王が復活して霖を探していると。そして偶然なのか何なのか、あんたは霖を見つけた。しかも死んだ幽霊の状態でだ。だったら結論は見えている。あんたは、今すぐ霖を元の世界に還すために来たんだよな??」

「え…っ!?」

「ちょっとマジで!?聞いてないんだけど!?」

「いや?さっき言ってたぞ?すぐにでも還って欲しいと。」

そう言えばそうだった。
俺が今すぐ霖は還るのかと聞いたら、出来ればそうしたいって言ってた。
霖はハッとして、苦しそうに鳩を見つめている。
どういう事だ??
だとしたら、キネセンはずっと何を懸命にまとめてたんだ??
インディラは今すぐ霖を元の世界に還そうとしてるのをわかってて、何をまとめようとしてたんだ??

「え??意図的にずらしてたの!?キネセン??」

キネセンは軽くため息をついただけで何も言わなかった。
肘をついて顎をその手の上に乗せ、目を閉じて黙ってる。
霖がその横で、目の回りをうっすら赤くして、キネセンを見つめている。
何だよ、この甘酸っぱくも切ない感じは!?
そして俺は蚊帳の外なのかよ!?

「インディラ……魔王が復活して危機的な事はわかりました……。ですがもう少しだけ待ってもらえませんか??お願いです。」

霖が切ない声でそう言った。
別れるにしたって、こんないきなりは納得できない。

「そうだよ!いきなり現れて、実は転生者だからって連れて帰るとか!!横暴だろ!?今の今まで、ほったらかしててさ!!霖は10年だか一人でここで訳もわかんないで幽霊だったんだぞ!?」

いくらなんでも酷すぎる!
霖は、霖はな……幽霊だけど!今、好きな人がいて!青春真っ盛りなんだよっ!!
なのにここで連れていくとか!!
また魔王の為に人生が潰れるとか!!
可哀想じゃんかよ!!
俺だって!まだ何もしてないんだよ!!
駄目だって!当たって砕けるかも知れないけど!!
ちゃんと霖と向き合いたいんだよ!!
好きだって伝えたいんだよ!!
幽霊だけど!そんなの関係ないんだよ!!

熱くなる俺の感情とは裏腹に、キネセンは静かに、そして酷く冷静に言葉を発した。

「……インディラさん。さっき飛ばしたが、霖は梅雨時にしか姿が見えない。理由はわからない。梅雨と言うのは、長雨が続く今の時期の事だ。それは後、半月程で終わってしまう。霖は元々、青春を謳歌するためにこの世界に来たんだろ?なら、後、半月。梅雨が終わるまで待ってやってくれないか?こいつはやっと、歳の近い友達が出来たばかりなんだ……。」

「杵くん……。」

霖が目を潤ませてキネセンを見つめる。
それを見ていた鳩のインディラさんは小さくため息をついた。

「わかりました。こちらも事情があるとはいえ、横暴な事は確かです。ですが、魔王はすでに復活しています。ですから、その梅雨と言うのが終わる、半月後にはすみませんが還って頂きたいのです。」

キネセンがちらりと霖を見る。
霖はそれに頷いた。
どこか割り切った、大人の顔をしていた。

「わかりました。では、梅雨があける時、私の魂をあちらに還してください。それまでの時間を私は大切にします……。」

そう言った霖は一瞬、キネセンと同い年くらいの異世界の男性に見えた。
それはすぐに消え、いつもの霖に戻ったが、キネセンも見たようで瞬きもせずに俺と視線を合わせた。
見た、うん、俺も見たよ、キネセン!
銀髪と言うか水色っぽい髪をしてて!!
白い鎧着けてたっ!!
え!?今のが勇者だった霖!?

めちゃくちゃ美人で可愛えぇ~!!

ヤダ!あんな美人で可愛い勇者がどうにか自分を倒そうと追ってきたら!!
確かに何か勘違いしちゃうよな!!
魔王!!
気持ちはわかるぞ!!
やってることは許せないけどなっ!!
ヤバい!俺!異世界の霖も好きかもっ!!

そんな俺の事はどうでもよく、話はまとまっていった。
梅雨があける約半月後に霖は帰還する。
それまでの間、霖はこちらでの最後の時間を過ごす。
霖の願いができるだけ叶うよう、インディラさんも出来る限りの協力をすると約束してくれた。

キネセンは相変わらずくったりした感じでホワイトボードを片付け、霖がそれをはにかんだように笑いながら見ている。
俺、俺は??
そう、俺にも残された時間は半月!!
霖がキネセンしか見ていなくったって!
何とか振り向かせてやると、心に誓った。

タイムリミットは後、半月!!

さぁ!
青春を謳歌せよ!!

俺は心の中で叫んでいた。
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