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001 プロローグ

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 僕は、自分は落ちこぼれに違いない、と思っていた。

 だから、入学した冒険者学校の初授業で、
「今から4人1組でパーティーを作ってください」
 と先生が言った時は、心の底から絶望した。

 絶対に、誰も、僕とはパーティーを組んでくれない、と思ったからだ。
 実際、僕の予感は当たっていて、僕は誰とも組むことが出来なかった。

 そういうことはよくあるらしくて、
「余った人は、余った人同士で、パーティーを組みましょうね」
 と先生は言い、僕はめでたく、余り者パーティーへの参加が決まった。

「それでは、今から、実力測定を開始します。
 用意したモンスターを相手に、全力で挑んで下さい。
 危険だと思ったら、先生が加勢するので、安心して下さい。
 1パーティーずつ順に行っていきます」

 パーティーで挑む実力測定が始まった。
 学校が用意したモンスターは強力で、皆、苦労している。
 エリートそうな面子で構成されたパーティーも、苦戦していた。
 僕達のパーティーは最後だが、始まる前から不安になる。

「次が最後のパーティーですね。
 このパーティーは……先生、最初から加勢しましょうか?」

 先生の気遣いが、逆に、僕の胸をえぐった。
 やはり僕は落ちこぼれなんだなぁ、と痛感する。

「もう1人も酷いけど、あのレベル1なんて最悪だな」

「はっはっは、本当だよ。レベル1って、今まで何していたんだ?」

 クラスメートの嘲笑する“レベル1”とは、僕のことだ。
 魔物を倒すことで上昇する本体レベル、それが僕は最低のレベル1。
 これまでの人生で、魔物を倒したことが、ただの1度もなかった。
 本体レベルが1なのは僕だけで、他の皆は、低くともレベル5はある。

「準備はいいですか? 勝てないと諦めず、全力で挑んで下さいね」
 と、優しく言う先生は、既に僕達の勝利を諦めているようだ。

 それでも僕は、精一杯、頑張って戦うことにした。
 僕は魔法使いなので、遠くから魔法で攻撃するつもりだ。
 敵から可能な限りの距離を置き、精神を集中させる。

「それでは始めて下さい!」

 先生の言葉と共に、モンスターが襲い掛かってくる。
 モンスターには弱点があるらしいけれど、僕には分からない。
 だから、適当な攻撃魔法で、攻撃することに決めた。
 といっても、僕の本体レベルは1なので、使える魔法は限られている。
 基礎魔法しか覚えていないので、その中から、1つを選ぶ。

「食らえ! 〈ファイア〉!」

 僕が魔法を発動すると、その場の全員が凍り付いた。

 ◇

 話は初授業のしばらく前に遡る――――……。

 ◇

 魔物退治を生業とする者、冒険者。
 僕は昔から、冒険者になりたい、と思っていた。
 理由は単純で、魔物に襲われている所を冒険者に救われたからだ。

 今日に至るまで、僕が過ごしてきたのは、山奥の小さな村。
 普段は魔物すら寄りつかない所で、村人は、自給自足の生活を送っている。
 お金に縁の無い村で、暮らしているのは、極貧な人ばかり。僕の親もそう。

 僕が魔物を見たのは、13年間に及ぶ人生の中で、襲われた1回きりだった。
 にもかかわらず、命を救われたのは、文字通り“奇跡”だと思う。

「レイ、今日も魔法の鍛錬をしているの?」

 お母さんが、僕に話しかけてくる。

 僕は、「そうだよ」と答え、魔法の鍛錬を再開した。
 家の傍にある大きな石の上に座り、魔法の鍛錬こと瞑想に耽る。

 僕の本体レベルは1。
 村の付近に魔物が出ないので、上げようがなかった。

 だから、その代わりに、他のレベルを強化している。
 魔法の質を高める魔法レベルや、スキルの質を高めるスキルレベルだ。
 これらのレベルは、専用の鍛錬を積むことで、強化することができる。

「冒険者は、本体レベルとスキルレベルの両方を鍛えねばならない。
 魔法使いなら、それに加えて、魔法レベルの強化も必要になる。
 先に魔法レベルやスキルレベルを上げることは、決して無駄じゃない」

 と、その昔、ビクトル先生から教わった。

 ビクトル先生は、僕を助けてくれた冒険者であり、僕の師匠だ。
 僕は勝手に先生と呼んでいるが、実際には、教鞭を執っていないらしい。
 ビクトル先生が魔法使いだから、僕も魔法使いの道を選んだ。

「レイ、鍛錬が済んだらこっちへ来なさい」

 お父さんが言った。
 畑仕事を終えて、家の中に戻っていく。
 日が暮れてきたので、僕も鍛錬を終えることにした。

 家に入ると、お父さんとお母さんが待っていた。
 僕は、何か怒られることでもしたかな、と不安になりながら尋ねる。

「どうしたの?」

「レイ、お前、大きくなったら冒険者になりたいんだよな?」

「そうだよ。だから、僕は必死に魔法の鍛錬を積んでいるんだ」

「知っているさ。すごく頑張っているものな。
 でもな、冒険者はとても危険なんだぞ? いつ死ぬか分からない」

「承知の上さ。それでも僕は、ビクトル先生みたいになりたいんだ」

「そのビクトル先生が、『冒険者は危ないからオススメしない』と言っていたんじゃないか」

 またこの話か、と思った。
 両親は、僕が冒険者を志すことに反対している。
 これまでにも、何度も、何度も、考えを改めろと言われた。

「もうよしてよ、この話は。僕の考えは変わらないから。絶対に」

「そうか……。なら、仕方がないな」

 お父さんが、懐から、1枚の紙を取り出した。
 綺麗に折りたたまれている。

「これは?」

「開けてみろ」

 言われたとおりにして、中を確認する。衝撃を受けた。

「冒険者学校の入学申請書じゃないか!」

「冒険者になるなら、冒険者学校に行かないとな」

 お父さんとお母さんが、ニコリと微笑む。

「でも、学校へ行くお金なんて……」

「子供がお金の心配なんてするな。
 ずっと、お前の為に、お金を貯めてきたんだ。
 だから、安心して冒険者学校に行ってこい」

「私もお父さんも、冒険者になることは反対よ、今でも。
 でもね、レイが本気なのを知っているから応援するわ」

「分かったよ! ありがとう! お父さん! お母さん!」

 冒険者学校には、冒険者を志す者が集まる。
 魔物との戦闘経験がない僕は、きっと、落ちこぼれになるだろう。
 それでも、頑張ってしがみつくしかない。

 基礎魔法しか使えないが、魔法レベルは上限の999まで上げた。
 同じく、習得しているスキルのスキルレベルも999まで上げた。

 いつの日か、ビクトル先生のような、立派な冒険者になるんだ。
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